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インター!─ルドプスを埋葬せよ─ 作者:倉永さな

閑話

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【続・とある旅人の手記】





※オチがホラーテイストです。
 少し長め。


 人々からの痛い視線にさらされながら、私はようやく目的地としていた町へたどり着いた。
 この国の人々はとても親切ではあるみたいだが、暗黙の約束(ルール)を守らない者には容赦ないようだ。
 それは目的地にたどり着いて痛感した。

 木の板をカタコトと鳴らしながらたどり着いた町の門の前には、武装した二人が立っていた。
 町に入るために彼らに視線を向けつつ踏み入れようとしたところ、目の前で円匙を突きつけられた。

「止まれっ!」
「なっ、なんですかっ」
「どうしておまえ、円匙スコップを背負っていないっ」

 高圧的な物言いに私はむっとして相手を睨みつけた。
 どうやらそれが悪かったみたいで、円匙の切っ先を向けられた。
 木製とはいえ、土を掘るための道具だ。それなりに鋭く、人を傷つけるための武器ではないとはいえ、向けられるとやはり背筋が凍る。
 あちこちを旅をしてきたので、それなりに危ない目には遭ってきていたが、いつも、どうにか切り抜けてきた。もちろん、多少の怪我はしたことある。
 しかし、今回は、場合によっては多少の怪我では済まないかもしれない。
 こんな私なので、天涯孤独だ。いや、天涯孤独だからこそ、好き勝手やってこられたともいう。
 私がたとえここで死んだところで、だれかを悲しませるということはない。
 そう考えると、ある意味、私の人生は悲しいような気がしないでもない。
 だれにも囚われることなく自由ということは、縛りがないということ。
 自由とは、楽なようでとても孤独なのかもしれない。
 そんなことを考えていると、円匙の先を向けている男の隣にいる者が懐からなにかを取り出した。それは少し長めの紐だった。
 紐の先にはひどく歪な形をした赤黒い固まりがついていた。それを一目見て、ぞっと背筋が凍った。
 赤黒く、表面は乾燥していて、見た目もざらついているようにしか見えないそれは、肉の干物のようにも見えた。
 なんだ、あれは。
 私はその赤黒い固まりに恐怖を覚えつつも、目をそらすことはできなかった。
 恐ろしいのに、目を離せない。とても惹かれる。
 魅入られたようにじっと見つめていると、甲高い声が武装した二人の背後から聞こえた。

「──問題ない」

 弾かれたように顔を上げて、声がした方を見る。
 そこには、背の低い、一見すると子どもと見間違えるような男が立っていた。
 だけどどうしてだろう、一目でその人物が子どもではないと分かったのは。

「団長、しかし」

 私に円匙の先を向けている男は私から先をそらさずに反論した。

「この男、円匙を背負ってません」
それ・・は他国から来たものだからだろう」

 それと言われたことに内心ではかちんと来たが、反論すると自分の立場が危うくなるのは目に見えていたので黙っていた。

「その背を見よ。商人とは違う荷物を背負っているではないか」

 団長と呼ばれた男の言葉に、二人は私の背へと視線を向けてきた。

「また関所の人間が円匙の説明を忘れたみたいだな。ほんと、あいつらは仕事をしてるのか?」

 団長は甲高い声で周りにこれ見よがしにそう口にした後、私へと近寄ってきた。

「詰め所で予備の円匙をお渡ししよう」
「はぁ、ありがとうございます……」

 なんとなく恩の押し売りのような響きを感じたが、とりあえず詰め所の円匙を借りて、自分用の円匙は改めて調達しよう。
 私は素直に団長に付き従い、詰め所と言われるところへと行くことにした。

     *

 詰め所と言うから街の中にあるのかと思っていたのだが、団長は武装した二人の間を通ってこちらへやってきた。二人の間をすり抜けるときに団長はなにやら伝えていたが、私の耳には届かなかった。もしこのとき、団長の言葉が私の耳に届いていれば、運命が変わっていたかもしれない。
 しかし、聞こえなかったということは……。
 まあ、それはともかく、団長の後ろについて外へと向かった。
 私にしてみれば逆戻りであるのだが、詰め所は街の中ではなくて外にあるのかもしれない。
 ……今まで、街の外に詰め所があるなんて聞いたことはなかったが、事情があって外なのかもしれない。
 不安が膨らむ中、団長は鼻歌でも歌い出しそうなくらい軽い足取りで、どんどんと街から遠ざかっていく。
 街のすぐ側は豊かな森が広がっていて、団長はそちらへと足を踏み入れた。

「ところで、キミは独り身かい?」

 突然の質問に、私はあたりを確認するために見回していた顔を団長へと向けた。
 いつから団長は私を見ていたのか知らないが、彼の視線は私のことを胡散臭そうに、そして探るような視線で見ていた。それはまるで、私が使える人間か否かと値踏みしているようであまりいい気がしない。嘘偽りを申し立てればただでは済まないと言わんばかりの冷たい視線にぞっとしつつ、私は真実を告げることにした。

「身寄りがないので、世界を見て回ってます」
「ほぅ? それでは、今までどんな国を見てきた?」

 団長は目を細め、舌なめずりしそうな表情を向けてきた。
 そこでふと、どうして私が団長が大人だとすぐに分かったのかそれで理解した。
 見た目は子どものようなのに、表情は子どものそれではないのだ。
 下手な答えをすると命がない──。
 なぜか私はそう思い、身体が震えたが、旅の途中で立ち寄った国を思い出してできるだけ笑顔で答えた。

「花の国と呼ばれる国や、水の都、火の国もありました」
「この国は地の女神の加護を受けた国というのは?」
「はい、聞いたことがありました。ですから、どんな国なのだろうかと思いまして、こうして見聞を広めるためにやってきました」

 今現在も私が体験したことは魔法の掛かった不思議な冊子が記録してくれている。ある程度まとまったら、伝手を頼って出版をしようと思っていた。

「お茶を飲みながら、旅先の話を聞かせて欲しいな」

 団長が子どものように無邪気にそんなことを言ってきたので、戸惑った。実は団長は見た目通りに子どもであるけど、団長であるために大人のように振る舞っているのではないかと。
 その辺りも見極めたいと思った私は少し休憩もしたいという気持ちもあり、団長の要請に素直にうなずいた。
 これが私の最期の機会(ラスト・チャンス)であったなんて知るわけもなく。

     *

 団長とともに向かったのは、森の中程にある粗末な小屋だった。気のせいか、少し嫌な臭いがこもっているようだったが、団長は換気をした方がいいなと呟きながら窓を開けてくれたおかげですぐにその臭いは消えていった。
 団長は火を熾すと鍋に水を入れて湯を沸かし始めた。

「この国は知っていると思うが、地の女神の加護のおかげで植物がよく育つんだ。それは香草ハーブも一緒で、質のいいものが安く手に入りやすい」
「香草茶ですか」
「あぁ、そうだ。疲れているだろうから、疲れが取れるようなお茶を入れるよ。少し苦みがあるけれど、それが疲れにとてもいいんだ」

 団長は説明をしながら準備をし始めた。

「これが疲れに効くけれど苦いんだ。だからこっちの少し甘みがある葉でまろやかさを出す」
「初めて見ました」

 私の言葉に団長は少しぎくりと身体を固くしたような気がしたが、それも一瞬のことだった。

「香草は詳しいのかい?」
「詳しいと言うほどではないですが、基本的なものなら分かります」
「そ、そうか……」

 団長は私の返事を聞くと、無言で準備を始めた。
 私はお茶が入るまでと思い、荷物を肩から降ろし、肩を回した。それからどうしてそうしようと思ったのか分からなかったが、私の体験したことを自動で記録している冊子を頼ろうと思っていた人物へ送っておこうと思ったのだ。
 私がウィータ国に無事に到着したということを伝えておきたかったのかもしれない。
 あるいは本能が自分がここにいたという痕跡を残しておくようにと警告を発していたのかもしれない。
 不思議な冊子には魔法の石が埋め込まれていて、その中に私の体験が詰め込まれていた。
 これは魔法の国で知り合った、物好きで研究熱心な魔法使いから借りている物だ。私が旅をしているという話をしたら、実験に協力してほしいと言われ、貸与されたものだ。
 本当はもう少し記録が増えてから直接、魔法使いに渡しに行こうと思ったのだが、旅の途中でも魔法の石を使って記録を送れるというのを思い出したのだ。
 幸いなことに換気のために窓は開いている。
 私は魔法の石から教えられたとおりに記録を抜き出し、魔法の国から今の今までの記録を送ることにした。
 石を手に持ち、窓際に立つ。そして太陽に向かって石を掲げ持ち、息を吹きかけた。
 するとどうだろう。
 私の息を受けた魔法の石はきらきらと輝き、眩く輝く球体になったかと思ったら、白い鳥になった。それは大きく羽ばたき、あっという間に空の彼方へと飛んでいった。
 団長は香草茶を作るのに夢中になっているようで気がついていないようだった。
 別に悪いことをしているわけではないのだが、なんとなく後ろめたかった。

「換気が終わったので窓、閉めますね」
「あ……あぁ。よろしくたのむよ」

 私は窓を閉め、魔法の石を冊子の中へと戻しておいた。

「さあ、できた」

 団長は木の器を卓の上に置き、私に飲むようにすすめてきた。疲れもあったし、喉の渇きもあったので、遠慮なくいただくことにした。
 団長が先に説明していた通り、確かに苦みが強い。しかも少し舌を刺すような独特の感じがあった。だけどそれはすぐに甘くてよい匂いが消してくれた。

「なんだか面白い香草茶です」
「そうだろう、そうだろう」

 団長は嬉しそうに私の顔を観察していた・・・・・・
 探るような視線にぞくっとしたが、私はその嫌な感覚を視線をそらすことでやり過ごした。
 香草茶をすべて飲み終わった後。

「あ……?」

 なにかがおかしいのだ。
 手に持っていた器は木で出来ているし、重くもなんともない。それなのに私の手は勝手にそれを離してしまった。
 異変はそれだけではなく、先ほどまで周りがはっきり見えていたのに、視界が暗い。しかも身体がぐらりと傾いでなにかにぶつかったのが分かった。だが、痛みは感じない。

「もう少しか」

 団長の甲高い声が私の耳を震わせた。

「身体の具合はどうだい? 疲れは取れたか?」

 私に対しての質問であることは明らかであったが、答えたくても身体が動かなかった。

「意識はあるみたいだな。ちょっと分量を間違ったかなぁ」

 その一言で私はすべてを悟ってしまった。
 だが、まさかという気持ちも大いにある。
 彼は団長なのだ。

 ……いや、待て。
 本当に彼は団長なんだろうか。
 団長であるのは間違いないとして、では、なんの団長なのだ。
 私はその肝心なことを確認していないのではないだろうか。

「さようなら、名前も知らない旅人くん」

 そして突然、私の身体に衝撃が走った。
 次にこの部屋に入ったときと同じ、いや、もっと濃厚な臭いが私の脳髄を貫いた。

「が……っ」
「おやすみ、もう疲れも飢えもなにも感じないよ、旅人くん」

 それから私の耳には甲高くて耳障りな笑い声が聞こえた後、ぷつり……と途切れ………………。





【以下、記録を受け取った魔法使いの補足文】

 世界を旅していると語った人の良い男は疑うことを知らなかった。
 なのでわたしは自分の作った魔法道具の実験と彼の足取りを知るために、自動的に彼が体験したことを記録する魔法冊子を渡していた。
 彼は無意識のうちに死を悟り、わたしへと記録を送ってきた。
 この後の記録はいつまで経っても送られてこないところをみると……。

 もう少し待って、彼からなんの音沙汰がなければわたしはわたしの研究媒体を回収するためにウィータ国へと向かおうと思っている。
 万が一がないのを祈りながら、わたしは彼のウィータ国に関する記録をここにとどめておく。











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