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〇〇〇〇〇は俺の嫁

作者: 向井 かむ

 嫁が欲しい。

 春彦は思った。

 恋愛は片思いしかしたことがない彼は、日々に疲れていた。

 毎日疲れて帰っても、あるのはゴミの山と万年床だけ。布団を最後に干したのはいつだったろう。

 そんなことを考えながら春彦はコンビニ弁当のラップを外した。

「テレビでもみるか」

 独り言でも言わないと、自分の声を忘れてしまいそうだった。もちろん仕事場で必要な時は話している。しかしそれはよそ行きの声でしかないから、家での独り言は彼にとって無くてはならないものなのだ。

 テレビはたいして面白い番組がやっていなかった。

「嫁がいたら」

 嫁が掃除をしてくれて、ご飯作ってくれて、布団を干してくれて、面白くないテレビでもボケたことを言って笑わせてくれるだろうか。明るい嫁なら少しくらい容姿が悪くても許容範囲かも知れない。

「ま、養う金が無いけどな、ハ、ハ、ハ」

 春彦が笑うと、突然外が光り

「その役私が任された!」

 細身のシルエットが現れた。春彦が窓を開けベランダに出ると、ちんちくりんの勝ち気そうな女の子がいた。

……隣の家に

「なんだ、また隣か」

 隣人の高山は春彦の高校の同級生でそれから7年の腐れ縁である。幼少の頃からトラブル体質で男前。暑苦しい人間だった。あと一時間もしたら、また相談に来るのだろう。

 信頼されている証なのだが、ここのところ高山も忙しいらしくトラブル以外で春彦に会うことが少なくなっていたため、春彦は少々うっとおしく思っていた。

 窓をしっかり施錠して春彦は弁当を食べるのを再開した。テレビは青春ドラマをやっていたが、告白シーンがムカついたので消した。 弁当を食べ終え、どうせ高山が来るのだろうと思っていた春彦は玄関を掃除しだした。


 掃除を始めて5分後、ピンポンとインターホンが鳴った。

 春彦はちょっと早いが高山が来たかと扉を開けた。そこには高山ではなく……

「誰?」

肉感的な女性がいた。

 もちろんベランダのちんちくりんの女とも違う。

 女性は走って来たらしく息をきらせている。

「……っ川内花菜江(かわうちかなえ)、貴方の……」

「俺の?」

「ストーカーです」

 春彦は花菜江の顔を見た。顔が真っ赤である。余りのことに絶句した。花菜江が息を整えている間、春彦はひとつのことに思い至った。

「高山の部屋は隣だよ?」

…そう、俺にトラブルは無縁である。隣の奴が持ってくる以外には。

 春彦がそう発言すると花菜江は目を丸くした。

 そして花菜江は春彦の顔を確認してため息をついた。

 春彦は少しほっとした。誤解は解けたのだと。

「春彦さんって本当に鈍感なのね。盗聴器を4つも仕掛けても気付かないし、そういうところも好きなのだけれど」

 花菜江は本当に春彦のストーカーであった。実は盗聴器の他にたまに盗撮もしているのだが、話さないのは嘘ではないと考えている。

……高山ではなく俺にストーカー?しかもこんなにスタイルが良い人が?そして恨みを持っているわけでもないと。

 春彦は思考がフリーズした。

「それで、貴方の嫁候補はどこですか!?私も立候補していいですか?」

「は?」

「隠さなくてもわかっていますよ。しっかり盗聴していたんですから。始まりはストーカーですが私は貴方が好きで好きで堪らないのです」

 俺、告白されている?

「どこまで鈍感なんですか!春彦さんが『嫁がいたら…』など、あれこれ言って、女が『その役私が任された!あなたの味噌汁を毎日作りたいの、好きです!』と言ったら、もちろんあなたの嫁になりたいってことに決まっているじゃないですか!」

 独り言は覚えている。『その役私が任された』のちんちくりんの女も。タイミングが良かったからな。『あなたの味噌汁』は……?

「あ……ドラマの台詞だ」

 春彦は思いだした。ドラマは途中で消したが、確かにちんちくりんと声が似ていたかもしてない。

「え?」

 花菜江はきょとんとしてしまった。

「つまり川内さんは俺とドラマの台詞が会話して聞こえたってこと」

「そんな……。私はそれに嫉妬して……あっ、告白してしまいましたわ〜!」

 今さらながら花菜江は赤くなって今にも倒れそうだ。春彦は花菜江を部屋に入れ、話を聞いた。


 そして三ヶ月後……

「……っというわけで僕の彼女の発言がきっかけに新郎と新婦は出会うことが出来たので、ぜひブーケは彼女にお願いします。花菜江さん、春彦、結婚おめでとう!」

 高山は春彦と花菜江の出会いをストーカー部分はごまかしてスピーチした。

 高山の彼女はあの時『その役私が任された』と言ったその人である。春彦は事情をあまり知らないが、彼女が役を任されてから高山はトラブルが減った。ブーケをと言われ彼女は赤くなっている。

 花菜江と春彦は幸せそうに高砂から笑顔を送る。春彦は花菜江をとても綺麗だと思った。


 最初はストーカーだということで少々怖く思ったが、話していくほど趣味も味の好みもぴったりで、性格も多少焼きもち妬きな以外は問題がなく。

 俺はすぐに花菜江が好きになった。互いに結婚願望が強く、給料は安かったが、節約を頑張ってくれると言われ少々早いが結婚となったのだ。


 白いウェディングドレスの花菜江は今日の主役だ。さぁ、ブーケトスをしよう。

 素敵な花嫁。そして今日から俺の嫁。

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