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Trans Trip! 作者:小紋
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幕間 3‐(1.5).危険信号は信じておけ

「あ、そうだヤマト。俺今から風呂行くけど、一緒に行く? 朝食までまだ時間あるし、使い方教えるよ」

 そんなやり取りがあってから間もなく。ソーリスは、前を向いたまま隣を歩く青年を、談笑しながらじっと見ていた。





 青年……ヤマトとは昨日出会ったばかりだ。冒険者ギルド『コロナエ・ヴィテ』に依頼された、要人保護の対象として。話自体は数日前から聞かされていたのだが……この依頼、とてもおかしなものだった。

 依頼成功の条件は、“アスタリア神聖国首都リグと、ギルド『コロナエ・ヴィテ』を好きになってもらい、彼をギルドの一員として馴染ませること”。しかも、期間は無期限。子供が考えたのかと思うほど平和な文面に、頭を悩ませたのも記憶に新しい。

 しかもこの依頼、団長であるジェネラルが請け負ってきたものだ。そうなってしまうとギルド員である自分たちに拒否権はなかった。

 そもそも、これまでギルドでこなしてきた依頼に、保護なんてふわふわした言い方をしたものはなかった。護衛か警護、この言葉のどちらかを使って、対象に傷一つ付かないように警戒して守るのが大体だったのだ。だが、そういったことはこの依頼では求められていない。求められているのは、対象と仲良くなり生活の場を提供すること、だった。本当に、珍しい。

 与えられた情報は少ない。成功条件、期間、近々ニーファが迎えに行くということと、対象は男だということ。それのみだ。

 少ない情報は、様々な想像を生んだ。

 例えば、この依頼はジェネラルと懇意にしているどっかの金持ちが、息子の対人恐怖症を治療するために依頼してきたものであるとか。例えば、この依頼はジェネラルと懇意にしているどっかの金持ちが、わがままな息子の冒険者をやりたいという道楽に付き合ってやって依頼してきたものであるとか。

 なぜか必ずどっかの金持ちとそのどうしようもない息子が登場してしまう自分の想像に呆れながらも、あまりこの依頼を前向きに受け取ることはできなかった。ソーリスは金持ちやら貴族やらにあまり良い思い出がない。彼らはどうにも、自分とは合わない思考しか持ち合わせていないのだ。いや、全てが勝手な想像であるわけだが。

 そんなネガティブな考えのせいで、嫌な感じの保護対象がくることしか想像してなかった。だが、ヤマトは想像とは真逆の人間だったのだ。

 男にしては上品なしぐさや当初の丁寧な言葉遣いが彼の育ちの良さをうかがわせたが、ソーリスの知っている金持ちや貴族のように傍若無人に振る舞うことはなかった。優しげで控えめな態度が、好感を持つに値する。少々寡黙ではあったが、コミュニケーションに難があるほどではない。

 そして、彼は今まで生きてきて見たことがないくらい美しい。男に美しいと言うのも変かもしれないが、本当にそうなのだ。光り輝かんばかりの美貌は、まるで女神かそれ以外の神聖なもののようだった。不意に笑顔を向けられたときなど、思わず頬が紅潮しそうになって慌てて顔を背けてしまったくらいである。

 昨晩は、彼の年齢が16歳であることとか(ソーリスは20歳だ)、自分の持っていたイメージよりも彼がだいぶ“男”であることとかを知って驚いたものだ。





 そんな彼と、今一緒に歩いている。穏やかに自分の話を聞きながら、時折笑顔を零すさまが例えようもなく美しい。

 ヤマトがここにいるのはこのギルドに依頼があったためであるが、ソーリスは依頼のことがなくても彼とは仲良くなりたいと、そう思っている。ヤマトとは、良い友達になれそうな気がしているのだ。

 友人は貴重だ。信頼できる人間の数は多ければ多いほどいい。そして信頼しあうためには、お互いに対して誠実でなければならない。そう考えている。ヤマトはその枠に容易く入ることができる人間だと、ソーリスは直感で感じていた。つまり、気が合いそう、ということだ。





 大浴場まで彼を連れて行き、そこについての様々な説明を終えて入浴の準備をする。

 ほぼ衣服を脱ぎ終えると、隣から声が聞こえた。

「……白いね」

 いきなり何を言うのかと苦笑して彼の方に向き直ったのだが、そこにはかなりの衝撃の光景が広がっていた。

 白いね、と言った彼の身体こそが、まさに真っ白だった。肌にはくすみひとつなく、これが男の肌なのかと絶句する。その体は細すぎるわけではなく適度に筋肉がついており、絶妙なバランスの美しさを保っていた。顔だけではなく体まで美しいのかこの男は、とある意味納得する。

 ヤマトの突然の言葉に、それをお前が言うかと冗談めかして返したのだが、ヤマトはソーリスの体を見るばかりで返事をしない。

 どうしたものかと考えたら、ヤマトの腰が目に入ってしまった。ほぼ無意識に、手が伸びた。掴んだ瞬間、両手がまわってしまいそうな細さに驚いて、思わず感想を呟く。

「そ、ソル……何すんの」

 狼狽した声で言われて、ハッと気付いた。

(何、掴んでんだ俺)

 一気に冷汗が噴きでる。どうみても変態さんではないか、これでは。

「いや、細いなぁと思って。ちゃんと食ってる?」

 下手な言い訳を口にだしたが、彼の顔をきちんと見ることができない。しかも離すタイミングが見つからなくて、両手はヤマトの腰を掴んだままだ。

「離してください……」

 消え入りそうな声で言われて、慌てて謝って手を離す。そのあとは、動揺してしまって自分がどんな顔をしていたかは覚えていない。唯一の救いは、ヤマトがソーリスの行動をあまり気にしていなかった点だろうか。





 その後2人で湯船につかったとき。まだ自分は動揺が残っていて、普段はあまりそうしない尻尾なのだが、完全にお湯に沈めてしまった。

 先程のことなど忘れたように話しかけてきたヤマトと、昨晩の男子トイレでの事件の話や、このギルドの話などを少ししたが、ジェネラルのことに話が及ぶと、無意識にだろうかヤマトは嬉しそうな顔をした。彼は昨日、ジェネラルのことをかっこいい、憧れみたいなものだと話していたが、それでも少し胸が痛む。

(ん? ……胸が痛む……?)

 そのことに何か危険信号のようなものを感じたソーリスは、さっさと話を切り上げて大浴場を後にすることにした。お湯につかった尻尾を絞るのも忘れずに。
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