挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
Trans Trip! 作者:小紋
4/122

2‐(3).話は要点を整理してから

「まず、あんたは自分の世界で死んだ。そして、死んだと思ったら知らない場所で倒れていた。さらに、身体が自分のものとは全く別のものになっていた。そこに、あいつが来て襲いかかってきた。それを、あたしが助けた」

 今までの状況はこんな感じね? とわかりやすく言葉を区切って確認されて、まったくその通りです、と頷く。

「それであんたのわかっていることは、この世界が異世界だっていうことのみ。で、いい?」

 はい、文句のつけようもありません。さらに頷いた。要点を整理すると実にすっきりする。
 このきつそうな美少女、よく要領を得ない私の話をところどころ突っ込みをいれながらしっかりと聞いてくれた。外見よりずっと面倒見がいいようだ。

「質問は後で受け付けるから、とりあえず聞きなさい」

 神妙な顔で話し始めたきつそうな美少女は、簡潔に説明してくれた。





 結論から言うと私が死んでこの世界に来てしまった原因は、先程の恐怖美少女にあるらしい。なにやらあの少女は、私を使って何かしようとしているというのだ。……私を使って何ができるのかかなりの疑問が残るところである。
 いやしかし……おそろしい。もしさっき捕まっていたら、内臓くらい引きずり出されていただろう、多分。本当にこのきつそうな美少女が助けに来てくれてよかった。
 そういった理由があって、彼女が私の運命を狂わせて殺し、この世界まで引っ張ったそうだ。

「恨むなら、あいつを恨みなさいな」

 きつそうな美少女はそう言う。言うのだが……私には恨みとか怒りとか、一切わいてこない。のんきすぎるのだろうか。だが未だに実感がないのだ。まるで、ゲームをやっているか本でも読んでいる気分で、まるっきり他人事のように感じている。
 そして次、この身体の変化のことだが、これはきつそうな美少女にもよくわからないそうだ。予測を話して聞かせてくれたが、元の体では死にかけでもう使えなかったから、引っ張ってきた際に新しく適当に用意したのではないか、とのこと。あの恐怖美少女のせいで死んだり怖い思いをしたりしたことは全く感謝できないが、このイケメンを選択してくれたことだけは感謝したい。
 さらに次、私にとって全く知らない場所であるここ。ここは、私の世界とは全く違う世界であるとのことだった。まあ、俗に言う『剣と魔法のファンタジー世界』で間違いないだろう。目の前にいる彼女も、RPGで言うショートソード的なものを帯剣している。
 最後に、今いるこの場所は、恐怖美少女も言っていたが、“竜の湖”という場所で、竜が生まれるという伝説が残るとっても神聖な場所なのだそうだ。恐怖美少女が話して聞かせた話とはだいぶ違いがある。しかし、恐怖美少女はどう見ても“闇”っぽい人なので、きっと彼女には神聖的なものは“呪い”なんだろう。そのあたりは、どうでもよさそうなので考えないことにした。





「今言えることはこのくらいかしらね。……質問はある?」

 めちゃくちゃたくさんある。まず、これは聞いておこう。

「私を、助けるつもりの人がいるということですが……」

 これは、気になる。なにせ、私を助けるつもりイコール、私が説明せずとも私の状況を知っている人だ。セオリー通りなら、多分一番情報を持ってる人物で、相当なキーパーソンだろう。

「ああ、そうね。いるわ」
「どうしてなんでしょうか?」
「……あんた、あのやっかいな女が小さなやっかいを振りまくだけで満足すると思う?」

 いきなり違う話を振られた。だがまあ、答えとしては、ノーだ。まったく思わない。
 あれで、近所の野良猫に落書きをしたり、おろおろしてる人をちょっとびっくりさせたりするのが大好きなただのいたずらっ子ですとか言われたらどうしよう。……絶対にありえない。

「あ、い……いや、思いません」
「ま、それが理由ね。あんたがあの女に捕まって利用されたら、不利益をこうむるのは世界全体なの。多分」

(……ひぇー)

 そんな大きな話だったのか。この世界の規模とか、全くわからないが、とりあえずあの恐怖美少女は大変な脅威のようだ。個人的にさっきの恐怖体験からそれも納得できてしまう。だが、しかしそうなると。

「あの女の子、私を使って何をするつもりだったんでしょうか?」

 甚だ疑問だ。正直言って、私ぐらいの人間を使ってどうこうしたくらいで世界全体がどうこうなるものとは思えない。せいぜい、悪の組織の下っ端となって甲高い声で叫ぶくらいしかできないだろう。イー! って。全身タイツの雑魚服はやだなあ。

「……魂ってわかる?」
「あ、はい。概念だけは」
「そ。……こういう概念はどの世界も一緒なのかしら? あたしはよく知らないけど、“魂”に蓄積されたエネルギーを使う手法ってのがあるらしいの。禁術らしいけどね」

 なんともはや、ファンタジーな話だ。ファンタジー世界だし当たり前なのかもしれないが、どうにも頭がついていかない。恐怖美少女がさっき使った移動魔法(多分)とか、人の“魂”を使う禁術とか。中二病の頃なら、すらすら入っていったんだろうけど。むやみやたらに変な造語とか作り出していたし。

「へぇ……」
「あんたの“魂”、そう使うには多分に価値があるものなんじゃないの。自分で分かる?」
「いや、まったく」

 中二病に侵されていたときは自分が特別だとか、魂だとか、前世だとか騒いでいたもんだけど……これは黒歴史。やっと回復して、思い出話をされるたびにゴロンゴロン転がりたくなるような今頃にこんな話をされるとは……。なんとか平気な顔で流したが、本音を言えば恥ずかしい止めて! だ。
 本当にむずがゆ恥ずかしくなってきたので、この話はここで止めてもらった。

(理解はした、そういう設定なのは理解したから!)

 顔が赤くなり始めた私を怪訝そうな顔で見ながら、少女が次の質問を促す。次、聞きたいことはこれだ。

「私、この世界でどうすればいいんでしょうか」

 私の知っている異世界トリップは、なにかしら主人公にやるべきことがあった。帰る方法を探す、世界を救う、イケメンと結ばれる……などなど。
 帰る方法を探す。私は元の世界で完璧に死んだっぽいので、これはアウト。戻ってもゾンビか骨じゃ悲しすぎる。
 世界を救う。今のところ、世界を救えるくらいの特別な力を授かった感はない。でも、いきなり発現したりするかもしれないので、これはグレーゾーンだ。
 イケメンと結ばれる。……うーん、腐女子だしなぁ……。そもそも今現在が、イケメンの中身が腐女子という大変残念な状況だ。

(もしBL展開が起こったとしても、当事者が自分じゃあなぁ……)

 遠い目。実に残念だ。中に入るんじゃなくて、外から見ているだけなら良かったのに。
 自分で質問しておきながら、一人勝手に物思いにふけってしまった。きつそうな美少女はさぞかし怪訝な顔でこっちを見ているだろう……ヤバい。慌てて視線をきつそうな美少女に戻すと、彼女も随分と難しい顔で悩んでいるようだった。

「どうすれば……、ね」

 しばらくして、ぽつりと呟く。

「残念だけど、それは聞かされてないわ。まあ……あんたにも伝えないでしょうね、きっと」

 そういう奴だもの、とぼやくように言う。きっと、“そういう奴”とは彼女の上司的存在の黒幕のことなのだろう。

「ま、そもそも、どうするかなんて人に言われて決めることじゃないわ。あんたはあたしたちに迷惑かけない範囲で好きなようにしてればいいのよ」
「え……そんなんで、いいんでしょうか」
「いいんじゃないの? 面倒見てやるわ、それが仕事だもの」

 迷惑かけない範囲、というのが漠然とし過ぎている気もするが、なんとも頼もしい。素直に感動して、ありがとうございますとお礼を言った。すると目の前の美少女は、何故か眉間に皺を寄せる。

(な、なんだろう。なんかまずいこと言ったか)

「……あんた、のんきなのか器がでかいのかわかんない」
「え」
「正直なところ最初から驚いてはいるの。あんな話して、喚かれるか八つ当たりされるかくらいは覚悟してたわ。それならまだしも、信じないんじゃないかとも思ってた。でもあんたはあっさりあたしの話を信じて、怒るでもなく冷静に話聞いて、あまつさえ礼まで言ってる」
「はあ……」
「聞いてみたくなったわ。なんで?」
「なんで、と言われましても」

 何故かと問われれば、そりゃあ……私がオタクで腐女子、だからだろう。こんなシチュエーションは見慣れている。いや、実際この状況に陥った瞬間はそりゃあ混乱したが、下手したら今の状況は憧れの状況だ。でも、そんなことを言ってもこのきつそうな美少女はわからないだろうし、私はオタク知識を一般人に披露し、生温かい目で見られるという罰ゲームを味わうだけだ。適当にお茶を濁したい。

「……あなたが、嘘を言っている雰囲気ではないですし……。あの女の子が悪いという話なので、今、あなたしかいないこの場所で怒ってもしょうがないじゃないですか」
「それにしたって、冷静に見えるわね。ムカついたりはしないわけ?」

(ムカついたり……は、……どうだろう)

 さっきも思ったけど……実感がわかない、というのが本音だ。いきなりこんな現実感まったくゼロの状況下に置かれて……夢じゃないのはわかってるけど、次の瞬間にでも起きて、朝ベッドの上で、「変な夢だった、でもおもしろかったなぁ」なんて思いながら、また学校へ向かうんじゃないかって今も思ってはいる。
 実感がわいてないからだと思いますけど、ときつそうな美少女には正直に伝えた。

「ふーん……、そういうもんなのね。……ま、あとでムカつきだしたら八つ当たり先くらいにはなってやるから、実感わいたら言いなさい」

 ここではじめて思うわけではないが、なんて大人なんだろうかこの美少女。外見的には元の私の年齢と変わらないくらいに見えるのに。最初以外のほとんど全ての受け答えが無表情で淡々としてはいるが、姉御肌を感じさせるくらいには包容力がある。

「ま、この話はこのくらいにしときましょ。ここで言っててもしょうがないしね。……まだ、聞きたいことはある?」

 他に聞きたいこと、というと。

(あ、そうだ)

「あの、名前、教えてもらえませんか」
「……ああ、そういえば、まだ名乗ってなかったわね」
「はい……あ、私、和って言います」
「そう、ヤマトね。……あたしはニーファよ」

 やっぱり、ファンタジー世界の名詞は横文字らしい。ニーファさん、ちょっと言いにくいけど良い名前だ。

「わかりました。よろしくお願いします」
「ええ、よろしく」

 頭を下げると、手を差し伸べられた。握手の習慣は異世界でも同じのようだ。しっかりと手を握る。
 握り返され、柔らかで細いが力強い手の感触が返ってきた。
 これからどうなるのかは全く予想もつかないが、とりあえず、遭難死のフラグは折れてなくなり、重要人物っぽいこのニーファさんにも会えた。このきつくても面倒見の良い彼女についていけば、路頭に迷うことはなさそうだ。
 なんだ、意外と、物語っぽいものがはじまってるじゃないか。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ