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神の御前
作:炎



東の青龍


〜プロローグ〜

 世の中には、善くも悪くも己を通した者のみが辿り付ける、『新境地』がありました。

 そこでは己が描く『理想郷』を創造する力を、天より授かることが出来たのです。

 一生に一度だけ得られるその力について、わかっていることは欠片ほどしかありません。どの程度己を通せばいいのか、どうすれば力を授かるのかが一切不明ですが、その夢のような力を手に入れようと考えるものは後を絶たないのです。

 最初の創造主が今の世を創造してから、今までその地に辿り付けそうな者はたくさんいました。が、その全てが理想とする世界を創造することは叶わなかったのです。

 
 それは一体何故なのでしょうか。その理由は、大きく二つに分かれます。

一つ目として挙げますと、大抵の者は皆、夢に近付けば近付くほど己の夢に疑問と不安を抱くのです。

 本当にこれでいいのだろうか?自分の望みはこれだけか?まだ他に思いつくかもしれない…よく…考えてみよう

 そう言い力を授かる機会を逃すのです。たった一度の絶大な力、一度逃せば後は二度とありません。思い描いてきた夢に自信がなくなり、不安になる者も多く、力を授かる前に挫折してしまうのです。

 そして二つ目の理由は、首筋に鳥居の紋を刻む芦門アシカド家の存在でした―――…


一の話


 「このような時間に、一体何の御用ですか?」
 国を束ねる王に対し、俺は皮肉めいた口調で訊ねた。
 しかし王はそれを気にも留めずに話し始めた。
 「明晩、そなたの足でこれを桑寺クワデラまで届けてきて欲しい。」
 「承知仕りました。」
 そう言うと、王は俺に強調して付け足した。「くれぐれも、人目につかぬよう心してかかれ」と。


 玉座を後にした俺は、簡単に言ってくれる…と溜め息をつき、長く続く廊下を一人闇に紛れて歩き出す。


 窓から覗く夜景は、実に見事であった。雲一つない快晴で、綺麗な月が顔を見せる。池には鮮やかな色の鯉が泳ぎ、水面に映る月を揺らしていた。池の淵には艶やかな紫の花が咲き誇り、緑の草達は彼らを飾り立てていた。
 「見事だ……」


 一人で廊下を歩く俺は、後ろから近付く足音に耳を傾けた。

 コツ…コツ…コツ…

 迫り来る足音に、俺は心を躍らせる。
 久々に味わう興奮と緊張。たまになら悪くないなと思わせてくれるこびり付く様な殺気。そして徐々に近付く足音は、一定のリズムを刻んだ。
 すぐそこまで足音が来た瞬間、俺はおもわず笑い出した。
 「お帰りなさい……父さん」
 そこに立っていたのは、全身黒尽くめの中年親父であった。
 夜の闇に身を潜めるために作られた漆黒の服は、月明かりで黒光りし、面妖な雰囲気を漂わせた。
 「お前は相変わらず祥華ショウカ様のお気に入りか。ついている。……その顔を見ると、また何かとんでもない事言われたのか?」
 「桑寺まで行ってこいと……」
 深夜の宮中にも関わらず、親父は盛大に笑い、「桑寺というと、……あそこか」と腹を抱えながら言った。


 桑寺とは、此処より山を二つ程越えた先にある港から、船に揺られて5時間のところの島の中腹にあるお寺のことである。
 そこでは僧侶たちが悟りの道をキワめる為に日々修行をしているのだ。王は幼少期を此処で過ごし、暇になられたときに文をこしらえていた。
 人目を遠ざけるのは、そこで過ごしてきた事を民に知られてはいけないからだ。
 桑寺は異教徒の集まりで、民の間では禁忌タブーとされている。「王が異教徒であった」等と民に知れては示しがつかないからだ。


 「祥華様も、色々と苦労を背負っていらっしゃる。民に知れては、示しが付かぬというもの。まぁ、心を広くして、受け止めることだな。」
 「しかし、あそこまで人目に付かぬ様というのは流石に辛いですよ」
 「これも修行なり」と一言吐き捨てた親父は、玉座の間へと去っていった。
 山二つまでは、人目を避けることは可能だが、船では否が応でも人はいる。かといい、自ら船をこしらえるというのもまた厄介な仕事だ。
 どうしたものかと思案しながら、俺もまた、闇に紛れ姿を消した。


 日が昇り、身支度をし始めた俺は、親父に呼び出された。
 「仁……実は祥華様がな―――…」



 「祥華様……一体何をお考えですか? 突然文を返せって……納得できるような理由をお聞かせ下さい。」
 親父は祥華様に仕事を終えたことを報告した後、俺への伝言を託されていた。
 「そう怒るでないわ……。ちょっとした仕事をそなたに頼みたくなっただけだ。」
 我が儘も度が過ぎると怒る気力も失せると聞くが、まさにそうである。王だからといい何でも済まされるわけではない。国の一切の責任を背負い、民の言葉に耳を傾け、国を動かす。全ての決定を、判断を王が成すのだ。


 「我が儘も、此処までくると呆れますよ」
 王は朗らかに笑い、俺への頼みというのを口にした。
 「十日後、東方の村で行う祭祀(サイシ)のことなんじゃが、何でも村興しの為是非来て欲しいと、文を届けに来られたのだ。深々と頭を下げていた……。父君も昔、この祭祀サイシに参加なされたことがあったと聞く。これは是が非でも行かねばと思ったのだが……」
 「私に同行しろ……と仰りたいのですか?」
 「そうだ」と満面の笑みを零す王を見ると、嫌とは言えなかった。
 まるで子どものようにはしゃぐ姿は、一国を束ねる王ではなく、祭りへ行けるのを楽しむ幼子のようだった。
 「困ったものですね……。王としての自覚が足りないのでは?」
 「そう言うな。あのお方にも我らにも、真の目的は別の所にあるんだ。祥華様ばかり攻めることは出来なんだ、お前も心得ておるだろ……。我らの目的を、忘れるな。」
 我ら一族の目的は、国を動かせる力を身に付けること。一族の誰でもいい……王に取り入り、法を一変させ、国自体を我が物とすること。そしてその全てを我らが『四神様』に捧げ、新たな世界を創造する。それが我ら芦門家の目的だ。



 「……わかっています。全ては我らが『四神様』の為に―――…」

 












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