「なんでこの物件、こんなにも安いんスか?」
「ああ、それネ。お客さん。それ、わしが言うのも何だけどやめといた方がいいよ。出るらしいんだよ。足のないヤツがね」
「ふーん。幽霊ね」
「実は、数年前そこで自殺した人がいてねェ」
「決めました。ボク、ここにします。幽霊なんてボク信じてないですからネ。大丈夫っスよ」
「やめた方がいいと思うけどなァ・・・・」
案の定、出た。信じてない人のとこに出ないというのはウソだね。
その幽霊は、マッチョな黒人。ヒップホップ系ダンサー幽霊だ。足はある。
「ヘイ、ヨー! フーッ! ダダダンダダン」
枕元でノリノリだ。チョーうぜえ。しかし、フシギと近所から苦情はこない。どうも、部屋の主にだけ聞こえるようなのだ。
「もううるさいよ! ねむれないだろ!」
床の上でクルクル回ったりしてる。
たけしはうつぶせになり、枕で頭を覆った。
ダンサー幽霊はおかまいなしに陽気に歌いまくり踊りまくる。
数日後、たけしは、睡眠不足でゲッソリやつれ果てた。
「くそゥ。ぶん殴っても実体がないんだからなァ・・・・」
もうどうしていいかわからない。仕事でもミスが増えた。
精神科に行っても、鼻で笑われる始末。
「でもこのまま負けたままちゅうのもくやしいなァ・・・・」
たけしは名案が浮かんだ。
その夜も相変わらず、ダンサー幽霊はピョンピョンはねまくる。
「ヘイ! ヘイ! ヨー! ヨー! ウィウィ!」
たけしは、よっしゃとステレオに向かい、大音量で演歌をかけた。近所から苦情がくるかもしれないが、気にしちゃおれない。
「きた〜の〜、はと〜ば〜で〜」
「????」
ダンサー幽霊の顔色が悪くなってきた。黒いのでわかりにくいがちょっと青くなってきてる。
「あの〜こ〜が〜、さ〜けを〜」
ステップも狂ってきてる。
「????????????」
ついには逆ギレした。
「コラ!」
たけしはキレ返した。
「なんや!」
ダンサー幽霊は、たけしのほっぺたを思いっきり叩いた。もちろん、実体がないので痛くもかゆくもない。
「そんなミュージックかけたらダンシングでけへんやろ!」
ダンサー幽霊はカタコトの関西弁で怒鳴った。
たけしは、更にボリュームを上げた。
「な〜みだ〜の〜、さ〜け〜〜は〜〜〜〜」
ダンサー幽霊は狂わんばかりである。両手で耳を押さえ、ヨタヨタ歩きながら窓を通り抜け、どこかへ行ってしまった。
やはり、黒人の血と演歌のリズムは合わないのか?
ドンドンドン。
となりの山本さんがドアを叩いてる。
「コラぁ! やかましいぞ、てめェ!」
たけしは一安心だ。
その日はグッスリねむれた。
ドンドンドン。
次の日の夜。枕元に、和服を着た演歌幽霊が立っていた。
「あ〜な〜た〜の〜せつなぁ〜い〜〜〜〜」
「くそー! なんでやねん!」
たけしは、ひたすらうつぶせになり、うんうんうなりながら枕で頭を覆っていた。(了)
|