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すみっこ童話・短編

ちっちゃなかみちゃんと可愛いみーちゃん

作者: 神 雪

どうぞ、お暇な時にお読み下さいませ。

 目を開けると優しい暖かなものに包まれていました。


「おはよう。お前はこれから、あそこに見える里の小さな守り神だ。頑張りなさい」


「あなたは、どなたですか?」


「お前は小さな神だから、私は大きな神かな」

 



 流れ星が一つ、里の山のふもとにそっと降りてきました。


 それを見た里の人達が山のふもとに近づいてみると、そこには次々に色を変えていく手のひら二つ分位の光のかたまりがありました。見ているだけで、心の中がほかほかとしてくる様な、優しい優しい光です。


 里の人達は、小さな祠を作り、中にきれいな座布団を入れ、光を置きました。


 こうして、小さな神様は、里の守り神となったのです。



 それから小さな神様は、里のために毎日働きました。雨が少ない時には、雨雲を呼んできて雨を降らせます。雨が続けば、雨雲を退かせてお日様の光を里のすみずみまで届けました。


 里の人達も、そんな小さな神様に心から感謝して、祠の周りにはきれいな花が植えられ、祈りが捧げられました。小さな神様は、ますます頑張ります。怖い病が山向こうまで迫ってきた時も、里を守るために小さな体で病を追い払いました。


 穏やかな里は、少しずつ大きくなり、人も家も増え大きな町へと変わっていきました。長い長い時が流れましたが、その間も小さな神様は里のために、働き続けました。


 でも、人々は小さな神様の事を次第に忘れていったのです。今では何故ここに祠があるのか、誰も気にもしません。

 いつの間にか小さな祠は、こんもりとした緑の小山となって、そこを訪れるのは朝晩挨拶にやって来る小鳥達だけになっていました。


 小さな神様はますます小さくなって、里を守る力も少しずつ小さくなっているようでした。それでも出来ることを頑張っておりました。



 そんなある穏やかな春の日の事です。小さな神様は朝の見回りを済ませ、ぽかぽかと暖かな陽射しの中、遠い昔に里の人々にもらった座布団の上で、うとうとと、しておりました。


「わたしみーちゃん、あなたはだあれ?」


 びっくりした小さな神様が飛び起きると、そこには祠の扉をのぞき込んでいる小さな女の子が立っています。

 女の子は、水色の上着を着てその下から桃色のスカートが見えます。背中の真ん中程もある髪は栗色で、春の陽射しにきらきらと輝いています。


 大きなまあるい目とにこにこと笑いかけている桜色の口がとっても可愛らしいな、と思いながら、小さな神様も答えます。


「わたしは、この里の守り神です」


「このさとのまもりがみさん。ずいぶんながい、おなまえなのね」


 みーちゃんは首をかしげながら、小さな神様をじっと見つめています。小さな神様はちょっと困ってしまいました。名前、名前……と考えて、そういえば大昔に、大きな神様から「お前は小さな神だ」と言われた事を思い出しました。


「ええと、名前は、小さな神です」


「ちっちゃなかみちゃん、っていうのね。おともだちだね。なかよくしようね」


 お友達って、何だろう。それにしても、どうしてこの女の子には、わたしが見えているのでしょう。わたしの姿は、人には光にしか見えないはずなのに。

 ちょっとドキドキしながら、小さな神様はみーちゃんに尋ねてみました。


「わたしの姿が見えるのですね。どんな風に見えますか?」


 みーちゃんは、どうしてそんな事を聞くのかしら、と思いながらかみちゃんを見つめました。


「うーん、かみのけはくろくて、おめめもくろくて、いろがきらきらかわる、きものをきていて、とってもちっちゃい。おててにのるくらい。それと、とってもとってもかわいいわ」


 小さな神様は、自分の姿はそんな風に見えているのだな、と思いました。それから可愛い? 可愛いのはみーちゃんです。

 仲良くしようなんて、言われた事はありません。今までお願いごとやお礼を言われた事はあります。昔々の事ですが。でも、その時も小さな神様の姿が見える人はいませんでした。里の人々には、祠の中でほんのりと光る光が見えただけでした。その光さえ、見えない人が段々と増えていったのです。


 ですから小さな神様は、すっかり嬉しくなりました。嬉しい気持ちは、そのまま小さな神様の力に変わっていきました。


「あれっ、かみちゃん、ちょっとおおきくなったみたい。きもののいろも、クルクルとかわってるよ!」


 小さな神様が嬉しい気持ちにほかほかしていると、みーちゃんがそんな事を言いだしました。


 そういえば、ほんの少しだけ、みーちゃんの姿が小さくなった気がします。自分では気がつかなかったのですが、力が増えると体も少しずつ大きくなるようです。

 もしかしたら、もうすぐ消えてしまうかもしれないな……そんな風に思っていた小さな神様は、みーちゃんに心からのお礼を言いました。


「みーちゃん、どうもありがとうございます。わたしの姿を見てくれる人は今までいませんでした。仲良くしようと言われたのも初めてです。とても嬉しくなったので、大きくなれたみたいです」


 みーちゃんには、どうしてかみちゃんを見てくれる人が今までいなかったのか、嬉しいと大きくなるのは何故なのか、難しい事はわかりませんでした。でも、かみちゃんがとても喜んでくれたのはわかりましたので、みーちゃんも嬉しくなりました。


「かみちゃん、よかったねえ。これからいっぱいあそぼうね」


「でもわたしは、ここを動く事はできません。そうだ! よかったらみーちゃんの事をお話してくれませんか?」


「うん、いいよ。ええとねえ、みーちゃんはね……」


 それから小さな神様は、みーちゃんが幼稚園という所に通っている事、お家がこの祠のすぐお隣りにあって、昨日お引越しをしてきた事、お花やお花が咲く木が大好きな事を知りました。

 そして、お話する時パタパタと大きく手を動かす事や、その笑顔がとても可愛くて、小さな神様の胸の辺りが何だかきゅっと捕まれた様な気がする事も。


 そうして小さな神様とみーちゃんが楽しく話をしていると、どこからか、みーちゃんを呼んでいる声が聞こえてきました。


「あっ、おかあさんがよんでいるから、もうかえるね。またあそぼうね。バイバイ」


 駆け出して行くみーちゃんに向かって、小さな神様も大きな声で言いました。


「ありがとう。可愛いみーちゃん!」


 みーちゃんはお家に帰っても、祠の中にいた、ちっちゃなかみちゃんの事は誰にも話しませんでした。誰にも見えないと聞いていたからです。

 でも素敵なお友達ができて、嬉しくてにこにことしていましたので、お母さんもお父さんも、そんなみーちゃんを見て嬉しく思ったのでした。



 春が過ぎ、夏が過ぎ、季節が変わっていっても、小さな神様の元にはみーちゃんが遊びにやって来ては、沢山のお話をしていきました。小さな神様も毎日働きながら、みーちゃんのお話を楽しく聞いて、沢山の元気をもらっておりました。


 みーちゃんは、ぐんぐん大きくなっていきました。小さな神様もほんの少しずつですが、大きくなっていきました。いつでも仲良しで、いつでも笑いあっているのがいつまでも続くのだと、みーちゃんも小さな神様も思っていました。ずっと、ずっと一緒に楽しい時間を過ごせるのだと。




 ある朝の事です。その日も朝の見回りを済ませた小さな神様は、祠の中の座布団に座りながら、みーちゃん遊びに来てくれないかな、といつかのような、穏やかな春の陽射しを浴びながら、うとうととしていました。


 その時です。

 冷たい何かが小さな神様の胸の中を走り抜けました。


「みーちゃん!!!!」


 小さな神様は叫びました。それはそれは大きな声で叫びました。叫びながら祠を思わず飛び出すと、そこにはおばあちゃんになっても変わらずに可愛い、みーちゃんの姿がありました。


 みーちゃんは小さな神様に微笑みかけています。でもその大きな瞳からは、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちていました。


「かみちゃん、今まで楽しかったよ。ずっと仲良しでいてくれて、本当にどうもありがとう」


 小さな神様が何も言えないでいるうちに、みーちゃんの姿が春の穏やかな陽射しの中に溶けていきました。みーちゃんは大きな神様のもとへと旅立っていったのです。


 小さな神様にとって、人の一生は、あっという間です。楽しくて嬉しい毎日が、こんなにも早く終わりを迎えるなんて、思ってもみなかったのです。みーちゃんがいなくなってしまうなんて、考えた事もなかったのです。


 小さな神様の黒い瞳から、ポロンポロンと涙があふれています。胸の中にはぽっかりと大きな穴が空いてしまったかのようです。頭の中は、可愛いみーちゃんの笑顔と今までの楽しくて嬉しい時間ばかりが浮かんでいました。


「みーちゃん、みーちゃん…………」



 小さな神様はそれからの日々も、里のために働き続けました。でもその瞳から流れる涙と共に、小さな神様の体も次第に小さくなっていきました。その事にさえ気づかずに、時間だけが静かに過ぎていきました。




 そんな小さな神様の事をずっと見守っていたのは、小さな神様を里に送り出した大きな神様です。そのすぐそばには、若い綺麗な女の人が心配そうな顔をして、小さな神様を見つめていました。


「フム、もう人には戻れなくなるが、本当に良いのかね?」


 綺麗な女の人は、大きな神様を見上げ、綺麗で可愛い笑顔を向けてはっきりと答えました。


「はい。ずっと一緒にいたいのです」


「では、お行き。小さな神を頼んだよ」



 

 誰もが寝静まった、静かな静かな夜の事です。流れ星が一つ、祠の近くにそっと降りてきました。


 そしてそこには、大きく両手を広げた小さな神様の姿がありました。





「幸せにおなり」


 そんな声が満天の星空から届きました。



***了***





 


初投稿です。ある日夢の中に出てきて、そのまま頭の中に居座ってくれた、小さな神様です。

抵抗虚しく、ン十年ぶりに、書かされました。

イロイロと突っ込み所があるかと思いますが、スルーして頂けると嬉しいです。


10月16日追記

お読み下さってありがとうございます。お礼がわりに、掌編を投稿しています。

よろしければ、遊びにいらして下さいませ(^^*)「風が吹いているよ」です。

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