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インター!─ルドプスを埋葬せよ─ 作者:倉永さな

  *三章 インターは魔法使い? それとも化け物?

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04

     *

 城に行くと言ってミツルは一度、事務室を出たが、そういえばとふと思い出したことがあって、部屋へ戻った。
 不意打ちのような状態だったけれど、いちゃついていたら注意してやろうと思ったが、二人はミツルの言葉を忠実に守ったのかどうか分からないが、書類の確認をしようとしていたところだった。室内にはミチしかいない。とはいえ、ユアンが部屋を出ていった様子はないので、隣の部屋にいるのかもしれない。

「あら、どうしたの?」
「ミチに聞きたいことがあったから戻ってきた」
「聞きたいこと?」
「ところで、ユアンは?」

 一応の確認で聞けば、予想どおり、隣の部屋から書類の束を抱えて出てきた。

「ここにいますが」

 ミツルは視界の端でユアンを捕らえた後、ミチにまっすぐな視線を向けた。その視線にミチはたじろいだ。

「ミチ、不躾を承知で聞くのだが」

 ミツルの口からそんな前置きを聞かされると思っていなかったミチは、うなずいて聞こえているという反応しか返せなかった。

「おまえの婚約者だった男のこと、聞いていいか」

 そう聞かれ、ミチはユアンをちらりと見てからミツルを見た。
 なるほど、場合によっては繊細デリケートなものとなるから、さすがのミツルも聞いてきたのだろう。

「内容によるけど」
「かなり踏み込んだことを聞くかもしれない」

 ミツルは、自分が人とズレているという自覚は一応のところはある。ただそれがどうズレているのか分からない。だからそう前置きをした。

「嫌だったら答えないわ」
「それでいい。ただ、その場合は嫌だということだけは教えてほしい」
「分かったわ」

 ミチの返答を聞き、ミツルはまず、と前置きをしてから口を開いた。

「ミチは婚約者が亡くなる前に死体と遭遇したことはないんだな?」

 その確認に、ミチは小さくうなずいた。
 それならばとミツルが質問をする前に、ミチが口を開いた。

「視察といって、あの人は出掛けていったの」
「一人で?」
「いえ。私のいた家より家格が上だったから」

 とそこまで聞いて、ミツルはぼそりと『家格?』と疑問を口にした。

「ちょっと待て」
「はい」
「家格という言葉が出てきたということは、クリスタ家は」
「それなりの家だったわよ」

 ミチ本人があまりにも口が悪いために忘れがちだけど、端々に育ちがいいのだろうと思わせられることはあった。
 ウィータ国は地の女神の恵みが過剰にあるという特性上、国民のほとんどが農業・林業従事者だ。それらを流通させるためにミツルの実家のような商会があったり、法を整備させるために貴族がいたりする。たぶんだが、ミチの実家は数の少ない貴族階級だ。

「かろうじて貴族位に引っかかるような末端だけど、由緒正しいお家柄みたいよ」

 そう言って、ミチは忌々しそうに笑った。

「そんな由緒正しいクリスタ家は、家格が上のとあるお貴族さまの元に嫁ぐことになったの」

 とは言っても、とミチは続ける。

「私とあいつとは幼い頃からの顔見知り、幼なじみみたいなものでしかも生まれたときから決まっていた許嫁だったのよ」

 その辺りの感覚が分からないミツルとユアンからは予想どおりではあったが不思議そうな表情を返されたので、ミチは補足することにした。

「貴族は貴族同士で結婚するのが当たり前なのよ」
「そういうものなのか?」
「えぇ」

 ミツルはユアンに視線を向けたが、ユアンは首を振るだけだった。

「子どもが産まれると、親は子どもの名前を決めると同時に、だれと結婚させるかも決めるのよ」
「は?」
「家の繁栄は歓迎だけど、分散するのは嫌がられるの」
「どういうことだ?」
「大きくなるのはいいの。でも、それが分かれて力を削がれるのを嫌がるの」

 その説明でなんとなくは分かったが、それだと世界はずいぶんと狭いものではないだろうか。

「貴族社会は狭いのよ。そこからはみ出さないようにお互いを監視する役割もあるの」
「……窮屈だな」
「大昔に、野望を持ってしまった一人の貴族によって国がなくなりそうになったから、それ以来みたいよ」

 ウィータ国は温暖な気候と豊富すぎる農作物のおかげで餓えを知らない。豊かな実りがあるため、他国に攻め入って略奪しようなんて思考にはならない。
 そして魅力的な国が他国から攻められてこないのは、ひとえに地の女神の過剰な加護のおかげだ。他国にはウィータ国は豊饒の国であると同時に、死者があふれる国とも伝わっているところもある。
 戦争になりインターが殺された場合や、死体に土が付いた場合、想像を絶する状況になるから間違ってはいない。

「お互いを監視しあっているのと同時に、財産が拡散しないように貴族同士でしか結婚はできないの」

 世界が違うとミツルは思ったが、口にはしなかった。

「だから、私は生まれたときから結婚相手が決まっていたし、向こうもそれを受け入れていた。お互いが当たり前のことだと思っていたはずだった」

 私には特に不満はなかった、とミチは口の中で小さく呟いた。

「ところが、あいつは違っていたのよ」

 ミチから不穏な空気を感じたミツルは、思わずユアンを見た。ユアンも感じ取ったようで、小さく首を振っただけだった。

「それまでは不審な点はなかったのよ。……ううん、違うわ。どれくらい前からだったかはっきり覚えていないけれど、ずいぶんと前から違和感はあったの。でも、それがはっきりしたのは、結婚する日取りが決まってからだった」

 ミチは大きく息を吸い込むと、絞り出すように言葉を口にした。

「あいつが事故に巻き込まれて死んだと聞いて、私は両親とともに視察先に行ったの」

 それは、前にも聞いたことのある話だった。

「その当時、私はまだあいつのことを愛していたと思うわ。予想していなかった出来事に、心が凍り付いていることしか分からなかった。その奥にあるのは、悲しみなのか、他のなにかなのか」

 ミチはそう言った後、うつむいた。

「不幸だと思ったのよ。でも、母だったか父だったか、若くして未亡人にならなくてよかったと呟いたの」

 それを聞いて、そのときはどちらがよかったのかミチには分からなかった。

「あいつが視察するために赴いたのは、国の外れのひどく寂れた小さな村だった。そんな場所だから、インター探しに難航していたの。だからあいつの死体はまだ残っていて」

 そこでミチは言葉を区切ると、ミツルとユアンに視線を向けた。

「あいつの死体に、見知らぬ女が抱きついていたの」
「……は?」
「妹という可能性は?」

 ユアンの質問に、ミチはゆるりと頭を振った。

「あいつに妹はいたけれど、私と仲がよかったわ。でも彼女は、少し前にやはり貴族と結婚していたの。亡くなったことは伝わっていたみたいだけど、身重の身だったし、婚家は厳しくて簡単には出掛けられなかった」
「従姉妹とか、親戚とか」
「いるけれど、みんな私と違ってすぐに動けるような人はいなかった」

 ユアンはそれでもなにか他はないかと悩んだが、なにも見つからなかった。

「その女のことも衝撃だけど、あいつの死体に近寄った途端」

 とミチはそこで言葉を止め、ミツルとユアンを見た。

「ところで、ミツルはともかく、ユアンはいつ頃から自分がインターだと知ったの?」
「私は……いつでしょうか。両親がともにインターでしたから、間違いなくインターだという確信はあったかと思うのですが」
「それでは、インターでなかったら、どうなっていたと思う?」

 ミチの質問の意図が分からなくて、ユアンは首を傾げた。

「インターって、死体があって初めて自分がインターだと自覚をするじゃない?」
「……まぁ、そうだな」

 ミツルは生まれる前からインターだと分かっていたというのは父の証言から初めて知ったが、それでも、自分がインターであると自覚をしたのはまたそれとは違う時期だ。ミチが言うように、死体を見て初めて自分がインターだと自覚をした。

「あの感覚、なんでしょうね。あいつの死体に近寄って、私は知ってしまったのよ」











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