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死に神

作者: 木月 愛美

「みんなみんな死んじゃえばいいのに」

 麻美が言った。

 わりと綺麗な教室の黒板に、先生が文字を書き連ねる。

 麻美の言葉のせいで、わたしの思考は過去へ飛んだ。

「靴、履き代えない?」

 わたしが通っていた私立の小学校は、革靴で床の上を歩くことになっていた。洋風を気取っているのだろう。だが、遊び盛りの小学生に一日中革靴で過ごせ、というのも酷である。だから学校指定の運動靴に履き代えてもいいことになっていた。

「いいよ」

 小学生ってどのくらい子供だったっけ。その時から三年しか経ってないのに、想像もできない。

 靴箱から運動靴を取り出し、床に落とす。革靴を脱いで、運動靴に足を入れる。それからしゃがんで革靴を持ち、靴箱へ運ぶ。その一連の動きを、邪魔した。

「みんなみんな死んじゃえばいいのに」

 ちおりちゃんが言った。

 わたしはこの時、どういう気持ちになったっけ。思い出そうとしても、思い出せない。ただ、革靴と靴箱の擦れる音だけが蘇る。

 そう。ただこういうことが前にもあった。それだけ。

 どうしてだろう。どうしてわたしの身に、同じようなことが二回も起こったのだろう。そう考えてみたら、一つの答えが思い浮かんだ。とても馬鹿らしい答え。

 わたしが死に神だからだ。だからわたしに願いが集まる。死に神のあんたにならできる、って。

 チョークが黒板を叩く。その音が頭の中で轟く。またわたしは下らないことを考えた。わたしが死に神なのだとしたら、チョークが黒板を叩く音はカウントダウンなのかな。世界滅亡までのカウントダウン。笑っちゃうよ。

 コン。コン。コン。コン。

 授業の終わりを知らせるチャイムが鳴った。チャイムの音を合図にして、他の音も鳴った。言葉にして表すとすれば、“ぼんっ”とでもいう感じだ。

 その音に気付いたのは、窓の外を眺めていたわたしくらいのものだろう。

「教科書、取りに行かない?」

 麻美は気付いてない。麻美が願ったことなんだよ?

「いいよ」

 わたしは同意した。喧嘩なんてしたくもないし。

 ただもう一度窓の外に目を向けると、確かに道路の真ん中に猫の死骸が見えた。小学生だったあの日は、帰りの電車が人身事故で止まったっけ。死に神パワー、おそるべし。

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― 新着の感想 ―
[一言] 恐るべしですね。数年に一回という少なさ、それも猫だったりという微妙な死神っぷりがグーです。。
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