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〜罰則は誰が為?
 外は風雪。
 小高い丘の上には、教会のような白く荘厳な見た目を持つ大きな館が建っている。
 しかし、周囲には家屋もなく、町へと続く街路灯もない。
 夜が訪れる度に、荘厳なイメージは崩れる。丘にぽつんと建つ館は、さしずめホラーハウスのようだ。

 もちろん見かけだけだが。
 
 どんよりとした重たい雲に覆われ、深い闇が辺りを包む。
 枝が重みに耐え切れず雪を落とし、その音が寂しさを増していた。

 静か過ぎるほど静かで異質な空間が、降りしきる雪の為に生まれていた。
 時折、甲高い声を上げた風が窓を叩く。
 こんな辺鄙へんぴな地にある館の窓にも、それぞれに暖かな灯が見える。
 人の気配があるにも係わらず、灯のない窓が一つ存在していた。
 中からは、ひっきりなしに空しい悲鳴と罵声が響いている。

「もう! いい加減うるさいわよ」
「よくそんな口がきけるよねぇ、マーシャ」

 備え付けの暖炉だんろやランプに、火も入れていない真っ暗な部屋の中。
 マーシャと呼ばれた彼女は、呆れた声で皆をたしなめた。
 それに反論した少女は寒さの為に会話する声にも力が入る。
 一本の蝋燭ろうそくに、布団を頭から被った四人が囲う。
 そう、わずかな熱や光をも逃がさないように。

 その輪から外れたマーシャは、一人右手の紅い爪に、白いマニキュアを塗っている。
 彼女達の隙間から、わずかに……とてもわずかに溢れ出した光を頼りに。

 爪に息を優しく吹きかけながら、何度目になるだろう呆れた視線を四人に向ける。
「なによ、ラウン。私だけ悪いとでも?皆と同じ罰受けてるじゃない」
 確かに「知らない人」から見たら、皆と同じ条件だと思うだろう。

 壁には人災と見て取れる風穴。
 厚手の布で塞いではいるが、はためいている様子から役に立っている感じはしない。
 蝋燭一本尽きるまで、部屋に謹慎。途中で消えたら点けなおしてもいいが、その他火気厳禁。ほぼ「外」である。
 
 しかしながら、マーシャの服装は寒冷地において絶対的に間違っていた。

 本人は嫌がったが教師&生徒達の「見ていて寒い」との反発に、渋々ながら薄手の長袖シャツを肘までたくし上げ、短パン・ロングブーツを履いている。

 普段、部屋ではこの寒さでタンクトップ・短パン・ハイヒールだ。
 薄茶色の長い髪を、器用に大きな髪留めで下に落ちてこないようにまとめている。
 寒風吹きすさぶ中、真ん中分けにし、横に流している前髪が、まるで春風を受けたかのように軽やかに揺れた。

「マママーサ……が、ああああお……ああそう……」
 この中で一番幼い――年の頃をいえば、六歳くらいか――おかっぱ頭の少女、スピアも布団から頭を出す。
 何か言おうとしたのだが、あまりの寒さの為に口が回らず、すぐに布団を被った。
「はぁ?何言ってるのか分かりません〜」
 分かっていてからかうマーシャに、さきほどの少女ラウンが勇気を奮い立たせ、布団から顔を出す。

 ショートカットの黒髪は、首元が弱点だ。勢いをつけるしかない。
 前髪が左右に紅く染まっているが、布団のせいでボサボサに黒髪と絡んでいる。
 しかし、そんな事に気を回せるほど、この状況に余裕など皆無だ。
「マーシャが、あんな遊び、考え付いた上、行動に、移すのが、悪い! って言ってんの!」
 素早く布団を被り直す。

「逆らうと、その布団ひっぺがすわよ?」

 横目で見ながら声をかけると、四人とも布団を内側からしっかりと押さえたようだ。
 ラウンの隣では、布団の中で呟き続ける声が漏れ始めている。
「リシュレ?」
 ラウンは異常を読み取り、冬の寒さとは違う冷たさを感じ取って身震いした。
 布団から出ずに、くぐもった声で名を呼んでみるが、返答はない。

「……寒さをなくするには火ですわよね? こんなに寒いんですもの。多少の炎出すくらい、ディリアズ様だって大目にみて下さいますわ。でも能力禁止と言われましたし……でもでもとても寒いんですもの部屋から少し火が出るくらい――どうって事ないですわよね? でもでもでも……」

 とりあえずは理性が勝っているようだが、時間の問題かもしれない。

「そうだわ。マーシャが面白い遊びみつけた! とか言ったもんでこんな事になっとるんだわ」
「だから、やめてってば! 全部私のせいにするわけ!?」
 震える声を抑え、暗く呟く褐色の肌を持った少女カナンに、マーシャが心外と声を上げる。

「皆がノった時点で、連帯責任でしょ?」
「この状態が『連帯責任』と言える? しかも、誓って、誰も承諾しなかった」
 ラウンが怒りを極力抑えて反論。
 すると酷く傷ついた表情を浮かべ、
「私達、十二歳のうら若き年頃でしょ? だったら元気がいいのは、当然じゃない! それに寒いのは強くても、私が暗いの嫌いなの知ってるくせに……酷いわ!ラウン!」
「………………マーシャのが『酷い』と思う人〜」
 ラウンの声に、半分壊れかけていたリシュレまで、手を上げた。
 四人ともすぐに引っ込めたが。

 蝋燭が揺らめく。やっと蝋は四分の一溶けきったくらいか。
 消えないように、壁に隙間を作らないよう自然と寄り添う。
 蝋が終われば、この罰も終わる。
 まだキーキー騒いで、自分の正当性を主張しているマーシャを無視して、ラウンはこうなった原因を思い返してみた――


 ――本日昼間の出来事だ。
 まだこの頃は、うららかな陽射しがあり、幸せだった。
 事件の言いだしっぺは、もちろんマーシャである。

「聞いて聞いて!授業中、すっっごく面白い遊び思いついたんだけど〜」
「却下で」
 ラウンは先も聞かずに即断した。こんな事を言い出して、まともな意見だった試しがないからだ。
「却下ですわ」
 リシュレも碧眼を細め、マーシャを一瞥いちべつする。
「あ〜そ〜?」
 カナンが本から目を離さず気のない返事を返す。
 その向かいに座り、机の上で宿題のゴーレム作りを進めていたスピアは、困った顔で断った。
「……マーシャ、あきらめてぇ?」

 四人が乗り気ではないにも拘らず、マーシャは話を止めない。
「まぁ、そう言わずにさ〜! でねでね? 部屋の端に瓶を並べて、私が氷でボール作るから、それを転がして何本倒れるかで勝負が決まるの!」
「……マーシャ、パクリはよくないよぉ?」
「スピアに一票」
 二人が同意。カナンは最初から聞いていない為、人数には入れてない。
 さすがにマーシャが唇を尖らせて、
「だって、人里になんてそうそう下りられないし、これならタダじゃない?」
「これだから庶民は困りますわね。無料だなんて言葉に踊らされる私ではなくてよ?」
 リシュレが胸を張り、フワフワロングの金髪を神々しく光らせて、鼻で笑う。
 ただ、さんさんと陽の光が降り注ぐ窓際を背にしている。というだけだが。

 少し踊らされかけたラウンとカナン。タダという言葉は魔物である。

「でも、踊らされなかったわけだし!」
「そうだわ! 見本見せるとかって、勝手に氷球作って放ったのマーシャだて!」
 前にきた固めの長い黒髪を、布団の中で直しながら、見えない所で怒りを燃やすカナン。
「……マーシャの、ばかぁ」
 くぐもった声達の意見は一致し、さすがのマーシャも、そっぽを向く。

 ただでさえ暗い部屋の雰囲気は最悪だ。

「なによ。だったら実力行使してでも止めればよかったじゃない!」
 張本人が、火に油を注ぐ。
「……ラウン、手伝ってぇ?」
 スピアが布団を引きずって、大きなタンスへ向かい、新品のコートを出した。
 意図を理解したラウンは、マーシャの使用してない布団を引っ張り出す。

 コートは、マーシャにも例外なく支給されている物だ。
 コートも布団も必要ないから放ったらかしにしてあった物。
「……マーシャ、これ、使ってぇ?」
 小さなコにしては凄みのある声で差し出す。
 最初は眉をひそめたマーシャも、さすがに理解した。

 そう。『連帯責任』だ。

「な、なによ。だまされないわよ? この部屋にいる事が罰でしょ!?」
「連帯責任だと言うなら、皆と同じだと言い張るなら、同じ格好して」
 二人が詰め寄り、マーシャは唇を噛む。
 この部屋にいる誰を見ても、助けてはくれないだろう。
「か、考えたんだけど!」
「却下で」
「……マーシャが、着てくれたら、聞くぅ」

 聞く耳は持たない。

 右手の爪が紅いマーシャ。
 氷を作り出す事が出来、寒さにも強い。
 しかし、一際ひときわ暑さに弱い。

 この館には「紅い印」を持つ者たちが、集められている。
 「紅い印」を持つ者は、なんらかの能力を生まれ持つ。
 何の力も持たない人間は、彼らの「紅い印」を「血印」と呼び、一括ひとくくりに「紅人」と呼ぶ。
 自分にないモノに嫉妬しっとし、畏怖いふし、差別の対象とするのだ。

 昔は、産まれてすぐ殺してしまう事も少なくなかった。
 他の住民に知られたら両親も迫害され、殺されかねない。
 そんな時期も、確かにあった。

 もちろん今では、そのような事は減少したが、ないとは言えない。
 悲劇を繰り返さない為に、この館が作り出された。
 そして、能力を悪しき方向へ使わないよう指導する場でもあるのだ。

 自分たちは、普通の人間である。

 という事を忘れない為に。
 この場にいる五人も、それぞれの能力を有する。
 今は能力関係なく、腕ずくで事を成そうとしているが、マーシャはかたくなに抵抗した。

「氷球。風穴。罰則」
 ラウンは指を一本ずつ立てながら数えてやり、あからさまな作り笑顔で、さらに詰め寄る。
「やらないってんなら、ディリアズ様に報告。あんただけ別の罰則交渉」
「真夏に布団で簀巻きの刑はどうだん?」
 カナンも布団が作り出す暗闇から、目を光らせた。

 白い顔が、目に見えて白くなる。

 執念深い上に、記憶力もいいカナンならやりかねないからだ。
「……分かったわよ」
 ワガママ娘が、やっと折れた。
 着込んだ……着込まされた途端、汗を浮かべ肌が紅潮してくる。
 目に落ち着きがなくなり、悲鳴を上げた。

「あ、あとどれくらいなの!?」

 マーシャの問いに誰も答える事はなく、それぞれ耐え忍びつつ、後はリシュレの言動に気をつけるのみであった。



     血印けついん授かりし赤子 油断するべからず 哀れむべからず
     これを災厄と考えず 警戒を怠る事こそ 過ちなり

                          〜かの地よりある伝承 一部抜粋〜



 結局、キレちゃったリシュレが炎を撒き散らしてしまった。
 いつものようにマーシャが落ち着いて消火。
 その後、ディリアズ様に静かに叱られて、さらに一時間廊下で正座の刑となりました。
 同室になる人間を選べないのは、すっごい理不尽だと思う。

                         〜ラウン その日の日記より抜粋〜

ショートとはいえ、初めて話を完成させた気がします。何でも言い合える友達ってどうだろう?と思って書き出しました。私自身強くありたい、優しくありたいので、それを基本に続けていきたいです。
批評などもお待ちしてます〜(お手柔らかに:笑)


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