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インター!─ルドプスを埋葬せよ─ 作者:倉永さな

  *三章 インターは魔法使い? それとも化け物?

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06

     *

 ウィータ国は地の女神の過剰なまでの恩恵とそれを最大限に生かす温暖な気候が特徴だ。年間を通じて気温はほとんど変わらず、大変過ごしやすい。
 天気も晴れの日と雨の日の半々くらい。ただ、どんなに快晴の日でも、不思議と雲がなくならない場所があった。
 人々はそこを雲の吹き溜まりと呼んでいた。

     *

 ミツルはラディクと共にパーニャを片手に城に向かいながら城下町の案内をしていた。

「ところで、ラディク」

 ミツルはすでにパーニャを食べきっていたが、ラディクは歩きながら食べるということをあまりしたことがないようで苦戦しているようだったので、足を止めて道の端へ避けた。
 ラディクはミツルが止まってくれたことに安堵しつつ、パーニャを貪るように食べている。その様子を見ていると、ナユを思い出す。
 この豊かな国で食べられないことがあったとは、インターよりも待遇がひどかったのではないか。
 そんなことを思っていると、ラディクは食べ終わったようだった。

「どうだ?」
「はい、とっても美味しかったです!」

 嬉しそうに笑うラディクにうなずきを返し、ミツルは口を開いた。

「ここは城下町だが、町の名前を知っているか」

 ミツルの突然の質問にラディクは瞬いた後、首を横に振った。
 この国で城下町と呼ばれるのはここだけということもあり、町の名前で呼ばれるよりも城下町と言った方が話が通じやすい。
 ここに住んでいる人たちでさえ町の正式名称を知らない人がいるのだから、ラディクが知らなくても不思議はない。

「ドラクラ・ギガスという名前だ」
「ド……?」

 ラディクが予想どおりに戸惑っているのを見て、ミツルは笑った。ラディクは唇を尖らせてミツルを見上げた。その視線を受け、ミツルは笑みを深めた。

「長い名前だから、だれも正式名称では呼んでないな。城下町といえば通じる」

 ミツルは人が行き合う様子を目を細めて見ながら、ナユにも同じ話をしたときのことを思い出した。
 ナユに同じ質問をしたとき、あのない胸を思いっきり反らせて自信満々に『ドラクラ・ギガスでしょ』と答えた。それが意外で目を丸くしてナユを見ていたら、急にもじもじとして、クラウディアのお店で働き始めるまでは知らなかったのよ、と補足した。
 どうしてそこで胸を張って威張るのではなく恥ずかしがるのか分からなかったが、その恥じらう姿がかわいくて、ミツルは顔が緩んでデレているのが自分でもよく分かった。そのときはだれもつっこみ要員がいなくてよかったのだか、悪かったのだか。
 ナユに顔が赤くなっていることをからかわれたのもいい思い出だ。
 ……いや、ここで思い出にしてはいけない。
 なにをしてもナユと結びつけてしまう自分に苦笑しつつラディクを見ると、またもや心配そうな表情でこちらを見ていた。

「あの」
「なんだ」
「その……どこか悪かったりしますか」

 うかがうような視線と言葉に、ミツルはラディクの焦げ茶の髪の毛をぐちゃっとかき回した。

「うわぁ!」
「どこも悪くねーよ」

 こんな風に心配されたことがほとんどないためにミツルは戸惑い、照れ隠しのようにラディクの髪の毛を再度、撫でた。

「心配しなくても、俺は殺しても死なないらしいから大丈夫だ」
「でも」

 ラディクは眉尻を下げ、ミツルを見た。
 そういえば、と思い出す。
 昨日、ラディクは親しくしていた人を亡くして、さらにその死体を盗まれていた。あの甲高い声のガキから取り戻さなければならない。

「心配するな。おまえの大切なエスト、取り戻してやるから」
「……はい」

 そうだ、やることはたくさんある。こんなところでぼんやりとしている場合ではなかった。
 ミツルは気合いを入れるために自分の頬を軽く叩いた後、ラディクに行く先を示すように指で示すと共に胸を張った。

「さて、城に行くぞ!」

 ラディクは不思議そうにミツルを見た後、一言。

「さっき、お城はこちらだと説明した方向の反対ですけど?」
「…………」

 との突っ込みに、ナユの方向音痴まで移ってしまったのかとミツルは思わず苦笑して、それから咳払いをして誤魔化した。

     *

 城へと赴き、いつものように入城の手続きをしていると、血相を変えた見覚えのある女性が廊下を走ってきているのが視界の端に見えた。
 ミツルは指定の用紙に必要事項を書き込んでから、顔を上げた。
 向こうはミツルが気がついたことで少しだけ表情と足を緩めた。

「カルミさん、おはようございます。そんなに血相を変えて、どうしたのですか」
「あぁ! サトチさん、いいところに来てくださいました!」

 そういってミツルの前まで走り寄ってきたのは、インター対応室の室長であるカルミ・ヒルダだ。ひとつにまとめた焦げ茶色の髪を振り乱しているさまを見て、ミツルは表情を険しくした。
 ヒルダはミツルの前まで来ると肩で息をしながら話し始めようとしたので、ミツルは手でそれを制した。

「息を整えて、落ち着いてから話してください」
「しっ、しかし!」

 それでも話そうとしているヒルダに、ミツルは苦笑した。
 ヒルダは普段はとても落ち着いた人なのだが、一度問題が起こると支離滅裂な言動を取り始めて事態が余計に混迷を極めるのをミツルは知っているためそう言ったのだが、今回は大丈夫だった。

「だって、死体がなくなったんですよっ!」

 ヒルダの一言に、ミツルとラディクは思わず顔を見合わせた。
 ヒルダはそれをどう受け止めたのか、顔を赤くしてさらになにか言おうとしたのだが、またもやミツルが手で制した。

「そのことなら、知っています」
「それなら、どうしてそんなに平然とっ!」

 ミツルはそんなことないと首を振り、ラディクを示した。ヒルダはそこでようやくラディクに気がついたようだ。不思議そうな表情をしているヒルダに、ミツルは説明した。

「ここにいる彼も当事者です」
「……え!」

 ラディクを城に連れてきたのは登録の件もあったのだが、一応は死体が盗まれたことも報告しておかなければならないだろうと思ったからだ。
 そもそもがこの国であろうがなかろうが、死体を盗んでも取り扱いに困るだけだ。ましてや、ウィータ国では死体に土が付くと意志を持たない動く死体となり、生者の命を脅かす驚異の存在となるのだ。

「それで、サトチさん!」
「あ、はい」
「国王陛下がこの件でお呼びです」

 予想もしていなかった人物の名に、ミツルは目を点にしてヒルダを見た。

     *

 ミツルの祖父は自分のことを語ることはほとんどなかったが、今にして思えばそれなりの家に生まれ育ってきたのではないかと思う。
 というのも、ミツルに対して様々なことをとても厳しく躾てきたのだが、ある程度の教養がなければそれはできないのではないかと思えることが祖父が亡くなって、各地を放浪して気がついた。
 その中のひとつに『いつ、いかなるときも恥ずかしくないように身だしなみには気を遣いなさい』という言葉だ。
 本日のミツルは、実家に行った際に強制的に持たされた装飾のない白の長袖ボタンシャツに黒に近い下穿き、その上に裾が少し長めのフードのついたマントを羽織っていた。ちなみに円匙は背負っていない。これは城下町を行き交う男性の比較的標準の服装となる。
 一方のラディクはというと、半袖の薄茶色のシャツに、同じ色の膝丈の下穿きだ。せめてこの上にマントさえ羽織ってくれていればとミツルは思ったが、すでに遅い。
 今回の件、ラディクの証言も重要なのは分かっていたのでミツルは連れて行く気でいた。それに何度か会ったことのある国王はそこそこ寛大であるのを知っていたので、ミツルは少し考えて、自分が着ていたマントを脱ぐとラディクへと羽織らせた。










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