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55:父の隣
 西に傾いた太陽が照らす、ガルネオ島。

 今日は2008年5月5日、子供の日。

 芝生の上にいる知子たちの間を、静かに心地よい風が吹き抜けていく。

 今ガルネオ島にいるのは、知子と、知子の両親と、圭介の、4人のみ。

 全てが終わり心が落ち着いてから、4人は疲れを思い出して芝生に座っていた。

 知子は泣きやんで、両親と一緒に海の景色を眺めている。

 4月半ばに智と出会い今日まで、10歳の知子はいろいろな事を経験した。

 王子智に恋をして、ノーベル物理学賞を受賞しタイムマシンを発明すると知らされて、命の危険にまで(さら)されて、知子は、まだ10歳なのに人生の半分を経験してしまったような気分になっている。

 でも、本当の戦いはこれから始まるのだ。今後の知子の敵は時間。見る事も触る事もできない相手に(いど)んでいかなければならない。でないと、時間の彼方にいる時の王子、智に会えないからだ。

そして、智が消える前に言った、15歳の知子に会ったという事実。これはどういう事なのだろうか。詳しい事は分からないが、この先いろいろな事が待っている、というのだけは10歳の知子にも分かる。

「これからいっぱい大変だぁー」

 知子はポツリと(つぶや)いた。

 父は圭介と今後について話し合いをしている。

 父の表情は落ち着いて穏やかだ。暇を持て余しているようで、芝生を千切りながら言う。

「これから私たちはどうやって日本に帰るんですか?」

「未来の知子さんの話によると、芝生がある所で待っていれば未来から迎えが来るらしいのですが、こうやって座って待っていても迎えが来ないところをみると、芝生がほかの場所にもあるのかもしれませんね」

 キング圭介は、大らかにゆったりとした口調で言う。

 父は手を止めて圭介に向き直る。

「ジョゼフさん。未来の知子さんから話を聞いて知っているんだったら、もっと早く言って下さいよ。うちの知子が拉致されたのも、ジョゼフさんが、知子の未来の事実を隠していたからじゃないですか」

「いえそれはですね、未来の知子さんから、未来の事をパパさんに話すと、パパさんがマフィアに教えてしまうと言われていたので……」

 父は急に(ひる)む。

「いや、それは、その……」

 圭介がタイムマシンのエンジニアだとマフィアに話してしまった父は、逃げ場が無くて芝生を撫でまくっている。今の父は、圭介に頭が上がらないようだ。

 父の隣にいる知子は、だんだん黄金色(こがねいろ)に染まっていく景色をボーっとしながら見ている。その途中で、宙に浮いている青い竜巻を見つけた。

「ママ、あれ?」

「あ、青い竜巻だわ」

 圭介が確認する。

「お、やっと来た」

 4人は立ち上がる。

 竜巻は大きくなり、一台のタイムマシンを運んできた。

 そのタイムマシンは新幹線の先頭車両と後尾車両をそのまま繋ぎ合わせたような形をしていた。

 ボディには「TIME POLICE」の文字がある。未来の時間警察が所有するタイムマシンのようだ。

 タイムマシンは芝生の上に着陸したあとに入り口が開く。これも新幹線のようにスライド式の入り口になっている。

 中から制服に身を包んだ警官が出てきた。警官は4人を確認して圭介の前に立つと敬礼をした。

「相馬・ジョゼフ・圭介博士ですね?」

「そうです」

「我々は、2060年から参りました、時間警察イタリア支部の者です。時間犯罪人カプリッオを追って2008年に来たのですが、カプリッオが2008年の時間空域に特殊なバリアを張り巡らし、進入不可能となっておりまして、さきほどそのバリアシステムの撤去が完了し、この2008年に到着した次第でございます」

「そうですか。それはご苦労様です」

 圭介は慣れた表情で警官の話を聞いている。

 その後ろでは、両親が目を爛々と輝かせてタイムマシンを見ながら話をしている。

「あなた、聞いた? 2060年だって」

「聞いた、聞いた。あのタイムマシンも、きっと知子が作ったんだよな」

「イタリア支部なのに、あの人、日本語をしゃべってるわ。頭いいのね」

「知子もいずれは、ああなるんだよ。きっと」

 警官はチラリと両親を見るが、続けて圭介に説明を続ける。

「途中カプリッオの攻撃を受けて、時空内のバリア付近で立ち往生をしていた2047年のタイムマシンを我々が発見保護し、現在は牽引されて2047年に向っております」

「多分それは、2008年5月3日の0時に日本の岐阜県に到着する予定だった、私たちのタイムマシンだと思います」

「おっしゃる通りです。相馬博士」

 自宅で知子たちが襲われた時、未来から増援部隊が来なかったのは、カプリッオの攻撃によるものだったのだ。
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