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Trans Trip! 作者:小紋
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4‐(9).経験に勝る宝なし

 真面目な雰囲気から和やかな雰囲気になったことにほっとしつつ、ジェネラルさんと話を続ける。忙しいらしいジェネラルさんとは、そこまで長く話をする機会があまりないので今は貴重な時間だ。心の聖域と話すと心が洗われる。ただ自分はかなり赤面しているだろうとも思う。顔が結構熱い。ジェネラルさんは気付いていないのか。はたまた気にしないでいてくれているのか。

「……思ったんだが、ヤマトはもっと俺たちに弱音を吐いた方がいい」

 そんな時、彼が少し真剣な表情をした。何を言われるのかと思ったら、これだ。

「そんなこと、できません。ただでさえお世話になってるのに」

 本当にそうだ。元の世界とは文明レベルの差はあれど、快適すぎるほどの居場所を用意してもらっていてさらに弱音なんて吐いたら申し訳なくて死ぬ。

「君が手の掛かる人間だと思っているなら、こんなこと言わないさ。もっと世話をさせて欲しいくらいだ。……辛いことがあったら、何でも言ってくれ。1人で悩まれると悲しい」

 なんて、私がそんなことを思っているにもかかわらず、優しく微笑んで言葉を紡ぐジェネラルさん。ちょっと、ここまで来ちゃうと過保護じゃなかろうか。そんなにされる価値が私にあるのか。いや、ない。外見以外。

「あ、ありがとう、ございます……」

 今回二度目の恐縮をして、お礼の言葉を述べる。
 すると、痛ましげな表情に変わったジェネラルさんが突然切り出した。

「……君の任務の様子をニーファに聞いて思ったんだが、戦いが辛いんじゃないか?」
「あ、う……」

 咄嗟に返事が出来なかった。それは、間違いない。辛いというより、モンスターを切ったりするのがえぐくてきついという……あ、これ“辛い”だ。
 しかしニーファ、そんなことまで報告してるのか! 「言ったわよ、悪い?」と悪びれない彼女が脳裏に浮かんだ。いえ、別に悪くないです。
 中身女暴露に続いて、結構な衝撃である。情報が筒抜けっていうのは、恥ずかしい。これからはうっかりドジもできないのかもしれない。

「君が暮らしてきた環境は、戦いなんて一切なかったところだと聞いた」
「その、通りですけど……一体誰に?」
「……依頼主、神王だな。あの人はいろいろ超越してるから」

 続いた言葉に吃驚した。元の世界を知っている人物なんて、いないと思ってたのだ。ニーファも知らないようだったし。神王様すごい。お昼も彼のすごい評判をエナから聞いたが、伊達に5000年以上生きていない。

「それはいいんだ。辛いんだろう?」
「う、あの……辛くない、といったらウソになりますけど」

 言えない。こういうの憧れてたんですけど怖くなりましたなんて浅ましすぎて言えない。ジェネラルさんはそんなこと言わないと思うが、冒険者業を生業にしている人からしたら、舐めくさってんじゃねぇ貴様って話だろう。

「でも、そんなこと言ってられないです。あの魔人たちは今後も来るだろうし、お仕事だってやらなきゃ」

 これは本音だ。戦いが辛いなんて、言っていられない。

「仕事は、辛かったら止めてもいい。魔人たちとの戦いも、本来なら我々が全て請け負うべきものだ」

 辛かったら止めてもいいのよ。って……息子に甘すぎる母親のような台詞だ。ジェネラルさんの欠点は、何故か過保護すぎるところだろうか……。いや、彼にとって私は保護しなきゃいけない対象なんだから、それでいいのか。

(なんか、手伝うって言ったことで余計迷惑かけてるのかなぁ……)

 不安になる。いやしかし、エデルさんは喜んでくれていたのだし、ここは我を通させて頂こう。

「自分でやるっていったのに、途中で止められないです。それに、いくら保護任務があるからって、他の人に守ってもらってばっかだと俺、男なのに情けないじゃないですか」

 身体的には、と括弧がつくのだが。あ、でも。

「ヤマトは女の子だろう」

 そうだ……ジェネラルさんは知っているんだ。忘れていた。

「そうですけど、もう体が男ですから」
「……それも、辛いんじゃないのか。女の子が男の体に入るなんて……ああ、いや俺がどうにかできるわけじゃないんだが。……すまない」

 言葉を選びながら慎重に発言しているような彼に謝られて、後ろめたい心持になった。逆に謝罪したい。それに関しては辛いどころか、ものすごく楽しいのだ。鏡を見るたびにニヤニヤしてしまう私を見せてあげたい。いや、見せたくないけど。

「そんなの、大丈夫です。ジェネラルさんが悪いわけじゃないでしょう?」

 それにこれはルイカという恐怖美少女の仕業であるらしいのだ。彼が謝る必要など、一切ない。
 そう思って言ってみたものの、その後何故か沈黙が落ちて慌てる。

(えっなんか悪いこと言った?)

 混乱していたら、ようやくジェネラルさんが口を開いてくれた。

「……そう、だな。すまない。でも、本当に辛くなったらすぐに言ってくれ。話を聞くくらいはできる。……異性には相談しにくいか?」

 良かった、別に失言をしたわけではなかったようだ。
 安心はしたが、「それなら、エデルにでも……ニーファは根は優しいんだがあまりそういう機微に敏い子ではないからおすすめはできない」と真剣な顔で言うジェネラルさんの言葉に笑いつつも、何かがひっかかった。……エデルさんに相談してもいいってことは、まさか、エデルさんにも私が中身女だと知らせて……。

「? ああ、知らせてあるぞ」

 あった。ああ……また“俺”と言うたびに香ばしい気分にならなければいけない相手が増える。あまりそのあたりの情緒を知られたくないので、訝しげにするジェネラルさんに笑って誤魔化す。

「あ、あはは……。……あの、ジェネラルさん。聞いていいでしょうか」
「ん、何だ?」
「ジェネラルさんは、人を相手にして戦うのって怖くなかったですか?」

 話題転換は誤魔化しだが、この悩みは本物だった。目下の悩みだ。モンスターは克服とまではいかないが、なんとかなってる。人に対して……今日の魔人戦でのことだが、傀儡獣を呼び出したりタライ落としたりするのがやっとだった。それだって少し怖いくらい。

「人を、相手にして……なるほど、ヤマトはそれが怖いんだな」
「はい……攻撃されるのも怖いですけど、自分から攻撃するのが特に」

 モンスターも人も同じ生き物には変わりはないが、自分と同じ形をしている生き物を攻撃するのはそうじゃない方の三倍怖い。知恵も感情も明確に分かりやすい相手に怪我をさせたり、ましてや殺してしまったり……なんて、自分にそれだけのことが出来る腕があるかは別として、想像するだに恐ろしいじゃないか。
 今日の戦いで無様すぎる姿を晒しまくったのもそれが原因と言えよう。

「そうか……そうだな、初めて人を相手に戦ったのなんて、昔すぎてぼんやりとしか思い出せないが……確かに、俺も怖かった」
「本当に?」

 意外に思って聞き返す。恐怖を感じたり、なんていうのが目の前の堂々たる偉丈夫には似合わない行動だからだ。

「ああ。少し思い出した。自分の行動によって相手が傷つくというのが嫌だったな。人だけじゃなくて、生き物を相手にする時はいつも」
「俺も、です。……どうやって、克服しましたか?」

 本当に、意外だ。まさか、ジェネラルさんが自分と同じような考えを持っていた時があるなんて。是非、どうやってそれに打ち勝ったのかを聞かせて欲しくて、質問した。

「克服、か……。正直言うと、そこはあまり覚えてない」
「えぇっ」
「あの頃は無我夢中だったからなぁ……気が付いたら、平気になってた。麻痺したのかな」

 ジェネラルさんは苦く笑って言った。その答えは、あまり参考になるものでもない。無我夢中になれるほど切羽詰まっているわけでもないし……。

「そうですか……」
「ああでも、結局は訓練だと思うぞ。そう、慣れだ」
「訓練、慣れ……」

 思わず残念な感情が表情に出てしまい、肩を落とす。そんな私にさらに苦笑した彼だが、ふと気付いたように言った。その言葉を自分に言い含めるように繰り返す。訓練、慣れ。

「包丁を使うのだって、最初は自分の手を切りそうで怖いだろう。だが、訓練を積んで慣れればそうでもない。戦いも一緒じゃないか? 慣れないうち、勝手がわからないうちは、相手を殴ったのに自分の拳が傷つくことすらある。だが、戦いの術を完璧に身につければ、傷つけずに相手を倒すことだって出来るようになるだろう」

 なんとなく、わかるかもしれない。「安心しろ、峰打ちじゃ」ってやつだ。でもあれ、当たり所が悪いと怪我したり死んだりするらしいから、あんまり安心できないものだと前聞いたことがある。しかも、斬られたと錯覚した人がショック死したりすることもあるらしい。恐るべし峰打ち。話が逸れた。

「だから、訓練して戦いの術を自分のものにしなさい。他者を傷つけることへの恐怖が完璧に消えるわけではないだろうが、相手を傷つけずにその場を切り抜ける術を会得してしまえば、いざってときのことを考えても気が楽だろう?」

 確かに、自分のもの……例えば、手とかを使うのを怖いと感じることはない。手だってその気になれば人を殺すこともできるのだし。そう考えれば、彼の言っていることは妥当に感じた。
 しかし。

「先は、長そうです……」

 そんな境地に至るまでは、一体どのくらいの年月がかかるのか。溜息が出るのも致し方あるまい。

「大丈夫だ、できるできる。前向きに考えろ」

 笑って言う彼に、んな無責任な、と恨みがましい気分になったのだった。
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