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56:大変な労力と多額の費用
 警官は何枚かの書類を手に取る。

「我々が調査した結果、時間犯罪者カプリッオと、軍用武器を不法に製造所持した件で、生田公雄博士に逮捕状が出ております。生田博士は先ほど逮捕されたと連絡がありました」

「生田公雄博士……。どこかで聞いた名前だな。どこでだったか……」

 圭介は生田を思い出せないようだ。

 警官は次々と書類を読み上げてく。

「あとはカプリッオですが、この島に来たところまでは突き止めているのですが、カプリッオは特殊なバリアシステムを装備しておりまして、タイムレーダーでの捕捉が不可能で、現在も行方が掴めず」

 圭介は淡々とした表情で言う。

「カプリッオは、時間エネルギーを浴びて霧散したよ」

「霧散ですか!?」

 警官の動きが止まり、警官は首だけを動かして4人を順番に見ていく。

「ああ。見ての通り、この島に巣くっていたマフィアも時間エネルギーに飲み込まれて、今はいない。残っている人間は私たち4人だけだ」

 圭介は手を広げて別荘の端から端を示してみせる。

 知子たち家族は、首をそろえてそうだと頷く。

 警官は拍子抜けし、辺りを見回して、本当に4人しかいないのを確認すると、タイムマシンから降りた。

「本当だ。誰もいない。では、2台のタイムマシンが2008年にあるはずなのですが、それももしや?」

「一台は私が壊し、時間エネルギーに変えてしまったからもう無い。現在あるのは、あそこの1台だけだよ」

 圭介は芝生の上にあるカプリッオが乗っていたタイムマシンを指さす。

 智が消えた原因となった大きな青い竜巻は、圭介が壊したタイムマシンによるものだろうか。

 知子が考えていると、圭介は振り向いて知子を見た。

「智が消えたのは、私が屋敷内にあったタイムマシンを未来の技術で爆破し、時間エネルギーに変換したからだ。私の計算では、智のバリアは濃縮された時間エネルギーに100%耐えれるものだった。まさかカプリッオのバリアが智のバリアに悪影響を及ぼしてしまうとは……」

 知子の脳裏に消えながら微笑む智の姿が(よみがえ)る。知子はまた涙ぐむ。

 父は泣きそうな知子を見て、圭介に言った。

「ジョゼフさん、なぜそんな危険な事をしたんですか?」

「私はタイムマシンを未来に戻すか、できなければ破壊しなければならない使命を帯びていた。カプリッオが違法で作られたバリアシステムを所持しているとは思わなかったんだ。正直、あの時の私は追い詰められていて、そこまで考えが及んでいなかった。悲しい結果になってしまった事は、すまないと思っている」

 警官は、咳払(せきばら)いをして圭介と父の間に立つ。

「とりあえず、ドン・ガルネオは記録によると獄死した事になっています。今いなければならないマフィアがいない状態で時が進むと、過去と未来の間で誤差が生じ、それに(ともな)って時空にも歪みが生じ、未来に悪影響を及ぼしてしまう。至急、手配をして、ガルネオにそっくりの有機ロボットを製造し、2008年に送り込み、過去と未来の誤差を修正しなければなりません。ほかにも調査をして、消滅した人数分の有機ロボットを製造する必要がありますね。こりゃあ忙しくなりそうだ」

 警官はタイムマシンの中にいる者に声を掛けて仕事を手伝うように言う。するとほかの入り口もスライド式に開いて、次々と警官が降りてきた。新幹線の形をしたタイムマシンだけあって、降りてくる人数も2台の車両分いて多い。

 圭介と話している警官は、イタリアの日差しが暑いのか警帽を被り直して中の空気を入れ替える。

「2047年の時間警察から相馬博士と警護のSP1名の身柄を保護するように引継ぎを受けております。それと相馬博士には、ほかにもお聞きしたい事がありますので」

 警官はチラリと知子たちを見る。このあとの話は過去の人間である知子たちには聞かせたくないようだ。

「恐れ入りますが、我々とご同行願えますか?」

「その前に、カプリッオが知子さんの友人の名前を口にしました。もしかするとその友人の所にカプリッオの子分が潜んでいる可能性があるのですが」

「分かりました。そのご友人についても後ほど詳しく伺い、身辺警護の手配をします」

「それと、私に同行していたSPは、カプリッオと一緒に時間エネルギーに巻き込まれて霧散しました」

「それも詳しく伺う必要があるようですね」

 圭介は人差し指を一本立てる。

「もう一つ」

 警官はまだあるのかという表情をするが、圭介の顔を見て急に引き締まった表情になる。

 圭介は振り返って知子たちを見た。

「できれば、この家族を日本の岐阜県にある自宅へ送って欲しいのですが」

 警官の目が驚いている。だが圭介が警官を見ると、警官は凛とした表情に戻る。

「申し訳ありませんが、時空移動の法律により、どんな理由があろうとも、タイムマシンが存在しない時代の人間を、タイムマシンに乗せる事はできません。相馬博士なら重々ご承知だとは思いますが、未来の技術や情報が過去の人間に渡った場合、そのために生じた過去と未来の誤差を修正するために、大変な労力と多額の費用が必要になってきますので」
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