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Trans Trip! 作者:小紋
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3‐(3).大剣は浪漫

 外出の準備のために部屋へと戻った2人を、食堂でおとなしく待つ。もうこの場所にいるのは、私とニーファだけだった。

 それにしても、手持ち無沙汰だ。ニーファは2人が去って早々に、新聞らしき紙束を開いて読み始めていた。ひとりだけ狡い。

「……」

 連なる沈黙。

 暇だ。しかも1人の時と違って、自分以外の人間がいるときの暇は居心地が悪い。元の世界であれば携帯をいじるなり常備している文庫本を読むなリしてこの手持ち無沙汰感を解消できたのだろうが、そのどちらともが昨日の交通事故のせいで私の手元から永遠に離れてしまっている。

 そういえば、携帯のデータフォルダの中身も人に見せられないものでいっぱいだ。吹っ飛んだ衝撃で復元不可能なくらいに粉々になっていることを望む。まあ、もう触れることもできない愛機に思いを馳せたたって、今はどうしようもないのだが。

 昨日がなかったら私は今朝も普通に登校していたんだな、なんて考える。

 昨日がなかったら……。

 昨日が……。

 昨日……が……。

 やばい。

 昨日のことを考えていたら思い出したのだが……。そういえば私、昨夜の失態をジェネラルさんに謝ることを、思いっきり忘れていた……!

(猫ちゃ……レイさんに気ぃとられすぎた……!)

 今思い出したとしても時すでに遅し、先ほど彼の隣で何食わぬ顔で食事をしてしまった後なうえに、彼はもう食堂のどこにもいない。レイさんのかわいらしさに気を取られて、謝らなければいけないことを忘れるなんて……。ものすごく自己嫌悪だ。

「……どーしたのよ」
「はっ?!」
「さっきからものすごい形相してるんだけど」

 いつの間にか新聞を読み終えたらしいニーファが、私に声をかけた。どんな顔をしていたというのだろう。

「あ……いや……あの……ジェネラルさんて、どこ行ったんでしょ……」
「兄貴? さっき食堂出ていったから、ギルド長室にでもいるんじゃないの? なんで?」
「……いや……昨日……運んでもらったみたいだから、謝りたくて……」

 私の言葉に合点がいったような顔をした彼女は、「別に、気にしてないと思うけどねー」なんて言いながらも、気になるならさっさと行って謝ってこいと言った。1人でギルド長室の豪華な扉をくぐるのがとてつもなく怖いのだが……ついてきてくださいなんて言えるわけもなく、さっさと行くことにしたのだった。





 ギルド長室の扉の前で5分ほどうろうろしたり、謝るときに声が裏返ったりと散々だったが、結局ジェネラルさんはニーファの言った通りまったく気になんかしていなかったようで、そんなこと別に謝らなくても……みたいな苦笑と共に頭を撫でられて終わったのはまた別の話。





◇ ◇ ◇





 頭を撫でられたせいでぽわぽわとした思考になりながらも最上階のギルド長室から1階まで階段で下り、ホールへとたどり着いた。

(わ、みんなもう集まってる)

 玄関ホールには既にニーファとエナとソルの姿があった。待たせてしまった、と申し訳なく思う。

 だがすぐにそれどころではなくなった。視界のど真ん中に“たいへんなもの”が入ってしまったのだ。

(ええっ!?)

 それは、ソルの背中に斜めに背負われていた。

(……だ、大剣だ……!)

 そう、私の視界を占拠した“たいへんなもの”の正体は、RPGに登場するでっかい武器代表の、大剣だった。もし元の世界で目にしようもんなら大騒ぎすること間違いなしの大きさ。身の丈ほど、という形容詞を文句なしにつけられるくらいだ。もちろん剥き身の状態で背負われているわけがなく、鞘におさめられてはいるが、その存在感は私に十分インパクトを与えた。

 ファンタジーに憧れ、武器全般でテンションが上がる私であるが、大剣は特別テンションが上がる。だって、でっかいから。でっかいことはいいことだ。巨大建造物しかり、レストランメニューのビッグサイズしかり、大きいものはそこにあるだけで人の心を賑やかにさせる。きっと今の私は少年の目をしているだろう。3人に向かう歩みも、自然と足早になる。

「あ、ヤマトきたぁー」

 エナが気付いて手を振る。

「ごめん、待たせちゃって」
「いや、俺らもさっき下りてきたばっかだから」
「そだよねー」

 エナの言葉で私に向き直ったソルの動作は軽やかだ。あのでっかい大剣を背負ってこの動き、というのはすごいんじゃないだろうか。今朝の風呂場での彼の体を思い出す。

(けっこう厚みあったもんなー……やっぱ、あのぐらいないと大剣て使えないんだ)

 そしてソルの言葉にうなずくエナの腰には、長い剣と短めの剣が一刀ずつさがっていた。こちらも鞘におさめられていて、中身がどのようなものなのかはわからない。エナは二刀流使いなのだろうか。

 ニーファは昨日と同じく、短剣をぶら下げていた。部屋に取りに戻った様子はないので、彼女は日常的に武器を持ち歩いているのだろうか。

 私がもっと根明(ねあか)でお喋り好きならば、彼らの武器について根掘り葉掘り聞きたいのだが……生憎私の性格的に、出会って二日目の相手に自分から問いかけをするのは不可能に近い。今、一緒の場所に立つのだってすこーしだけ緊張しているくらいだし。こんなんでよくさっき一緒に風呂なんて入れたものである。なせば成る、というものだろうか。だが今は、なそうという気も起きなかった。もう少し、仲良くなって自由に問答できるようになったら、いろいろ聞いてみよう。

 自らの好奇心を満たすこともままならない根暗な性格を呪いつつ、ニーファさんの「さ、行くわよ」の一声で街へと繰り出すことになったのだった。
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