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Trans Trip! 作者:小紋
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2‐(10).あだ名呼びは友好の第一歩

 ジェネラルさん噂話の内容に驚いたりしている間に、部屋案内も佳境に入る。

 今いるのは、ギルド長室のあった5階から2フロア下の、3階。螺旋階段から出ると、まずは広めのリビングっぽいスペースが見えた。ここにも、座ったり踏んだりするのが怖そうなソファや絨毯とか、作ろうとしたらものすごいお金がかかりそうな暖炉とかが配置されている。柔らかめの光を放つ照明が部屋を照らしていて、なんだか落ち着く雰囲気だった。談話室、といった感じだ。

(居心地よさそう)

 照明が光を放っているということは、電気があるのかと思ってあたりさわりなく聞いてみたら、魔法の炎が封じ込められた照明なのだそうだ。これも、お高いらしい。

(うーん流石、ファンタジー)

 そして、魔法の光で照らされた高そうな談話室を囲むようにいくつかの扉があった。

「男フロア、到着~」
「その、男フロアって言うの、止めろよ。なんか嫌だ」

 エナの口ぶりからすると、3階は男連中の使っているフロアらしい。男フロアと呼ばれるのをソーリスが嫌がっているのは、複雑な男子心というやつだろうか。でも、なんか語感がちょっとアレな感じなのでわからなくもない。

「あ、通り過ぎちゃったけど、4階は女フロアね。男の子は呼ばれた時以外入っちゃダメなの」
「ほんとは3階と4階、幹部フロアらしいんだけど、うちって人数少ないからテキトーに使っちゃってるんだ。部屋も余ってるし」

 幹部フロアというのなら、この豪華さも納得できる。と、いうことは各自の部屋も相当広くて豪華なのだろうか。

「んで、ここ、俺の部屋」

 ソーリスに示された先を見る。本当だ、確かに表札に“ソーリス”と書いてある。

(ん?)

 書いて、ある?

 ……またも、強くてニューゲームの特典がでたようだ。

 表札に書いてある“ソーリス”という字、明らかに日本語でも英語でもない。というか、見覚えのある字ではない。それなのに……読める。“ソーリス”としか読めない。

 字が読めないってけっこう辛いからありがたいとは思うけれど、頭の中に自分の知らない情報があるっていうのは気持ち悪いものだ。

「どうかした?」

 変な顔をしていたらソーリスに心配されたが、なんでもない、と誤魔化した。

「変な名前ーって思ったんじゃないのぉ?」
「……マジで?」
「ち、違うよ! なんでそんないまさら。いい名前だよソーリス」

 濡れ衣だ。エナの前ではおちおち変な顔もできない。ソーリスにもショックを受けたような顔で見つめられてしまい、大いに困った。

「ほんとになんでもないんだ、ごめんね」

 そう言うしかない。字が読めないはずなのに読めて気持ち悪いんです、なんて言っても、わけのわからないことを言うお前のほうが気持ち悪いよという話だろう。

「……」

 だが言い訳をしたにもかかわらず、ソーリスは黙ってしまった。

「あ、の。ソーリス?」

 もしかして、気分を害してしまったのだろうか、と思う。

「……わかった」
「え、何、が」
「なーんか、違和感あったんだよね。ヤマトに名前呼ばれて」
「え?」

 それは、私に名前を呼ばれたくないということだろうか。かなりショックだ。

「ヤマト、俺のことソーリスって呼ぶでしょ?」
「あ、う、うん」
「みんなは俺のことソルって呼んでるわけ。だから、違和感あったんだ。あだ名で呼ばれないことが珍しいからさー」

 一瞬前のショックは杞憂でしかなかった。そしてソーリスが気分を害してなかったことに、大いに安心する。ちょっとビクビクしすぎだろうか、私は。

「だからさ、俺のことはソルって呼んでね。呼びやすいでしょその方が」

 ウィンク。言っちゃ悪いが、古い。だがイケメンがやると、様になるものである。

 確かに彼の言うように、エナもニーファもジェネラルさんも、ソーリスのことはソルと呼んでいたな、といまさらながら思い返す。まだ部外者のような気分なので、親しげにあだ名で呼ぶのはなんだか気が引けたが、本人がこう言ってくれているのだから、その言葉に甘えさせてもらうことにした。

「あ、うん……わかった。そうするよ、ソル」

 満足げに頷くソル。ほんとに、ソルっていい人だ、とあらためて思った。





「そんで、こっちの扉が、ヤマトの部屋ね。俺の部屋の隣」

 表札は白いまま。ここに、ヤマト、と書けばいいのだろう。思い描いてみた。多分、書けそうだ。

 しかしソルの隣部屋、というのはちょっとありがたいかもしれない。仲良くなれた人が近くにいると、嬉しいものだ。

「入って見てみる?」

 そう言われたので、是非、と答えて部屋に入った。





「広……」

 このギルドハウスに入ってから何度この感想を言っているか分からないが、第一声はだいたいこれだ。一般家庭のリビング以上の広さがある。元の世界での私の部屋は六畳くらいだったので、ずいぶん広くなったものだ。

 ベッドも家具もサイズは普通だが、高級そうだ。布団が見ただけでふかふかだということがわかる。だが、サイズが普通で良かった。ベッドがキングサイズとかだったら、落ち着かなくて眠れない。

「生活用品や服なんかは、全部用意してあるらしいんだけど、どこに入ってんだろ」
「あ、ねぇねぇここじゃないの?」

 男の部屋だと言うのに気にもせずにずんずん入ってきたエナが、その所在を見つける。

 綺麗な彫刻が施された箪笥だ。開けて見ると、衣類と布や様々な道具などの生活用品が詰まっていた。ハブラシの持ち手が木だったり、いろいろおもしろい。

 しかし、衣類の充実度合いが異常だ。ざっと見てみると、どれもセンスが良い。

「すごいね、服。誰が用意してくれたの?」
「「ニーファ」」

 口を揃えて2人が言う。

(うーん、納得)

 この異世界では奇抜な……ゴスっぽい格好をしているニーファさんだから、オシャレにはこだわりがあるのだろう。センスが良いのは、羨ましい。





◇ ◇ ◇





 部屋を一通り見終わり、次はまたここから下のフロアを案内してもらえることとなった。

 まず2階を案内してもらったが、ソルとエナは2階のことを雑魚フロアと呼んでいるらしい。その理由と言うのが、3、4階が幹部フロアで豪華なのに対して、2階は部屋も大部屋でランクが落ち、下位の人間が使うフロアとなっているかららしい。ランクが落ちると言うが、上階の豪華さと比べると、というだけで2階の部屋は一般的なだけのとくに悪くない部屋だった。

 それにしても、雑魚フロアとはひどい。

 2階は誰も住んでいないし、特別案内するべきところもないそうで、さっさと下の階へ行くことになった。

 次は1階、ということで、階段に向かっていたら、ちょうど降りてきたニーファに出くわした。

「あ、ニーファだ。だんちょーとのお話終わったの?」
「兄貴の話は長くて困るわ。……あんたらはヤマトに案内してやってんの?」
「そうそう、だだっ広いからねー。口頭じゃ説明しきれないし」

 ニーファがうんざりした動作を見せながら言った一言に、ジェネラルさん、話長いのか……なんて感想を持つ。万が一、子持ちでも孫持ちでも例えショタコンだとしても、あのかっこよさは消えたりしないのだ。彼のことをひとつ知ることができて嬉しい。

「暇だし、あたしも行くわ」

 というわけで、ニーファも一緒についてきてくれることになった。彼女が本物のロリババアだということを知ってしまったため、ちょっと複雑だが、やっぱり世話焼きのいい人だということは変わらない。ジェネラルさんがおじいちゃんになんか見えないように、外見は可愛い女の子そのものだし。ありがとう、とひとつお礼を言うと、ちょっと引っ張られる。

 なんだなんだ、と思う間もなく、小声で耳打ちされた。

「あんたが女だってこと、兄貴には言っといたから。承知しときなさい」





◇ ◇ ◇





 小声で告げられた内容はなかなか衝撃的で、なんで言ったんですか、なんて彼女に言ってしまった。だが、言わなきゃしょうがないでしょ、と一刀両断されたので、なんだかその通りのような気分になってしまい、反論できなかったのだった。次、ジェネラルさんと顔をあわせるときにどういう顔をすればいいのだろうか……。いや、別に私が悪いわけではないのだから、堂々としていればいいのだが。

 私の動揺をよそに、案内は続く。

 1階に降りて、最初に通った場所である出入り口に面するふきぬけになっている受付ホール、そこから入れるどでかい食堂、広めの厨房、と見せてもらった。食堂は机と椅子が並ぶだけの空間だったが、厨房はなかなかおもしろかった。もちろん、ガスコンロや電子レンジなんて存在せず、あるのはかまどとか、私から見ると古風な調理器具ばかりだ。驚いたことに、蛇口っぽいものはあった。元の世界のように現代的な感じではなかったが、捻るとちゃんと水もでてきた。びっくりした顔をしていたせいで、田舎には蛇口もないので捻ると水が出てくるということに驚いていると思われてしまったが、説明するのも面倒くさいのでそういうことにしておくことにした。





 そして食堂にある大きな扉からは、中庭に繋がっていた。話には聞いてきたが、やっと辿り着けたというものだ。もう外は薄闇に包まれはじめていたが、あたりは魔法の炎の照明に照らされ、はっきりと見て取れた。

 この中庭はとても広く、木々や植物が綺麗に整えられている。ニーファが暇なときに全て1人でやっていると聞いて、たいそう驚いた。どうやら、オシャレの他に園芸も趣味らしい。

 中庭の先には、大浴場があった。入浴はみんなそこでするそうだ。覗きイベントが起きないことを祈る。





◇ ◇ ◇





 ソル曰く“だだっ広い”ギルドハウスの案内が終わった。

「あー、お腹減ったぁ。夕飯、まだぁ?」
「あいつ、まだ帰ってきてないでしょ」
「えー……、じゃあ、一旦解散する?」

 どうやらエナは腹ペコのようだ。“あいつ”とは誰だろうか。

 聞いてみると、このギルドにはおさんどんや家事を一手に引き受けている人物がいるらしい。現在留守中のおさんどん担当が帰ってこないと夕食の用意がされないということなので、それまで各自部屋で一息つこうという話になる。

 連れ立って歩く。食堂から受付ホールに入ったところで、なにやら出入り口から声が聞こえた。

「たっだいまー! ……あれ」

 ドーン、とドアを開けて、青い髪の小さな女の子が元気よく入ってきた。

「ちょっと、ジェーニア。ドアをそんなに強く開けないで……あら」

 青い髪の少女を注意しながら続いて入ってきたのは、金髪のグラマラス美女だ。

 2人とも、私のことを見て誰? という顔を一瞬したが、グラマラス美女はすぐ納得した顔をした。青い髪の少女は、ずんずん近づいて来て、私の顔をまじまじと見上げる。

「……んー? お客さんですか? ……イケメン」

 イケメンという言葉がでてきたことに驚いた。

 こちらを見上げる大きな瞳は、金色。青い髪は原色系で、ふんわりした髪を小さめのツインテールにしている。ツインテール、二人目。元気が良いのに、ミステリアスな雰囲気を持っている少女だ。

「違うわ、ジェーニア。ほら、無期限の保護対象の彼よ、今日来るって言ってたでしょう?」

 青い髪の少女をジェーニアと呼んだ彼女、金髪のグラマラス美女。

 緩やかにウェーブをしている柔らかな金髪が目に眩しく、その肢体も同じく目に眩しい。俗に言う、ボン、キュッ、ボンのパーフェクトボディだ。厚いぽってりとした唇が、たまらなくセクシーである。スタイルの完璧さと、ただよう妖艶さのせいできつい女性に見えるかと思いきや、ヘーゼルブラウンの優しい瞳が全ての印象を和らげていた。

 グラマラス美女の言葉に、ああ、なるほど! とジェーニアと呼ばれた少女が納得する。

 ニーファたちが口々におかえり、と言うのに倣って、私もおかえりなさい、と言っておいた。グラマラス美女とジェーニアと呼ばれた少女がただいまを返す。そして、2人とも私に向き直った。

「はじめまして、こんにちは。私はエデル。このギルド、コロナエ・ヴィテの副ギルド長よ。よろしくね? ……えーっと」
「あ、ごめんなさい。俺、ヤマトといいます。よろしくお願いします」

 金髪のグラマラス美女は、エデルさん、というらしい。とても優しそうだ。副ギルド長、ということはみんなのお母さん的立場になるのだろうか。ジェネラルさんとの関係が気になる。もしかしたら、この人が奥さんだろうか?

「わたしはジェーニアっていいます。コロナエ・ヴィテの副々ギルド長! ヤマトさん、よろしくね!」

 そして、青い髪の少女は先程からエデルさんが呼んでいる通り、ジェーニアさんという名前のようだ。元気よくウィンクされてしまった。それにしても、副々ギルド長? と思っていたら、ソルが「自称ね」と耳打ちしてくれた。なるほど。

 よろしくお願いします、ともう一度言ってお辞儀をすると、ジェーニアさんが、突然、吠えた。

「う、わぁー! こんなイケメンが仲間になるなんて! わたし、興奮してきちゃいました! あ、歓迎会ですよね新しく入ったんですし! ちょうど夕食を何にしようか困ってたのでちょうどいいです! じゃあ、いってきまーす!!!」

 そう、捲し立てるように言って、先程帰ってきたばかりだと言うのにあっという間に外に出ていってしまった。

 私がポカンとしていると(他のみんなは、あーあ、とか、あらあら、とか苦笑しているだけだった)、ものの数分で彼女は戻ってきた。

「入れてきました! 予約を! 今日は歓迎会です! ジーンの酒場です! 行きましょう!」

 あまりのテンポに、私はついていけない。

 部屋に戻って休むはずだったのが、会って数分の彼女の大暴走により、夕食兼新人歓迎会となったのだった……。
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