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Trans Trip! 作者:小紋
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11‐(3).行って帰るまでが遠足

 現在早朝。リグの北側広場からレボカタス砦へと向かう物資輸送馬車に、護衛を条件に乗り込ませてもらってから十数分が経つ。輸送専門の馬車はがたがたと揺れ、乗り心地はすこぶる悪い。だが、この戦争中では通常の馬車が砦へ向かうことなどまずないため、仕方がないことだった。
 座っているにはお尻が痛くて、立って窓から外を覗く。そうしてしばらくすると、流れるリグの風景の中に突然紛れこむ黒い影。
 黒塗りの馬車だ。
 すれ違うのを、揺れる馬車の車窓から見つめる。実は、今日黒塗りの馬車とすれ違うのはこれで三度目。最近になって走っているのを目にすることが増えた黒塗りの馬車は、名前をアルカという。どういうものかというと……遺体を運ぶためのものらしい。私たちの世界で言う、霊柩車のようだ。
 アルカは、早朝なため静かなリグの街中に異質に黒く浮かび上がっていた。これをよく見ることになった原因は、激化する魔国との諍いで間違いない。
 今、その最前線に向かおうとしている。レボカタス砦はリグから馬車で五日程度北へ進んだところにある、魔国との国境地点にある三つの砦のうちの一つだ。結構遠い。
 それに、高地に建つその砦は結構寒いらしいので、防寒具が欠かせない。着込んでいるため多少動き辛いが、寒いよりはまし。

 なんだか憂鬱なことだらけだが……この後すぐに最近で一番の憂鬱がある。いや、憂鬱と言うよりはもっと直接的な恐怖だ。
 私が恐れ慄き渋面を作る頃、がたん、と馬車が大きく揺れた。街道に出たようだ。……ということは。

「リグ出たか。じゃ、しばらくよろしくなぁヤマトちゃん」

 この悪魔のような笑顔のお方との長期間お手々繋ぎタイムが始まるということです。
 恐ろしさしか感じない。私の手を取ろうとするパーシヴァルさんの動きがスローモーションに見えたりして、なんかもう。走馬灯まで流れ始めた。
 ぎゅっと握られる。こ、恋人繋ぎ。嫌がらせか。

「う……」
「人に手ぇ握られて呻くな」
「ぎゃっ」

 叫び声を上げたいのを我慢して呻いたというのに、直後の膝かっくんで叫ばされた。
 なんという仕打ちだろうか。これを片道五日二回プラス砦滞在数日分我慢しなければならないというのか。ああ、もう、無理、もう無理。
 と、反対側の手も握られ……えっ? 驚いて振り返れば、真面目な顔のソルが。

「一晩考えたんだけど……俺も手、繋げばよくね?」
「なるほど考えたな」
「だろ?」

 思わず絶句。ちょっとこの人たち何言ってるかわかんないです。そしてこっちも恋人繋ぎ。
 私が納得しない顔をしていたら、ソルが何やら言い募り始めた。ヤマトごと媒体指定の結界に引きずり込まれたとしても、戦闘できる人数は頭数多い方がいいだろって。いや、わかるけど。わかるんだけど。

(なんの拷問だよ!!)

 拷問は言い過ぎかもしれないが、私の精神的には完全拷問です。幼稚園児の遠足じゃないんだよう、両手繋いでたら私が動けないよ。ほんと離してほしい。おろおろしながらなんとかソルだけにでも離してもらおうと言葉を考えていたら、エナが冷めきった目でこっちを見ていた。

(ち、違う私は悪くない)

 そう思いつつも居た堪れなくなって目を逸らせば、ちょうど馬車の御者さん(小太りで気の小さそうなおじさんだ)と目が合う。目を逸らされた。……もう一度見られてまたゆっくり逸らされた。

「に、二度見された……。御者さんの目に、俺たちはどう映ってるんだろう……」
「仲良し三人組」

 ソル、どう見ても二十代の三人組でそれはちょっと無理がある。

「出来れば関わりたくないホモの三角関係」

 パーシヴァルさんはそれあなたもホモになるけど大丈夫ですか。……この人は面白ければいいのか。

「目の前に美少女がいるのに男と手を繋いでる男たち」

 エナについてはほんとごめんとしか言いようがない。

「美少女?」
「美少女?」
「死ね」

 二人がハモってエナが吐き捨てた。エナをいじる時のコンビネーションだけは天下一品な二人である。
 パーシヴァルさんがわざとらしく慄くふりをしてから、半笑いで言う。

「おー怖いな。よし真面目にレビューしてやろう。整ってはいる。ただ胸元のボリュームが絶望的に足りない」

 あっ。と、思わず声を上げてしまった。恐る恐るエナを見る。
 般若がいた。

「コロス」

 キリングマシーンに進化した!

(ちょっとパーシヴァルさん笑ってないで謝って私あなたと手を繋いでるんだから被害ががが)

 早速酷い目にあうことになった。これ、絶対二週間強もたない。





◇ ◇ ◇





 一日目、輸送馬車は平地を進む。パーシヴァルさんのセクハラが激しく、心の休まる暇がない。暇つぶしに耳に息を吹き込まないでください。尻を蹴らないでください。ソルが手を引っ張って助けてくれる時もあるが、そもそも二人から両手を拘束されているせいで抵抗できないんだよ。
 流石に食事の時やトイレの時は手を離してくれるが、寝る時は完全に二人から手を握られている。野生動物とか山賊とかを警戒する見張り当番とかあれば片っぽだけでも自由になるかと期待したら、結界展開の魔導器があるため見張りはいらないらしい。風を凌げる馬車の中でみんなで寝た。両手が自由に動かせないせいで肩がバッキバキになった。便利さが仇となる形になったわー。
 この日、ソルに手を離してくれるよう五回ほど頼んでみた。一回目、「嫌」。二回目、「やだ」。三回目、「絶対やだ」。四回目、「……やだもん」。五回目、「ヤマトは俺と手ぇ繋いでるのやなの……?」。最終的に拗ねた。そういう問題じゃないです。ぶんむくれて虎耳虎尻尾をぺこんとさせているくせに手は離さない。勘弁してほしい。

 二日目、坂が多くなってきた。そして川を発見し、水浴びをすることになった。冬場の川で水浴びは寒過ぎたため、空気を暖かくする炎属性の魔法『温暖ワールム』が大変喜ばれた。使い過ぎると体温調節が下手糞になるけど、たまにならいいだろう。
 それにしても、『ロラーテ』とかがあれば飲み水の心配もないし、火を起こすのも『炎弾ファイアバレット』とか使えばすぐだし、魔法って役に立つ。御者さんが「魔術師さんがいると長旅が楽でいいねえ」とにこにこしていたのが嬉しい。私たちが手を繋いでいるのは見ないようにしていたけど。
 しかし、水浴び。最初のあの二人の行動ときたら。両手とも使えないから、という理由で当たり前のように服を脱がそうとしてきたうえ、体も洗ってくれようとしていたらしい。介護か! なんで食事の時とトイレの時は離してくれたのに、水浴びは一緒にしようとするんだ。パーシヴァルさんは絶対私の反応を面白がってるだけだけど、ソルはかなり本気の顔をしていた。怖い。結局断固抗議して、水浴びの間も手を離してもらえることになった。一日ぶりの長めの解放感だ。長めと言っても十数分で終わったけれど。

 三日目、ほとんど山道。手繋ぎ状態に微妙に慣れてきた自分が怖い。好奇心に負けた御者さんが手を繋いでる理由を聞いてきたけど、ソルとパーシヴァルさんが耽美オーラを出したら逃げてしまった。洒落にならないから止めてくれ。二人は笑ってたけどエナは引いてた。ほんとごめん。
 山道だけあって足場が悪く、野営中に石に躓いて転んでしまった。思いっきり三人で縺れ合って変な団子みたいになった。パーシヴァルさんにははたかれたけど、ソルは許してくれた。ソルのことは思いっきり押し潰しちゃったから許してもらえてよかった。……いや、でもさ。……手を繋いでなければさ、あんな縺れなかったよ……私のせいだけど! なんかやるせない。もうほんと勘弁してほしい。

 四日目、山道山道山道。標高がだいぶ上がったのか寒さがグッと増し、そのせいで朝起きたらパーシヴァルさんに抱き枕にされてた。朝っぱらから心臓が口から出るかと思った。あまりに寒いもんだから私からも擦り寄ってたらしい。起こさないように顔面蒼白のまま必死で腕から抜け出してことなきをえた。私じゃなくてソルと抱き合ってればよかったのに。肝心のソルにはエナがくっついてた。男女なのになあ……と思いつつもなんだかんだ仲良い二人にほっこりした。二人ともエディフだからほかほかして暖かそうで、私ももぐりこみたいくらいだった。
 一番先に起きてた御者さんが遠巻きで切なかった。

 そして五日目、日が落ち切る直前、夕方の終わりごろ、やっとレボカタス砦へと到着した。
 荒事もないほんわかした旅路だったと言える。うん。そういうことにしておく。
 しかしそれもここまで。
 到着する直前までは、五日の旅路を振り返っていたりしたのだ。キャンプみたいだった、とか、絶対手を繋いでなくても大丈夫だったよな、とか思っていた。
 だが、到着した瞬間、現場の悲惨さにそんなことを考える余裕はなくなった。
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