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Trans Trip! 作者:小紋
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幕間 6‐(7.5).独占禁止法発令

 本日の掃討作戦を終え、神聖国キングズホテル8階の805号室に帰還したソーリスは、どさりとベッドへと倒れ込んだ。外は既に薄闇に包まれており、先程までガァガァと騒いでいたカラスの声も聞こえないくらいの時間だ。

 やはり、連日朝から晩まで魔物退治だと、それなりに疲れる。常日頃から鍛えているおかげで肉体疲労はそれほどでもないのだが、気疲れがきている。
 いや、魔物退治よりもそれ以外の要因の方が深刻かもしれない。ソーリスが何を嫌がっているのかと言うと、長年の天敵イクサーが同じホテルに宿泊している、ということだ。

 イクサーとソーリスは昔から気が合わない。理由なんて、ありすぎてひとつひとつ思い出すことが出来ないほどだ。むしろ思い出すのも忌々しい。
 お互い一人の時であれば、すれ違ったりしても無視をすればいいのだが……連れがいる時はそれぞれの立場もあり、そうもいかなかった。そもそも顔やその名前の文字列ですら目にしたくないというのに……なんてストレスのたまる状況であろうか。

 だが、それだけであればまだしょうがないことだと我慢できる。それ以上に気に入らないことがあった。いつ交流を持ったのだかはわからないが、イクサーがヤマトの名前をいつの間にか知っていたうえに、時折ヤマトに話しかけているのだ。
 長年付き合いがあるから嫌でもわかるのだが、ヤマトに声を掛けている時のイクサーは、表情さえ変化はないけれども雰囲気が少しだけ和らいでいる。

(腹立つ……ヤマトは俺の友達だっつーの。お前のじゃねーよ)

 友人に対する子供のような独占欲で腹を立てる自分を可笑しいと思いつつも、止めることが出来なかった。

 この街に来てから今までコロナエ・ヴィテの中だけで完結していたであろうヤマトの世界が、ここ数日でかなり広がっていることにどうにも焦りがきていた。
 予想通りのことだが、ヤマトは色んな意味で人を惹きつける。自身の実力はかなりついてきているというのに、暇さえあれば他人を支援する魔法を見境なく配りまくっているということも、それに拍車をかけていた。
 一度補助魔法を配られただけの知り合いの若い剣士が「お前んとこの新人の……ヤマトちゃん? 綺麗なのに控えめでかわいいよなぁー。魔法配った後の“ぺこり”がたまんなくてさ……紹介しろよ」などと言って渡りをつけることを要求してきた時もあった。ヤマトが男だと教えてやった時のあの男といったら、顎が外れそうな顔をしていたものだ。ヤマトの一挙手一投足からはあまり“男”を感じないから無理もないとは思うが、あの時は笑顔を浮かべつつも、ざまあみろと心の中で嘲笑ってしまった。
 しかもヤマトは、気を抜いていたらいつの間にか騎士団の人間なんぞとも知り合っていた。あの騎士の爽やかと形容せざるを得ない笑顔も気に食わない。あれは心底からの笑顔ではなく、絶対に作り物に違いない。
 ヤマト本人は初日に知り合ったらしいカヴァリエの新人とよく交流していて、友達が出来たと嬉しそうにしている。最初聞いた時はコロナエ・ヴィテの名声目当てではないかと邪推したものだが、彼らの雰囲気を見る限りその様子はなさそうで、安心した。しかし、自分以外と一緒にいて楽しそうにしているヤマトを見ると、少しばかりイライラしてしまう。
 次々と浮かんでくる黒い考えに、困惑する。ヤマトだって友人は増えた方が良いに決まってるのに、自分はどうしてしまったのか。

(ってか、俺、こんなに性格悪かったっけ?)

 ベッドの上で天井を見つめつつ首を捻る。何故今、こんなに自分はやさぐれているのか。

 ニーファに、ヤマトとヴィーフニルに経験を積ませるため作戦展開中は一緒に行動することを禁止されているというのも原因のひとつかもしれない。そうだ、ギルド外の連中はヤマトと行動してるのに、友達の自分が一緒にいられないなんて横暴なのだ。
 横暴を受けた自分は不機嫌だから、こんな変なこといろいろ考えるんだ。そうに違いない。ぐだぐだ考え続けるとよくない結論にたどり着けそうだったので、無理矢理そう結論付ける。

(……あー、なんかいろいろ、バカみたいじゃね?)

 げんなりしつつごろんと左に転がると、広い部屋にノックの音が響いた。

「ソル……いる? ご飯の時間まだだけど、来ちゃった」

 扉越しに聞こえる、ヤマトの穏やかな呼び声。その言葉でソーリスは思い出した。今日は、ソーリスの部屋にて男性陣で一緒に夕食をとる約束をしていたのだ。

「ああ、いるよー。待ってて」

 ソーリスはヤマトを迎え入れるべく立ち上がり、ドアへと向かった。がちゃりと鍵を外し、ノブを捻る。扉を開いてどうぞと声を掛ければ、お邪魔します、なんて言いながら入ってくるヤマトが少しおかしい。

「部屋でやることなくって……ソルは何してた?」
「んー? 疲れたなーってダレてた」

 何それ、と言ってくすりと笑うヤマトに笑みを返しながら、ソーリスはベッドサイドにあったメニュー表を手に取る。

「まだ皆来てないしちょっと早いけど、ルームサービス頼んどく? 酒飲むよね?」
「あ、うん、ちょっとだけ」

 ソーリスがソファに座ると、隣にヤマトも座った。メニュー表を2人で見ながら、ローテーブルの上にある、転送の術式が刻み込まれた魔石が台に付いた帳面に適当に注文を書きこんでいく。全て書き終わってペンを台に戻すと、注文を書きこまれた羊皮紙の一枚が光って消え去った。これで半刻もしないうちに届く。
 ソーリスは、ヤマトが書きこんでいたメニューのほとんど全てが肉類だったことに笑った。

「また肉? 太るよ」

 雲か霞でも主食にしてるんじゃないかと思うくらい現実感のない美貌を持つ彼は、意外と肉類を好む。というか、食べること全般が好きなようだった。一見してうげっとか思ってしまうようなゲテモノもけっこうガンガン食べる。もしかしたら、ソーリスの方が余程偏食気味かもしれない。

 太るよ、なんて女性に言うのであれば平手の一発でも覚悟しなければいけない台詞も、男同士ならば気楽に言えた。笑い含みに言われた冗談に、ヤマトも笑顔を浮かべる。

「男なのに太るとか気にしてらんないよー。俺もソルとかジェネラルさんみたいに筋肉つけたいし」
「……筋肉ねえ」

(ヤマトだってそんなにタッパないわけじゃないと思うけどな)

 身長だって自分よりは低いけど、キルケよりは高いのだ。男としては平均値あたりだろう。しかも彼の裸体は風呂でよく見るけれど、真っ白な肌に目立ちはしないが筋肉がきちんとのっていて、何度見ても見飽きない程きれ……今、自分は何を考えたのか。
 ふるふると頭を振ったソーリスに、ヤマトが首を傾げる。

「どうしたの?」
「なんでもない。……あのさ、最近カヴァリエの新人と仲良いね?」
「あ、シビルちゃんとラーサーくん? うん、新人同士仲良くしようって話しかけてくれたから」

 嬉しそうに微笑むヤマトに少し仄暗い感情を感じてしまい、話題選びを失敗したとソーリスは思った。だが、強引に話題を変えるわけにもいかず、そのまま話を続ける。

「へー……。でも、そこらのギルドの新人じゃヤマトに太刀打ちできないんじゃないの」

 これにはヤマトが頷くわけはないと思いつつも、実際そうであろうなとソーリスは思っている。まだたった一カ月強しか訓練をしていない彼だが、指導者がコロナエ・ヴィテの面々では上達しないわけがない。しかも、主となって教えているのはニーファだ。ヤマトの元々の潜在能力が極めて高いうえに、自主練習すらも真面目に行っていることもあってか、最近では目に見えて動きが良くなってきていた。さらに、彼は計り知れない魔力量と全属性への適性を用いた魔法まで使う。魔法の話だけしたとしても、こんな能力を持つ人間はどんなに高名な魔術師ギルドを探しても存在しないだろう。
 これら全ての要素を考えたら、そこらのギルドの新人どころか、ある程度のギルドの中堅までもが太刀打ちできなくてもおかしくはない。

「うーん、実際戦ってみないとどうとも……でも、俺自身がどうかっていう話は別にして、だいたいの人がコロナエ・ヴィテのみんなよりは動けてないなーって思うよ」
「目が肥えちゃってるんだって」

 やはり頷かなかった。モンスターしか相手にしたことがない彼のことだから、自信は付いていないのだろう。だが、確実に見る目は培われているようだ。

「やっぱりそうだよね? コロナエ・ヴィテのみんなはすごいなって最近前より実感してる。あ、そういえばさ、ラーサーくんが今度稽古つけてくださいって」

 その言葉が自分に向けられたものであると気付いて、ソーリスは一瞬きょとんとした。
 だがすぐに思い出す。ソーリスがカヴァリエのギルドハウスへ行くとよく試合を求めてくる人間の中に、ラーサーとやらがいた気がした。

「……あー、どっかで見たことあると思ってたら。よく並んでるやつか」
「うん、そうらしいよ。時間が足りなくていつも相手してもらえないって嘆いてた」
「今度カヴァリエのギルドハウスで声掛けてくれば相手するって伝えといて」
「ありがとう、ラーサーくん喜ぶよ」

 嬉しそうに微笑むヤマトを見て、自分も嬉しくなって笑った。

(本当に、なんでこんな綺麗かな、ヤマトは)

 それから後は、他の男性陣がやってくるまで、どうでもいい内容のお喋りを楽しんだのだった。
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