中途半端な優しさ――
雨粒をどっさり携えていそうなどんより雲。
黒いコンクリの街道にはまばらな水溜りが。
しかし、手に持つ傘は濡れていない。
ラッキーだと、僕は思う。
朝の登校、雨に降られながらばしゃばしゃと歩くのは嫌なことこの上なかった。
雨が嫌いだから、雨が降っているだけで気分は憂鬱なのだけれど。
……体育がなくなると思えば、雨には降ってほしかったりするけど。
それでも、雨の日の登校はつらい。
傘では防ぎきれない雨。
冷たい水蒸気を含んだせいで冷たい風。
一歩歩くごとに傘の範囲からはみ出し、濡れてしまう脚。
べったりとまではいかないけれど、雨粒を受けたズボンは結構べたべたしている。
これも、雨の嫌な面だ。
降り止んでいる内にさっさと帰ろうかと、歩みを速めたとき。
「……ん?」
足先に、妙な感触を感じた。
視線を下ろす。
「……」
小さな、拳ほどのぬいぐるみが落ちていた。
周りに人はいない。落とし主は、このぬいぐるみを落としたとまだ気づいていないのだろうか。
拾い上げようかと思って、雨に対しての鬱憤がその邪魔をした。
少しだけ、ぬいぐるみの前で立ち尽くして――
「……」
僕は、その横を歩き抜けることにした。
少し歩いて、僕の家のある官舎の門前に着く。
そこを過ぎれば、あと一息で帰宅完了なのだけれど――
「……」
僕は、門の前に立ち尽くしてしまった。
振り返る。
今まで歩いて来た道。水溜りがしばしば。少しもどれば、あのぬいぐるみが見れるだろう。
僕は早足で来た道をもどり、ぬいぐるみをひょいっと持ち上げた。
官舎と街道の区分となっている、肩ほどまでの壁へとそれをそっと置く。
手先が少し濡れてしまった。
でも、そんなことはどうしても気にならなかった。
少し愛らしく思い始めたぬいぐるみから視線をはずし、歩みを再会する。
雨の憂鬱は、少しだけ晴れていた。
帰宅。制服を脱いで、私服に着替えて、ほっと一息。自室に入り込んで、イスに深く座った。
何をしようかと、勉強でもしようかと思ったそのとき。
「あ……」
思わず硬直して聞き入ってしまう。
雨音。ついに降り出してしまったようだ。
雨に降られずに済んだと思いつつも、素直に喜べない。
ぬいぐるみの姿が、脳裏にちらつく。
雨はどんどん音を激しく、強くしていっている。
僕は固まったまま、彼方のぬいぐるみに目を凝らすしかなかった。
偽善的な優しさ――
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