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インター!─ルドプスを埋葬せよ─ 作者:倉永さな

  *四章 港町・ルベルム

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05

 ミツルは一通り笑った後、部屋の中が静まり返っていることに気がついた。
 恐る恐る周りに視線を向けると、ナユは仏頂面でミツルをにらみつけていて、クロス家の人たちは驚いたように目を丸くしてミツルを見ていた。

「あ……の?」

 まるで恐ろしいものでも見たかのように遠巻きに見られていることに、ミツルは自分の失敗に気がついた。
 ミツルの記憶の中には、クロス家の人たちと過ごした日々というものはない。
 インターの能力を持って生まれ、たまに会う『家族』だという人たちはミツルを腫れ物に触れるかのように対応してきた。相手がそういう態度を取ると、ミツルも自然と距離を取り、できるだけ感情を出さないようにしてきた。
 だから『家族』の前では笑ったことも泣いたことも、ましてや怒ったこともない。
 ナユがいることで油断していたが、ここは気を引き締めていかなければならないところだ。

「……すみません」

 ミツルは表情を消すと小さな声で謝った。

「どうしてそこでミツルが謝らないといけないのよ! ああ、わたしのことを笑ったことに対しての謝罪なら受け入れてあげてもよろしくてよ?」
「ナユがそういうことにしたいのなら、そうすればいい」
「もうっ、なんなのよっ」

 急に表情がなくなったミツルにナユは不安を覚えていつものように突っかかったけれど、ミツルからは思ったような反応が得られなかった。
 ユリカの態度を見ていると、家族仲はよいのかと思っていたのだが、やはりそう単純な話ではないのかもしれない。
 ナユには難しいことは分からなかったけれど、亡くなってしまった家族を思うと生きているだけで羨ましいと感じてしまう。
 ないものねだり、というヤツなのかもしれないと珍しく神妙な面持ちでいたのだが、ユリカの声で現実に引き戻された。

「この子はミツルが連れてきた子なんだけど……あなたもその……」

 インターなのかと暗に聞いているのだろう。
 だからナユは首を振って、それからミツルの兄たちに笑顔を向けた。

「ヒユカ・ナユです。事情があって、今、インターの本部にお世話になっています」

 ナユは自分が思う極上の笑みを向けたはずなのに、兄たち三人はさらに顔を引きつらせた。

「ヒユカって……」
「もしかしなくても、父さん」
「……うむ」
「コロナリア村の……ヒユカさん……?」

 まさかこんなにも離れた場所でコロナリア村の名を聞くとは思わず、ナユは勢い込んで三人へと突進した。

「コロナリア村を知っているのですかっ!」
「知っているもなにも、ヒユカさんとは仕事で取引をしていたが」

 まさかの展開に驚いたのは、ナユだけではなくミツルもだった。

「もしかして安く買い叩いて……?」

 ミツルの呟きにミツルの父が慌てて否定した。

「いや! 彼が持ってきてくれる木材はとても質がよかったし、そしてなによりも奥方の病気の薬代を稼がなければならないと聞いていたから、周りの相場より少し高めに買い取っていた」
「もしかして、おうちの木は」
「ああ、ヒユカさんから買い取らせてもらった木を使わせてもらったよ。彼はなかなか木を見る目があって、助かったよ。ちなみにここの建物に使われている木も大半が彼から購入したもので作られているんだよ。ヒユカさんたちは元気かね」

 その質問にナユは息をのみ、それから俯いた。
 生前の家族の働き振りを知ることが出来たのは嬉しかったし、なによりも母のことを気に掛けてくれた人がいた。
 コロナリア村での事件が起こらなければ、ミツルと会うこともなかったし、今、こうしてここで家族の話を聞くこともなかった。だけど、家族が生きているときにそれを聞きたかったと思ってしまうのは、贅沢なことなのだろうか。

「亡くなりました」
「え……っ」
「父と兄三人が亡くなって、そのときにミツルに会ったんです」
「……そうだったのか」

 思い出して涙が出るかと思ったが、それはなかった。

「家族全員が亡くなったので、身よりのないわたしをこき使ってやると言って、ミツルにインターの本部に連れてこられました」

 間違いではないがわざと誤解を与えるような言い回しをしたのに、ミツルはなにも言ってこなかった。
 ナユの話を聞いて、ユリカが泣き出してしまった。慌てたのはナユだ。
 別にだれかを泣かせようと思ったわけではなく、事実とほんの少しの誇張を含めて笑い飛ばそうとしたのに、ミツルが乗ってこなかったために今回はすべてが裏目に出てしまった。

「ユリカさん、泣かないで」
「……お母さま」
「あの……。お母さま?」
「かわいそうに。ひとりぼっちになってしまったのね」
「え……と、いえ、保護者代わりの人は別にいますし、ミツルはこんなですけどわたしのことを気に掛けてくれてますし……」

 ナユは必死に補足したが、口を開けば開いただけ泥沼にハマっていっているような感じがするのはどうしてだろうか。
 ユリカは瞳を潤ませながら、ナユを見た。
 嫌な予感がする。

「ナユちゃん、今日からあたしがあなたのもう一人のお母さまよ!」
「…………」

 嫌な予感は当たってしまった。
 とはいえ、これまで何度も「お母さまと呼んで」と言っていたのだから、予想通りではあるかもしれない。
 しかも。

「私のことも父と思えばいい」
「おれたちに念願のかわいい妹が出来たのか」

 と言い始める始末。
 嬉しいけれど、なんだか複雑な気持ちになるのは、ミツルの家族相手だからだろうか。

「おれが長男のヤイク、隣にいるのが次男のレジスでその横にいるのが三男のシモン。親父の名前はアランだ」

 一気に紹介されてナユは覚えきれなかったが、アランだけは分かった。クロス商会を訪ねたとき、アランの名前を出したことは覚えていたのだ。
 あのときのことを思い出し、状況を把握した今、ひどく他人行儀なことに気がついたが、ミツルなりの配慮だったのかもしれない。
 いやしかし、ミツルとアランはこうもそっくりなのに、どうしてクロス商会で驚かれなかったのだろうか。そこは不思議だった。

「それより、食事にしましょう!」

 ユリカのかけ声にそれぞれが席に着いた。
 食事中、ナユは食べるのに必死だった。
 今まで食べたことのない珍しい料理がたくさんで、しかもとても美味しかったのだ。
 食事が終わって外に出ると、すっかり暗くなっていた。
 城下町も夜でも明るいが、ここはさらに明るい。
 またもや専用車に乗ってクロス家まで戻り、ナユは部屋に案内された後、お風呂に誘われた。
 とても広い上に湯船があって、ナユはさんざんはしゃぎ、部屋に戻って疲れても手伝って眠った。

     *

 ナユがそんなことをやっていた頃。
 ミツルは父のアランに呼ばれ、私室へと赴いていた。
 緊張の面持ちで部屋に入るとユリカもいて、卓の上には酒が用意されていた。
 ミツルは酒を飲めないわけではないが、両親と飲むことに躊躇われた。
 扉の前にいると、ユリカが寄ってきて中にはいるように促されたので仕方がなく入ったが、落ち着かない。

「飲もう」
「……はい」

 アランにそう言われてしまえば逆らえず、ミツルは仕方なく腰掛けた。

「お父さまがね、あなたが帰って来るからって特別に取り寄せたお酒なのよ」
「はい、ありがとうございます」

 ミツルの慇懃な態度にユリカは悲しそうな表情を向けてきたが、ミツルは気がつかない振りをした。
 クロス家に来る度に感じる、この居たたまれなさ。
 これならばいっそのこと、インターのおまえは家族でもなんでもないと突き放された方が気が楽だ。そう言われても恨み言もないのに。
 腫れ物に触れるような、それでいてとても大切だと言わんばかりの対応に、ミツルはいつも戸惑ってしまう。
 ミツルにとって家族は祖父だけだ。厳しい人だったけど、インターとしての知識、それとは別に生きていくために必要なこと、戦闘の仕方など教えてくれた。
 ミツルにとっては生活をともにした人が家族で、血の繋がりだけがあるというこの人たちのことは家族とは思えないというのが正直なところだった。
 卓の上に酒の入った器が三つ、乗せられた。
 ミツルの正面にアランが座り、横にユリカが座った。
 これからなにが始まるのか分からないミツルは、無表情のまま、二人を見つめた。











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