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インター!─ルドプスを埋葬せよ─ 作者:倉永さな

二部*一章 穹(そら)の民

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07

 ミツルが身体を休めるために横になっていた頃。
 ナユはまだ、寝ていた。
 シエルはナユとのつきあいが長いために、ナユがちょっとやそっとで起きないのは知っていたが、どうもなにかおかしいと気がついていた。

──……宿に到着して、ミツルが珍しくナユにやさしさを見せたのを見て、やっぱりやさしいのはこわい、絶対にこれ、下心ありありよ! と再認識していたシエルだが、ナユが疲れているのは事実だったのでなにも言わなかった。
 寝付きがよくてなかなか起きないのはナユの長所といってもいいが、眠りを打ち破るほどの音にむっとしていると、案の定、ナユは目を覚ました。
 寝ぼけたまま、扉の向こうにだれがいるのかを確認しないで開けて、そこに立っている男を見て、シエルは思わず悲鳴をあげた。

 いや、いや、いやだ!
 こわいこわいこわい!
 ナユ、逃げて!

 と必死に叫んだが、遅かった。
 鈍色の髪に、碧い瞳。
 一瞬、性別が分からないほど整った顔。華奢な身体。
 初めて見る顔だったけれど、嫌というほど知っている空気をまとっていた。嘘だといって。違うっていって!
 もうあたしは関係ない!
 とシエルが叫ぼうとしたところで、ナユの意識が途切れてしまい、シエルもそれに巻き込まれた。

     *

 ナユの中にシエルがいることを知っている男は、なんだかとても嫌な空気をまとっていた。
 そもそもがどうしてナユの中にシエルがいなければいけないのか。
 そのことを思い出すと、シエルは心が冷えていくのをいつも感じていた。

 ──シエルが最初、ナユの母であるラウラを認識したのは、碧いそらの下でだった。
 穹から墜ちてくる一つの金色に輝く光。
 それは墜ちているにしてはとてもゆっくりとしていたけれど、シエルはこの結末を知っていたため、見過ごすことは出来なかった。
 穹を認識すると反射的にひどく震える身体を鼓舞して、シエルは大地を思いっきり蹴った。
 この地に墜ちてから・・・・・一度も広げたことのない羽は無事に広がり、シエルの身体を高みへと導いてくれた。あれほど傷ついていた羽はどこにも欠けがないところを見ると、修復されたようだった。
 空を切る感触や上昇するときの独特の浮遊感がシエルの身体を包み込んだ。久しぶりのそれに高揚する。
 忘我の思いで上昇していると、いつの間にか金色の光よりも上へといっていたことに気がつき、シエルはあわてて戻った。
 そして金色の光の中に一人の女性がいることに気がつき、心が悲鳴をあげた。
 きりきりと鋭い痛みに身体が縮こまりそうになったけれど、今はそれよりも優先しなければならないことがある。
 だから痛みを我慢しながらシエルは腕を伸ばし、金色の光ごと抱き止めた。
 シエルの腕の中には華奢な女性。気を失っているから瞳の色は分からないけれど、光と同じ色の髪の毛。服は着ていなくて、身体のあちこちに痣があって、見ていて痛々しい。
 心臓はかろうじて動いているようだと分かった次に、それとは別の命があることに気がついた。
 ふとお腹を見ると、丸く盛り上がっていた。彼女の体内に新しい命が宿っているのは明らかだった。
 だけどその命はひどく危うくて、シエルは焦りを覚えた。
 もしも彼女が穹の民ならば、シエルは救う義務がある。しかもこの金色の輝きを見ると、彼女はきっと、シエルの後継なのだろう。
 もうあんな馬鹿げたことはやらないと取り決めたはずなのに、どうしてまた、復活しているのだろうか。
 シエルは金髪の女性を支えながらゆっくりと地上に降り立った。
 周りを見ると美しい木がたくさん生えていて、森の中だというのは分かった。
 とても良い場所に降りることが出来たとシエルはほっとした。ここならば上から・・・見えない。
 酷く衰弱した女性と新しい命を助けなければならない。
 だからシエルは躊躇することなく女性に手を伸ばした。
 女性の額に触れ、シエルは意識を集中した。
 女性とシエルの間に金色の淡い光が現れた。
 シエルは目を閉じて、意識を新しい命へと向けた。
 それから助かるようにと念じた後──シエルの姿が消えていた。

     *

 こうしてシエルはナユとラウラを助けた。
 森の中でアヒムと出会い、保護されたときは激しく安堵した。
 ラウラは穹でひどくて辛い目に遭ったようで、言葉を失くしていた。それにも関わらず、アヒムはラウラを不器用ながらも甲斐甲斐しく世話をしてくれたし、結婚をして、しかもナユの父となってくれた。
 シエルはナユが無事に生まれた時点で離れることが出来たのだが、穹のことが気になって離れられなかった。
 それと、アヒムの人柄に触れて、その暖かさから離れたくなかったのもあった。
 やさしいのはこわい。
 だけどアヒムのやさしさは打算がなくて、いつしかシエルまで癒されていた。
 シエルはいつしかアヒムのことが好きになっていた。好きだと伝えることは出来なかったけれど、そばにいられるだけでとても幸せだった。
 シエルが知る中で、一番幸せで、穏やかで、暖かな時間だった。

 その幸せな時間を壊したのは、カダバーだった。
 なにも出来なかったシエルは悔しくて仕方がなかった。
 そしてもう、あの無骨だけど打算のないやさしさに触れることが出来ないと知り、悲しかった。
 アヒムがとても大切にしていたナユを、今度はアヒムに代わって守ろう。シエルの目で見て、ナユを頼める相手が現れるまで──。
 と考えてすぐにミツルが思い浮かび、シエルはいやいや、それはないわ! と頭を強く振って否定した。
 あれは他人に興味がないから駄目よ、と思っていたけれど、なにがどうなったのかミツルはナユに興味を持った。
 ナユはというと、本人は嫌いだといっているけれど、筋肉に惹かれていた。
 要経過観察だわ、とシエルは特に口出しすることなく見守っている最中だ。
 なんやかやとちょっかいを出してくるミツルに怒りながらも律儀に返しているナユを見て、これは脈あり? と思っている。ナユもミツルと似たところがあって、本当に嫌ならばばっさりとやる。
 そのせいでカダバーから恨みを買ったのもあるが、あれはちょっと特殊ということで気にしなくていいだろう。
 そして今回の借金の返済を口実に実家にナユを連れて行くというのを知り、ミツルの本気を知った。
 しかも泊まりでって、なにかやらかす気かっ! と思っていれば同室! と興奮しているとこの誘拐である。
 誘拐した男の身柄はシエルの予想が外れればいいと思っているが、この独特の気配は同郷である気配が濃厚だ。
 いや、シエルの存在を察知している辺り、間違いなく穹の民・・・だろう。
 どうすればいいのだろう。
 相手が穹の民ならばシエルは勝てない。
 頼みの綱はミツルだが、来る気配さえ感じられない。
 ミツルがナユを見捨てるなんてあり得ないから、あちらもあちらでなにかに巻き込まれているのかもしれない。
 今のこの状況でナユから離れるのは不安であったけれど、そうするしかない。
 だから離れようとしたけれど、無駄だと男はシエルをあざ笑ったのだ。











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