第9話・巡る思い
「――――っ?」
痛みも何も感じない。
王ドラは、目をゆっくりと開けてみた。
「え・・・。」
「・・・・・・。」
見れば、明は王ドラの目の前、寸止めで拳を止めていた。
ただ、こちらを見据えているだけ。ごくっと唾をのみ込んでから王ドラはそろそろと尋ねた。
それも、王ドラらしくない言い方で。
「あの・・・。とどめ、刺さないんですか・・・?」
自分は押さえつけられ、動けなかったのに・・・。とどめを刺せない状況ではなかったはずだ。
明は腕を組み、ぶっきらぼうに答えた。
「――とどめは刺さない。今ここでお前を殺しても何の徳もないからな。」
王ドラは明の言葉に戸惑った。
「で、でも・・・。」
「それに、ネロにも別に殺せとは言われ・・・!」
明の言葉は途中で一本のナイフで遮られた。
まっすぐ明に向かって飛んできたそれをいとも簡単に人差し指と中指で取り、無表情のまま明はナイフの飛んできた方向を見て、溜息をついた。
「・・・何のつもりだ。ルゥ。」
投げたのは、ルゥ。怒っているのが表情で分かる。
そして、その傍には・・・・・。
「ドラパン!マタドーラ!ドラニコフ!」
王ドラが悲鳴をあげる。ルゥの周りは、そう。まさに血、いやオイルの海。
赤黒いオイルが海のように広がっている。
ドラパンは腹部から大量のオイルを流し、マタドーラは額からぼたぼたとオイルが流れ、二人とも荒い息をしている。そしてマタドーラの横で倒れているのは・・・・・。
ドラニコフ。
ぴくりとも動かない。
ルゥはマタドーラの剣を隙をついて払い、あの長い爪でマタドーラの額を切り裂いたのだ。そしてドラニコフの頭脳、回路部分を壊し機能を停止させた・・・というわけだ。
それも、たった3秒の・・・間で。
爪に付いたオイルをぺろっと舐めると怒りの表情をあらわにし、ルゥは明を睨む。
「何のつもりだもないよ。」
そう言うなり、すっと明の前に来た。
「さっきから何なんだよ。敵の怪我は治すしとどめは刺さないし。こんな奴ら、さっさと殺せばいいんだ。」
「・・・お前は殺しが好きなのかもしれないが、俺はそんなに好きじゃない。足止めだけで充分だろう。」
淡々と話す明に怒りが込み上げてくるのか、さらにイライラした口調で明に詰め寄る。
「足止めだけで充分・・・?ハッ。笑わせるね。殺しといたほうがいいに決まってる。君が殺らないなら・・・。」
ルゥの紅い瞳が王ドラを捉えた。
王ドラは身構える。
「僕が殺るさ!」
左の長い爪で王ドラを切り裂こうとした。
だが。
「・・・そんな簡単にはやられませんよ。」
そう言いながら王ドラは避けた。・・・しかし、ギリギリだったが。
何とかルゥの軌道を見極め、避けられたのだ。
ルゥは怪しく口元を緩める。
「へぇ・・・。以外にやるねぇ。でも、次は当てるよ。―――明、君は黙って見とくんだね。殺すのが、どんなに楽しいかを。」
ルゥはもう一度王ドラを切り裂こうと左手を上げた。
*
「ドカーン!」
「あっ・・・!」
キッドの放った空気砲は、音の持っているフルートを手から弾き飛ばした。
音の目はフルートを追う。
その隙をキッドは逃さなかった。
素早く音の腹部に空気砲の狙いを定め、叫んだ。
「ドカン!」
見事放たれた弾は当たり、声もなく音は、倒れた。
「やったぜぇ〜〜〜!!こいつ、攻撃は強いけど呆気ねぇな!」
「お見事であ〜る!」
「え?もう?」
ドラえもんはまだ道具を探していて、キッドとドラメッドの言葉に唖然としている。
キッドは半ば呆れながら溜息をついた。
「お前なぁ・・・」
馬鹿じゃねぇの?とは続かなかった。
見ればドラパンとマタドーラはオイルに塗れ、ドラニコフは倒れている。
そして・・・・・。
「王ドラ!」
ルゥが王ドラに攻撃しようとしている。止めなきゃ・・・!
キッドは空気砲を撃とうとした。
しかし、こんな時にエネルギー切れなのかもう空気砲は使い道にならない。煙が出てきている。
キッドは舌打ちを打ち、ルゥに向かって走り出そうとした。すると。
ドラメッドが早口に呪文を唱え始めた。
「――――炎よ、ルゥを包み込むであ〜る!」
*
「あ・・・っっ!」
「え!?」
突然炎が現れ、ルゥは避けきれず炎の渦に巻き込まれ、倒れた。
唖然としてふと見れば、ドラメッド達が息を弾ませてこちらへ来る。
「ドラメッド!」
「王ドラ!大丈夫であ〜るか?」
「えぇ!ありがとうございます。私は大丈夫なのですが・・・。」
言いながら王ドラはドラパン達の方を見やり、すぐに駆け寄った。
「大丈夫ですか?すぐに治療しますから!」
四次元袖から薬や包帯を次々と出す。王ドラは医者も目指しているらしく、いつも持ち歩いているらしい。
まず一番重症であろうドラパンから治療を始めた。
腹部の出血が酷く、なかなかオイルは止まらなかった。
キッドも手伝い、ドラリーニョの様子を見た。しかしただ気絶しているだけらしいので、とりあえず寝かせておく事にした。そしてドラニコフの治療もしようとしたが・・・・正直お手上げ。
機械などの修理はした事がないのだ。
第一キッドは細かい作業は苦手。仕方ないので王ドラにやってもらうことにした。
ドラえもんもお医者さんごっこかばんを取り出し、あたふたとマタドーラに薬を塗りはじめた。
マタドーラが少し笑って言った。
「王ドラ・・・セニョリータにやってほしかったな・・・。」
その言葉を聞いたとたん、王ドラは般若のような恐ろしい顔でマタドーラを睨みつけた。
「私は女じゃありませんっ!!」
そう一言きつく言うと、ドラパンに向き直り、また薬を塗って包帯を巻き始めた。
マタドーラは一つ短い溜息をつき、あたふたと自分の傷口に薬を塗るドラえもんを黙ってみていた。
ドラパンのほうは、王ドラの薬の効果もあってか大分オイルが止まってきた。
ドラメッドが心配そうにドラパンに聞く。
「大丈夫であ〜るか・・・?」
「大丈夫だ・・・。私は大怪盗ドラパン様だぞ・・・?」
そう言う言葉にもどことなく力がなく、ドラメッドに少し微笑むと王ドラに包帯を巻いてもらっていた。
テキパキとやる王ドラを見てドラパンは言った。
「・・・お前、良い医者になれるな。」
「―――ありがとうございます。」
少し笑みを浮かべ、最後にキュッときつく包帯を巻いた。
「はい。終わり。あまり動かないで下さいよ。」
「・・・ありがとう。」
(めずらし・・・。)
瞳を丸くして、マタドーラはドラえもんに不器用にぐしゃぐしゃと包帯を巻かれながら思った。
あの、プライドの高いドラパンが人にお礼を?
んな馬鹿な。
そう思っていると。
「ん・・・。あれぇ、僕何してたんだっけ・・・?」
「ドラリーニョ!」
真っ先にその言葉に反応したのはドラメッド。すぐにドラリーニョの元に駆け寄った。
ぼんやりとした瞳でキョロキョロと辺りを見渡し、きょとんとしている。
そのドラリーニョにドラメッドは抱きついて泣き出した。
「ドラリーニョ〜〜〜。良かったであ〜〜る〜〜。」
「え〜?どうしたの?ドラメッド。」
自分に何があったのかよく覚えていないのかきょとんとして泣いているドラメッドを黙って見つめていた。
キッドがドラリーニョの頭にぽんと手をのせ、微笑んだ。
「お前、何があったのか覚えてないのか?ずっと気絶してたんだぞ。」
「え〜〜?覚えてないよぉ。」
そう答えるドラリーニョの黄緑色の髪をくしゃ、となでた。
――――しょーがねーな。こいつは。
いつまでも、弟みたいで。
年は一緒のはずなのに。ほっとけなくて・・・。
ドラメッドの気持ちも、分かる気がする。
そこまで思ってキッドは苦笑した。
俺は保護者か。
キッドは一人笑ってドラリーニョの事はドラメッドに任せてマタドーラの元に行った。
「大丈夫か?お前。」
「まーな。・・・ドラえもん。お前、もうちょっとマシに巻けないのか?」
「そんな事言われても・・・。」
包帯を巻いているのかぐしゃぐしゃとただ丸めているのか分からない巻き方で、ドラえもんはマタドーラの治療をしていた。
・・・というよりも、あたふたしているだけ、と言ったほうが良いかもしれない。
呆れたように溜息をついて、王ドラがドラえもんから包帯を引ったくり、包帯をほどいた。
困惑しながらマタドーラは包帯を手早くほどく王ドラを見ていた。
王ドラは包帯をほどきながら、ドラえもんの方には向かずに言った。
「何やってるんですか。以外に不器用ですねドラえもん。」
「しょうがないじゃないか。どーせ僕は不器用ですよっ。」
「あーあ、ドラえもんがスネちゃった。」
マタドーラが皮肉っぽく王ドラに言う。
「良いから黙ってなさい。さもないとその怪我したところを殴りますよ。」
「おーコワ。わかったよ。だから睨むなって。」
「・・・・・。」
反対に王ドラも黙り、手早く包帯を巻き始めた。
その様子を見て、マタドーラは苦笑した。
―――さっきは怒ってたくせにやってくれるのか。
包帯をキュッと巻き終われた時、マタドーラは王ドラの目を見てお礼を言った。
「ありがとな。」
「別に・・・。良いですよ。」
そう言いながら少し頬を赤らめる王ドラを見て、マタドーラはからかい口調で王ドラの頬をつついた。
「頬が赤いですよ、セニョリータ♪」
「セニョリータじゃありませんっ!!何度言わせたら彼方は気がすむんですか!」
その言葉を聞くなり王ドラは思い切りマタドーラを睨みつけてドラニコフの方へ行ってしまった。
今度は本気で怒ったのか、本当に、冷たい睨みだった。
マタドーラはふぅ と小さな溜息をついた。
俺、なにやってんだか。
もうちょっと、感謝しても良かったんじゃねぇ?
でも時すでに遅し。あの怒りようでは今何をいっても無駄だろう。
そう思ってマタドーラはシエスタしはじめた。
*
「―――なぁ、王ドラ。」
「何ですか。」
「いや、何でも・・・。」
キッドは口ごもる。
何でもないわけねぇだろ。・・・どうしちまったんだよ。
キッドは王ドラの顔を盗み見た。
大分怒っているらしい、という事は分かる。
しっかしこれだけ王ドラを怒らせたのは・・・・。
ちらっと斜め後ろの方を見る。そこには、シエスタし始めたマタドーラ。
―――こいつしかいねぇな。たぶん。
キッドは一人納得する。
ったく、こいつら2人はしょっちゅう喧嘩すんだから。
もうちょっと素直になれねぇのかよ。
そこまで思ってまたキッドは苦笑して目を閉じた。
何か思うときはよく目を瞑る。
素直になれない。
それは俺もか。
・・・・・でも、あいつもいけねぇんだぞ。毎回毎回怒りやがって・・・。ガサツ君とか言うし・・・。
そこで、ハッとキッドは目を開けた。
――――え?ガサツ君?
誰の事だ?
一瞬、黄色い姿が目に浮かんで消え、ひまわりのような笑顔が、残った。
くそっ!
キッドはギリッと歯軋りする。
絶対に知っている。
誰だ?お前は誰なんだ?
何故、俺は忘れてる? |