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インター!─ルドプスを埋葬せよ─ 作者:倉永さな

三部*一章 消えたナユ

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     *

 ナユは確かに存在している。

 そのことをクラウディアの店で確信したミツルは、意気揚々とコロナリア村へと向かった。
 本当ならば抱いた確信を裏付けるためにコロナリア村で聞き込みをしたかったのだが、今はそんな時間はないので依頼が終わってからにしようと決め、走って向かった。

 イルメラには通信鳥コミュリを使って連絡をしていたので、村の入口で待機しているのが遠目からでも確認できた。
 ミツルが村に近づいていくと、イルメラが軽く頭を下げてからミツルに向かって歩いてくるのが見えたので、立ち止まった。
 今から赴く場所はコロナリア村に近いとは言っても、村の中には入らないで外周に沿うような形で向かう方が早い。

「本部長、お疲れさまです」
「あぁ」

 ねぎらいの言葉をかけられるとは思っていなかったため、かろうじて反応を返すことしか出来なかった。
 なんとなくきっかけを失ってしまったような状態になったミツルはそのまま無言でイルメラと肩を並べて目的の村へと向かうことになった。

「本部長はどちらの村に行きますか?」
「──ん……。あぁ、俺はシニクスに向かうから、リティラを頼む」
「了解です」

 結局、イルメラと会話したのはこれだけだった。

 ナユが確かに存在しているということが分かって安堵してしまったのもあったが、冷静になってきて恥ずかしさも感じていた。
 年下の、しかも相手から好意のこの字もない相手を、がむしゃらに、我を失ったかのように探していた自分がまるで道化のようで、思わず取り繕ってしまった。しかもイルメラはインターの本部長というだけで無条件でミツルのことを尊敬している相手だ。本部で見せたような無様な姿は見せたくなかった。

 イルメラと別れて向かったのは、コロナリア村の隣村であるシニクス。規模はコロナリア村と変わらないくらいで、こちらもウィータ国によくある村としか説明できない、きわめて平凡な村である。
 村に着く前にミツルは自分の身なりを確認した。
 ナユとともに帰省したときに母から渡された黒に近い紺色のマントは前に着ていた物より少し丈が長く、慣れるまでは戸惑ったが、今はようやくなじんできた。このマントは丈は長いが動きを邪魔しないところがいい。そしてその背には腐りにくく固いという白い木で出来た円匙。こちらも母が持たせてくれたものだ。
 正直なところ、ミツルは円匙が嫌いだ。ユアンも言っていたが、これを使って土を掘るとものすごい罪悪感にかられるのだ。それはどうもインターだけが持つ独特の感覚のようだというのに気がついたのはいつだっただろう。
 だからもっぱら、ミツルが円匙を握るのは戦闘のときとなる。それはそれでどうなんだといった感じだが、それ以外に武器になりそうな物を持たないミツルにはちょうどよいのだ。握りやすい形状をしているし、なによりも土を掘る部分も鋭く、匙部分は重たくて振り回すのに都合がよい。さらには匙の部分は掴みにくいというのも武器としても優秀だといえる。……と考えるのはミツルくらいかもしれないが。

 今の格好に問題ないことを確認して、ミツルはフードを目深に被った。自分の見た目が要らぬ問題トラブルを起こす可能性が高いことを知っているし、さらにインターはインターだと知られるのを嫌って素性を隠している。顔を見られて覚えられるのを好まない。むしろフードを被って円匙を背負っているのがインターだと世間では認識されているくらいだ。──インターは円匙を不要と思っているにも関わらず、インターと円匙は必ずそろっているのは皮肉なものだ。
 そんないかにもな格好をして村へ向かえば、今か今かと待ちかまえていた村人はすぐにミツルを発見して、駆け寄ってきた。

「たたたた、大変なんです!」
「なんだ?」

 いつもだと嫌な顔を向けられるというのに、この村人は救世主が来たくらいの表情を浮かべていた。どうにも最近は戸惑うことばかりだ。

「そそそそ、それが大変なんです!」

 ミツルを……というより、インターが来るのを待っていた村人はしきりに大変だと騒ぐだけだ。しばらく様子を見ていたのだが、大変だと言いながら手足をばたつかせているだけで、それ以上の説明をしようとしない村人に対して、気の短いミツルは切れた。

「さっきから大変としか言わないが、なにが大変なんだっ」

 人が死んだということは一大事だ。だからこそ忌み嫌っているインターを呼ばなくてはならない事態になっているというのは分かる。それならば、早いところ死体のある場所に案内すればいいのに、この村人は大変だと喚くだけで動こうとしない。

「それが、それがですね! しししし、死体が盗まれたんです!」
「盗まれた?」

 死体が盗まれたとはかなり穏やかではない言葉に、ミツルはフードの下で眉間にしわを寄せた。
 今まで何度も死体に遭遇して地の女神の元へ返してきたが、死体が盗まれたなんて聞いたことがない。それに盗んでどうするというのだ。
 動く死体になられると厄介だし、盗んでいった者もそうなると自分の命を危険にさらすことになるのは百も承知のはずなのに、どうしてそんな無謀なことをするのだろう。
 となると、考えられるのはひとつ。もしもそれが当たりだったら、一刻も早く見つけなくてはならない。

「土に触れて動く死体になった可能性は」
「ありません、ありません! だってずっと家族がそばにいたんです! 悲しくて死体にすがって泣いていたら、変な集団が来て、さらっていったんです!」

 その言葉にミツルはフードの下でさらに眉間にしわを寄せた。
 変な集団が来て、死体をさらっていった……だと?

「死体はきちんと処分するから心配するなと妙に甲高い声のガキが言ってました」

 甲高い声のガキと言われ、ミツルはふと嫌な人物を思い出した。
 こことサングイソルバはそれなりに離れているが、行き来できない距離ではない。とはいえ、隣村ならともかく、そこそこ距離のある村に、わざわざやってくる可能性はあるのだろうか。

「それはいつだ?」
「つい先ほどです」

 どうにも嫌な予感がする。

「あと、ほかになにか言ってなかったか?」
「何人かの連れとともにいきなりやってきて、インターはいるか、と」

 甲高い声のガキがあの忌まわしい町の自警団の団長であるのなら、しぶといヤツだと呆れてしまう。しかもなぜかインターを憎んでいる。さらには、離れたこの村までやってくるとは、なにを考えているのだろうか。

「いないと答えると、懐からなにかを取り出してあいつの死体に当てた後、ふむと言って……っ!」

 持っていったということか。
 なにかが起こっているらしいということは分かるが、どうして死体が盗まれてしまったのか分からない。

「とにかく、あいつを一刻も早く地の女神の元へ……!」

 そう言われて、ミツルは動きを止めた。
 ミツルは祖父が亡くなった後、しばらくの間、ウィータ国内を彷徨っていたことがある。自分が祖父に護られてきたことはうっすらと分かっていたが、それでも祖父が亡くなったことでなんだかよく分からないが解放されたと思ったのだ。だからこの解放感が嬉しくて、円匙を担いで身体一つであちこちを放浪してみた。
 そしてこの放浪で学んだのが、インターであるとバレるとひどい目に遭うというとても悲しいことだった。
 あちこちの村や町で、ひどい目に遭っているインターとよく遭遇した。ミツル自身もひどい目に何度も遭った。だからこそミツルはどうにかしたいと思い、インターについて調べて驚愕したのだ。
 この国にはインターがいなくてはならないというのに、国はほぼなにもしていないに等しかった。国がなんの対策も立てないせいで、罪のないインターが虐げられている。
 だれもが死んだらインターが必要になるというのにそれはおかしいとミツルは強く思った。そしてガラにもなく自分になにかできないかと考えて、インターが集まれる場所を作ればよいのだと思い至ったのだ。

 これまでミツルがインターだとバレるとひどい言葉を投げかけられ、石を投げられたり、水をかけられることもあった。
 だというのに、コロナリア村での一件以来、好意的な言葉をかけられることが増えたような気がする。
 そして、今の村人の言葉。
 前ならば、言われることがなかったと断言できるその言葉を聞き、目頭が少し熱くなったが、今はそれどころではない緊急事態だ。

「それで、そいつらはどちらへ行ったか分かるか?」

 ミツルの質問に、村人はしばらく悩んだ後、そういえばと呟いた。

「リティラに向かうと──」

 リティラ。
 それはイルメラが向かった村だった。

「分かった。おまえたちの大切な人は俺が責任持って地の女神の元に送る」
「お願いします……!」

 村人のその言葉を聞き、ミツルはリティラに向かって走り出した。











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