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Trans Trip! 作者:小紋
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3‐(8).みんなの楽しい魔法学

 突然の謝罪を受け目を白黒させた私だが、ニーファの話を要約するとこうだ。魔力量が膨大であるにもかかわらずその制御の勝手がわからない人間は、自覚なしに魔法を使ってしまうことがある。とくに先ほど傀儡獣マリオネット・ビーストを意識せずに召喚してしまったのは、魔力をチャージするだけでそれができるようになっていた魔石が原因らしい。彼女曰く、私の魔力が極端に高いことを可能性に入れて考えていなかった、許し難いミスだ、とのこと。

 結果として頬っぺたをつねられまくった私だが、なんというか私が変な存在だから起こった出来事である以上ニーファだけが悪いとも思えなかったし、彼女には異世界2日目にしてかなり世話になっているので気にしないことにした。頭を下げて謝ってくれたのだから、波風を立てる必要もない。ニーファに謝られるのもなんだか居心地が悪いし。

「あー……あたしとしたことがとんだ馬鹿やったわ……」
「なんかごめんなさい……」
「あんたが謝らないでよ、余計情けなくなる……」
「う、うん……。あ、腕輪返した方がいいかな、俺が持ってると危ないんじゃない?」

 言ってみたが、それは大丈夫なようだ。この腕輪については、魔力チャージのイメージさえ思い浮かべなければ何かが起こることはない。既に術式を刻み込まれた魔石はそれ以外の用途で動作することはないらしく、万が一またうっかりをやってもせいぜいあの木製竜が出てくるだけらしい。暴走とかあるんじゃないの、と聞いてみたら、安全性の方は完璧だから大丈夫、と言われた。便利なものだ。他についている機能は感応方式が持ち主の魔力ではないので、あまり関係がないとのこと。かくしてオシャレアクセの所持権利は守られ、腕輪は外されることなく私の腕にある。

「まだ術式の刻み込まれてない魔石なんてお目にかかる可能性のほうが低いと思うけど、万が一目にしても絶対触るんじゃないわよ。あと、また竜がでてきたら一言戻れって言うだけで戻るから」

 復活が早いニーファはもう過去のミスのことは振りきったようで、私の状況に合わせた忠告をしている。術式が刻み込まれているか否かなんてまったくわからないのだが……とりあえず魔石全般に触らないようにすればいいだろうか。

「そういえば、さっきの竜はニーファが戻れって言って戻ったよね。誰が言っても戻るもんなの?」
「ああ、基本は術者が命じないと戻らないわ。あたしでも戻せたのは、その腕輪を作って傀儡獣召喚の術式を刻み込んだのがあたしだから」

 ソルの問いに答えたニーファは、私の腕輪を指さしていた。えーすげーなんてソルとエナが騒ぐ中、私は微妙に納得してしまった。
 市販にしてはオシャレセンスが良すぎると思ったのだ。しかも、なんとなく私に都合の良い効果つき。ハンドメイドの腕輪にしちゃクオリティが高すぎる気がしないでもないが、ニーファなら何食わぬ顔で作ってしまってもおかしくないような気もする。やっぱりチートキャラだ、このツインテロリババア美少女。

「とにかく、あんたには魔法の知識が必要ね……」

 というわけで、そこからはランチタイム兼魔法ミニ講座となった。





 ニーファはまず、こう口火を切った。

「まず、魔力っていうものがあるの。世界に満ちる不思議な力よ。それは場に満ちていることもあるし、生き物の体に満ちていることもある。そして、魔力を持っている生き物は、それを操作することで超常的な現象を行使することができる……つまり、魔法を使うことができるわ」

 頬の痛みもいい加減とれ、肉料理を頬張りながらニーファの話に耳を傾ける。味は悪くないが、何の肉だろう、これ。

「一口に魔法、といっても分類は多岐に渡るの。最もポピュラーなものは、自らに仇なすものを害するための攻撃魔法、そして能力変化や防護を中心とした補助魔法の2種。このふたつに関しては、あんたももう見たでしょ? あと身一つでも使用できる魔法といえば、偶像召喚くらいね。尤も偶像召喚に関しては、一応という言葉が入るけど」

 攻撃魔法と補助魔法、確かに、もう目にした。森でニーファがキノコを殲滅するときに使ったやつと、崖ダイビングで使ったやつのことだろう。しかしその2つはよく聞く名前でも、最後に言ったひとつはあまり聞き覚えがなかった。

「偶像召喚? 一応って……」
「そうね……さっきやった傀儡獣の召喚も偶像召喚のうちよ。魔力を高い濃度で凝縮して具象化し、イメージ通りの偶像を作り出して使役・使用する魔法。召喚と銘打ってはいても、実際にはただの魔力の塊を作り出すだけのものよ。呼び出しているように見えるだけ」
「うーん、なんかすごいねー……」
「作り上げることのできる偶像は、道具でも獣でも過去の英雄でもなんでも術者次第。魔力量とイメージさえあれば大抵のものは作れるけど、しっかりしたものを作るには集中と高い想像力と時間が必要になるわ。少ない魔力量と貧困なイメージで作ったものはいくら外見取り繕っても使い物にならないわね。……これに関して身一つが一応ってのは、戦いの度に長時間思い描いて作り上げるのは実用的でないから。媒体に術式を刻み込んで簡易化するのが一般的ってこと」
「術式を刻み込んだ道具があれば簡易化されるのはなんで?」
「工程が魔力チャージだけで良くなるからね。より精巧で強力な傀儡獣を、短時間で作り上げられるわ。もちろん、刻み込んである術式通りの物しか召喚できないけど」
「へー……」

 自由に絵を描くか、塗り絵をするかの違いのようなもんだろう。

「とくに竜なんてものは想像上の生き物だし、強さの象徴でもあるから……中途半端な想像力と魔力では牙の一つだって作れない。術式に刻み込んであるにしても、呼び出すのは容易なこっちゃないわ」

 ちらりと視線を投げかけられながらの含みを持った言い方も、さっきうっかりで呼び出してしまったのはけっこうすごいことらしいってことも、気にならなかった。最初の一文に、聞き捨てならない言葉が聞こえたからだ。

「竜って……想像上の生き物なの……? ……ど、ドラゴンも?」
「……? 竜もドラゴンも、同じ意味でしょ」

 ニーファの今の表情を言葉にするとすれば、何言ってんのあんた、だ。“りゅう”が良く見る西洋の四足のものではなく、細長い東洋の“龍”を指し示している可能性も考えて悪あがいてみたのだが……無駄だった。これはかなりのショックかもしれない。ドラゴンと言ったら、ファンタジーの代名詞のようなものなのに。ドラゴンは想像上の生き物……ということは、ドラゴンキラーの称号もドラゴンの鱗を使った装備もこの世界にはない。これが現実ってやつだろうか。ファンタジーな異世界に来てまで現実を思い知らされるなんて想定外だ。

 絶望に暮れる私のことなどお構いなしに講座は続く。

「話が逸れたわね。まあ偶像召喚についてはそんなところかしら。……身一つでは使用できない、道具を使う魔法については、さっき言った媒体使用の簡易魔法とか偶像召喚じゃない召喚魔法なんかが挙げられるけど……他にも種類が多すぎて説明が面倒だから割愛するわ。魔術師にでもならない限り、簡易魔法だけ覚えときゃ問題ないわよ」

 使ってみたかったら、魔法に詳しいやつを見つけて教えてもらいなさいと丸投げ。必要ないと彼女が言うのなら、そうなのだろう。

「次は属性について」

 きた、属性。消沈しかけた意気が上昇を見せる。頭には様々なゲームや漫画の様々な属性論が残っているが……。この世界の属性はどうなっているのだろうか。

「魔法には火・水・地・風・木・光・闇の計7属性が存在するの。でも、みんながみんなその属性全てを自由に使えるかっていうとそうじゃないわ。むしろそんなのはひどく少数。その属性を使えるかどうかは、生まれ持っての向き不向き……適性があるかどうかで決まるのよ。例えば、火の魔法は超強力なのに、水の魔法は使えもしないとかね」
「へー……、みんなは何が得意なの?」

 私が聞くと、ソルとエナが苦笑いした。……なんだろう?

「あたしは木属性ね。ソルは風属性で、エナは水属性だったかしら?  ……でもこいつら、滅多に魔法使わないわよ」

 滅多に。苦笑いの理由はこれか。何故だろう? 勿体無い、折角魔法が使える世界にいるのに……。

「なんで?」
「だって……ねえ?」
「なー……」
「「難しいし……」」

 綺麗にハモった。なんのこっちゃない、単に苦手という話のようだ。

「脳味噌筋肉族はこれだからね」

(脳筋ってこっちでも言われてんのか……)

 2人は明らかにバカにされたにも関わらず、だって難しいんだもんと開き直っている。どうやら余程向いていないようだ。

「あんたはあの傀儡獣を召喚して見せたあたりで木属性には適性がありそうね。他にもいろいろ試してみるといいわ」
「うん、わかった」

 木属性に適性……なんとなく、植物の蔓を使って攻撃する光景が浮かんだ。楽しそうだ。炎とか派手に使ってみたいから、火属性にも適性があると嬉しい。

「後の話は実践しながら教わったほうがいい話ばかりだから、今日はこの辺にしときましょう。……なにか質問はある?」

 質問、ひとつある。頭の中にはずっとその単語が浮かんでいたが、終ぞ話には出てこなかった……あれだ。あれがないと困りそうなものだが。

「怪我とか、病気を治す魔法ってないの?」

 そう、回復魔法についてだ。ケ○ルとか○イミとかディ○とか。序盤はこの魔法を覚えるまでが一番きつい。

「……治癒魔法のことかしら?」

 ニーファが口を開く。表現は違うが、存在しているようだ。どうして先程説明がなかったのだろうか?

「そう、それ」
「治癒魔法は特別なのよ。ごく限られた人間しか使えない」

 特別、なのか。呪文を唱えて気楽に使えるものではないらしい。

「治癒魔法と簡単に言ったけど、掠り傷を治すだけでもかなりの魔力と技術を必要とする難しいものなの。しかも属性は光。適性を持つ人間が全属性のなかでも1、2を争うくらい少ないわ。そしてそれだけではなく、治癒魔法を扱うにはもうひとつ特殊な才能が必要なの」
「それって……?」
「博愛の心……慈しみ、ってやつかしら。傷ついた生き物を心から慈しんで愛し、例え自らが害されても救いたいと願う自己犠牲の精神。……それを、類い希なる魔法の才と一緒に持つものだけが治癒魔法を扱える」

 思わず、溜め息をつく。なるほど、それでは実用に耐えうるくらい使える人なんてほとんどいないだろう。

「特別の意味がわかったかしら? ……治癒魔法はその特殊性故に、過去の使い手たちの多くが聖人や聖女に祭り上げられては戦争や政治の舞台に引っ張りだされてる。使えるだけで人生狂うのよ」

 おっそろしい魔法だ……。野心的な人にはいいかもしれないが、そもそも野心がある人間は治癒魔法を使えないわけで……。すべてを愛する慈しみの心なんて持ってるのに戦場になんか連れて行かれたら、正常な精神ではいられないだろう。過去の聖人や聖女たちの気持ちを思うと寒気さえ起きる。

「だから、もし治癒魔法を使える人間と会ったとしても……本人のために周囲には黙っててやりなさい。いいわね?」

 私が頷いて、この話題は終了した。何やら世界の闇的なものを覗いたようで、嫌な気分だ。

 続いて質問はないかと問われたが、あとはとくに聞くこともなく、食事もとっくの昔に終わっていたので、切り上げてギルドハウスへと帰ることになった。
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