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Trans Trip! 作者:小紋
114/122

11‐(8).若干前屈み

 パーシヴァル達はやっとのことで、ヤマトとイクサーがいるであろう場所、カヴァリエの陣へと向かっていた。
 本来ならばもっと早く、二人が帰ってくるのを神聖国側大門で迎えるくらいのつもりであった彼らだが、それがこうまで遅れたのには理由がある。
 朝方には不死者アンデッドの襲撃が発生したレボカタス砦において、ヴィーフニルについての調査を行いながらヤマトの帰りを待つだけというわけにはいかなかったのだ。砦が落ちては意味がない。
 周囲の者たちが悲壮な表情のまま出陣する中に混じって戦場に歩みを進め、何体もの腐り果てた屍骸を討ち果たし、危なげな自軍の兵の助太刀に入りとしている間にだいぶ時間が経ってしまった。
 ようやく手が空いたところでパーシヴァルがヤマトの反応を辿れば、彼は既に国境城壁を越え、おそらくイクサーが導いていたのであろう、カヴァリエの陣に。
 それを追い掛け、現在は反応近くまで戦場を後退している。
 周囲には青い天幕が見え始めた。カヴァリエの陣に到達したようだ。

「あの野郎、なんでヤマトをこんなとこに連れだしてんだよ……」

 ソーリスが憎々しげに呟く。

 直後、周囲の情景に異変が起こった。
 突如周囲に舞いだす光の粒子。全部で七色の色彩が生き物のように蠢く。
 三人は思わず足を止めた。

「……ちょっ」

 せわしなく周囲を見回して、エナが驚きの声を上げる。同時にパーシヴァルの表情も焦りを帯びたものとなった。

「何これ?」

 疑問符を頭の上に掲げているのはソーリスだけだ。
 二人には見覚えがあって、ソーリスには見覚えのない光の粒子の乱舞。
 ヤマトが大聖堂で顕現させた奇跡の際の副産物がそれだった。

「パース、まずいって! なんでこれ……ヤマト何やってんの!?」
「知るか! とりあえずまっすぐ走って障害物は壊せ! 請求書くらいなら後で兄貴が何とかする!」

 尋常ではない二人の焦りように、ソーリスもどうやらヤマトの身に何か起こっているのだと察する。完全に状況を把握できないのは歯痒いが、そんな猶予もありそうにない。
 パーシヴァルが『暴風テンペスタ』で前方の障害物を薙ぎ倒す。轟音を立てて吹き飛ばされる物の中には小さな天幕も混じっていた気がするが、パーシヴァルはもとより、後に続くソーリスとエナも気にしていない。
 辿りついたその先、カヴァリエの陣の中でも一際大きな天幕前。

 そこでパーシヴァル達三人は、不死者アンデッドが大気に溶けて消えていくのを目撃した。





◇ ◇ ◇





 日中の襲撃を辛くも退け、数刻経って現在は夜。
 砦はそわそわと落ち着かない雰囲気に包まれており、ある種高揚感のようなものすら感じられる様子であった。
 それはそこかしこから聞こえてくる噂話にも表れている。内容は一貫して同じだ。

「聖人様が姿を現した?」
「ああ。この砦にだ! コロナエ・ヴィテの方らしい。カヴァリエの陣で怪我人を治癒して、同時に不死者アンデッドまで昇天させたそうだ。信じられないくらい美しい方だという」
「カエルム神の存在を感じざるを得ないな! やはり見ていらっしゃるのだ」

 ロウソクの灯火のみが頼りの薄暗い廊下。こんなところでも、中年の兵士たちが興奮気味に語り合っていた。

 その横を虎のエディフの青年が通り過ぎる。
 青年……ソーリスは耳に入った話の内容を打ち払うように一度だけ尻尾を振り、歩調をきつめて目的の場所へと向かう。あと少し進めば、常駐ギルドのための宿泊区画だ。
 ギルド宿泊区画に入ってほどなく、ソーリスはある扉の前で止まった。
 ノブに手を掛け、入っていく。
 室内には、ベッドがひとつと、机が一脚に椅子が二脚。眠るためだけにあるような簡素な造りで、廊下と同じくらい薄暗い。ロウソクの芯が燻ってじじじと音を立てるここは、レボカタス砦常駐ギルドであるカヴァリエに割り当てられた部屋のうちの一つだ。
 ベッドにはヤマトが眠っている。その横では、パーシヴァルが腕を組んで椅子に座っていた。

「エナは?」
「仮設治療所手伝いに行った」

 問われて答えたソーリスは、ベッドに歩み寄ると寝ているヤマトの頬を撫でた。そのまま顔を近づけて額同士を触れ合わせる。

「熱、下がんないな」

 盛大に嫌な顔をする人間が横にいることには気づいているのかいないのか。おそらくわかっていて無視をしているのだろう。

「おい大概にしろよホモ」
「うるせーバカ」

 ちくりと刺されても聞く耳持たない。
 うんざりした視線の中しばらくヤマトを見つめたソーリスは、ふと深刻に呟く。

「……外、すげえことになってる」

 呼応して、パーシヴァルが溜息をついた。ソーリスが何について言及しているのかは主語がなくともわかった。

 カヴァリエの陣での出来事は、ほぼ数刻で砦中に知れ渡った。
 あの場にいたのは、自分たちとイクサー、カルーア、治癒を受けた男に、騒ぎを聞きつけて天幕からでてきたカヴァリエのギルド員たち……他にもいたかもしれない。つまり不特定多数だ。そうなると、そのどこから漏れたのかなんて特定するのは不可能。一応はしてみたものの口止めは無駄だったようで、人の噂はどこまでも速いのだと嘆くしかない。
 治癒と不死者アンデッドの消滅、二つを同時に為したヤマトはもはや聖人扱いだ。
 知らぬ者が見れば聖なる奇跡でしかない。聖人降臨の噂が活力となって不死者アンデッドを退けることができた節もあるが、こちらにとってはいいのか悪いのかというところだった。

「今までの絶望的な状況に降って湧いた希望の光のようなもんだから、仕方ねえだろ。……だが、問題だ」

 期待値は際限なく上がり続けている。もちろん今も。危ういどころの話ではない。
 ソーリスは数多く聞いた好き勝手な噂話のうちのひとつを思い出した。

「『この砦の怪我人全てを治癒してくださるに違いない』って……冗談じゃねえよ。何も知らないくせに。ヤマトがどうなると思ってんだ」
「そんな主張は通らねえよ。 どうしたもんか」

 聖人や聖女は尊重され歓迎されるかわりに、その力で民を癒すことが求められる。
 それは強制と言っても間違いではない要求であり、万が一拒否して力を振るわぬ場合誹りは免れない。
 その慣習から、過去の聖人たちのほとんどが半ば無理矢理戦争に駆り出された。彼らの精神が戦いに耐えられるほどの強靭なものでなくとも民意は構わない。
 連日の戦いと強要される癒しが行き着く果ては心身の崩壊。
 精神を病んで弱り、死に至るのが聖人たちの運命だ。
 ヤマトは多少性質が違うとはいえ、その運命を歩まないと言い切れない。そもそも、今回は運良く起こらなかったようだが肉体崩壊の心配が大きすぎる。

「神王様に保護してもらえねーの?」
「それはこの状況を切り抜けてからの話だな。今ここに神王がいれば良かったんだが」
「今夜中に逃げるとか」
「期待の反動で砦が落ちる。そんで膨大な恨みを買う。身元割れてるし」
「だからってヤマトに治癒は無理だろ……」

 どうにもできそうにない現状だ。頭を抱え込みたくなっても無理はない。沈黙が落ちる。
 直後、重く沈みかけた空気を破るようにタイミング良く、ノックの音が室内に響いた。

「どーぞ」

 返事を返せばガチャリとノブが回る。
 入ってきた人物は、薄暗い室内よりなお黒い影。黒コートの長身の男。イクサーだ。彼を目にしてソーリスの眼光が一気に鋭くなった。

「……何しに来た」
「イクサー、どうした」

 剣呑な声と表情の挨拶をパーシヴァルが遮る。
 イクサーは気にした様子を見せない。ソーリスとは絶対に目を合わせないが。彼は頭を軽く下げた直後に尋ねた。

「ヤマトはどうですか」
「見ての通りだ」

 自然、視線がベッドに集まる。臥せるヤマトの頬は発熱により紅潮し、薄く開いた唇から零れる苦しそうな寝息が痛ましい。
 と、ソーリスが身を乗り出してイクサーの視線を遮った。一瞬で空気が緊迫する。さっきまでの苦悩を吹き飛ばされて笑いを堪えている人物も約一名。
 少しだけ睨み合った後、イクサーはふいと視線を外した。旧来の敵を相手するよりも重要な物件がここにはある。

「……陣でヤマトが使ったものは何なんですか。治癒魔法ではない」
「お、おう。わかるか」
「以前使い手と会ったことがあります。その方は、身体の欠損を修復することはできないと言っていました。……まして、あんな風に不死者アンデッドまで消滅させるなんて聞いたこともない」
「その通りだ」
「じゃあ結局何なんだよ、パース」

 ソーリスが不可解をそのまま態度に表す。
 それを受けたパーシヴァルは、肩を竦めて溜息を吐いた。

「俺に聞かれても困る。今のところわかっていることなんて……イクサー」
「はい」
「念の為言っとくが、他言無用な。一応」
「わかっています」

 今更ながらの確認を取ったところで話が戻る。

「あの魔法で動いている魔力は全属性。しかも魔力粒子の可視化が起こるレベルの量だってことだけだ」

 解説を聞いた二者の眉間に皺が寄った。一方は理解不能、一方は仰天によるものだ。

「……何それ」
「気が遠くなりそうですね」

 対照的な理解度の差を見て取り、乾いた笑いを漏らすパーシヴァル。
 その笑いが主に自分に向いたものだと感じ取ったソーリスが唇を尖らせる。地頭は悪くないくせに知識欲がないツケとでも言うべきか、彼はそんなものを今払わされている。

「イクサーは話が早くていいな」

 やはり説明する側は話はさっさと進められる方がありがたかった。
 イクサーは思案にくれたような顔で腕を組む。

「なぜヤマトはそんなものを使役できるんですか?」
「それはわからん」
「様子からすると初めてではないようですが」

 パーシヴァルは片眉を上げた。思わぬ追撃だ。相手が口を閉ざせば察して諦めるいつものイクサーらしくない。

「お前にしては突っ込むな」
「俺はヤマトと約束があるから、聞かなければなりません」
「関わる余裕は?」
「作ります」

 尋ねられ、一言。イクサーは言い切った。一昨日の朝の疲れきった顔とは全く違うその面。
 何かしらの覚悟と思いがあっての追究のようだから、無碍にするのはお互い損であるとパーシヴァルは判断する。

「……言っとくか」
「えっ、なんでだよパース!」
「知りたがっているなら事情を知らせておいたほうがいい。……約束も、あるそうだしな」

 体は男のくせに男殺しだ。ヤマトの評価を新たにそうつけながらも、一部始終をイクサーに説明することにした。
 魔人に狙われていること。先日大聖堂で起こったこと。何のためにここに来たか。ついでに手を繋いでいた理由も。
 ぎーぎーと口を挟むソーリスをシャットアウトしながらの適度に端折られた話が終わった時、イクサーは複雑な顔で責めるように呟いた。

「……困っているじゃないか、ヤマト」

 彼は黒いコートを翻し、ベッドの方へと向かう。そして手を伸ばした。
 だがそれが阻止されない訳がなかった。
 ヤマトに触れる直前、がしりと手首が掴まれる。まあ、なんとなく、こうなることは予期していたイクサーだったが、実際起こってみるとやはり腹が立つ。

「何をする」
「触んな」
「……今更だぞ。手を繋いだし、共に眠った」
「ねっ!? て、てめー変なことしてねえだろうな!!」
「なっ! き、貴様と一緒にするな!」

 一人が慌てるとつられてもう一人も慌てたあたり、仲が良く見えなくもない。ついでのように喧嘩が始まる。ギャーギャーと騒がしく今の状況とは何の関係もない悪口を言い合う二人。
 どうしようもねえなこいつらは、と呆れるパーシヴァルだが、半分面白くもあったので止めはしない。
 それにしてもこの騒がしさの中よく眠っていられるものだとベッドの上を見れば、ちょうどヤマトの身動ぎが目に入る。

「あ」
「……ん」

 ともすれば騒ぎに隠れて消えそうな声だったが、それを発した人物が人物だけあってぴたりと喧嘩が止まった。
 ヤマトがゆっくりと目を開く。熱に浮かされたオリーブの瞳はそのまま閉じられることはなく、ぼうっと天井を眺めている。

「気分はどうだ」

 言葉が発されないので、パーシヴァルが先んじて声を掛けた。
 オリーブ色の翡翠が三者を巡る。孕んだ熱が非常に艶めかしい。先ほどまで喧嘩をしていたはずの二人は、ただ呆然とヤマトを見つめる。

「……よく、ない、です。……っん……は、あ」

 少しして、返事が返った。身を起こしつつ吐息を零すその姿。真っ赤な頬を手の甲で押さえながら伏し目がちに俯くヤマトは、居心地が悪くなるような妙な雰囲気を凄まじいスピードで作り出す。
 なお、この場で居心地の悪さを感じてもじもじしそうになっているのは二人だけである。
 唯一平常を保っているパーシヴァルが、ヤマトの異変を訝しんで尋ねる。

「どうした」
「体、熱くて……」
「ああ、熱があるからな。安静にしてろ」
「違くて、ですね。……魔法、使いたいです」
「……? 駄目だ寝てろって。体調悪いのに魔法なんか使うな」

 ヤマトは小さく唸りながら首を振る。幼い子供がもどかしさを表しきれないでいる時のような仕草だ。

「でも、これ、出さないと、気持ち悪い……」

 自分の体を抱えるようにして、縮こまる。
 あまりにも抽象的すぎてパーシヴァルには理解が及ばない。これ、とは? 出さないと、とは何のことか。

「どういうことだ?」
「前はよくわからなかったけど、なんか、増えたみたいで」
「お前、説明はしっかりしろ」
「ま、魔力が」

 魔力。今、目の前の真っ赤な顔をした青年は、魔力が増えたと言っただろうか。
 何かの勘違いではないだろうか。……端的に言って、ありえない。
 基本魔力量というものは先天的な授かり物だ。増えるなんてことはほぼない。あるとしても、壮絶な修行かまたは毎日の弛みない積み重ねの末に微量がせいぜいだ。
 体感できるほど、ましてや体調に影響を及ぼすほど増えるなんてそんな馬鹿なことはあるはずがない。
 そんな思いを込めて、パーシヴァルは表情を歪めた。

「そんな一朝一夕で増えるもんじゃねえだろ」
「でも、増えたみたいなんです……」

 切なげに寄せられた眉。荒く息をつきながらヤマトは必死に訴える。

「『ロラーテ』みたいな魔法じゃダメなのか」
「あ、やってみます……」

 そんなに言うならば。魔法ならばなんでもいいだろうとパーシヴァルは進言した。その提案に従って魔法が使用される。
 しかし。

「使った気が、しません……。強い魔法で、いっぱい魔力、使わないと……」

 パーシヴァルは瞠目した。
 ヤマトに何が起こっているのかはわからない。彼が言うには「魔力が増えている」から、「強い魔法でたくさんの魔力を使いたい」らしい。
 ちょうど良い手段ならばある。だがこれは危険でもある。
 増えたというのは本人談であり、確証がある事実なわけではないのだ。もしかしたらそんな気がしているだけかもしれない。しかし。
 そんなご都合主義的にうまくいくことがあるはずないと、そうは思うが期待してしまった。現状の打開策がもしかしたら今、生まれているのか。
 試す価値はあるか。
 受け答えはしっかりしている。魔力陶酔マジック・ハイになるようならば気絶させればよい。

「……ソル、傷あるか。なるべく新しくて小さめのやつ」

 まずはひとつ、小さな例を作りたい。パーシヴァルはヤマトから目を離さずにソーリスに声を掛けた。
 しかし返事が返ってこない。訝しんで振り返れば、彼の目はヤマトに釘付けだった。

「おいソル、ソーリス=ディー=リンド。聞いてるかおい」

 重ねて言葉を投げても……夢想の世界からソーリスを連れ戻すことはできない。

「リンド家第二子のソーリスぼっちゃーん」

 反応なし。一番嫌がることを言われたというのにこれだ。打つ手なしか。

「……お、おいリンド」
「あ、ああ、うん。何」

 ソーリスよりも先にイクサーが帰還した。結構な力で小突かれ、ソーリスもやっとのことで帰ってくる。普段ならば文句の一つどころか取っ組み合いに発展してもおかしくない小突きだったが、今はそれどころではないようだ。
 パーシヴァルが呆れ顔でもう一度尋ねる。

「傷あるか。新しくて小さめの」
「あ、ある」

 ソーリスは肘を曲げて腕を示した。人差し指の長さほどの切り傷がいくつか。
 少しだけその傷を眺めたパーシヴァルは、腕を取ってぐい、と引っ張った。そのままヤマトの前に提示する。

「ヤマト、この切り傷を治してみろ」
「は、い」

 返事をするが速いか、七色の光が溢れる。だいぶ控えめではあるが、狭い室内に発生したため凝縮されて美しい。
 そして一瞬で消え去る傷。真新しい皮膚が盛り上がり、傷一つない健常そのものの腕が出来上がる。その頃には、七色の光も消え去るのだ。

「すげ……」

 ソーリスは奇跡が発生した自らの体の一部を、目と同じ高さに掲げて見惚れた。

「体は?」
「まだ、全然……。ソル、傷、もっとない? 全部治させて……?」
「え」
「やらせてみろ」
「あ、う、うん。お、お願いします」

 そしてまた為される治癒。ソーリスの体全体から、全ての傷が消え去る。途方もない奇跡をなんでもないことのようにこなすヤマトに内心で驚きつつ、パーシヴァルは厳しい目つきで検分した。
 全ての属性の魔力を動かしている、そのようにしか見えない。それがどうしてこのような奇跡に繋がるのか……全ての属性を動かすからこそ、だろうか。

「ううう」

 突如、ヤマトが呻く。不意をつかれたパーシヴァルは慌てて目の前の肩を掴む。

「どうした!?」

 だがしかし、事態は深刻ではなかった。半泣きのような表情で顔を上げたヤマト。

「ちょっと使ったら、余計出したくなりましたああ……」
「……お前、なんか、大変なことになったな」
「魔力使わせてくださ……出したいぃ……」

 瞳に涙の膜が張る程度には辛いらしい。
 怪我人が大量にいるところにいけば手っ取り早いだろうが、それをすると魔力が枯渇した時に困る。誰だって治癒は欲しい。目の前で売り切れなんて言われて、暴動が起きない可能性も少なくはない。
 ならば、多少辛くとも少しずつやらせるしかない。

「自分のキャパシティわかるか」
「キャパ、……?」

 とりあえず尋ねると、ヤマトが首を傾げる。

「治癒魔法何回使ったら危ないとか把握できてるか」
「厳密には、わかんない、ですけど。肉体崩壊は、意識があれば、そこまでいかないように、できます。出したいの、出し切ったら、止めますから。お願い、します」
「……わかった」

 ここまで意識がしっかりしているのならば、恐らくは。細心の注意を以って監視することを念頭に置けば大丈夫だ。
 パーシヴァルは一つ頷いた。
 すると今まで呆けていたソーリスが突然我に返る。

「ちょっと、大丈夫なわけ?」
「ぶっ倒れる前には止める。お前ら適当に怪我人連れてこい。なるべく軽い奴を、一人ずつだ」

 捲し立てるように言って、パーシヴァルはイクサーとソーリスを部屋から送り出した。蹴りだすような勢いだったのは、急げと言う意思表示だろうか。
 部屋から出た二人の間に不自然な沈黙が落ちる。

「お前、今見たの即忘れろ」
「不可能だ。脳裏に焼き付いた」
「……俺もだ、くそお……」
+注意+
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