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36:パパが決めた事
 父は来た道を戻っていく。ガルネオの歩くスピードは60を超えている歳の割に早く感じる。

 ガルネオは客間のリビングに来るとテーブルでトランプをしていた智に声を掛けた。

『あいつはどこだ?』

 知子は急に現れたガルネオを見てビックリする。

 あいつと言われただけで智の頭の中に圭介の顔が浮上する。

『呼ぶから待って』

 智は知子にも言った。

「危ないから部屋に入っておいで」

「うん」

 知子は椅子から降りて部屋へ行く。部屋の中に入りドアを閉めると、知子はドアに耳をつけて外の話し声に耳をそばだてる。

 智は部屋にいた圭介を呼び出した。

『外へ。ガルネオが待ってる』

 圭介は部屋から出てきた。歩いてガルネオの前で立ち止まる。圭介の背は、ガルネオと同じくらいで、一緒にいても見劣りはしない。圭介はトロッキオの隣に知子の父が並んで立っているのを気にして、父をチラリと見てからガルネオを見た。

 ガルネオは、圭介の前で葉巻を吹かしながら言う。

『お前、タイムマシンのエンジニアだってな?』

 圭介の顔色が変わり、トロッキオの隣にいる父を見る。

「パパさん、話したのか。どうして?」

「仕方ないでしょう。私たち家族は、あなた方のせいで拉致されたんだから。あなたがここに残ってタイムマシンを作れば、私たちは日本へ帰れる」

 智が声を大きくして言う。

「僕たちは、みんなを助けに来たんですよ」

「助かってないじゃないですか。それに知子がタイムマシンを発明するのはもっと先の話です。それまで私たちは関係ないはずだ」

 圭介は言う。

「パパさん、それは違う。確かに今の知子さんは、タイムマシンと関係がないように思えるかもしれない。でもそれは、知子さんがタイムマシンを発明するまでの道のりを歩んでいるからであって、決してタイムマシンとの関係が切れている訳じゃないのです。タイムマシンに乗り過去と未来を行き来すれば分かる事ですが、知子さん以外にタイムマシンを発明できる人はいません。いわば知子さんは、タイムマシンの起源ともいえる存在なのです」

 今の圭介は、品の良い極上の紳士とは思えないほど強い口調で父に訴える。

「物が生まれるには、その前の段階でいろいろなプロセスが必要になります。時は遥か昔からその様々(さまざま)なプロセスを(つむ)ぎ未来へ運んできました。宇宙の誕生。地球の誕生。人類の誕生。そしてやっとタイムマシンが誕生する段階になったのです。知子さんは、これからいろいろな事を経験して大人になったある日、タイムマシンを発明する事になります。パパさんも知子さんが大人になるためにいろいろな影響を及ぼす大切な存在なのです。知子さんにとって父親という身近な存在であるパパさんが間違った行動をとれば、直接知子さんの運命に関わってきます。タイムマシンを発明する知子さんに関わってくるという事は、全人類の運命に関わってくるといっても間違いではありません。それほど過去と未来は影響し合っているのです。パパさん、タイムマシンを発明する知子さんの父親だという事をもっと自覚して下さい」

 ガルネオとトロッキオは、圭介と父の言い合いを面白そうに見ている。

 ドアに耳をつけて会話を聞いていた知子は、いても立ってもいられずドアを開けて部屋から飛び出した。

 父がトロッキオの横に立っている。

「パパ、なんで一緒にいるの?」

 話している内容はよく分からないが、父がガルネオの味方をしている事だけは、知子にも分かる。

 智が駆けつけて知子の肩を掴んで知子を制止する。

「出て来たら危ない。部屋へ戻るんだ」

「だって、パパが」

 母も部屋から出てきて知子に言う。

「知ちゃん、これはパパが決めた事なの」

「ママ、イヤだ」

 父は知子に歩み寄る。

「パパたちは、関係のない事に巻き込まれたんだ。だからあの人に事情を説明して、私たちは日本に帰るんだよ」

「でも、圭介さんがここに残るんでしょ? そんなのイヤ。どうして圭介さんだけがここに残らないといけないの?
 私はみんなと一緒に帰りたい。みんなと一緒にお家に帰りたいの」

 父はしゃがんで知子と真正面に向き合って言う。

「知子。パパの言う事を聞くんだ」

「イヤ。パパ、お願いだから、みんなと一緒に帰れるように頼んで」

「それはダメなんだ」

「パパ、お願い」

「ごめんな、知子」

 知子は父の胸で泣き出した。

 ガルネオは冷めた目で知子を見ている。

 トロッキオはガルネオに声を掛けた。

『なんだか飽きてきました。そろそろ戻りましょう。ガルネオ様』

『そうだな。トロッキオ、そいつを連れて来い。忘れるなよ』

『はい』

 トロッキオは返事をすると圭介の腕を掴んだ。

『来い。一緒に来るんだ』

『待て。僕も一緒に行く』

 智は知子の肩から手を放した。

 知子は歩き出した智を見上げる。智がどこへ行こうとしているのか、10歳の知子でも察しがつく。

「行っちゃダメ!」

 智は引き締まった表情でトロッキオの所へ歩いて行く。知子を一度も見ずに。

 トロッキオは智に言い捨てる。

『ガキのお前なんざ、お呼びじゃねえ』

『僕は未来の大学で機械工学の学位を修めている。エンジニアの助手として使えるはず』

 トロッキオに決定権は無く困惑した表情で答えを求めてガルネオを見る。

 ガルネオは興味ありげに智を見た。

『タイムマシンが作れるなら必要だ。そのガキも連れて行け』

 言ってガルネオは歩き出した。

 トロッキオは嫌味を込めて智に言った。

『ついて来い。だとよ』

 圭介と一緒に歩き出す智。

 知子は泣きながら父の肩から顔を出す。

「智さん!」

 それでも智は振り返らずに歩いて行く。

 父は知子の口を手で塞ぐ。

「知子、静かに。騒いで彼らの機嫌を損ねたら今度こそ殺される」

 声が出せず言いたい事が言えない知子は、泣きながら父の肩を拳で叩く。

「知子、すまない」

 父は知子が走り出さないように抱きとめながら、ずっと謝り続けた。
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