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Trans Trip! 作者:小紋
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11‐(9).聖人と会議とスパンキング

 昨日までの五日間は怒涛のように過ぎ去った。

 五日前。ランダム転送で変なとこに飛ばされてやっとこさ砦に帰ってきたこの日、手伝いもありうっかり治癒魔法的なのを使ってしまったため昏倒した。起きた時には「魔力使いたーい!」みたいな禁断症状が起きていた。
 なんとかパーシヴァルさんに頼み込んで許可を貰い、治癒を行う。この日は二十五人癒してダウン。翌朝まで爆睡。

 四日前。禁断症状継続。
 治癒人数は三百とんで八人。カウントはエナがしてくれていた。
 朝からぱっぱと治して昼前にダウンした後、夕方起きてまた治してまたダウンという忙しい日だった。すごく疲れたけど、魔力使わないと一人ではぁはぁする変質者になってしまうので仕方がない。治癒もはぁはぁしながら行っているのは秘密だ。……あれ、もしかしなくても既に変質者になっている。

 三日前。まだ禁断症状継続。はぁはぁするのにも慣れてきた。変質者が板についた悲しい人になってきてしまっている。
 治癒人数は五百二十三人。数えるのが大変だったとエナが零していた。
 怪我人に一箇所に固まってもらってまとめて治癒という技を編み出す。イエーイ範囲回復魔法! かっちょいー! と心の中できゃいきゃいしてみながらも、夜ダウン。

 一昨日。まだまだ禁断症状継続。はぁはぁ変質者だぞぉー観念しろぉー怪我人さんたちぃー。虚しい。
 治癒人数は……エナがカウントを諦めたのでもうわからない。大広間にざざっと集まってもらって一気に治癒というとっても効率のいい方法で治していったせいだ。多分千人は越えただろうけど、実際どうだったんだろう。
 夜中に不死者アンデッドの襲撃が発生したが、大した被害も出ず大勝。今更思い出して心配していた神聖国大門側からの奇襲だが、イクサーが原因を突き止めてなんとかしてくれたいたらしく発生しなかった。国境壁のどこかに大穴が空いていたのを補修したらしい。うーん、頼れる。
 ソルとエナがニルを探したが、影も形も見えず、とのこと。それらしき目撃談もなかった。
 この日は魔力を使いきれずに一日が終わる。

 昨日。禁断症状がぱたりと消える。今までと違った事といえば前日魔力を使いきれなかったことくらいなので、それが原因ではなかろうか。
 使いきらない方がいいなら先に言って欲しかった。誰にだ、という話だが。……ほら、なんかあの、私の中から声掛けて助けてくれる人とか。まあ彼、カヴァリエの陣で助けてくれたきりだんまりだからあんまり期待してない。お礼言いたいんだけどな。
 なんにせよ変質者卒業。めでたい。
 この日も魔力を使いきれずに一日が終了した。治癒人数たったの百人ちょいで大変暇だった。あまりに暇すぎて、もしかして治しきっちゃった? やべ私砦救っちゃったかな? とドヤ顔をして遊んでいたら顔がムカつくという理由でパーシヴァルさんに卍固めされた。何故この技が異世界に。ギブしても固められ続けダウン。
 治癒のせいでダウンならわかるけど、卍固めでダウンとかどういうことなんですか。





 そして卍固めから明けて今朝。私はベッドの上で目を覚ました。身を起こして窓から外を見れば快晴だ。
 昨日に引き続き禁断症状はなしで、体調は万全。
 推測するに、あの体の熱さは成長痛みたいなものなんだろう。発生条件は魔力を使い果たすこと。使えば使うほど増える魔力が私の中でハッスルしてるというわけ。癒しを施せた人数の異様な増加率と私の魔力みなぎりはぁはぁっぷりからして間違いない。
 今になって考えてみれば、魔力を使い果たした時はだいたい……大規模掃討作戦とか大聖堂の事件のあとも熱出てたっけ。前者はともすれば気づかないくらいの微熱だったけど、後者はひどかった。肉体崩壊しかけたくらいだから相当魔力量が上昇したんだろう。
 まあ簡単に言うと無茶すればするほど強くなるというあれだ。

(少年漫画みたい! かっこいい!)

 心の中で微小にはしゃぎながら、大きく伸びをする。
 私の腰辺りに抱きついてるパーシヴァルさんは爆睡中。結局なんかもう慣れてきちゃったけど、絶対一緒に寝る必要ない。まあ暖かいからいいんだけど。
 それでもなんとなく納得いかなくて、溜息をついた。
 どうしよう、起こそうかな。慣れたっていっても緊張はする。迷っていたら、ドアを隔てた向こうから声が聞こえてきた。

「……から……たくない……」
「こっ……だ……」

 聞き覚えのある声だ。若い男の人の……あ、これ、ソルとイクサー? 

「いや、お前ほんと、なんで来るわけ???」
「神王陛下からの依頼だ。神聖国からの正式な迎えの使者が到着するまで、聖人……ヤマトの護衛をする。貴様には残念だろうが直々に指名されてな」

 後半初耳。……申し訳ないなあ、イクサーまで巻き込んでる。
 前半は昨日聞いた。なんでも私は「神聖国指定の聖人」に認定されたらしい。天然記念物みたいだと思ったが、同じようなもんだろう。国が保護してくれるらしいし。
 もうちょっとしたら使者の人が砦まで迎えに来てくれて、リグに派手に帰還するということだ。戦争中だから、華々しくて明るいニュースを作るんだって。おおごとになりすぎてて嫌だ。
 私が鬱々としている間にも、ドアの向こう側は険悪さを増していく。

「……はっ! 俺なんかコロナエ・ヴィテだからヤマトが神聖国に来た時から護衛してるし」
「……ふん、あの祝勝会では彼を泣かせていたくせに。不甲斐ない護衛だ」
「てめーは泣いてるヤマト余計怖がらせてたがなあ。優しい顔のひとつもできねー鉄面皮はこれだから」
「貴様のようなへらへらした口先ばかりの男になれというのか? それは無理な相談だ。俺のプライドが許さない」
「プライドだってー。かっこつけすぎマジ笑えるー。そんなんだからろくに友達もできねーんだよ、ぼっち野郎」

 棘しかない、というかイガグリを投げ合ってるような会話が止まり、沈黙が落ちる。

(そ、ソル言いすぎ……イクサー気にしてるらしいからそんなん言ったら……あああ黙っちゃってるよ)

 一瞬後、金属が打ち合わされる鋭い音。

(えっ!?)

「……死にたいか」
「やってみろやクソが」

 二人の声はこれ以上なく低い。
 もしかしたらドアの向こう側では得物が交差しているのではなかろうか。まずい、それは、問題だ。こんなところで流血沙汰はよしてくれ。流血しても治せるけど……いやそういう問題じゃない。
 私は慌ててパーシヴァルさんを揺さぶり起こすことにした。
 自分で止めに入る勇気は、ない。





 喧嘩は難なく仲裁できた。パーシヴァルさんはやはり流石だ。これでSじゃなきゃ完璧なのに。
 あの後、野次馬丸出しで見に来ていたエナも交えて朝食を済ませ、今は移動中。
 砦に着いて初日にイクサーが言っていた、話したいこと、を聞くためだ。目的地は、第三戦略房? ってところ。簡単にいえば会議室。
 ただ歩いているだけなのに周囲から死ぬほど視線が集まっている。いつもなら顔面偏差値がとか有名人集団がとか言うところだけど、今はちょっと違う。

「聖人様」
「聖人様だ! ヤマト様!」

 にわかな盛り上がりからもそれがわかる。聖人様フィーバー中なのです。昨日も似たような感じだったが、さらにフィーバーしてるようにも思える。
 ここで私が調子に乗れる性質ならよかったのだが、残念、そんなに心臓強くない。
 おどおどびくびくしかけたところで例のごとく手を繋いだパーシヴァルさんからアドバイスが入る。

「儚げな笑顔で手でも振っとけ」

 なるほどそういう路線か。昨日は会釈しまくって首痛くなったからそれよりは良さそう。完璧に出来るかはわからないが、とりあえず指示に従うことにする。
 幸いソルがイクサーと睨み合うので忙しいため、片手は自由だ。……幸いかこれ?
 まあいいや。手を肩ほどの高さに上げて、緩く振った。儚げな笑顔は……はか、なげ? ハカナゲ? 儚げってなんだ。よくわからないのでいつもの引きつり笑いでいいか……。

「聖人様が笑顔を見せてくださった!!」
「聖人様ー!!!」

 そんなグダグダクオリティで出来上がった私の聖人様スタイルにも関わらず、大歓声が上がる。
 中には泣き崩れる人も。え、あれ大丈夫なの? あ、でも手は祈りの形だ。つまり。

(拝まれてる、だと?)

 っていうか五体投地までやってる人いるし。仏教でもないのに何故?
 困惑しているうちに周囲が触発される。連鎖する五体投地。行きつく先は集団土下座。ヤバイなこれ。
 若干引きつつ、そそくさとその場を後にする。

「昨日もすごかったけど、今日もすごいですね」
「五日前からだ。噂ではお前、トイレに行かないらしい」
「行かなきゃ漏れますって」

 聖人様はう○こなんかしない! ってやつか。変なファンクラブ化しているじゃないか。大も小も普通に出ますから。
 凄まじい評価の高さとありえないレベルの夢見られっぷりである。どうしよう、これ。下手なことできないだろ。嫌だ……。
 鬱々が舞い戻った気分でいたら、イクサーと睨み合うのが忙しかったはずのソルにくっつかれた。頭に頬の感触。

「どしたの、ソル」
「んー……何でも」

 視線を巡らせれば、久々の真顔が私の目線の少し上にあった。処理しきれなかったり、人に見せたくない感情があったりすると彼はこんな顔をする。どうしたのって聞いても答えてくれないから、人に見せたくない、の方だろうな。
 いきなりどうしたんだろうと首を傾げると、ソルが突然離れた。

「うわっ」
「気安くへばりつくな不埒者」

 イクサーが引っ張ったみたいで、ソルの横顔が怖い。すごい顔で睨んでる。

「テメェ殺す」
「やってみるがいい」

 また喧嘩が始まったが……この流れだとソルが私にくっつくのが気に入らないイクサーのヤキモチにしか見えないから二重丸!
 もう結婚すればいいのに。





 すれ違う人すれ違う人に激しく五体投地され泣きながら拝まれて疲れきりつつも、第三戦略房に到着する。
 室内にはすでに人が二人いた。一人はカルーアさんだが、もう一人は初めて見る男の人だ。二人とも流石に五体投地はしなかったが、入るなり立ち上がって出迎えられ、深々お辞儀をされて恐縮する。
 促された私たちは、色の濃い艶やかな木材で出来た円卓の席に着いた。椅子に余りはなく、ぐるっと一周を七人で座る。パーシヴァルさんと私だけやたら近い。手を繋いでるせいなんだけど、机の下で手を握ってるのがなんかこう、恥ずかしい。
 恥ずかしさに苛まれていると、知らない男の人が私の方を見た。

「聖人様、お初にお目に掛かりますう。私、ジョルマ=キイ=カールと申します。レボカタス砦の部隊長を務めさせていただいとるカヴァリエ幹部ですう」

 どうやら初対面は私だけらしく、挨拶は私一人に向いていた。
 男の人……ジョルマさんを窺う。ふわふわの白い髪の毛に、ぐるんと巻かさった角が特徴的だ。外見の特徴そのままで判断するなら羊のエディフだろう。ほんわかした顔つきが年齢不詳な感じ。
 喋り方は、外見に相応しい語尾が伸び上がり気味のゆるーい感じだ。イントネーションだけで言うなら京都弁に近い。
 丁寧な挨拶に一人でぺこぺこ頭を下げる。ふわっとした笑顔を返されて、ちょっと和んだ。

 挨拶が終わってひとつ息を吐いたところで話が始まる。
 それに応じて、雰囲気もがらりと変わった。なんというか、みんな、大人の顔をしている。

「この度は御足労いただきまして誠に感謝致します」
「前置きはいい。さっきまでずっと一緒にいたのに滑稽だろ。さっさと本題に入ってくれ」
「では率直に。この度の戦争、コロナエ・ヴィテは自らの立ち位置についてどうお考えですか」

 そうきたか、とパーシヴァルさんが呟いた。私はなんか難しい話が始まってしまったと眉を顰めるくらいしかできない。

「今のところギルドとしては静観の構えだ。他にやることもある。兄貴は独自に動いているようだが」
「なるほど。しかしこれからは今まで通りにはいかないでしょう」
「……確かにな」

 皆に見られる。……あ、私?! そ、そうかうっかり聖人様になっちゃったからか。

「ご、ごめんなさい」
「それについては謝ることねえだろ」
「でも……迷惑掛けちゃってます」
「気持ちはわかるが、君に救われた人間が星の数ほどいるのは忘れないでくれ」

 微笑んだイクサーが宥めるように言ってくれる。なんか余計申し訳なくなった。

「ま、確かに立ち位置は多少変わるだろうが、俺の独断でどうこう言える話でもない」

 小さくなる私から視線が逸れる。この話はここで終わってくれるようだ。よかった。

「しかしこうして来ていただけたということは、話は聞いていただけるのですね?」
「ああ」
「コロナエ・ヴィテに申し入れをさせて頂こうと思っています。ギルド群をまとめ上げる同盟を作り、我がギルドカヴァリエと共に主導的立場についていただけませんか、と」
「そりゃまた、デカイ話だな」
「ええ、ですが必要だ。神聖国には有力なギルドが多く存在するにもかかわらず、今は有事に戸惑ってバラバラですから。総力でかかればこんなくだらない戦争すぐに終わらせることが出来る。まとまるきっかけを作らなければなりません」

 イクサーもパーシヴァルさんも淡々としているが、お互いがお互いを鋭い目つきで見分しているように見える。駆け引き、っていうのかな。なんか怖いなあ。
 さっきまで馬鹿話したり喧嘩の仲裁したりして楽しかったのに。

「この話、戦争で益を得ようとする連中は不満でしょう。それを黙らせるために、貴ギルドの力を貸していただきたい」
「何故うちだ?」
「コロナエ・ヴィテほどの影響力を持つギルドは他にないでしょう」
「その同盟は具体的に何をするんだ」
「情報の共有と、ギルド間の協力関係の確立が主です」
「神聖国の主要ギルドが加盟する確証は? 戦闘系ギルドだけじゃ話にならんだろう。商人ギルドバロン・ド・ルヴォーシュやらの参加は必須になってくるだろうが、奴ら国益じゃ動かねえぞ。むしろ戦争を長引かせたい立場だろう」
「利権、コネクション……商人ギルドを釣る餌はいくらでもあります。貴方がたが加盟してくだされば、それも磐石となる」
「うちにメリットは?」
「我々に出来ることがあればなんなりと。しかしコロナエ・ヴィテは神聖国のためならば動かねばならないのではありませんか?」

 ここで初めて会話が途切れる。パーシヴァルさんが悩んでいるようだった。
 数秒後、彼は口を開いた。

「兄貴がなんて言うかだな」

 でしょうね、とイクサーが返した。

「実は話を通そうとしばらく前から機を伺っていたのですが、ジェネラル殿が捕まらないのです。会談を求める書簡を何度か送ったのですが、おそらく読まれてもいないでしょう」
「あー、そもそもなかなか帰らねえしな。それで焦れたか?」

 苦笑いしたパーシヴァルさんは、足を組んで頬杖をついた。

「そうですね、父がジェネラル殿を目前で逃がした悔しさで神王陛下に直接打診しにいったくらいです」
「……ザーハルは昔から行動派だな」
「息子としては冷や汗をかいてばかりですが、今回ばかりは仕方がありません」

 俯いて溜息をついたイクサーだったが、すぐに顔を上げてパーシヴァルさんと目を合わせた。

「結局はジェネラル殿と話をさせていただかなければ始まらないのだから、会談の場を設けていただきたいのですが」
「ああ、わかった。まあ多分既に兄貴にも伝わってるだろう。この件は迅速に行動させてもらう」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」





 話が終わり、カルーアさんとジョルマさんが去って五人だけとなった。
 なんだか大人の世界を覗いてしまったような気持ちになって呆然としていた私に、パーシヴァルさんが突然声を掛ける。

「そうだ、ヤマト」
「はい?」
「今の今まで忘れてたんだが、お仕置きをする。何がいい?」
「……はい?」

 え、何、おし、おき? ちょっと待って何。

「お前がうっかりでランダム転送魔方陣発動させたせいで、カヴァリエがだいぶ混乱してな。反省するべきだろう、と」

 あ、あー! それね! いやうん、わかる。わかるけど。怒ってほしかったくらいだったけど。え、何どういうこと。

「……え、あ、そ、それはそうなんです、が。お仕置きって」
「①失禁するまでくすぐり。②立ち直れなくなる罵り。③泣くまで尻叩き。④全部。さあ選べ」
「あえっ!? ちょ、ちょっと待ってください選択肢が激しすぎ」

 行為そのものはともかく、修飾語が怖すぎる!

「ちなみに全部公開プレイだ。イクサーには迷惑かけたんだから見てもらえ。ソルも見たいだろうから見ていいぞ。エナはどうする」
「エナはいい」

 思いっきり嫌な顔をしたエナは、ずばっと一刀両断してさっさと部屋を後にした。
 ちょっ! エナ! エナー!

「そうか。じゃあ見学者は二人だな。おいヤマトはやく選べ」
「えっ、ちょ、あの」

 助けを求めるようにイクサーとソルを見る。返ってきたのは沈黙。

「あ、ええええええ、あ、あああの助け」
「あと十秒で決めろ。決められなかったら強制的に④」
「ちょ、え、あああああああああ!」





 あの後どうなったかというと、とりあえず決めることはできた。
 結果、笑顔で私の尻を叩くパーシヴァルさんと本気で泣きながら尻を叩かれる私を二人が見るという特殊プレイ空間が発生しました。
 お尻、痛いよう。
+注意+
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