13くち 1
13くち「俺とお前のサウダーデ!嗚呼、麗しの日本国!!」
イギリスの数学者、論理学者、写真家、作家、詩人である、ルイス・キャロル曰く、「彼は私の夢の一部分であると同時に、私も彼の夢の一部分だった」
春。
花美先輩を含めた三年生部員達は卒業してゆき、二年生だったマシューは三年生に進級した。
残された時間はわずか一年となったが、それでもマシューは未だ決断が出来ないでいた。
日本で生きるのか、アメリカで生きるのか。
日本に残りたい気持ちは強い。ここが一人落ち着ける場所だと信じている。
けれど、果たしてこの国に残り続けてその先になにがあるのか。アメリカにしたってそうだ。
アメリカにいたって日本にいたって、どこにいたって、自分はどこにいたら良いのかが、マシューには分からなかった。
いてどうする?いてどうなる?
疑問を解消する答えが無い。居場所が無い。行きたいところも、行くべきところも。
バートと共演した「汚名なるウェル・メイド・プレイ」の一件で、マシューは余計に自分のことが分からなくなっていた。
公演が終わってから花美先輩らが卒業していってしまうまでの一か月も、今も、ずっと考えている。
これからどうしよう。
なにかが変わると思っていた。
良い方向に変えられる気がしていた。
その逆だった。
授業中、大きな溜息を零してしまい、担任の教師に心配され、その後新しいクラスメイトにまで「大丈夫か」と声をかけられ、問題無いように振る舞うことすら億劫だった。
人目を避けるべく、学校の裏庭の花壇に屈み込んで、草むしりをして休み時間を過ごした。
昨年の冬から信任された生徒会長としての役割もこなす必要がある為、人から逃げたのは一度目の休み時間だけだった。
やってみよう。
やってみたい。
やり遂げたい。
そう胸に抱き立候補し、勝ち取った生徒会長の座だと言うのに、残業を押し付けられて嫌々働かされているようなつまらない顔をした自分が、放課後の生徒会会議で指揮を執っていた。
もはや、なんの為に立候補したのかすら覚えていない。
会議が終わると、急ぎ足で演劇部が集まる行動に向かい、今度は部長として部をまとめにかかる。
創作脚本を担当していた花美先輩はいなくなったものの、彼女が「発表したかったけどし切れなかった」と言って残していった台本が十五冊もあった為、あと二年は脚本担当が不在であっても困らないほどだ。
大会など、公に披露する場合は、現在所属している部員が既存作品か創作脚本を担当する必要があるけれど、校内での舞台発表は、当分花美先輩の脚本でやっていけるだろう。
キャストも割り振られているらしく、一部の台本の隅にいくつか「主演 日国マシュー」と書き込まれているものがあった。
「……」
嬉しいはずなのに、楽しいはずなのに、学校も、生徒会も、演劇も、趣味のガーデニングやカードゲームすら、なんだか最近、好きだったことや熱中していたものに、気持ちが昂ることが無くなっていた。