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名探偵シャルロット=フォームスン物語

フォームスン探偵社のクリスマス

作者:光太朗
「サンタクロースというのは、なかなか良いな。そうは思わないかね、エリスン君?」
 忙しくクリスマスディナーの準備にいそしむエリスンに、まったく手伝うわけでもないシャルロットがゆったりと話しかけた。
 エリスンは無視した。
 通常営業。
 エリスンはガッシャガッシャと音を立てながら生クリーム作りを再開する。
「端的にいうならば……そうだな。サンタさんに、なりたい」
 ちっ。エリスンは舌打ちした。なにを小さい子どもが冬期にだけ語る将来の夢のようなことをいっているのか。ああそうか脳みそは小さい子どもレベルだったわねオホホと思いつつ、一応は返事をしてやることにする。
「頑張ってね」
 棒読みだ。くだらないこといってんなよ感がこれでもかと込められた、レベルの高い返し。
「賛同してくれると思っていたとも、エリスンくん! 背中を押してくれるというのならば、もはや目指さないわけにはいくまい。サンタクロースに、私はなる!」
 しかし上司はそれを上回るレベルだった。くじけないどころか、ダメージにならないどころか、回復してしまった。エリスンは苦々しくシャルロットを見やり、焼きたてのケーキをオーブンから取り出す。
「なんでもいいけど、他所様の迷惑にならないようにしてね、シャルロット。あなたの脳内で世界最強のサンタにでもなればいいと思うわ」
「私一人で完結したのではつまらないな。むしろ、気分はもうサンタなのだよ、見たまえ!」
 シャルロットは肘掛け椅子をくるりと回し、ポーズを付ける。
 しかしエリスンは無視した。
 熱々のケーキに生クリームを塗る作業が忙しいのだ。何しろ塗ったそばから溶けていく。
「見たまえ!」
 名探偵、リピート。
 仕方がないので、優秀な助手はそちらを見てやることにする。ハイハイ良かったわねと適当に返事をするつもりが、硬直してしまった。
 サンタさんだった。
 サンタコスだった。
 赤い帽子に赤い服、白い付けひげまで完備されている。何が入っているのか、背中には大きな白い袋。ブーツまでサンタ仕様だ。隣には段ボールで作ったトナカイらしきものが転がっている。
「いつの間に……!」
 率直な感想だった。こっちは大忙しだというのに。
「ヒマなのっ?」
 続く素直な意見。しかしヒマに違いないので、己の発言を悔いる。この名探偵が多忙だったことなど未だかつてない。
「サプライズだとも! 君に気づかれないように準備するのはなかなか骨が折れたよ。良くできているだろう、トナカイのトナー君だ」
「ええ、そうね……なんというか、なんともいえない味があるわ」
 トナー君は本来ならば自立させたかったのだろうが、転がるその姿に悲哀が漂っている。ガムテープもむき出しだ。角の先には旗がくくりつけられており、そこに書かれたヒュイの文字に、エリスンはこの計画の協力者の存在を知る。
「ていうか、今日はあれが食べたいこれが食べたいとリクエストしておきながら、あなたはそんなことして遊んでいたの、シャルロット」
 怒りを込めてそういうと、シャルロットは満足そうにうなずいた。
「なかなか有意義なクリスマスだ」
 伝わらない怒り。どうして伝えようとしてしまったのだろうと、エリスンは首を降った。ダメだ、付き合っていてはダメだ。会話しながらもてきぱきと動き、生クリームまみれケーキを完成させたエリスンは、テーブルに皿を出す。すでにターキーはできあがっていた。エリスンパイもカボチャ・オ・ニタモーノも完璧。あとはワインを開けるだけだ。
「できたわ! さあ、シャルロット、クリスマスの準備はばっちりよ!」
 エリスンは優秀な助手であり、基本的には上司に従順だった。彼が食べたいといったものはすべて揃え、そんな自分自身に満足して鼻を鳴らす。
 これほど豪華になるのならば、友人たちも招待するんだった──そんなことを思うが、思い描く友人は新婚だ。声をかけては邪魔になったかもしれない。
「さすがエリスン君! だが、まだ私の夢が達成されていないな。先にこちらを優先しても?」
「ハイハイなんでもいいから食べるわよ」
 エリスンは銀ラメのあしらわれたヒラヒラエプロンを取り外し、疲れ切ったため息を吐き出す。先にテーブルにつこうとしたところを、シャルロットが呼び止めた。
「ならば、優先させていただこう。──エリスン君」
「なによっ」
 イライラと振り返り、目を見開いた。
 目の前にはバラの花束が差し出されていた。
 一輪や二輪ではない。数え切れない、真っ赤な大輪のバラ。エリスンは言葉を失って、目を白黒させる。
「今日という日に、君のサンタクロースになれたことを、嬉しく思う。受け取ってくれたまえ」
「……っ」
 言葉に詰まる。
 良い切り返しが思い浮かばない。
 この脳が残念な名探偵はいまだってたいしたことなど考えていないに違いないのに。こうしてバラを差し出しながらも、鼻の下には付けひげがあるというのに。この男は。本当に。
「ありがと、うっ!」
 八つ当たりするようにバラをひったくる。花束が大きすぎて、エリスンの表情はシャルロットからは見えないはずだ。そう思いたい。しかしバラの隙間から、長身の名探偵の顔は見えてしまった。
 彼はひどく満足げに微笑んでいた。優しい眼差しで助手を見下ろす。
「メリークリスマス」
「……メリークリスマス」

 今日は、何度目かもわからない、探偵社のクリスマス。


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