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俺の黒歴史ノートが異世界で魔導書になっていました

作者:きり
馬鹿みたいな話を書きたくてやらかしてみた
元は長編を考えたけど短編にコンパクト収納
「閃天交差し我放つ――死を具現する破竜の咆哮」

 低く、どこか儀式的な声が戦場に響く。それは俺の口から発せられる魔を帯びた言葉だ。着ていた黒のコートが靡き、指無しグローブを嵌めた手のひらに光が収束していく。眩しいばかりのそれだが、サングラスをしているので自分は問題ない。
 そして俺のその声を聴いた敵兵たちが血相を変えた。

「で、出た……! アテン大陸同盟イサマティの破限魔術師……っ!」
「何だと!? 魔導原典『魔縛教典』を生んだと言うあの……!?」
「に、逃げろ! 早く逃げるんだ!」

 泡を食って逃げ出す敵兵たち。しかし俺は構うことなく光を纏う腕を向けた。

「もう遅い……。砕けろ――《ネオ・ディスクリプション》!」

 俺の手から放たれた光が敵兵たちを飲みこんでいく。空気を震わせ轟音を撒き散らしながら膨れ上がった光は目前に居た敵の部隊を一気に瓦解させた。

「お、おお! 破限魔術師殿が勝ったぞぉぉ!」
「皆の者! 今が好機だ、進めぇぇぇぇ!」

 俺の背後に待機していた部隊が進撃を始める。破壊の魔術から逃れた敵兵達が怖れをなして逃げていく。だがそんな光景に興味は無い。踵を返すと俺と一緒に来た部隊の兵士が目をキラキラさせて俺に敬礼した。

「ありがとうございます! 流石はカズキ様です!」

 歳は10代半ばか。自分より二つ三つ低いほどだろう。そんな兵士の羨望の眼差しに俺は『ふっ……』と笑った。そしてぽんぽん、と頭を軽く叩くとそのまま去る事にする。頭を叩かれた兵士はまるで子犬の様に目をキラキラとさせたまま何時までも俺の事を見つめていた。



 全てが終わった後、俺は速足にテントに戻った。そしてテントの入り口を厳重に閉じ、鍵をかける。そして誰も居ない事を確認し俺は、

「あああああああああああああああ!? もう嫌だこんな世界!?」

 頭を抱えて地面に突っ伏した。

「何だよ破限魔術師って!? 意味わかんねえよ何を突破したんだよ破壊されたのは俺の羞恥心と理性だよ畜生ぉぉぉぉぉぉぉ!?」

 頭を抱え、床を身悶えながら悶絶する。だって仕方ないじゃない。あんな痛々しい格好で痛々しい呪文を唱えて最後は『ふっ……』だぞ!? 世間一般的な感性を持つ男なら恥ずかしくて死んでしまうわ! あんなのが許されるのは小学生か良くて中学生だろ!?

「毎度毎度飽きないなあお前も」

 不意に女性の声が聞こえた。その声に嫌な予感をしつつ顔を上げると黒の法衣を纏った長髪の女が面白そうに笑いながらこちらを見下ろしていた。

「フェノン……なんでお前がここに居る……」
「それは当然、いつものように恥ずかしい格好で恥ずかしい呪文を唱えて敵を殲滅してきたカズキを見る為だろう。その為に姿を消していた」

 そう言って笑うのはこの国で魔女と呼ばれるフェノン。小柄ながらも艶やかな黒の長髪と出るところが出て引き締まる所は引き締まった見事な体形の持ち主だ。通常ならこんな美人と出会えた事に感謝するところだが俺は知っている。この女がドSだと言う事を。

「というか! お前が居るなら俺が出る必要無かっただろ!? 何で俺にやらせてんだよ!」
「そんなの決まっている。私はあんな恥ずかしい呪文を人前で唱えたくないからだ」
「言うなぁぁぁぁぁ! 指摘される度に死にたくなるからお願いだから言わないで!?」
「何を言う、お前が考えた呪文だろう。なあ魔縛教典作者殿(マテリアルマスター)?」
「いやあああああああ!?」

 頭を抱えガンガン、と床に叩きつける。穴が有ったら埋まりたい。というかもう自分で掘ろうか。

「お前が幼い頃に書き記した厨二病妄想ノート。またの名を黒歴史ノート。まさかそれがこの世界では最高峰の魔導書となるとはなあ?」
「俺だって知りてえよ!? 俺の痛々しい妄想書き綴ったあのノートは高校三年の時こっそり処分したんだぞ!? 何でそれがこの世界にあって魔導書扱いなんだよ!?」
「高校三年まで大事に持っていたのか……。まあそれはさておき理由は私も知らん。大方何かの拍子に次元の狭間にでも落っこちてこの世界に流れ着いたんだろうよ」
「だからって! 何でそのノートの内容が実現するんだよ!? あれは唯の俺の妄想だぞ!?」

 俺の渾身のツッコミ。それに対しフェノンの答えは簡潔だった。

「そういう世界だからだ」
「理屈もへったくれもねえ!?」

 頭を抱えて突っ伏すこちらをフェノンはニヤニヤと眺めている。畜生……! こいつが男なら間違いなく顔面に蹴り入れるのに!

「まあお前も哀れだと思う。だが件の教典を奪い返してこの世界から消し去らない限り永遠にこのままだぞ?」

 ツンツン、と爪先で頭を小突いてくるフェノンに俺のこめかみがピクリ、と跳ねる。

「こ、この女……いつかその胸揉みしだいてやる……!」
「ほう、やってみるがいいさ。……所で聞いていいかな? 救世主にて破限魔術師殿?」
「その名で呼ぶなと言ってんだろうが! もう、キレた。キレたぞ俺は! 今すぐその胸をこの手で――」
「先程の呪文の最後の言葉……ネオ・ディスクリプションだったか」
「……!?」

 その言葉を聞いた途端、俺の背筋が凍った。そんなこちらの様子を楽しむように笑いつつ、フェノンは続ける。

「ずっと疑問だったんだが……『真・説明書ネオ・ディスクリプション』とはどういう意味なんだ?」
「すいませんでしたぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁ!」

 ハヤシ・カズキ19歳。異世界で黒歴史抹消の為に奮闘中。
 因みに件の呪文は小学5年の時に響きがカッコ良くて適当に付けただけであり、当時の自分は意味なんて二の次でした、はい。




 異世界とやらに飛ばされた。

 いきなり何だと思うが事実そうなのだから仕方ない。それが俺の事件の始まりだった。
 何時もと同じ大学の帰り道、品川駅のホームで欠伸をしていた所で背中に衝撃。驚き振り返ると大急ぎで駆けていくサラリーマンとキャリーバックの姿が見えたのが最後。すぐそこまで来ていた山手線に見事に吹っ飛ばされたと思ったら突然視界が暗転。気が付いたら―――――変態に囲まれていた。

「ふっ……召喚に成功したな」
「流石竜王級(ドラグーン)の魔術師だ。精練結晶(フェルシオン)の強化無しでやり遂げるとは」
「この程度の事当然です」

 俺を囲む者達。全員真っ黒のコートを羽織りコートの各所には用途不明のベルトが巻かれ指無しグローブを嵌めて薄暗い室内にも関わらずサングラスをかけた者達が口々に何やら話していらっしゃる。だがその話の内容よりその姿に目が行く。いや、話の内容もなんか心の奥底を疼かせるものがあるけど今はいい。それ以上に男たちの恰好が、

「なにコレカッコイイ……って違うっ!」
「おお! 平面結界を超えた破限魔術師殿が叫んだぞ」
「ふっ、突然の事態に混乱してしまうのも無理はない」
「この程度の事で騒ぐとは」

 何こいつらウザい。というか何だよその平面結界とか破限魔術師とか心躍る様で口にしたら色々捨てなきゃいけないような単語は! 

 それがこの世界とのファーストコンタクト。その時は未だ状況が掴めておらず突然の事に混乱しつつもどこか異質な雰囲気に恐怖と不安、そして少しの興奮を感じていた……あの時までは。
 状況がよくわからぬまま変態達に案内されて俺が辿り着いたのは大きめの会議室の様だった。中心には旗が掲げられそれを囲うように六角形に机が配置されている。そしてその机には厳つい男から妙齢の女性までが座っているのだが、何故か全員机に肘を乗せ、組み合わせた手を眼の前に置いた状態でのしかめっ面……どこかの育児放棄司令官の様な格好で沈黙している。なにコレ怖い。

「来たか……」

 部屋の奥に座ったサングラスをかけて同じような格好をした男が渋い声を上げた。というかこの会議室真ん中の旗が邪魔なのだが色々おかしくないだろうか? だが今はそれどころでは無い。とにかく状況説明を求めたい。その旨を伝えると会議室の面々が意味深に『ふっ』と笑った。いちいち癇に障る連中だ。
 席を促され一応座る事にする。すると黒髪のメイドさんが現れてティーカップにお茶らしきものを注いでくれた。喉が渇いていたのでありがたい。メイドさんに礼を言ってそれを口に付けつつ話を聞いてみることにする。

「我々はアテン大陸同盟諸国の者だ。簡潔に言おう。君の力で魔導書『魔縛教典』を取り返してほしい」
「OKあんたらが説明苦手なのは良くわかった」

 簡潔過ぎて意味がわからん。そんなこちらの様子に同盟諸国とやらの皆さんは『あれ?』と首を傾げ顔を見合わせていた。

「……少々簡潔すぎたのでは?」
「しかし第一印象で舐められたら問題ですぞ」
「状況をコントロールしこちら等が主導権を握らなければ」
「そして大事なのは雰囲気です。押せ押せです」
「左様、情報は小出しにして交渉するに限ります」
「……ですが小出し過ぎて意味不明な気が」
「あんたら内緒話するにしたらこの会議室絶対失敗だろ。全部聞こえてんぞ。あと最後の人正解」

 指摘してやると全員が『ぬぅ……』と額に脂汗を浮かべた。何なのこれもう帰りたい。そんなこちらの苛々が伝わったのか、どこか自信なさ気に先程の男が手を上げた。

「えーと、では説明するとですね。我々がとっても大切にしていた魔導書が魔族に奪われてしまいまして。それを取り返す為にお力添えを頂けたらなーと」
「いきなり弱腰になったなオイ」

 というか魔導書だの魔族だの聞く限りやはりここは今までの世界とは違う気がする。だが何故だろうか? 当初こそ混乱していたが今は妙に気分が落ち着いている。我ながらこの落ち着きように違和感を感じた。

「あ、それは貴方に精神安定の魔術をぶち込んだからです。やり過ぎると安定しすぎて素直な良い子になりつつ感情失いますけど先っちょだけならOKなので問題ありません」
「大有りだコラァ!?」

 朗らかに言い放った男に思わずティーカップを投げつけると男は『ひぃっ』と身を竦めた。というか何なのこの人たち。いきなりわけわからんこと言って来るし何かを頼むにしても態度と言う物があるだろうが!

「アンタらが何を言いたいのかはよくわからない! だがこれだけははっきり言うがお断り――」
「本当にいいのかな?」

 不意に首筋に怖気が走った。慌てて振り向くと先程のメイドさんが何やら妖艶な笑みを浮かべている。

「な、なんだよいきなり……」
「いや、本当にいいのかと思ってな。これを見てみると良い」

 怪しげなメイドが懐から数枚の紙片を取り出した。それを見た会議室の面々がおぉ、と声を上げる。

「それは魔導書の写しか! しかし何故女中如きがそんなものを!」
「失礼な輩だな。まだ気づかないか?」

 メイドさんがそう笑うとその姿が影に包まれ、そして黒の法衣を纏った女性の姿へと変化した。なにコレスゲエ。そして驚いたのは俺だけでは無いらしい。

「な、フェノン殿!? 何故ここに……!?」
「なあに、異界から態々呼び出された者とやらを見に来ただけだ。しかし……これは中々面白いな」

 メイドさん改めフェノンさんとやらがニヤリ、と笑う。そして紙面を渡してくれた。というか凄い美人だなー。スタイルも凄いし肌も白いしどこか強気な印象が何気に好みだ。歳は俺と同じくらいだろうか? こんな人が彼女だったらなぁ
だがいつまでもじっと見ていたら唯の変態だろう。誤魔化す様に渡された紙面に目を落し……俺は絶句した。

『最強ま法 アブソリュートイグニッションゼロ:ま剣使いゼロスのおうぎ。相手をこおりつかせ、それを粉々に砕くま法』

「こ……これは……!?」

 そこに記された内容を読むと同時、ダラダラと冷や汗が流れる。動機が激しくなり肩が震える。だってこれは……これは……!

「これは魔導書『魔縛原典』の写しだ。魔導書の中身は解読不能な文字も多いが作者名は判明している。そう、解読された作者名はハヤシ・カジキ!」
「カズキだ! って俺かぁぁぁぁぁッぁぁぁぁぁぁぁッぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 悪夢の始まりであった。




「思えばあの時叫んで居なければもっと状況は変わったのだろうか……。というか先に気づくべきだったんだよ。よくよく思い出せば破限魔術師だの平面結界だのもあのノートに書いてた内容じゃねえか……っ」
「どちらにしろお前の黒歴史ノートが痛い事は変わらないがな」
「言うなよ! 俺だって分かってるからお願いだから言わないでぇ!」

 戦いを終え次の地へ向かう馬車の中、俺は頭を抱えながらこの世界に来た時の事を思い出していた。そしてそんな俺を面白そうに眺めているフェノン。
 あの時、あの魔導書(黒歴史ノート)の作者が俺と言う事が判明した途端会議室は大騒ぎになった。やれ救世主だの、魔術の王だのとそりゃもう大層に持ち上げられまくった。いや、それはまだいい。それより耐えきれなかったのはこの世界の魔術とやらを知ってからだ。
 何をトチ狂ったのか、この世界の魔術とやらは俺の黒歴史ノートを元にしていると言う。つまり俺が小学性の頃から高校三年までに溜め込んだ妄想の数々が実現しているというのだ。これが悪夢以外のなんというのか。だってあれだぞ? 大昔に自分が考えた痛々しい名前と設定の技を大真面目に目の前で使われてみろ。どんな羞恥プレイだ。
 しかもあの連中、俺が作者だと知った途端目を輝かせて自分の魔術を見てくれと揃いもそろってそれを披露し始めた。その度に俺は過去の黒歴史を抉られ悶え、頭を掻き毟り遂には放心するに至った。そして最終的には宛がわれた部屋に籠り布団を被って震え続けた。これは夢だと。早く覚めてくれと。しかし現実は非情であり、俺を観客にした黒歴史実現ショーは三日間続いた。もはや拷問だ。
 そして四日目の朝、俺は覚悟を決めた。俺を苦しめる元凶。すなわち魔縛原典とやらを魔族から奪い返し……この世から今度こそ消滅させる事を!
 その旨を伝えるとアテン同盟諸国とやらのお偉いさん共は万歳しつつ、護衛部隊とやらを俺に付け盛大に送り出したのだった。そしてそれに目の前の女性、フェノンも同行している。

「というか前々からずっと聞きたかったんだけど何でお前俺の事知ってんの? 俺の世界の事もなんか知ってる感じだけど」
「簡単だ。お前が召喚された際にお前の記憶を覗き同調したからだ。なので今の私はお前の経歴からお前の世界の事。挙句はお前の性癖まで完全に把握している」
「プライバシーは!? ねえ俺のプライバシーは!?」
「異世界に何を期待しているんだ。それに私だって見るべきでは無かったと思っている……」

 どこか後悔する様なフェノンの様子にあれ? と首を傾げる。このドSで良い性格をした女でも流石に人の記憶を覗いた事を後悔してるのだろうか。いやあ、何だかんだでやっぱりそうだよなあ。けどまあ見られた恥ずかしい記憶は……山ほどあるけどお蔭で前の世界の事を話せる相手が居る事だし少し位なら、ねえ? よし、優しい俺が慰めて――

「お前の記憶を覗いて……今まで私たちが使っていた魔術がとてつもなく痛い事を理解してしまった……っ! その瞬間の私の気持ちが分かるか!? 恥ずかしすぎて死にたくなったんだぞどうしてくれる!」
「知らねえよ!? むしろそれ今の俺の状況だよ! つーか後悔ってそれの事かよ期待した俺が馬鹿だった!」
「くっ……まさか感性までお前の世界に引かれるとは予想外だった……。お蔭で魔術を使う気になれん」

 だから俺にやらせたのかこの女は……。どうしよう殴りたい。

「とにかく、あの忌々しい魔導書をこの世から抹消する事は賛成だ。アレを消し去ってもっとまともな魔術継体を確立させる必要がある……!」
「お前がついてきたのはそう言う理由か」

 まあいい。何だかんだで気軽に話せる相手が居るのはいい事だ。当初は美人っぷりに気が引けていたが、散々弄られたお蔭でもう慣れた。それに目的が同じ仲間が居るのはやっぱり心強い物だ。うん、そういう事にしておこう。
 俺が必死に現状を受け入れようとしていると、フェノンが「そういえば」と質問してきた。

「何故お前はその服装をしているんだ? 痛々しいのは嫌なんじゃないのか?」
「う……」

 そう、今の俺の恰好は中々に酷い。黒のコートは所かしこに用途不明のベルトが巻き付きシルバーアクセサリーらしきものを垂れ下げている。手には当然の如く皮の指無しグローブを嵌め挙句の果てにはサングラスだ。一昔前のRPGの主人公の様な出で立ちである。俺だって当然この恰好が中々に痛々しい事は理解している。理解しているけど、

「考えても見ろ……素面であんな呪文叫んでいられるか……っ!」
「成程、つまりあえてそういう格好をする事で逆に恥ずかしさを誤魔化していた訳か。しかしそれはお前の世界で俗に言うコスプレだろう?」
「言うな!」

 つまりはそういう事である。本当なら酒でも飲んでなきゃやってられない事この上無い。だが流石に戦闘中にそれはまずいと言う事でこういう格好をして『状況に酔う』事で必死に羞恥心を忘れていたのだ。俺の自尊心を全力で殺しにかかってくる世界に対してのせめての反抗である。

「こちとら必死にキャラ作って誤魔化してるんだ。だからお前も協力してくれ……。お前だって一刻も早くこの世界からアレを消し去りたいんだろ」
「……まあ、そうだな。多少は考えておく」
「多少かよ……」

 はぁ、とため息をつく。なんだかどっと疲れた。次の目的地まで寝ようと思い背もたれに身を預けた、その時だった。

「うわあああああああ!?」
「ぬぉ!?」

 突如外から響いた悲鳴と爆音。それに思わず飛び起きる。見れば正面のフェノンも訝しげに外へ視線を向けていた。

「な、何!? 何事!?」
「慌てるな……どうやら敵のようだ」

 言うが否や、服を掴まれた。何故? と思った瞬間フェノンが俺を引っ張り馬車の外へと飛び出した。同時に背後からキンッ、と張りつめた様な音が響く。

「ぬおおおおおお!? いきなり何すんだ!?」
「騒ぐな。そして感謝しろ」
「何をぅ!? って……なんだアレ!?」

 着地したフェノンに地に放られ頭をぶつける。それを抗議しようとしたが、馬車の方を見て思わず口をあんぐりと開けてしまう。何故なら先ほどまで乗っていた馬車が―――凍りついていたからだ。

「……ものすごい嫌な予感がするんだが」
「奇遇だな。私もだ」

 嫌な予感を感じていると、凍りついた馬車が砕け散った。そしてその向こうから一人の男がゆっくりと歩いてくる。その姿を見て俺は戦慄した。
 現れたのは青の甲冑を着こんだ10代半ば程の少年だ。銀の長髪を靡かせ、異常なまでに整った中性的な顔に笑みを浮かべている。瞳は赤と青のオッドアイ。そしてその手に持つ剣は何やらむやみやたらに装飾されており中心には宝玉が埋まっている。

「お、お前は……」
「おい、知っているのか?」

 フェノンが聞いてくるが答える余裕が無い。それほどまでにその男の出会いは俺にとって衝撃的だったからだ。だって……だってあの男は……!

「貴様が噂の破限魔術師か。ようやく見つけたぞ」

 少年が剣を構える。そして「はぁぁぁ」と何かを溜めこむような仕草をするとその剣を中心に青い光が渦巻いていく。あの姿にあの技、間違いない! アイツは……!

「喰らえ! 《アブソリュートイグニッションゼロッ》!」
「俺の小学生時代の妄想集大成! 法魔四天王の一人イフリル配下の魔剣七塵将ガーディス直下の破軍三鬼衆の一人にして実は七刃将すら上回ると噂される陰の魔剣使い、ゼロス!?」
「長すぎるわ馬鹿が!」

 突然の出会いに動きが遅れた俺の首根っこをフェノンが掴み、すかさずゼロスが放った光から逃れた。すぐ横を通り過ぎて言った光はありとあらゆるものを凍らせていき、その光景に思わず顔が引き攣る。

「ほう、俺の技を避けるとは流石だな……」
「おい、あのキザったらしい奴もお前の妄想か」

 俺を地面に降ろしたフェノンが冷たい眼差しで見下ろしてくるが……答えたくない。だってあれは……あれは……っ!

「答えろ。あれはお前の小学生時代とやらの厨二病の集大成で授業中や休み時間に密かに自由帳に書き綴った妄想と当時やったゲームや見たアニメに影響されて創り出した憧れの集大成だったりした男なんだな?」
「はいそうです! 認めますからそんな細かく言わないで!? 死にたくなってくるからっていうかお前本当に詳しいなオイ!?」

 半泣きになりながら俺はフェノンに懇願した。いやもうホント勘弁してください。けどみんな小学生時代に自由帳とかに書いたよね? HPとか攻撃力とか設定して無駄に装飾した剣とか持たせて、友達にキャラ選ばせて対戦とかやったよね? よね!?

「ほう、俺を知っているか……。やはりお前があの魔縛教典の作者で間違いないらしい」

 ゼロスさんとやらがキザったらしく話すたびに何故か風が吹きその銀髪がキラキラと靡くがやめてほしい。彼が喋るたびに俺の心が削られていく。

「というか! 魔術とかだけならまだしも何てキャラまで実現してんの!? これも異世界だからとか言わないよね!?」
「流石に私も知らん」

 縋りつく様にフェノンに訴えるが無造作に蹴り返された。酷い。

「ふふ、動揺している様だな。作者と言えど俺の力に怖れを成したと見える!」
「恐れてるのはお前の存在そのものだよ! 大体何なんだその格好は!?」
「お前がそれを聞くのかな? これはお前の書き記した魔縛教典に記されていた戦士の姿その物! その姿を実現する事で我々はその力すらも再現して見せたのだ!」
「ふむ。つまりコスプレしてなりきっていると。良かったな、お前のお仲間だぞ」
「もう嫌だ……」

 納得したように頷くフェノンの横で俺は崩れ落ちる。小学生の頃はカッコイイと思って作った設定を今、目の前で、堂々と、体当たり実演している男が居るという状況に俺は泣いた。過去の自分が憎くてとにかく泣いた。助けておかあさん。この世界の人達頭がおかしいの

「ふ、何を泣いているのかは知らんが貴様の存在は貴重だ。是非わが軍に来て魔場教典の未読部分を解明してもらう必要がある。来て貰おうか」
「ちっ、来るぞカズキ。いい加減泣いてないで準備しろ」
「……いやだ。もう何もみたくないもん」

 フェノンが急かしてくるがもう駄目だ。限界だ。俺は全てを投げ出して地面に体育座りで座りこみ空を見上げた。無駄に晴れ渡った空が眩しく目を細める。ああ、俺もあのお空へ旅立ちたい。だってお空には俺の過去を抉る呪文を唱える魔術師も妄想炸裂コスプレ男もいないもん……。あ、鳩だ。この世界にもいるんだなぁ

「なんだかよくわからんが隙だらけなのは丁度いい! 別に五体満足でなくても構わないからなぁ!」

 ゼロスが剣を掲げその剣に光が宿っていく。先ほどの技、アブソリュートなんとかを放つつもりだろう。因みにその技の事は覚えている。英和辞典(カタカナ表記)を見ながら一生懸命かっこよさ気な単語を探して組み合わせたよなぁ小学生時代の俺。意味? 例の如く二の次でした。

「最大出力、《アブソリュートイグニッションゼロォォ》!」

 呆けている俺目掛けて先程より大きな光が向かってくる。今からでは避けることもままなら無い。いっそあの中に飛び込んだら幸せになれるかなー、と思ってた矢先、俺の目の前に人影が立ちはだかった。

「え?」
「ちっ、無限に重なる鋼鉄の花弁よ、我の前に具現せよ!」

 それは何時も俺を弄っては楽しんでいるフェノンの姿。彼女があれだけ嫌がっていた呪文を唱えつつその手を振りかざす!

「《鉄花・錬層壁》!」

 フェノンのかざした手の先から光が溢れそれが壁となってゼロスの放った光を受け止めた。しかし展開が遅かったせいだろうか? フェノンが展開した壁はゼロスの攻撃を完全には受け止めきれず、壁は無残にも砕け散った。同時にゼロスの放った光も霧散していく。

「かはっ!?」
「フェノン!?」

 壁は砕けると同時に余波を撒き散らして爆散してしまった。そしてその衝撃で吹き飛ばされ地面を転がるフェノンを慌てて抱き起こし俺は息を飲んだ。フェノンは右腕から出血しており、体のあちこちは凍りついている。恐らく爆発の衝撃と防ぎ切れなかったゼロスの攻撃のせいだ。

「お前、あれだけ嫌がっていたのに何で……カッコよさ気な漢字の並びに嵌っていた俺が高校時代に作った防御魔術を!?」

 動揺してフェノンを抱く手が震える。どれだけ厨二だ黒歴史だの言っても攻撃は攻撃なのだ。当たれば怪我をするし死にもする。そんな事自分だって敵軍に盛大にブッパしてたので当然ながら知っていたのだ。なのに震えが止まらない。そんな俺の動揺した顔を見てフェノンはふん、と笑った。

「お前は……本当に碌でも無いものばかり作るな……」

 美しいその唇からも血を流しつつフェノンが言葉を繋ぐ。

「だが分かっただろう……? お前がどれだけ現実逃避しても……これには痛みがある。実在してしまったのだ……。どれだけ否定してもそれが事実っ。なら……お前は受け入れなくてはなら無い」
「そ、そんな事……!」

 分かっていた。言われなくても本当は分かっていたのだ。どんなに目を背けても耳を塞いでもあのアテン同盟諸国の連中の魔術披露と言う名の拷問を受けたあの時から分かっていたんだ! 逃げられないと! 受け入れるしかないと! だけど、だけど余りにも連続して続く精神攻撃に心が折れかかってしまったのだ。だがその弱さがフェノンを傷つけた。その事実に俺は今までとは別の意味で泣いた。

「すまん……俺は、俺は……!」
「泣くな、みっともない……。だがそんなお前の尻を叩く為に私もついてきたのだ……。それを失敗しかけたと言う事はこれは私の失態かもなあ……?」
「お前、本当はその為に……!?」

 傷つきながらも何時もの笑みを浮かべるフェノン。その姿に胸が熱くなる。そうだ、俺は一人じゃない。同じ感性を持ち話に乗ってくれる相棒が居てくれるじゃないか! 普段はちょっとキツイけど何だかんだで一緒に居れくれる相棒が! しかもその相棒は美人で胸がデカいと来たもんだ! 何これ良く考えたら凄い幸せじゃね!?

「さあ、立ち上がれ……! 敵はまだ倒れていない。だがそれが何だ? お前の生み出した設定をとことん真似ているのなら、お前があいつの事を一番よく知っている筈だ……!」
「ああ……! ああ! 分かったぞフェノン! お前はそこで休んでろ! 俺はもう……逃げない!」

 涙を振り切り顔を上げる。ゆっくりと立ち上がり、そして過去の汚点の象徴の一人であるゼロスと向き合った。

「お別れは済んだか? ならそろそろいかせて貰おう」

 どうやら律儀に待ってくれていたらしい。ああ、そうだ。これも設定通りでこいつはそういう設定だった。無駄にカッコつけてしかもそれに気づかない。普段はクールだけど戦いになると秘めたる激情を見せ、圧倒的な力で敵を氷漬けにしていく魔剣士ゼロス。それがこいつだ。
 しかし、ならばここから先はどうする? 痛々しさはともかくとしてゼロスは強いのだろう。そんな相手を前に長々と呪文詠唱など怖くて出来ない。じゃあ接近戦をやればいいかと思えばそうはいかない。確かに接近戦の技も過去の俺は色々あの黒歴史ノートに書き綴った。書いてしまった……っ! だが悲しきかな。技は再現できても肉体まではそうはいかない。あくまで自分の肉体は平均的な大学生の肉体であり、筋力が足りないのだ。旅立つ前に一度試した時は、筋肉が悲鳴を上げ俺はしばらく再起不能になり散々フェノンに弄られたのだから間違いない。

「ふ、しかしお前の書き記した魔縛教典は素晴らしいな。我が軍はそこに書き記された部隊、役職を解読できた限り全て再現させたが、その際に一気にパワーアップした。全く恐ろしさすら感じるな」
「………………え、ちょっと待って」

 全部? 全部再現って言ったあの子? という事は……もしかして?

「一つ訊きたい!」
「な、なんだ突然」

 ばっ、と挙手をするとゼロスが驚いた様に一歩引いた。だが今はそれどころでは無い!

「今全部と言ったな? 確かに言ったよな!? と言う事は、いう事はだ! もしや法魔四天王ネプチュネル配下の魔弓七塵将直下の秘密女傑部隊―――密林ビキニ部隊桃色大三元も実在するのか!?」
「おいちょっと待て、なんだその部隊名は」

 振り向いたら倒れているフェノンがゴミを見る様な眼でこちらを見ていた。だけど俺はくじけない! だって前を向くって決めたから!

「あの破廉恥な服装の女部隊の事か? 勿論実在するが」
「よっしゃあぁぁぁぁぁぁこれで益々死ねなくなったぜ! 希望が湧いてきたぁぁぁぁぁ!」
「……そうか、私は失望が湧き出て来たんだか」

 背後からフェノンが何か言ってるが気にしない。ゼロスが厨二の塊ならば密林ビキニ部隊桃色大三元は俺の小学生時代の思春期の塊! あれを現実で拝めると聞いたからには死ぬわけにはいかない!

「ゼロス! 俺はお前の屍を乗り越え先へ行く!」
「お、おお! よくわからんがその意気やよし! ならば勝負だ!」

 俺の言葉にゼロスも笑みを浮かべそして魔剣を天に掲げた。何をする気はわかっている。再びあの技、アブソリュートイグニッションゼロを放つ気だろう。何故わかるかと言えば俺はゼロスに他の技を設定した記憶が無いからだ。だからこそ俺は笑う。こんなクソッタレな世界でも、一緒に旅してくれる相棒が居て、そして生きる希望も見いだせたから。だから今だけは羞恥心を捨て、相手の攻撃も恐れずあえてこの呪文を放つ!

「浄化せよ澱んだ世界。行き届け鋭利なる神の福音。我囲う世界に平穏と正常なる気配を満たせ!」
「何をする気が知らんがこの俺を止められるか!? 喰らえ、《アブソリュートイグニッションゼロ(強)》!」

 全てを凍てつかせる光が俺に迫る。だが俺は恐れる事無く笑いそして叫んだ。

「喰らえ、《プラズマ・クラスタァァァッァー》!」

 刹那、俺の腕から放たれた聖なる波紋がゼロスの放った光とぶつかり合い、そして霧散させる!

「な、何ぃ!?」

 驚愕に目を見開くゼロスに笑みを返しつつ俺は更に叫ぶ。

「具現せよ暗黒の国(ニブルヘイム)の深淵。亡者の気配、嵐の海(エーリヴァーガル)の先、その果ての奈落(ギンヌンガガプ)へ堕ちて行け!」

 俺の腕に新たな光が灯り、それは渦巻脈打ちながら絶対零度の冷気を放つ。それを見てゼロスの眼が震えた。

「魅せてやる、本当の氷結魔術を!」

 今の俺には何の憂いも無い。だから声高々にそれを唱える事が出来る。中学時代に北欧神話に嵌って意味も無く固有名詞を並び立ててニヤニヤ喜んでいた俺の生み出したこの魔術を! 当然意味など知った事では無い!

「――――――凍えて、眠れ(ホワイト・エンド)
「ぎゃああああああああああああ!?」

 俺の放った青と黒の入り混じった光の直撃を受けたゼロスは断末魔の悲鳴を上げた。そしてその体は周囲一体諸共巻き添えに広がっていき、それに伴い絶対零度の氷が撒き散らされていく。

「……終わったな」

 最後に残されたのは、凍りついた大地とその中央で驚愕の表情のまま氷のオブジェとなったゼロスの姿だった。
 そんなゼロスの姿に俺は小さく笑いを漏らす。所詮は俺の創作物の模倣。創造主である俺には叶わないと言う事か! 色々と振り切れた今の俺はとても清々しい顔をしている事だろう。そうだ、この喜びを相棒にもわけてやりたい。俺は笑顔で振りむいた。

「フェノン! 俺はやった…………ぞ?」
「ああ、見ていた。ご苦労だったな」

 おかしいな? ついさっきまでボロボロの状態で俺を勇気づけてくれた筈の相棒が優雅に道端の岩に腰かけつつこちらを絶対零度の眼差しで見下していた。

「あれ? お前怪我は……? 血とか氷とか……?」
「何の事だ? 私は怪我などしてないが?」
「…………ちょっまてぇぇぇぇい!? じゃあ何!? さっきの感動は? 俺の感動は!?」
「中々面白かったぞ」
「騙しやがったなこの女ぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 何それ酷い。じゃあ何? こいつは実は怪我でも何でもなかったのに俺はボロボロ涙流してあんな恥ずかしい事言っちゃった訳!? 何それ死にたい。

「中々言うじゃないか、なあ? 『俺はもう……逃げない!』だったか?」
「いやああああああああああああああ!? やめて言わないで!? 改まって言われると恥ずかしすぎるから!?」
「『魅せてやる、本当の氷結魔術を!』」
「あああああああああああああ!? やめろって言ってんだろ!? 乳揉むぞゴラァ!?」
「今更何を言っている。第一それを言うならあの妙な部隊の存在を聞いてからのお前のテンションの方がよほど恥ずかしいぞ」
「うるせえ! 夢があるんだよ、男の子にはなあ!?」

 しかしこうして冷静になってくると先ほどまでの自分の発言の数々を思い出しのた打ち回りたくなってくる。何なのコレ? 確かに現実見ろとは言われたけど現実ってこんなに厳しかったっけ?

「ところでお前に聞きたいんだが」
「な、なんだよぉ。もうこれ以上虐めんなよぉ」
「唯の質問だ。あそこで愉快に氷のオブジェになっているのがナントカ四天王のナントカ七将軍配下のナントカなんだよな?」
「お前が覚える気ないだろ……。法魔四天王イフリル配下の魔剣七塵将直下の破軍三鬼衆の陰の魔剣士ゼロスだ。で、それが何だよ」
「いや、お前とアイツの話を聞いていた限り残り三人の四天王にも配下が大量に居る様に聞こえたんだが。あの密林ビキニ部隊桃色大三元とやら含めて」
「そう! そうだよ! あれが実在するって言うなら希望も少しは――」
「と、言う事はお前の痛々しい厨二病と思春期の妄想を体現したコスプレ集団が後少なく見積もっても30人以上いる様な気がするんだが?」
「……………………え?」

 桃色大三元はともかく、あのゼロスみたいな連中があと何十人も? それがいちいち俺の目の前に現れて俺の過去を抉ってくるの? 
 突きつけられた現実に固まる俺にフェノンがふふ、といつもとは違う、まるで年相応の少女の様な笑みを浮かべた。

「頑張れよ? 平面結果を超えた破限魔術師殿?」
「やっぱり嫌だぁああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」

 無駄に晴れ渡った空に、俺は力の限り絶叫した。




「フェノン様」

 あれから数時間後。瓦解した部隊を整える為にも近くの街へ入った私たちはそれぞれの部屋で身を休めていた。今頃隣の部屋ではあの面白おかしい男が頭を抱えながら布団にもぐりこんでいる事だろう。そして私は窓際の椅子に座り静かに月を見上げていた。

「フェノン様」
「聞こえている。何の用だ」

 うんざりしつつ振り向くといつの間にか部屋に少女が立っていた。自分に似た法衣を来たこの少女は自分の部下。同時にアテン同盟諸国の連中との連絡役を任せている。

「同盟諸国の者達からです。『進捗はどうか? あの男は役に立っているのか?』だそうです」
「ふん、偉そうに」

 つまらない連絡だ。あの腰抜け共は人任せにしておいて遠くから偉そうにこちらをコントロールしてこようとしてくる。それが気に入らない。そんなこちらの思考を読んだのだろう。少女が小さく笑った。

「フェノン様はそもそも彼の召喚に反対でしたものね」
「当たり前だ。何の関係も無い者を呼び出して魔導書を取り返してこい? 初めその計画を聞いた時いよいよあの連中トチ狂ったかと思ったぞ」
「いい機会だ! とか言いながら大規模魔術を会議室に叩き込もうとしたしね……。皆で総出で止めようとしたら私達にも魔術ブチ込んできましたし。ですが召喚は実行されてしまった。だからこそ一緒に居るのでしょう?」
「当然だ。放って置いては奴らに良いように使われるに決まっている。だからこそあいつに冷静になる様に魔術をぶち込み、少しでも話が合う様に。そして元の世界に戻す為の手がかり得るために頭の中を覗いたんだからな。……思わぬ副作用があったが」

 本当に、最悪な副作用だ。まさか今まで自分達が使っていた魔術があんなに痛々しいものだと。そしてそれに気づかされるとは。カズキでは無いが自分も一時は死にたくなる程身悶えた。

「召喚しておいて元に戻す方法が無いとは馬鹿げたものだ。それに覗いたアイツの世界の知識にもそういったものは無かった。ならばあいつが書いたと言う魔導書にかけるしかあるまい。聞いてみた所、本人もよく覚えていない内容も色々あるようだからな。可能性はゼロじゃあない」
「彼と同調した際に魔導書の中身は分からなかったのですか?」
「駄目だ。その部分だけは綺麗に抜けていていた。全く面倒な事だ」

 そう言いつつあの男、カズキの事を思い出し笑っていると、少女はクスリ、と笑った。

「楽しそうですね」
「ふん。まああの会議室に篭る馬鹿達を相手にしているよりはよほど楽しいさ。あいつも確かに馬鹿っぽいが悪い奴では無い。だからこそ私たちはアイツを元の世界に返す義務がある」

 それに、と先の事を思い出す。それは部屋を分かれる前の事。一通り悶えたカズキと分かれる直前、あの男はこういったのだ。

「『何はともあれお前が無事で良かった』か。人の事を気にする余裕など無いくせに」

 あのお人好しめ。そんなんだから私も構いたくなってしまうのだ。

「ふふ。ならば彼を安心させるために治療をちゃんとしましょうね」
「何の事だ?」
「私の眼は見抜けませんよ。何かしらの魔術で自分に幻を被せていますね? 本当は怪我して痛いから寝ていないのですよね? ……素直じゃないですねえ」
「よしお前ここに来い。じつは私の足下にあるこのツボには鰻が詰まっているのだが存分に味あわせてやる――――その肌に」
「私はそんな趣味ありませんよ!?」
「黙れ。私を小馬鹿にするとはいい度胸だ。お前を鰻塗れにして宿の前に吊るしてやる。 きっとカズキは喜ぶぞ? 良かったなあ? 破限魔術師殿のやる気回復に一役買えるとは」
「彼がテンション上がると本気で身の危険を感じるのでやめて下さい!?」

 涙目で訴える少女にふん、と鼻を鳴らす。もし次にからかってきたら本当にやってやる。

「治療するなら早くしろ。あとそれが終わったら街中にこの手紙をばら撒け」
「これは……?」

 懐から取り出した便箋を受け取り少女が首を傾げた。そんな少女ににやり、と笑いかける。

「アテン同盟諸国、あの会議室に居た連中の忘れたい過去を調べ回して書き記した。パウズのジジイが大昔に惚れた相手に送った自作ポエムやスクロルのババァが歳も鑑みずに購入したエロ下着の隠し場所とかをな。高みの見物している連中にこちらの苦しみを少しでも味あわせてやれ」
「え、えげつない……」

 少女が顔を引き攣らせるが知った事かと、私は再び笑みを浮かべた。





 翌日。今日も空は快晴だった。こんなにいい天気だと昨日の嫌な事とか忘れて気分一新で行きたいもんだ。だから俺は昨日の事は出来るだけ考えずに明るく前を向こうと思った。

「それなのに……」
「ふはははははは! 我こそは法魔四天王イフリル配下の魔剣七塵将が一人ガーディス直下の破軍三鬼衆が一人! 陽の魔剣士クリス! ゼロスの汚名を晴らしに参上した!」
「そして私は法魔四天王イフリル配下の魔剣七塵将が一人ガーディス直下の破軍三鬼衆最後の一人! 陰陽に捕らわれぬ豪の魔剣士ブライ! 破限魔術師と魔女め、今日こそ覚悟しろ!」

 なんか朝から変なのが現れました。
 いや、あれが何なのかは自分が一番知っているんだけどもう変なのでいいよ……。

「ふむ、昨日の奴の仲間か。案の上、気合入った体当たりコスプレ実演しているな」
「絶対に消し去ってやる……あの黒歴史ノートは必ず消し去ってもうこんな苦しみから解放されるんだ俺は」

 頭を抱えて呻く俺の横ではフェノンもうんざりした顔で腕を組んでいる。

「……いくぞフェノン。あいつらを一刻も早く叩き潰す」
「ほう? 昨日よりは大分前向きだな? 心境の変化か?」
「そんな大層なものじゃないさ。ただ騙されたにしてもやっぱり仲間やお前が傷つく姿は見たく無いだけ。それで後悔する位なら最初から自尊心すてて戦うしかないじゃん」
「カズキ……」

 あれ? 思った事言っただけなのになんかフェノンが驚いている。よくわからないが呆けているならいいチャンスだ。この機会に胸を――

「揉みしだくっ……!」
「黙れ変態」

 伸ばした手は速攻で防御され捻られ、足をかけられ地面に組み伏せられた。痛い。

「馬鹿をやってないでそら、とっとと行け。あの二人が何やらする気だぞ」
「痛い! ごめんなさい謝るから離して……ってあれは不味い!」

 見ればクリスが掲げたやはり装飾過多な魔剣が炎を纏い、ブライが構えた刀からは何やら陽炎が立ち上っている。あれはきっと二人の必殺技《炎獄魔殺灰塵斬》と《秘剣・鷹返し》に違いない! あの二つは小学6年生の時に友人の加藤と一緒に考えた技! 名前も然ることながら発動モーションを二人でポーズ決めながら考えたという、後になって思い出すたびに二人で頭を抱えた禁断の技だ! それの実演なんて絶対見たく無い!

「行くぞフェノン! 俺が先行する!」
「仕方ない。援護位はしてやる。だからまあ頑張れよ、相棒」
「おうよ!」

 親指を立てて答えつつ俺は飛び出した。色々最悪でイカれたこの世界、正直色々しんどいけれど、それでも仲間が居ればきっと大丈夫。何としてでも黒歴史ノートは消し去って、それから俺は元居た世界に帰るのだ! その為にも今はまず目の前の悪夢を消し去らなくてはなら無い!

「喰らえ、《炎獄魔殺灰――― 》
「だからやめろって言ってんだろがぁぁぁ! 喰らえ、《ジャスティス(正義の)サンストローク(日射病)》!」

 ハヤシ・カズキ19歳。辛い事もあるけど、今日も色々頑張ります。
厨二というか忘れたい過去=黒歴史的な扱いで

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