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17:パズル
 最近は朝しか会っていないのでビジネススーツ姿の智しか知らない。

 知子がお行儀良く待っていると、その智が廊下に顔を出した。

「父さん、ごめん。今シャワーを浴びたばかりだから先に行っててくれる?」

「智、まだ準備をしていないのか」

 圭介が体の向きを変えて智の所へ歩いて行く。

 智王子は肩にバスタオルをかけて、トランクス一枚の姿で廊下に現れた。

 智の胸の筋肉は盛り上がっている。腹も線が縦横に入って肉が盛り上がりはっきりと腹筋だと分かる。肩についている筋肉も凄い。腕も足もスポーツ選手並みの筋肉がついている。

 それでいて、185センチの身長は、智の体型をスマートに見せてしまう。一体何をどうしたらああいう筋肉がつくのだろうか。

 10歳の知子でも普通じゃないと分かるほど、智王子は筋肉質でスマートな体型をしていた。

 圭介と智は肩を並べて話しているため、なんの話をしているのか、知子の耳まで届いてこない。

 知子がつまらなそうに立っていると、圭介が振り返って知子を見た。

「知子さん、智は準備に時間がかかるようなので、私と先に行きましょう」

 圭介は歩いて来て、知子がいる玄関に足を下ろした。靴を履く。

「智さんは?」

 知子は一番の目的である智の事を聞く。

「髪を乾かして、服を着たら来ると言っていましたので、すぐに来ると思いますよ」

 圭介は、知子の手を握る。圭介の手は大きくて温かい。

「智にも、私の母であるイタリア人の血が流れています。イタリアの男は女性を大切にします。身だしなみにも気をつかいます。きっと、知子さんと知子さんのご両親の前では、きちんとしていたいのでしょう」

 圭介はウインクをする。

「だから智は、身だしなみに時間をかけているのですね」

 知子は圭介のウインクを受けて心のときめきを覚えた。だが智といる時ほどの激しいときめきはない。そう感じながら、知子は圭介と一緒に玄関を出た。

 父以外の人と手を繋いで歩くのはちょっと恥ずかしい。しかも夜道で、相手は先ほどウインクをした青い目の極上の紳士ときている。その圭介の青い瞳は街灯の光りを反射して夜に煌く宝石のようだ。

 圭介は加藤家の玄関に来ると、知子の手を放した。代わりにドアノブを握り玄関ドアを開ける。

「こんばんは」

 母が顔を出す。

「こんばんは、ジョゼフさん。さあ、上がって下さい」

「失礼します」

 圭介は加藤宅に上がった。

 知子も圭介に続いて家に上がる。

 リビングのテーブルには風呂上りの父がいて、座ってビールを飲んでいる。

 圭介は改めて父に挨拶をする。

「こんばんは、知子さんのパパさん。こうして直接お会いするのは初めてですね。相馬・ジョゼフ・圭介と申します」

 父も挨拶をする。

「どうも。知子がいつもお世話になっているそうで」

 父は圭介を椅子に案内して座らせ、グラスを渡し、そこにビールを注ぐ。

 知子が黙って圭介を見ていると、母が鍋から毛ガニを出しながら言う。

「知ちゃんも立ってないで、座ったら?」

「うん」

 知子は圭介の隣に座った。

 圭介は父を見てビールが入ったグラスを持ってにこやかに話をしている。

「いえいえ、お世話になったのはこちらのほうでして、道に迷っていた息子を知子さんが案内してくれたのです」

「うちの知子が。そうだったんですか」

 父の頭の中で、なぜ野郎2人を家に招かないといけなくなったのか? の真相を究明するパズルが完成していく。

 母は無意識にそのパズルを手伝う。

「それでね、パパ。ジョゼフさんが毎日のように知子に手作りの洋菓子をくださるようになったのよ」

「それはそれは。もらいづめで何のお返しもなく、申し訳なかったですね」

「いえそんな、お返しっていうほど大したものは作ってないんですよ」

 嬉しそうに笑う父の前で、圭介は一気にビールを飲み干した。

「おいしい」

「ジョゼフさん、飲める口ですね。だったら、どんどん飲んで下さい」

 父は圭介にまたビールを注ぐ。

「パパさんも、飲んで下さい」

 圭介も父にビールを注ぐ。

 母は圭介に茹で上がった毛ガニを出す。

「姉が送ってくれた毛ガニです。どうぞ遠慮なく食べて下さいね」

「これをお姉さんが。ほう、おいしそうな毛ガニですね」

 圭介は毛ガニに手を伸ばした。

 大人3人は酒の場で楽しそうにしている。

 キング圭介はビールを飲むばかりで、知子に見向きもしない。

 知子は仕方なく黙って毛ガニの甲羅を外す。

 カニの分解は、母の姉がよくカニを送ってくれるので、幼い頃から一人でできる。

 知子は大人3人の会話を聞きながら、甲羅の裏についているカニ味噌を食べた。

 カニ味噌はおいしいが、一人で食べているとなんだか味気ない。

 母が相馬家を夕食に招待するというので、きっと楽しい夕食になると思っていたが、実際は3人の大人から切り離された、知子にとってはがっかりな一人の寂しい夕食時間となっていた。
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