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Trans Trip! 作者:小紋
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5‐(3).ないものねだり

「もー、びっくりです!」

 先程から、ジェーニアさんが叫び声に近い歓声を上げ続けている。その声に耳がキーンとしつつも、びっくりしているのは私も同じ。

「まさか全属性に適性があるなんて!!」

 私には、全ての属性に適性があった。それが私たちの驚いている要因だ。

 木属性以外の属性魔法全部……火、水、地、風、光、闇。計6種全ての魔法攻撃を食らった的は、さながら嵐の後のような有様になっていた。





 あの後、各属性の攻撃魔法をそれぞれ放ってみた。先程言われた“練り上げ”にも注意しながら、水、地、風と立て続けに。偏った思考に陥りやすい性格のせいで、全てが先程放った火の魔法と似たような形になったのはご愛敬だ。
 “練り上げ”を入れると魔法は途端に難しくなった。綺麗に形を整えようと意識がそればかりに行ってしまうため、威力が安定しなかったり、座標が怪しくなったりするのだ。ああ、一度に色んなことを考えることができない自分が憎い。最初にニーファが見せてくれた火魔法のように、一度自分の掌に魔法を顕現させてから投げるという方法も考えたのだが、体育の授業の球技では毎回ノーコン女王と化していた自分を思い出して止めた。

 しかし、もうその時点ではそういったことは問題になってはいなかったように感じる。ジェーニアさんはとにかく、私が次々と魔法を発動させ、ここまででは5種の属性適性を明示してみせたことに驚いていた。
 だが、次の2種。光と、闇の魔法を放ったことが、彼女を更に驚愕せしめることとなる。

 まさか、まさかという呟きと共に念のためやってみるように促された光魔法と闇魔法。
 私は、できないと思っていた。そもそも、光と闇なんてどういったものかイメージが湧いていなかったし。だが、どうしようかと困った私に、ジェーニアさんが助言をくれた。「炸裂する光」「侵食する闇」この2つの単語からできるイメージを魔力で形作れ、と。

 そしてその言葉に従ってわけがわからないなりにやってみた結果、出来た。
 そう、出来てしまったのだ。
 軽いが派手な音を立てて何回も炸裂した光と、私の足元から伸びていって的を腐食させた闇がその証拠だ。

 それを見たジェーニアさんが、先程から興奮しきり、というわけ。





「光と闇を同時に使えるだけでも1000年に一度出るか出ないかなのに……全属性に適性があるなんて……魔人にだってなかなか……ああっなんて羨ましい……」

 しかし、全属性適性がある、ってことは結構すごいことのようである。ジェーニアさんの興奮ぶりもさることながら、以前ニーファに聞いた適性の話も思い出された。光や闇に適性がある人間は、すごく少ないと言っていたじゃないか。
 なんか、すごい。自分がその少ない人間の中に入っているのかと思うと、わくわくする。そう、小学校の時、テストで100点を取った時のようなわくわく感……これは優越感だ。

 だが、それに浸れる時間は短かった。

「羨ましい……羨ましいぃ……全属性に適性があれば、複合属性魔法の研究も合成傀儡獣の作成も思いのまま……ああぁ……欲しい……その適性欲しいぃ……ッ!!」

 まるで悪鬼のようなオーラを漂わせたジェーニアさんが、こちらをガン見しながら呟きだしたからだ。声のトーンがみるみるうちに落ちる。
 思わず後ずさる私。

「……………………こせ」
「……え?」

 ぼそりと何か小さく呟いた声。聞こえない。怖い。眉間に汗が一筋流れ落ちた。

 ジェーニアさんが両手を左右に広げる。何かと思ったら、瞬く間もなく“何か”が彼女の左右の手に一本ずつ。
 それは、銀色の金属製で、ジェーニアさんの身の丈ほどの大きさがあった。しかし、武器ではない。日常生活でもよく見かけるあれは。

(ナイフと、フォーク……ッ!?? 偶像召喚?!)

 何故、そんなものを呼び出すのか? わけがわからない。だって、ナイフとフォークっていったら、何か物を食べるときに使うもので……。
 私が混乱していると、彼女から蒸気のような煙が音を立てて上がった。不審に思って見ると、魔人の証である尖った耳と首筋の紋様が顕在してしまっているではないか。

(狙われて、る……?)

 漠然とそう思った。だがそれで間違いないだろう。痛いほど突き刺さる視線、現れた本性、両手の食器……もしかしてこの食器は、対人用?
 そこでやっと逃げた方がいいかと考え始めた私は例えようもなく鈍くさい。しかも、行動を起こすのはジェーニアさんの方が速かった。

 地を蹴る音。

「その適性寄越せェェェェェッ!!!!!」
「ぎゃーーーッ!!!!!」

 叫び声を上げながら飛びかかってきた彼女、悲鳴を上げながら逃げだす私。思わず、バシバシと音が鳴るくらいの勢いで腕輪のGPS連打。
 捕食者と被捕食者の死闘は、ギルドハウス内からの予想外の緊急信号に驚いたニーファが駆けつけるまで続いたのだった。





◇ ◇ ◇





「ごめんなさーい」
「あんた……何やってんのよ」
「だってですねぇ、私がどう頑張っても絶対に手に入らない物を持っているヤマトさんが羨ましいやら憎らしいやらぁ。食べてしまいたくなるのもしょうがないと思いませんか?」
「思わないわよ。……ったく、こっれだから、魔人は」

 溜息をつくニーファの目の前には、火の魔法に焦がされた髪を不貞腐れたようにいじりながら正座させられるジェーニアさん。お説教もなんのその、だ。むしろニーファが押されているようにすら見える。

 身の丈ほどの食器を両手に持って追いかけてくる魔人というのも出来るならば目を背けたいくらいには恐ろしかったが、それを処理するための光景も随分刺激的だった。
 ニーファ、状況を見るなり火の魔法をジェーニアさんに炸裂。
 見出しをつけるならこうだろう。地獄の業火と名付けてもいいくらいの大変な激しい炎に包まれたジェーニアさんだったが、どういうわけか今の彼女の状態は、少し煤をかぶって髪が焦げただけ。魔人というのは、生まれつき強い魔法耐性を持っているらしい。ギャグ漫画みたいな種族だ。もう少し炎が強かったら、アフロ頭になったんだろうか。

 それにしても、怖かった。

(食べられるかと思った……ッ)

 掛け値なしに、だ。彼女は本気だった。ホラーゲームなんて目ではないくらい怖かった。助けてもらえなけらば、どうなっていたのか。考えるのも恐ろしい。
 なるほど、以前ニーファが言っていた魔人観はこういったところから出来上がるのか。今日の様子を見る限りだと、少しあの意見にも納得してしまう。先程は、思ったよりもずっと可愛い種族だと思ったりしたが、それに加えて、思ったよりずっと怖い種族のようだ。

「むううぅ……、わかりましたよ。もうしませんったら。だから足崩していいですか? ちょっと痺れてきちゃって……」

 弱ったようにこぼすジェーニアさんに、一応の言質はとったということでニーファも足を崩すことを許可する。

「はー。ひどい目に合いました」

 足を投げ出して独りごちるジェーニアさんだが……それはこっちの台詞だ。

「いいですよーだ、私は私の適性がある属性で研究しますから……」

 そして不貞腐れ始めた。

「あ、あの……気になったんですけど、通常はどのくらいの属性の数、適性があるものなんですか?」

 このまま不貞腐れられたままでも今後困るので、とりあえず魔法についての質問でもしてみることにする。すると、それまでの表情を一変させて真面目な顔つきになるジェーニアさん。

(ほんと、魔法が好きなんだな)

「通常ですか? うーん、種族によっても違うんですよね。例えば魔人とかは比較的多くの適性を持つ者が多いですし。まあでも、どんな人でも1つは適性を持ってます。稀に自分はどの属性にも適性がない、と主張する人がいますが、それは魔力量が足りなさ過ぎて魔法が発動できてないだけです」
「へぇ……」
「魔力量にもよりますが、3つの属性に適性を持ってればそれなりに有能な魔術師といえますね。もしその中に光か闇が混じってれば、どこにいってもかなりアテにされます。でもまあ、過去名を残した大魔術師たちの中にも、1つの属性にしか適性を持っていない者はいましたから……多く適性を持つことが全てではないです」

 ちなみに、魔人に関しては3つ以上の適性を持たない者はほぼいないそうで。流石魔法至上主義種族だ。

「ニーファとジェーニアさんは?」
「私は、火、水、風、闇の4つです。ニーファはどうでしたっけ?」
「あたしは火、水、風、地、木よ。前も言ったけど、得意なのは木属性」

 なるほど、二人とも適性に関してだけ言っても平均以上、というわけだ。

「あっ私は闇属性得意です!」

 ジェーニアさんが得意げに胸を反らす。闇属性……さっきの一面を知らなければ明るい彼女には似合わない属性だと思ってしまったかもしれないが、今はひどく納得してしまった。

「それにしても、全属性に適性か……あんたの魔力量考えると、鬼に金棒なんてもんじゃないわね」

 ニーファが私のことをじっと見つめながら、感心したように言う。私も、強くてニューゲーム特典が本当に至れり尽くせりだと感心していた。贅沢を言うと、使い方まで完璧に脳にインストールしておいて欲しかったとも思うが。流石にこれは欲張り過ぎだろうか。

「……任務で役に立てるかな」

 そして次に考えるのはやっぱりこれだ。今までこのギルドでお世話になっている感じだと、魔法のスペシャリストというのはジェーニアさん以外にはいない。そして彼女は依頼をこなすことはなく、ギルドハウス内の家事ばかりをやっている。
 そういうわけで、私が今一番このギルドに貢献できることと言えば、任務上で魔法を使うことではないか、と思った。

 私の言葉に、いつも通りの無表情で「そうね」と頷いてくれたニーファだが、「だけど」と逆接で続ける。

「ちゃんと勉強しなさい。……今のところ魔力制御はうまくいってるようだけど、暴走させたら大変なことになるわよ」
「……ぼ、ぼうそう? ……どうなるの?」

 突然出てきた単語に、唖然としながら質問した。それに答えたのはジェーニアさんだ。

「暴走、つまり体内の魔力を制御することができなくなれば、肉体は崩壊しますねぇ。で、肉体という器を失った魔力はボンッと」
「ボンッ、ってことは、……爆発?」
「そうなる場合もあります。生き物が体に貯め込む魔力と、大気に漂う魔力は性質が違いますから、行き場を失った“生きた魔力”が、何らかの形で“大気の魔力”に還元されるんですね。そしてどういった方法で還元されるかは、制御を失う前の魔術師の精神状態次第。怒りなどの攻撃性の高い感情に支配されていた場合だと、周囲の者に害をなす結果となります」

 恐ろしさに青褪めながら説明を聞く。それ以降の説明は、ニーファが引き継ぐ。

「近年起きてる暴走の主な原因は、魔法の使用過多による魔力陶酔マジック・ハイ。トランス状態ね。感情が昂りすぎてるときに魔法を使用しても起こりやすいわ。正気を失えば制御も失うってわけ。気をつけなさい」
「は、はいぃ……」

 つまり、危うい精神状態で魔法を使ったら事故りますよってことか。恐ろしい。

「あ、それに関して言わせてもらうと、ヤマトさんのように好き勝手な形式で魔法を使っている人はかなり危険度高めですね。何も考えずに魔法を放つと魔力に酔いやすいんです」
「なにそれこわい」

 思わず思考が口に出てしまった。はしたない。

「教本なんか読んで、ある程度形式がしっかりした既存の魔法を使うことをオススメします。イメージが湧きやすくて様々なことが安定しますから」

 恐ろしいことを聞いてしまった。これは絶対に勉強せねばなるまい。勉強は大嫌いだがしょうがない。教本ってどこに売ってるんですかと聞いたら、ジェーニアさんが初心者向けのものを何冊か貸してくれることとなった。

(肉体が崩壊って、一体どうなるんだろうか……)

 制御を失った魔術師の行く末……グロテスクなものを想像してしまい、寒くもないのに大きく身震いをする私であった。
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