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インター!─ルドプスを埋葬せよ─ 作者:倉永さな

  *二章 盗まれた死体

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     *

 コロナリア村でイルメラと別れたミツルは、ラディクを連れて本部へと戻った。
 事務室へ行くと、ミツルが予想したとおり、難しい顔をしたユアンとミチ、それからオフィキナリスから戻ったノアがいた。ベルジィとアグリスが見あたらないことに疑問に思いつつ、ミツルはラディクとともに部屋へ入った。
 室内にいた三人の視線は、まずはミツルに向かい、次いで後ろにいるラディクへ。
 ミツルは無言の視線に、一言。

「拾ってきた」
「ぶはっ?」

 三人はミツルの言葉に驚くことはなかったが、当のラディクは吹き出した。

「ミツル、前から言おうと思っていたんだけど」

 とは渋い表情をしたミチ。
 ミツルはミチの顔を見て出かける前に命じたことを思い出し、ミチが言葉を紡ぐ前に口を開いた。

「それで、書類の整理は終わったのか」

 ミツルの質問に、ミチとユアンは渋面を返してきた。少ないとはいえ、それなりの量はあるため、さすがに半日で整理は終わらないのは分かっていたのだが、そういった意味での表情ではないことが分かった。なにか問題が発生したのだろう。

「ベルジィとアグリスの姿が見えないのは、書類の整理と関係あるのか」

 畳みかけるような質問に、ミチとユアンは目を伏せた。ミツルは思わず片眉を上げ、二人を見た。

「城に提出した書類とここで保管している書類の照合に向かわせたのか」
「……そうです」

 国とはインター出動一件ごとにいくらという契約をしているため、報告書を提出している。紙と紙の間に複写できる紙を挟んで二枚作り、複写した側を城に提出している。
 本部に保管している書類に不備が見つかったということは、城の書類にも同じ不具合が発生している可能性がある。
 もちろん提出する前には入念に確認をしているから、城側の書類には問題がないだろうということでベルジィとアグリスを城に赴かせたのだろう。
 ミツルはあの筋肉の塊で柄の悪い二人を城に正式にインターとして登録するために連れて行っていた。とはいえ、城に行ったのは一度だ。今後のことを思ってひととおりの説明をしたとはいえ、不慣れな二人を派遣させるのは、いくら非常事態らしい状態でもどうなのだろうか。

「あいつらに書類仕事が出来るのか?」

 ミツルは思わず率直に口にしていた。

「二人とも読み書きは問題なくできていました」

 ならずものにはなっていたが、元の育ちはそれほど悪いものではないのかもしれない。

「本当はわたしが行く予定だったのよ、でも」

 とミチはちらりとノアへ視線を向けた。

「死体が盗まれた、か」
「えっ?」

 その驚きの声は、どういったたぐいのものなのかはかれなかったミツルは、ノアに目線で説明を求めた。

「オフィキナリスに到着すると、村の中は大騒動になってまして、動く死体でも発生したのかと思って慌てて村の人に聞いてみると、死体が盗まれたと」
「……同じか」
「ということは?」
「こっちも同じだよ。俺はシニクスに向かったんだが、やっぱり同じように盗まれた後だった。リティラにはイルメラを向かわせたのだけど、ちょうど死体が盗まれるところに遭遇した」
「イルメラさんは犯人を見たのですかっ」

 かみつくような勢いで聞いてきたノアにミツルは首を振った。

「ラディクの父親が機転を利かせてイルメラは遭遇はしなかった」
「しかしっ」
「ところでノア。その死体を盗んだというヤツ、なにか特徴を聞いてないか」

 どうして死体を取り返さなかったのか、いや、持って行かれる前に地の女神の元へ送らなかったのかというノアの言外の声がしたが、ミツルは別の質問を投げた。
 ノアはそれですが、と前置きをしてから口にした。

「甲高い声の子どもが酷い臭いがする人たちを引き連れてやってきて、有無をいわせずに死体を運んでいったと」
「やはりか」

 ノアの答えはミツルの想定どおり過ぎて思わずため息が出た。

「ノア、その死体を盗んでいったのは、俺がこの間遭遇した団長だ」
「……え、それって」
「インターなんて要らないと言って、再三妨害してきたクソ生意気なガキだよ」

 ミツルはそれから死体を盗まれる現場に居合わせたラディクに視線を向けた。

「彼はその団長にインターだと見破られて、見てのとおり、殴る蹴るの暴行を受けた」
「……顔が腫れているのが気になっていたのですが、ミツルが殴ったのだとばかり」
「あのな」

 ミツルはさらに続けて否定をしようとしたが、ユアンが続けた。

「ラディク、といいましたか」

 そう言いながらユアンは掛けていた眼鏡を外し、じっとラディクを見ていた。
 ラディクはユアンがどうして眼鏡を外したのか分からず、不思議そうに首を傾げるだけだった。
 それを見て、ユアンは目を細めてラディクを見た後、そのままミツルへと視線を向けた。ユアンの視線を受けたミツルもラディク同様、特に変わりはない。

「ふむ」

 とユアンはつぶやくと、眼鏡をかけ直し、ミツルを見て、隣の部屋を指さした。

「ミツルだけ隣に来てくれますか」
「……? 別にかまわないが」

 促され、釈然としないままミツルはユアンとともに隣の部屋に入った。
 ユアンは扉をきっちり閉めた後、ミツルを窓辺まで誘導した。ミツルはユアンが扉から離れたのは聞き耳を立てて聞かれるのを危惧してなのだろうが、どうしてそこまで警戒するのか分からなかった。

「それで」

 窓辺までやって来たミツルを睨みつけてくるユアンにやはり分からず、いぶかしげな表情を返した。

「ラディクをどこで拾いましたか」
「あー……」

 ミツルはラディクの説明をただ拾ったとしか言っていなかった。そのことに思い当たり、ミツルは軽く経緯を説明した。

「村長の息子で、彼の両親はインターだと知っていながら育てていたと」
「そういう説明だった」
「ミツルに今更説明するのは愚問だと思いますが、確認です。わたしたちインターは死体が側にない限り自分でもインターだと分かりません」
「そうだな」
「では、どうして側に死体があるとインターだと分かってしまうのでしょうか」

 ミツルだけではなく、この国で生活していればだれもが知っている常識。改めて聞かれて、ミツルは思わず苦笑いした。

「予想どおりの反応、ありがとうございます」
「いつもながらの皮肉だな」
「今のは皮肉ではないですよ。インターの見分け方はこの国にいれば自ずと知ることができることですからね」

 というが、そういえば最近はなぜか死体よりも動く死体とばかり遭遇していて、久しくそれを見ていないことに気がついた。
 そんなことを思っていると、ユアンが口を開いた。

「インターの側に死体があった場合、インターと死体の間に淡い光の糸ができます」
「……淡い、のか?」
「あぁ、そうでした。あなたは規格外ですから、違うのですね」
「規格外というが」
「規格外ですよ。そもそもあなたからはたまにですが、眼鏡をしていてもまぶしいくらいの金色の光が見えることがありますし、動く死体をいとも簡単に地の女神の元に送るなんて芸当はできませんから」

 とユアンに説明をされても、ミツルにはまったく分からない。

「……俺以外のインターは淡い光の糸ができるんだな」
「はい、そうです。だからこそだれが見てもインターだと分かるのです」

 ユアンの説明に釈然としないものを感じながらもミツルはうなずき、続きを促した。

「その淡い光の色は黄色いのです」
「俺のは金色だが」
「それがそもそもの違いだと思うのですが……。その黄色い光というのは、私たちインターが常にまとっている光です」

 ミツルには見えないが、ユアンにはその光が見えるという。

「たまにですが、紫色の光をまとった人もいます」
「おま……、それっ」

 紫の色は、罪を犯したものの証か、魔族。
 たとえば、人が人を殺めたとき、罪の色である紫色の光をまとうようになるという。死んでも色は消えることないため、それを目印として冥府へと送られるという。

「世間の一部では推理小説が流行っているようですが、私は探偵には向いてないですね」
「は?」
「人を殺した瞬間、その人物は紫色の光をまとうのです。それが私には見えますから」
「じゃあ、その紫色の光をまとったヤツが犯人だろ?」

 それのなにが問題なんだ、といわんばかりのミツルにユアンは呆れたようにため息を吐いた。











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