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Trans Trip! 作者:小紋
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2‐(5).獣耳萌えは永遠

 歩いて、歩いて、歩いて。
 やっと視界が開けた、と思ったら、目の前に広がる光景は実に絶景だった。

「う、わぁー……」

 思わず、声が漏れる。
 私とニーファさんが今立っているのは、かなり高い崖の上だ。吹き抜ける風が気持ちいい。
 太陽は傾いて周囲を赤く染めはじめている。夕方になりかけってところだ。
 そして、一番目を引くのが、前方に広がる城下町。雲をかぶった大きな山を背後に真っ白な美しい城がそびえ立ち、城の前を守るように石造りの街並みが連なっている。

「でっけー……」
「アスタリア神聖国の首都だしね」
「あすたりあ、しんせいこく」
「そう、アスタリア神聖国」

 ニーファさんがしてくれた説明によると、この城下町の名前はリグ。先ほど言ったように、アスタリア神聖国という国家の首都だそうだ。
 アスタリア神聖国は、名前から想像できるように宗教国家で、この世界で一番ポピュラーな宗教を国教とし、その宗教の教皇が国を治めているらしい。
 ……らしい。
 なにかいろいろ説明してくれたが、横文字が多すぎて覚えきれなかった。どうやら、頭は良くなっていないようだ、残念。

「じゃ、行くわよ」

 言うや否や、私の手を取ってずんずんと歩きだすニーファさん。
 ……ん? おかしい、ここに来るまで手をつなぐなんてことはしてなかった。
 って、なんで走りだしてるの?!

「あの、ニーファさっ! そ、そっち、崖ぇっ!!」
「大丈夫よ」
「えっ、ちょっ、大丈夫じゃないですぅっ!!!」

 なんて言ってみたが、ニーファさんは聞く耳持ってくれない。崖にまっしぐらだ。いや、多分彼女にはきっと何か考えがあるのだろう。あるのだろうけれど!

「えっ、ちょ、ま、待ってい、いやまっぎゃぁあああああああああー!!!」





◇ ◇ ◇





 決死のダイブから五分程。私はようやく、がくがくだった足腰が回復し始めてきた。
 考えてみれば二度目の臨死体験だ。こういったものは慣れという言葉とは無縁らしい。

「情けないわね……あのくらいで」
「あのくらいって……あのくらいって……」

 頭上でため息をつく彼女の顔を見上げることもできない。ニーファさんの感覚はおかしい。絶対。
 私の手を握ったまま崖から跳躍した彼女は、落下中にまた風の魔法を使い、まるで重力などないかのようにふんわりと地面に着地した。ついでに私にも魔法をかけてくれたようで……かけてくれなきゃ困るが! 私も何事もなく地面に着地したのだ。まあ、落下の恐怖で足腰が立たない状態にはなったが。

「死ぬかと思いました……」
「死ななかったじゃない」
「……はい」

 なんか、この人、逆らえない。恨みがましいような服従したいような気持ちで見上げれば、片手を差し出された。
 まだふらふらしてはいるが、とりあえず、ニーファさんの手を借りて立ち上がる。
 周囲を見回すと、私たちは崖を背後に草原の上。前方には、端が見えないほど長く、高い塀があった。

「ここから少し歩けば、門があるから。そこから、街に入れるわ」

 ニーファさんはそれだけ言うと踵を返して歩き出す。
 その言葉通り、十数分ほど歩いたところで大きな大きな門が見えてきた。遠目にもその巨大さがわかって、大跳躍のふらふらも忘れた私は、感嘆の言葉を口に出す。

「わぁー……でっか……」
「ここが、正門。裏門もいくつかあるけど、兵士とか騎士とかしか使えないの」

 兵士! 騎士! なんとも心躍るファンタジーワードだ。
 わくわくどきどき。ありきたりだが、まったく今はその言葉通りの気分。きっと今、私の顔は喜色満面で紅潮しているだろう。
 早く門を正面から見たい! そんなことに思考を占拠されると、自然と小走りになってニーファさんそっちのけで進んでしまった。

「あ、こらちょっと。待ちなさい」

 お母さんのような言葉を背後に聞きながらも、横目に門を見上げながら小走り。余所見しながら走ってなんかいると、当然、こけるか何かにぶつかるかするわけで……。

――ドン

「わっ」

 前を歩いていた人にぶつかった。その衝撃でよろける。自業自得だ。地面に転がることを覚悟したのだが、その瞬間はいつまでたっても来なかった。
 かわりに、がしっと腕を掴まれて支えられる感触。

「君、大丈夫?」

 どうやら、ぶつかった人に助けてもらったようだった。

(うわー、すごく申し訳ない)

 私を案じてくれた声にごめんなさいと謝りながら、そろそろと顔を上げて見る。
 私の腕を取って支えてくれたのは、金髪の若い男の人だった。気の強そうな顔をしている、かなりのイケメンだ。私の異世界現代人アイズで見ても現代風のイケてる顔つきで、言ってしまえば少しチャラ男っぽい。ただしこのチャライケメン、ただのチャライケメンじゃなかった。
 そのイケメンのハニーブロンドの頭の上には、大きくて立派な虎柄の“獣耳”がついていた。そして髪の毛の根元は真っ黒。プリンヘアにしては随分派手に色が違うというか、獣耳と一緒で虎柄ヘアーにしか見えない。

「あれ、どうしたの? どっか痛い?」

 ついうっかりガン見してしまった。だが虎っぽいイケメンは気を悪くするでもなく、沈黙した私を心配してくれる。二度申し訳ない。

「い、いや違います! すいません、ぶつかっちゃって」
「いいよぉ。今度は余所見しないようにね」

 綺麗な碧の瞳を微笑ませて、虎っぽいイケメンが腕を掴んでいた手を離してくれた。
 なんだか、すごくいい人だ。チャラ男ってけっこういい人が多いっていうのは本当だったのか。
 よく見ると、ふさふさの尻尾も生えている。こっちも立派な虎柄だ。またも思わずガン見する。

「ね、ほんとにだいじょぶ?」

 すると、虎っぽいイケメンの横からさらに私を心配してくれる声がした。あまりにも虎っぽいイケメンに気を取られて、同行者の存在に気付かなかったようだ。
 大丈夫です、すみません……と申し訳なく思って謝りながら声の出所に目を移すと、またそちらにも頭上に獣耳。
 今度は、イマドキ風のかわいらしい顔をした女の子だ。
 白地に豹柄の……虎っぽいイケメンよりは小さな獣耳、それが白銀のロングヘアの上にちょこんとのっていた。彼女も同じ柄の細長い尻尾を持っていて、凹凸のないしなやかな身体のラインが眩しい。

(つるぺた……)

 私がかなり失礼なことを思っていると、後ろのニーファさんが追いついてきた。

「全く、待ちなさいって言ったのに……って」

 追いつくなり、ニーファさんは驚いた顔をした。そして虎っぽいイケメンとつるぺた美少女も同じような顔をしていた。
 虎っぽいイケメンが口を開く。

「ニーファじゃん」
「あんたたちか。ちょうどよかった」

 その会話はどう聞いても顔見知りのそれで。どうやら、この獣耳の二人組とニーファさん、知り合いだったようです。虎っぽいイケメンが続けて尋ねる。

「何、今日単独任務だって聞いてたけど、この子の護衛かなんか?」
「えーでも、違くない? 護衛だったら対象一人で走らせたりしないでしょニーファ」

 つるぺた美少女の言葉に、なんだか申し訳ない気分になった。ニーファさんの制止の言葉を聞いていれば、いきなりぶつかるなんてことなかったんだよね。
 ファンタジー世界に興奮しすぎ。恥ずかしい奴だな私。

「保護対象よ。近々来るって兄貴が言ってたでしょ」
「あー! そっか。なるほどー。あの無期限の!」

 保護対象。無期限。……うん。
 どうやら私は、無期限で保護してもらえるようだ。いや、期限付きだったら困ってしまうけども。
 なんとなくほっとする。それにしても、この二人とニーファさんはどういう関係なんだろう。会話内容から察するに、仕事仲間っぽい。同僚?
 考えていると、虎っぽいイケメンとつるぺた美少女が私に向き直った。

「どーも、俺、ニーファと同じギルドの人間で、ソーリスっていいます」
「エナも同じギルド~。よろしくね」
「あ、ヤマトです。よろしくお願いします」

 自己紹介を返しながらも、その単語に心が傾倒した。ああ、かなりよく聞く単語だ。ファンタジー系読み物の他には、ネットゲームとかで。

「ギル……ド」
「ギルド、っていうのは、同じ職種の人間が集まる組合みたいなもんね」

 自分の知識と照らし合わせても、同じ意味のようだ。うちはちょっと変わってるけど、とニーファさんが言う。変わってる、の中身までは説明してもらえなかったが、またもでてきたファンタジー用語に、さらに興奮してしまった私だった。

(ギルド……すごいな、ネットゲームみたい)

「ヤマトはギルド知らないの?」
「そう、嘘みたいな田舎でずっと暮らしてたから。常識みたいなことほとんど知らないから、教えてやって」
「そうなんだ。わかんないことあったらいつでも聞いてね~」

 え、と小さく言ってニーファさんを見ると、怖い顔で睨まれた。こ、怖い! そういうことにしとけ……ってことだろうか。
 ど田舎人ってことにされてしまった。まあ、元の世界でも都会人ってわけじゃなかったから、別にいいけど。

「あ、ありがとうございます。ほんとに何にも知らないので、ご迷惑、かけるかも」

 いいよぉそんなの。とニコニコ笑って返してくれる虎っぽいイケメン……ソーリスさんに、ぎこちなく笑顔を返す。すると、ソーリスさんは微妙に目をそらした。

(あれ、なんでだろう)

「……ヤマトさぁ!」
「は、はい?」

 思わず、びくっと身体を震わせる。なんか、変なことしちゃったのかと戦々恐々としているところに、つるぺた美少女……エナさんが突然声を上げたのだった。

「男の人……だよね」

 聞かれて、身元を詐称したさっきの例もあるので一瞬どうしようかとニーファさんを窺ってしまった。すると彼女はひとつ頷いたので、そうです、と返事をしておく。

「だよねぇ、声低いもんね。……でもエナ、ヤマトみたいな綺麗な男の人はじめて見たよ。そこらへんの女の人よりずっと綺麗だよね」

 自分のことを名前で呼ぶタイプの女の子のようだ。そしてなんか、羨望の眼差し。

(これは……とっても……むず痒い……)

 こんなかわいいイマドキ風の女の子には、羨望の眼差しを向けたことはあれどその逆は今までに一度もない。というか、身内や親戚以外に外見を褒められたことなどなかったので、なんともはや、どう反応していいのかわからない。
 だが、しかし。この体……私のものではない、今、私が入っているこの体は、確かにこの世のものとは思えない美青年だ。下手に謙遜したら嫌味だろう。

「……ありがとう、ございます?」
「なんで疑問形なのぉ? あーでも、お礼言えちゃうところが余裕あっていいなぁ!」

 なにやら、悔しそうなエナさん。でもけっこうわかる。

(私も他人の外見を褒めたときに素直にお礼を言われたら、『けっ!』って思うもの)

 うんうん、と一人で納得。ニーファさんは、興味なさそうだ。
 うん、ニーファさんはなんかそういう乙女心とは無縁な気がする。まだまだ短い付き合いだが、彼女はキャラが濃すぎるので想像は容易い。

「ま、ここで立ち話もなんだから……街入って、ギルドに行こうよ。ニーファも、ジェネラルさんに報告しなきゃでしょ?」

 ソーリスさんが言う。そうだ、忘れていたけど私は門を正面から見たいんだった。エナさんもニーファさんも異議なし、というわけで、人数が増えた四人で門へと向かうことになった。
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