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Trans Trip! 作者:小紋
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7‐(2).動物園ウォッチング

 昼過ぎになって、獣人冒険者ギルドアーラ・アウラのギルド員たちが到着した。

 今私とヴィーフニルは、エデルさんとジェーニアさんが獣人さんたちを誘導しているのをロビーの隅っこにあるソファに座って見つめている。何故こんなに隅っこで小さくなっているかというと、人の流れを妨げないようにだ。
 私たち以外はどうやらアーラ・アウラに知り合いが何人もいるようで、見知った顔を見つけては楽しそうに談笑していた。

 ぼっち気分、再び。
 本当に、交友関係が広い人ばかりの集団に所属するとこういう時困る。私の味方はヴィーフニルだけだ。彼もこんなネガティブな意味で味方と思われても困るかもしれないが、そんなこと知ったこっちゃない。思わずやさぐれる。

 まあそれはいいとして、ぞろぞろと中に入ってくる獣人たちはとても個性豊かで、眺めている分にはとても楽しかった。
 今朝方期待した猫女子が見当たらないのは残念だが、多種多様なエディフ、プティー、さらにはあまり見たことがないウィオーネの人までいて感激だ。街で時折見かけることはあるが、こんなに固まって存在しているのは初めて。広げれば楽々体を覆えそうな大きな翼を見て、仰向けに眠るときはどうしているのだろうかと疑問に思った。
 好奇心満々で獣人で埋め尽くされたロビーを見渡していると、ある一人ののっぽなエディフのお兄さんに目を取られる。

(なんだ、あれ……毛の生えた茶色い角に、黄色い小さな耳……キリン!?)

 眠そうな瞳に、濃い睫毛、キリンのエディフで間違いがなさそうだ。なるほど……首はあまり長くないが、背が非常に高い。……もし彼が獣に近い方のエディフだったら、どんな風になるんだろうか。想像がつかない。

 そろそろ全員が入りきるようで、玄関口を通る人の流れが一旦途切れた。一瞬後、扉を窮屈そうにくぐってきた大きな影。あれは……。

(……く、熊さん!)

 体格が良い人が多い獣人の中でも一際大きな体と、ダークブラウンの毛むくじゃら。のっしのっしと擬音がつきそうな歩みで二足歩行をする彼は、まごうことなき熊さんだった。鋭い眼光がかっこいい。

「ニル、熊さん、熊さんがいる」
「……ほんとだ。でっかい」

 興奮気味に話しかけたら、ヴィーフニルも少し興味深そうにしていた。何故だかわからないが、熊さんって妙に心を弾ませる存在だと思う。大きいからだろうか。

 そんな風にきゃいきゃいしているとそのうち誘導も終わり、ロビーががらんとしてくる。皆さん、2階の雑魚フロア、おっと、お客様専用大部屋フロアに向かったのだろう。ソルとエナの呼び方がうつってしまった。
 さてこの後は、アーラ・アウラ幹部陣からの挨拶があるとのことでギルド長室に招集をかけられている。私とヴィーフニルもそろそろ向かおうか、そう考え立ち上がったところだった。

「おい!」
「へっ?」

 突然声を掛けられる。声色からしてあまり友好的ではない。振り向くと、犬耳の少年がこちらを睨みつけていた。
 な、なんだろう。何か私たちについて気に入らないことがあったのだろうか。困惑していると、ヴィーフニルがしがみついてくる。不安になったのだろうか、私も不安だ。とりあえず、彼の頭の上に手を置く。
 不穏な表情のまま近寄ってきた犬耳少年は、私たち2人をじろじろと品定めするように見た後、私に目線を合わせて聞いた。

「ヤマトって、お前?」
「そ、そうですが……」

 少年は、明るい茶色の髪に同色の瞳、さらに同色の犬っぽい耳に犬っぽいふさふさの尻尾を持つエディフだ。毛むくじゃらではない、人に近い姿の方のエディフ。
 私の答えを聞いた少年は、いきなり腰に提げていた剣を私に突き付けて叫んだ。

「俺はルプス=ローグランド。勝負だ!」
「ええっ!?」

 あまりにも突然すぎて驚くことしかできない。ヴィーフニルが殺気立つのを感じた。まずい、この子は魔獣だけあって敵対する者には好戦的なのだ。室内で魔法とか使われたら困る。
 ルプスと名乗った少年は剣を降ろさない。こちらを睨みつけるばかりだ。一体何がどうしたというのか。いつの間にか決闘を申し込まれるほどの失礼を働いたのだろうか私は。
 はいともいいえとも言えずにおろおろしていると、こちらの異様な雰囲気に気付いたのか、ソルが戻ってきてくれた。

「おいこらルプス、何やってる」
「おおソル、久しぶりだな!」

 知り合いなのだろうか、名乗りを聞いていないはずのソルが彼の名前を知っていた。そしてルプスくんとやらもソルには友好的だ。だが、剣は降ろさない。
 もう勘弁してほしい。ヴィーフニルの殺気がほぼ限界まで膨れ上がっている。

「おう、久しぶり。で、なんでいきなりヤマトに喧嘩売ってんの?」

 さりげなく手で制し、剣を降ろさせながらソルが聞く。ありがとうと言いたい。でも、ヴィーフニルの殺気はまだ収まっていない。理由が彼の逆鱗に触れるものでないといいが。
 ルプスくんとやらは、ふんと鼻を鳴らしてから語り始めた。

「噂聞いたんだ。コロナエ・ヴィテの新人のヤマトって奴が巨大ボアを倒したって。でもこいつ、とんでもない優男じゃないか! こんなやつ、おれでも倒せる!」

 どうだ、とでも言いたそうな顔で胸を張られても困る。
 私たちはといえば、ぽかーん、という効果音がよく合いそうな顔をしてしばらく沈黙してしまった。ヴィーフニルの殺気も一瞬で雲散霧消だ。これは幸いと言えるか。

 正直、言っている意味がよくわからない。えーと……噂を聞いて、私を見て、倒せると思った?

(……謎だ……)

 勝手に行間を埋めてもいいだろうか。おそらく、この子は私が巨大ボアを倒したという噂を聞いて、強そうな奴を想像していたわけだ。そこはもしかしたら、魔法で、という話が正確に伝わっていないのかもしれない。だが実際私を見てみたら線の細い優男で、こんな奴が倒した!? 嘘だ! と思ったわけ。で、こいつに倒せるんならおれだって倒せる! と思った彼だが、もう巨大ボアはいない。だったら巨大ボアを倒したという私を倒して見せるぜ! と思った……こんな感じじゃないだろうか。

 ……自分で行間を埋めておきながら、どうしてそうなったのかいまいちわからない。そもそもこれが正解なのかもわからないわけだが。
 ソルが深く深く溜息をついた。

「……お前、バカだバカだとは思ってたけど、本物だったんだな……」
「なんだと!?」

 あからさまながっかり貶し文句を聞いて、今度はソルに突っかかりだしたルプスくんとやら。ソルはほとんど相手にしておらず、彼が一方的にいろいろ捲し立てているだけだが。
 それでも喧嘩は駄目だ。あわあわして挙動不審になる。腰あたりではヴィーフニルが「ばかだこいつ」と呟いていた。

(そんなこと言ったらいけません! 聞こえたらどうするの!)

 あまりに大声でぎゃーぎゃーと騒がれて、ソルが頭を抱える様なポーズで耳を塞ぎ出した。その行為にルプスくんがヒートアップする。火に油だ。

 どうしたものか……このまま彼の気が済むまで騒がせるしかないのだろうか。諦観の念すら浮かび始めた頃、2人の少年少女が息せき切って走り寄ってきた。

「る、ルプスくぅん、突然いなくなったと思ったら、何してるの……」

 ぜーはーと息を整えながら困ったようにルプスくんとやらに縋りつく少女。そんな彼女に、ルプスくんはバツが悪そうに黙る。
 驚くべき態度の変化だ。だが私の目は、彼の急速な鎮静化よりも突然現れた少女に釘付けになった。
 桃色の髪と瞳に、頭上に伸びる真っ白な兎耳……! ふわふわとした雰囲気が可愛らしい、兎のエディフだ。もちろん人に近い姿の方。
 ただ純然と可愛らしい兎のエディフは初めて見た。どうしてだかわからないが、いつも見かける兎のエディフはむきむきなお兄さんとか髭の生えたおじさんとかばかりだったのだ。
 感動していると、兎少女と一緒にやってきた少年もルプスくんに近づいて言う。

「まさかお前、滞在先のギルドの人に喧嘩売ってるんじゃないだろうな?」

 少年がルプスくんとやらの耳を引っ張った。彼の背中には、白と黒のツートンカラーの翼がある。白い髪と黄色い瞳を持つ彼は目の縁が赤い。色合いだけでいえば鶴のような雰囲気なのだが、鶴は頭頂部が赤いんじゃなかっただろうか。

 どうやら2人はルプスくんとやらを諌めに来てくれたらしい。見た感じ彼は兎少女には弱いようだし、好都合だ。
 そのうえ、情勢が好転しだしたところにさらなる闖入者までもが現れた。

「おう、騒がしいな! なんだどうした!」

 楽しそうなダミ声で笑いながらやってきたのは、さっき私たちが注目していた毛むくじゃらの熊さんだった。近くで見るとさらに大きい。
 ソルはどうやら熊さんとも知り合いだったようで、剣呑な目つきで状況を報告する。

「グラムさん、こいついきなり滞在先のギルド員に喧嘩売ってるんだけど、ちゃんと教育してる?」
「がはは、すまねえなぁ! 教育なんて俺の専門じゃねえ! おい、レティ!」

 かなり無責任なことを言っていないだろうか。熊さんは豪快に笑いながら振り返って誰かを呼んだ。返事をしたのは、熊さんの後ろからやってきていた女の人だ。

「何、グラム? 問題ってなんだったの……って、またあなたたち?」

 彼女も例によってエディフだった。狐耳狐尻尾の美女だ。スレンダーなスタイルを持つ彼女は、金茶色のロングヘアを揺らし、アンバー色の瞳を怒らせながらやってくる。体の幅よりも太い尻尾がゆらゆらと揺れていた。うーん、眼福。
 明らかに怒りのオーラを漂わせながら近づいてくる美女にたじろいだルプスくんとやらが、焦ったように言葉を連ねる。

「問題なんて起こしてないですー! おれはただ、こいつに勝負を挑んだだけで……」
「起こしてるじゃないの!」

 拳骨一閃。……すごい音がしたが、大丈夫だろうか。あ、悶絶してる。

「ごめんなさいね、コロナエ・ヴィテの皆さん。この子は叱っておくから、どうか気を悪くしないで」

 申し訳なさそうに笑顔を見せた狐美女がルプスくんとやらをずるずると引っ張ってつれて行く。兎少女とウィオーネの少年が私たちに会釈をしてそれについて行った。熊さんも楽しそうに笑いながら行ってしまった。

「なんていうか……元気な人たちだったね」
「……うるさいだけじゃないの?」

 ヴィーフニルの手厳しい言葉に苦笑する。しかし流石獣人、エネルギッシュだ。あんな風に生きられたら、人生楽しそう。

「あいつ、態度でかいんだよね……。ガドさんの血縁だからかもしれないけど、ちょっと世間知らずの自信家でさ。悪気はないから、許してやってよ」
「ガドさん?」
「アーラ・アウラの副ギルド長」

 聞いたところによると、さっきの熊さんと狐耳美女は幹部の人らしい。そして今回の滞在の引率をする幹部陣の一番上にいるのが、副ギルド長のガドさん。
 なんでもアーラ・アウラはその組織の巨大さから、エディフ部、プティー部、ウィオーネ部と3つの部門に分かれていて、それぞれに幹部が数名と副ギルド長が1名いるそうなのだ。よって、副ギルド長は合計3名。

「へぇ……やっぱり、大きいギルドはいろいろ違うんだね」

 それにしても、ガドさん……濁点付きまくりの名前からして、ガテン系の人を想像してしまう。熊さんよりも上の立場の人らしいし、さぞかしでっかいムキムキの人なんだろうな。

「さて、と。そろそろギルド長室行く? もう皆集まってると思うよ」
「あ、うん、そうだね」

 もう先程2人とは会ってしまったが、正式にきちんと挨拶をしなければなるまい。
 想像の中でどんどん筋肉量を増していくガドさんを思い浮かべながら、ギルド長室へと向かうことにした。
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