挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
Trans Trip! 作者:小紋
37/122

5‐(4).思春期の想像力はすごい

 見上げると、抜けるような青空。日差しが暖かい。うららか、という言葉が良く似合う今日。本日は晴天なり。

 そして目の前には、鬱蒼と茂った雑木林への入口。今からここへ入って行く予定。折角こんなに天気がいいのに、どうしてわざわざこんな暗い場所へ行くか、というと……。

 本日の任務、指定された大型の菌類の採取。

 つまり……キノコ狩り、なのです。





「ドクトルマッシュ、かぁ……」

 依頼人である薬師のお爺さんから貰った紙を見て、呟く。そこに描いてあるものは、鮮やかというか、なんというか……絶対に毒がありそうなキノコの絵だ。見所は、青地にショッキングピンクの水玉模様がある傘。乳幼児に見せたら夜泣きしそうである。
 聞くところによると、高い栄養価を誇りどんな病でもたちどころに治してしまうというありがたいものらしいが……色彩からして疑わしい。

「ほんとにこれ、万病に効く薬なの……」
「効くらしいよ。扱いが難しいって話だけどね」

 だから、あんまり市場にも出回らないんだよね。そう解説してくれたのは隣を歩くソルだ。今日の任務は私、ニーファ、ソル、エナのいつもの4人で行っている。
 手ぶらで身軽な女性2人と違い、男2人は大きめの籠を持たされていた。……今は軽いからいいが、帰りはこれがずっしりと重くなっているのだろうと思うと少し憂鬱だ。

 ジメジメとした大気も鬱陶しい。木属性の魔力以外に水属性の魔力も強いというこの森は常に高い湿度を保っており、キノコが成長するのにとてもいい環境なのだそうだ。近隣では有名で、別名はキノコの森。ここまで歩いてきただけでも、数え切れないほどたくさんの菌類を見かけた。その中には、蠢きながら胞子を噴き出しているものもあったり……言ってしまえばけっこう気持ち悪い。肌のべたつく感じといい、キノコには良くてもあまり人間には気持ちの良い環境ではなかった。

 ドクトルマッシュの群生地へと向かい始めて1時間が経つが、モンスターとの戦闘も何度かこなしている。これがけっこうきつい。このメンバーだから、倒すのに難があるということはないのだが、とにかく、外見がグロテスクなのだ。
 この世界に来て初日に出会ってしまったキノコ型モンスターとも再会した。だがあいつだけならまだいい、臭いは酷いがまだ平気だ。耐えられる。もっとひどいのがいるのだ。そう、菌類に寄生されてぐっちゃぐちゃになった大きな昆虫とか、そういうの……あれは耐えられなかった。そんなのがギチギチ音を立てながら迫ってくると、鳥肌が止まらないし足も竦む。他の3人が何故平気な顔で処理できるのかを知りたい。あまりにもグロいので、剣で応戦するのを拒否して後方からの援護にまわってたくらいだ。魔法を使えるようになっていて良かった。





 暴走の危険性を聞いてからは、自己流魔法は封印した。肉体が崩壊って、怖すぎるし。その代わりに使う魔法として、ジェーニアさんから借りた教本の内容がすごく役に立っている。しょっちゅう使うのは、火炎球を掌から打ち出す『炎弾ファイアバレット』と、それが効かない相手には『炎弾ファイアバレット』の水属性バージョン『氷弾フリーズバレット』。他もいくつか覚えてはいるが、使い勝手が良い攻撃魔法はこの2つ。
 あとは、味方に対する支援として、補助魔法のいくつか。この補助魔法というものがけっこうな曲者だった。各属性に膨大な数あるものだから、実用性が高そうなものを絞るのにも苦労した。戦闘中使ってみて評判が良かったのは、攻撃を遮断する光属性の防護魔法『防壁展開シールドインペンド』と、武器に任意の属性を帯びさせる『付加ファシナーレ』、あとは感覚を研ぎ澄ませる炎属性の魔法『鋭敏アキュレイター』。『鋭敏アキュレイター』に関しては、『防壁展開シールドインペンド』と併用しないとけっこう危ない。痛覚も鋭敏化するからだ。補助魔法のせいでショック死とか、洒落にならない。
 敵の数が多い時などは、腕輪の偶像召喚を使ったりもしている。自分で傀儡獣を作ってみようかと思い試してもみたのだが、自立して動くものなんて簡単に作れるわけもなく早々に挫折した。そのため、ニーファが術式を刻み込んでくれた腕輪を重宝している。ニーファほんとすごい。
 傀儡獣に関していいことがひとつ。最近は魔力コントロールも出来るようになってきており、問答無用で竜、ではなく、狼や鼬も召喚できるようになっていた。動物は大好きだ。可愛くて嬉しい。出来ることなら、猫ちゃんを傀儡獣で作ってみたい。今度ニーファに教えを請うてみようか。

 それはそうと、以前考えた通り、やはり魔法を多種使って支援できる人間の存在は喜ばれた。特に補助魔法に関しては、みんなからお褒めの言葉を貰える。あのニーファですら、この前「補助魔法があると楽でいいわ」と言ってくれたくらいだ。私としても、後方支援の任は性格にあっている気がした。気配りが必要となる仕事ではあるが、そこは日本人の空気読むスキルを発揮するとうまくいく。喜んでもらえるのが何より嬉しいので、それを励みにして補助魔法のスキルアップを頑張ろう。

 全属性の魔法が使えるということは一応みんなに伝えてあるが、コロナエ・ヴィテのギルド員以外がいる可能性があるところでは進んでそれを見せびらかす様なことは避けている。ジェーニアさんが言った通り、全ての属性に適性がある人間なんてほとんどいないので、そうと知れるとものすごい目立ってしまうからだ。出る杭は打たれるという言葉もあるし、それ相応の器がある人間以外が目立ち過ぎていいことはないだろう。





「ねーヤマトー口開けてー」

 エナが振り返って近づいてきたと思ったら、私に用事だったようだ。後ろ手に何かを隠し持ち、ニヤニヤと笑っている……なんだろう。

「え、何?」
「いいからいいから」

 仕方なく口を開くと、目にも止まらぬ速さで何かを押し込まれた。舌に触れた繊維質な感触で気付く。

(これは……キノコ?)

 自らの口元に視線を寄せ、口に押し込まれたキノコを確認した。
 松茸のような形をしたそれはちょうど開いた口いっぱいくらいの大きさで、色は全体的にピンク色をしている。毒々しいが、風味は普通だ。舌が痺れたり変な渋みがあったりはしない。勇気を出して噛んでみた。……ゴムのように激しい触感が返ってきたが、至って普通の生キノコ。
 キノコの生食って胃腸が弱い人には良くないんじゃなかったっけ。……お腹を壊さないだろうか。

「ね、ね、おいしい?」
「……ふふうに、ひのこのあぎがふうよ」

 エナは無邪気に、期待に満ちた目を私に向けてくる。それに対する私の返答は、普通にキノコの味がするよ、だ。ピンクキノコが口いっぱいに広がっているせいで、まともな言葉を発することが出来ない。

「あははー全然わかんない」

 楽しそうにエナが笑う。うん、私も言いながら、何言ってるんだろう自分と思った。

「なんか毒々しいんだけど。大丈夫なわけ?」
「生食できるキノコだってニーファが教えてくれたんだもーん。大丈夫そうだからエナも食べてみよっ」

 耳はソルとエナのやり取りを拾うが、目は銜えたままのピンクキノコの石突き部分に土がついていることが気になる。根元を、威力を最小に絞った風魔法『風刃ウィンドブラーデ』でスパッと斬り落とした。こういう風にも使えるので、魔法ってけっこう便利だ。包丁いらず。

 エナはさっさとピンクキノコをもう一本取りに行ってしまったので、私とソルだけがこの場に残る。視線を感じたので横を向くと、ソルが神妙な表情をしていた。声をかけられる。

「……おいしい?」
「ふふう……えもやいはほうがおいひいかも。あ、ひんへんらからはごかえがふごい」

 普通だけど、焼いた方がおいしいかもしれない、新鮮だから歯応えがすごい。私はそのように言っています。
 そう、歯応えがすごいのだ。噛んでも噛んでもグモグモとゴムのような感触が返ってくるばかりで、まったく噛み切れない。

「……何言ってるかわかんないよ」

 感情が読み取れない声と共に口に入っていたピンクキノコを抜き取られる。涎が垂れそうになって慌てて口元を押さえるが、大丈夫だったようだ。ほっとしたところで、口から抜き取られたピンクキノコが手元に返される。
 いきなり取るなよ、と非難の意味を込めてソルに視線を送ったのだが、彼はこちらを見ていなかった。
 ……こちらに視線を合わせず前を向く顔が、真っ赤だ。

(なんで真っ赤……?)

「……どうしたの?」
「は!? な、何が?」

 噛みつくような勢いの口調さながら、垂直に尖る彼の頭上の虎耳。立派な尻尾は大きく膨らんで、びんっ! と硬直している。
 何故だろう、何か悪いことをしただろうか、私は。思わず怯んでしまったのだった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ