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インター!─ルドプスを埋葬せよ─ 作者:倉永さな

  *五章 インターが忌み嫌われる理由

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 インターが迫害されるのには理由があるというユアンに、ミツルはうなずきを返した。

「たまたま訪れた村で人が亡くなり、インターを探していました。名乗ろうとしたところ、先に別の人が地の女神の元へと送ると手を上げたのです」
「それまた……珍しいな」
「ええ。黒ずくめの恰好をしていて、しかもフードもかぶっていたので、男性なのか女性なのか、年齢も分からなかったですが、そのときの私は先を越されたと悔しく思いました」
「まあ、稼ぎを取られたような状態だからな」
「はい。それで、その人を見ていると……あの黄色い光をまとっているのが見えたのです。それも今までの人よりとても黄色くて明るい光でした」
「ほう」
「不思議に思ってこっそりついていき……窓から様子を見ていたのですが、眩い光を纏わせて、その人は地の女神の元へと送っていたのです」
「ふぅん」
「私より早く地の女神の元へ送っているというのも驚きだったのですが、その人の周りの黄色い光の強さも驚きだったのです」
「黄色い光……ねぇ。……ってあれ? ちょっと待て。地の女神に送る時って金色の光じゃないのか?」

 ミツルの質問に、ミツル以外の全員が首を思いっきり横に振って否定した。

「いやいや、黄色ですよ、アニキ」
「黄色いな」
「はい、黄色です」
「ええ、黄色ね。だからミツルが地の女神の元へ送るのを見て、驚いたのよねぇ」
「え……あ? だってうちのじいさんも金色だったぞ?」
「だからあなたは規格外だとさっきから何度も言っているのですよ」

 全員に責められるように言われたミツルは手のひらに力を溜めて見たのだが、やはり金色にしかならない。

「って、アニキっ! いきなりなにをっ」
「あ? いや、黄色だって言うから確認を……」
「いやいやいやいや! 死体ないのに力出せるなんて、やっぱりアニキ、すごいっす!」

 すごいと言われてもミツルにはこれが当たり前なのでやっぱりすごさがよく分からなかった。

「やはりあなたは規格外のようですね」
「俺だけ仲間はずれみたいな言い方をしないでくれよ」
「仲間はずれにはしませんけど、これから話す内容を聞いてもそう思っていられるのならいいですけどね」
「なぜそこで脅す」
「脅すというより、インターが忌み嫌われる理由を今からお話しようかと思います」

 そう言うとユアンはひどく真面目な表情をして、ミツルを見た。

「あなたはおじいさまの死に目には?」
「あった。俺が地の女神の元へと送った」
「なるほど。それならばダウディという言葉は?」
「……聞いたことない」
「おじいさまからも?」
「聞いたこと……いや、ある。そういえば昔、一度だけその単語を聞いたことがあるが……なんだ?」
「あなたはたぶん、おじいさまから言われていたと思います。おじいさまが亡くなったらすぐに自分を一刻も早く地の女神の元へ送り届けるようにと」
「言われていた。だからじじいの希望通りにすぐに送ってやったぞ?」
「ええ、それで間違っていません。正しいです。そうしないと、私のように……」

 そういうとユアンは昏い目をして俯いた。

「私のように死にかけてしまいます」
「死にかけるってもしかして」
「ええ。ミツルに出会った時、死にかけていたのはそういうことです」

 二人にしか分からない会話にミチが痺れを切らせて口を挟んできた。

「さっきから二人にしか分からない会話をしているけど、どういうことかきちんと説明をしてくれる?」
「なんですか、ねーさん。二人の仲に嫉妬でも?」
「……うるさいわね、筋肉馬鹿」
「う……わぁ。ねーさん、口悪いって言われません?」
「言われるわよ、そこの二人に」

 そう言ってミチはミツルとユアンを指さした。二人は同時にうなずきを返してきた。

「ナユとは別方向で残念なんだよ、そこの美女は」
「あらぁ、ナユちゃんにミツルが悪口を言っていたって言いつけるわよ?」
「言えばいいだろう。これ以上、嫌われようがないほど嫌われているからな」
「ま、そういえばそうね」
「…………」

 ノアは慣れているのか、にこにことしているだけだった。

「なあ、アグリス」
「……みなまで言わなくても分かってる、ベルジィ」
「ならず者たちの方がかわいかったなあ……」
「……あぁ」

 遠い目をしている二人を置いて、ユアンは口を開いた。

「ミチ、あなたはインターの死に目にはあったことがありますか?」
「ないわ」
「ノアは?」
「ありますよ」
「それならば、ダウディという言葉は?」
「初めて聞きました」
「二人に聞くまでもないですけど?」
「インターの死に目にならあったよ。オレたちの仲間が殺された」
「ああ、そうでしたね」

 しかし、ならず者は動く死体になっていたが。それをダウディというのだろうか。
 その疑問は、ユアンが答えた。

「インターも死ねば死体になります。土に触れると動く死体になるところも一緒です。動く死体になってしまえばダウディにはならないのですが、ここで問題です。だれか死にました。近くには土はなく、動く死体になる心配はありません。さて、放置しておくとどうなるでしょうか」

 ユアンの質問に誰一人答えられる者はいなかった。
 ユアンは笑みを浮かべ、正解を口にした。

「正解は、腐ります」
「腐る……?」
「ところで、森に住む動物たちは死んだらどうなるか知っていますか?」
「さっきから質問ばかりだが、どういうことだ?」
「ミツルは疑問に思いませんでしたか? 人が死に、土に触れると動く死体になる。だけどそれは人にだけ適用されるのかって」
「……思わなかった」
「そうですか。私は両親とともに森で育ちました。森にいると、人以外の生き物に出会うのですよ。もちろん、動物たちだって生きていますから、死にます。死んだらどうなるのか。森の中ですから、村や町以上に土に触れる危険性は高くなります。だけど動物は森の中から出ていきません。動物たちは自分の死を悟ったら、とても深い穴を掘るんです」
「穴を掘る……?」
「ええ。死にかけているというのに、必死になって掘るのですよ。見ているとおかしいですよ、ほんと」

 そういってユアンは笑ったが、他の人たちにはなにがおかしいのか分からなかった。

「穴を掘り終わると、力尽きて自ら掘った穴に落っこちるのです。もちろん、土に触れていますから動物も動く死体になるのですが、這い上がってこられないのです」
「どうして自ら動く死体になる……?」
「私も不思議に思っていたのですけれど、観察していたら分かってきました。動物は動く死体になり、自らが掘った穴を埋めていくのです」
「……なんでまた」
「不思議に思ったので、動物が死んだ後、穴に埋まって数日してから掘り返したことがあったのです。しかし、どうしてあんなに土を掘ると……こう、罪悪感がわき上がってくるんですかね。町や村に行くときは仕方なく円匙を背負ってましたけど、あれもすごく嫌で仕方がないです」

 そういったユアンの背には、今は円匙は背負われていない。それはこの部屋にいる全員がそうだった。

「しかもどうしてか上手く土が掘れなくて、ひどく時間がかかって困りました」
「俺も土を掘るのは苦手だな」

 ミツルの同意の言葉にユアンは小さくうなずき、続けた。

「どうにか掘ると、土と一緒に腐った肉と骨が出てきました」
「ほう」
「ここから先は推測ですが、この国の土には女神の力が宿っています。とはいえ、いくら女神の力が宿っていても、植物は栄養がなければ育ちません。そして、動物たちは森に生きています。もしかしたら彼らは、本能的に土に還って女神に力を返しているのかもしれません」
「俺たちの身体が女神から借りているから死んだら返すようにか?」
「はい」

 ユアンに言われるまで、そんなことは考えたことがなかった。

「よくできた仕組みだと思いました」
「しかし、どうして人間はそれをしないのだ?」
「それではミツル。聞きますけれど、もしもあなたは自分の死を悟ったとします。動物と同じように穴を掘り、死んだらそこに埋まることはできますか?」
「……いや、できないな」
「それに、本能だとはいえ、やはり苦しいようで土に埋まった動物は土の中で暴れているのですよ。かなりむごいですよ、あれは。あれを人間にやれと言われると……かなりきついですね」

 一同はその様子を想像して、恐ろしくなってしまった。

「そうならないようにインターが存在していて、地の女神の元へ送っている、と」
「そうだと思います。地の女神の慈悲なのか……はたまた別の意味があるのか」

 ユアンの言葉に部屋はしんと静まり返った。











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