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インター!─ルドプスを埋葬せよ─ 作者:倉永さな

  *三章 インターは魔法使い? それとも化け物?

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01

     *

 アランの一言になんとなく室内の温度が下がったような気がしたが、アランは気にせずに続けた。

「母は大変正義感の強い人でね。どうやら紫色の光をまとっている怪しい人物を見かけたとかで、声を掛けてそのことを咎めたそうだ」
「紫色の光……」
「無謀にもほどがあると思うのだけど、そういう人だったから仕方がない」
「しかし」
「あぁ、言いたいことは分かるよ。そのせいで命を落としたのだからね」
「え……!」

 それまで黙っていたミチが悲鳴に近い声を上げた。

「ミツルから一言もそんな話、聞いていません!」
「ミチさん、と言ったか? あなたはミツルとは」
「少し前までお付き合いをさせていただいていました」
「そうだったのか。ミツルはあなたには心を開いていたと?」
「……それは分かりませんけど。あまり自分のことを話すような人ではないですけど、おじいさまはとても厳しくて、おばあさまは優しかったと聞きました」

 それは先ほど、ミツルの口から聞いたミツルの祖母像と同じだった。

「母はとても厳しい人だったけれど、あの人はもしかしたら、私がインターではなかったことが不満だったのかもしれない」
「……不満?」

 この国で生きていれば、インターの力を持って生まれてくることがどれだけ人生が大変ハードモードか知っているため、歓迎されないはずなのに、インターではないことに不満を持っていたというのはどういうことなのだろうか。

「インターが死ぬとそこが冥府への入口になるから、早く地の女神の元へ送らなければならない。その役割を赤の他人に任せたくないとでも思っていたのか、母はインターの力を持っている子を望んだのだよ」

 アランの言葉に、ユアンは首を振って否定した。

「違うと言うのか?」
「はい。インターが死んだらそこが冥府の入口になるというのは間違っていません。現に私はインターだった両親を一度に亡くし、そのせいで死にかけました」
「ほう? 君のご両親はともにインターだったのか」
「はい。私の両親ですが、殺されました」
「…………っ!」
「二人同時に殺されて、悲しいという感情が出てくるよりもなにが起こったのか分からず混乱していましたが、インターの本能でしょうか。とにかく地の女神の元に一刻も早く送らなければと思ったのですが……私の力ではとうてい敵わず、ぼろぼろになって死にかけていたところをミツルに救われました」
「……そんな、ことが」

 アランはそこで、大きく頭を振った。

「一様にインターといいますが、地の女神の元に送る力に差があります」
「差がある?」
「あなたはミツルが地の女神の元へ送るところに遭遇したことがあるのですよね?」

 ユアンの質問に、アランは大きくうなずいた。

「ミツル以外のインターが地の女神の元に送るところは?」
「父が、母を送るときに」
「それ以外は?」

 ユアンの質問に、アランは弱く首を振った。

「なるほど。ミツルから聞いた話によると、彼の祖父も金色の光だと聞きましたが、通常のインターは黄色い光なのです」
「……黄色い?」
「そうです。先ほどインターの力の差だと説明しましたが、色が濃いほど強い力を持つということが分かりました」

 アランにその意味するところを少し考えてもらおうと、ユアンは口を閉じた。
 色が濃いほど強い力を持つということ。そしてその意味するところ。
 アランはユアンがなにを言いたいのか察したのか、目を見開き、思ったことを口にした。

「力が強いということは、死んだときに冥府の入口が大きくなるということか?」
「ちょっと違います」
「……どういうことだ?」

 アランの呟きに、それまでずっと黙っていたノアが口を開いた。

「僕はノア・アベルと言います。僕も見知らぬインターの死に目に遭いましたが、地の女神の元に送るのに大変手こずりました」
「……手こずった?」
「はい。普通、地の女神の元に送るとき、死体にインターの力を注ぎ込むのですが、相手が同じインターだからなのか、その力を拒否するんです」
「…………」
「その人は僕より力が弱かったからかろうじて送ることができましたが、これがもし、自分よりも強い人……本部長相手だったら、一瞬で僕は逆に冥府に送られてしまうと思います」
「力が……強い……」

 アランはノアの一言に目を見開き、それから「ああ」と唸った。

「ミツルが産まれたとき、母は泣きながら『眩いくらい金色に輝いている。これであの人も安心して死ねる』と言ったんだ」
「……なるほど。ダウディになるということを知っていたのですね」
「ダウディ?」
「えぇ、ほとんど知られていない言葉ですが、インターが死んだ後に死体を放置しておくと、そこが冥府の入口になるのですよ。しかもタチが悪いことに、生きた人間も冥府送りになるのです」
「なんと……それで……、あぁ」

 アランはうなり声を上げ、それから大きなため息を吐いた。

「父は自分がいつ死んでも大丈夫なように、ミツルを側に置いていたのか」

 インターについて知ろうとしなかったことに、アランは今、後悔していた。

「父にインターについて聞いておけばよかった」
「……聞いたところできっと、話さなかったと思いますよ」
「どうして」
「それはあなたがインターではないからです」
「しかし!」
「インターの境遇を知ったあなたはきっと、インターではない人たちを恨んだと思うのです。そして、あなたは自分がインターではないという事実に苦しむ」

 ユアンの冷たい声にアランは、また首を振った。

「あなたのお父さまは優しい方でしたね」
「…………」
「インターとして産まれればそれはそれで苦難の人生ですが、あなたのお父さまは自分と同等かあるいはそれ以上の力を持つインターを渇望した。そしてあなたはそれに当てはまらなかった。だからこそ、あなたを苦しめないように話さなかったのだと思いますよ」

 アランの記憶では、父はいつもしかめっ面をしていた。だから優しい人だと言われても、あまりピンとこない。

「インターは嫌われながらも生者を守っているんです。寛大な気持ちを持っていなければ、やっていけません」
「ユアンったら、自分で自分を上げないでよ」
「それはあなたも同じでしょう、ミチ。この国はインターにそっぽを向かれたら、あっという間に終わりですよ」
「まあ、そうだけど」

 なんとも理不尽な仕組みシステムに、アランはやりきれない気持ちになった。

「私になにかできることはないだろうか」

 こんな話を聞いてしまったら、手伝わずにいられない。

「どうやらあなたの同情を上手く引き出せたみたいですね」
「え……いや、同情では」
「いいのですよ、同情でもなんでも。ミツルの言うとおりです。私たちインターがいなければ国が立ちゆかないと驕った気持ちを持っています」
「しかし、事実だ」
「事実であったとしても、傲慢すぎる」

 それに、とユアンは続けた。

「インターではない人たちとは、数の力では明らかに負けます。少数派マイノリティな存在ですし、私たちは死んだら周りに迷惑をかけますから、集団から弾き出されて当然です」
「だが!」
「あなたは弾き出されてしまう私たちはかわいそうだと思いました?」
「いや、思わない。普通に生きていくのだけでもしんどいのに、さらに重荷を課すとは、ひどいとは思った」
「まあ、それも立派な同情ですね」

 だけど、とユアンは続ける。

「強者に頼られる弱者という立場も、なかなかいいものですね」

 ユアンのその一言に、アランは思わず顔をしかめた。










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