勧誘
呼び鈴が鳴った。インターホンの受話器を取る。
「はい、どちら様?」
「こんにちは〜マーダー商会の者ですが、殺したい人間はいらっしゃいませんか?」
「ウチは間に合ってるわ。今ちょっと手が離せないし。他を当たってちょうだい」
「まあそう言わずに奥さん。殺したい相手の一人や二人、いますでしょう? 各種プランをご用意させていただいておりますので、この機会に是非」
「結構です!」
「今なら無料キャンペーンでお一人様をタダで殺させていただいているのですが」
「えっ無料で?」
「おっ食いつきましたね。主婦は無料という言葉に実に弱い」
「ばっ……馬鹿にしないでちょうだい。そんな甘い口車に乗せられるものですか。タダとか言って、どうせ高い契約金ふんだくって、殺したらそのままトンズラするつもりなんでしょ」
「まっさか〜。その点はご安心を。事後処理に抜かりはございません。死体もちゃ〜んとお客様のご要望に応じた形で処分させていただきますので」
「ホントに?」
「ホントですとも。僕の目を見て下さい。この澄んだ目を。嘘ついてるように見えます?」
「受話器越しに見えるわけないでしょ」
「あ、そうか。だったら早く玄関開けて下さいよ」
「……分かったわ。お願いしようかしら。ちょうど今主人を殺しちゃって、どう処分しようか困ってたところなの」