第六話
「やられた!!」
ヴェルナーは指揮シートから立ち上がった。
「直撃来ます!!」
オペレーターの報告が早いか、サターンの機関部に直撃弾が命中し、大きな振動がヴェルナーたちを襲った。
「第一、第二機関部、大破!!」
「すぐに切り離せ!」
サターン艦長のミハイル・ブラウン中佐が即断した。サターンはこれによって機動力を喪失し、艦としての運動がほぼ不可能になったが、この判断がなければ、ヴェルナーもナオもそして、サターンも宇宙の塵となっていただろう。だが、サターンの危機はこれだけに終わらなかった。
「敵艦、真正面!!」
機関部が使い物にならなくなったサターンは最早瀕死の状態だった。目の前の巡航艦がヴェルナーにはヴァルハラの使いのように見えた。
「ナオさん!」
ヴェルナーはナオの名前を呼んだ。ヴェルナーは傍らのナオを一瞬見つめ、すまない、11年前の誓いを守れそうにないと心の中で謝った。敵艦の中性子ビーム砲が煌めいたその時、敵艦が爆発した。
「司令官! 無事ですか!!」
アデナウアー率いる空戦隊がドレイク艦隊に追いついた。空戦隊はドレイク艦隊の背後を再度攻撃したが、いかんせんこちらも数を減らされており、大した損害を与えることが出来なかった。ヴェルナー艦隊は戦線を維持することも不可能になり、あとは殲滅されるだけかに思われた。だが、ドレイク艦隊はそのまま、逃走を図ってヴェルナー艦隊から離れていった。次の瞬間、ヴェルナー艦隊の真正面に三〇〇〇隻もの艦隊が現れた。ヴェルナーからの応援要請を受けた、バーラト自治政府軍のラオ中将率いる艦隊が救援に現れたのだった。
「この損害では追撃戦は無理ですね」
ブラウンはヴェルナーに言った。
「あぁ、そうだな。直ちに帰投しよう。それからアルベルトを呼んでくれ」
直ちにアジェナ艦長のアルベルトが呼ばれた。モニター越しにアルベルトは敬礼した。
「サターンが大破して満足に動けない。済まないが基地まで引っ張っていってくれ」
ヴェルナーが後輩に頼むと、アルベルトは破顔して言った。
「お任せください。酔った先輩を送り届けるのは士官学校時代から僕の役目でしたからね。お安い御用です」
ナオとヴェルナーはお互いを見合わせ笑った。アルベルトはそれではと通信を切った。
「恐るべき敵だった。あのまま戦っていたら、俺たちは間違いなく死んでいた」
「えぇ……そうね。私達ももっと戦い方を考えないといけないわ」
ナオとヴェルナーはそれぞれ、海賊騎士との闘いを反芻していた。二人は尊敬と脅威に値する敵を同時に得たのであった。そして、彼が特務艦隊としてバーラト星系を離れるまで、幾度となく、ドレイクとの激戦を繰り広げていくのである。
ドレイクもまた、自身の旗艦の中で、道化師とあだ名したヴェルナーのことを思い出していた。
「大した敵だった。今まで戦った帝国軍のだれよりも強かった」
「若……ご機嫌のようですな」
側近のテオドールが言った。ドレイクは少し笑って言った。
「ふ……顔に出てしまったか。また、戦場で相見えるのが楽しみだ。今回は邪魔が入ったが、次はヤツをしとめてやろう」
こうして、新帝国暦二一年一月二十日、俗に言うケリム星域遭遇戦は双方退却という結果で幕を閉じた。ドレイクとヴェルナー、二人の闘いは続いていく……
ついに現れたヴェルナーの好敵手。
次回作にも登場します。
次の銀河英雄年代史外伝シリーズをお楽しみに!
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