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神と悪魔と犬と猫。 作者:真木あーと
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第九節

「……うん、まあ、勝手にすれば? あたしは魔力もないから早く貯まるように寝てるわ」
 アヴィーラはそう言って、しゃがみこむ。
 俺の布団にな。
「……寝てる間に変なことしないでよ」
「え? なんで?」
「なんでも何もないわよっ! 逆になんでいいと思うのよっ!」
「そりゃあ、魔力充填には、エロいイベントがあるんじゃないのか? ギャルゲじゃ大抵そうだぞ?」
 俺の常識の中では、魔力回復は性的な興奮だ。
 このツン魔アヴィーラが「ま、魔力回復のためなんだからねっ! 勘違いしないでよねっ!」
 とか言いながら俺を受け入れ、最後には自分から求めるようになるはずだが。
「それはギャルゲだからよっ!」
「なんだ、違うのか?」
「……違わないけど……でもっ! ほっといても回復するから! それを待ってるわよっ!」
「別に、早く回復する方法があるならそれをしたほうがいいんじゃないのか? シェリムに魔力で追い抜かれるぞ?」
 同じ回復法はシェリムにも使えるんだろう。
 そうなるとシェリムの方も。
「ま、魔力回復のためですからっ! 仕方なくですよっ!」
 とか以下略。
「あたしの方が回復は早いに決まってるじゃないの!」
「でも、俺はシェリムが魔力回復の協力を求めてきたら、全力で応じるぞ?」
「あんな潔癖そうな女がそんな事求めるわけなじゃないの! それにあんたに対する協定も結ぶくらいだから、あんたとそういうことするわけないわっ!」
「それが、ブランシェじゃなく、自分でするため、そして、お前を油断させる作戦だとしたら?」
「……っ!?」
 アヴィーラは目を見張った。
 さすがにそこまでは思いも至らなかったんだろう。
「そんな……潔癖そうな奴だと思ってたのに……」
 そうだな、俺もそう思う。
「あいつに負けたら、人間界征服も出来ないだろ?」
「……そうね、ここは仕方がないわね……」
「よし、じゃあ、俺が協力してやる! 急いで魔力を回復しよう!」
「そうね! じゃお願い……って言うと思ったかこのエロ貴っ!」
 俺は思いっきりサッカーキックされた。
「むっ! ご主人さまを虐めているのですか?」
「あたしがからかわれてんのっ! あんたのご主人さまはエロいことしか考えてないのよっ!」
「? オスとはそういうものではないのですか?」
 ブランシェが純粋な目で不思議そうに首を傾げた。
「……そういうものだけどっ! とにかく、あたしはそれを受け入れないのよっ! これから寝るから、こいつを見張ってなさいっ!」
「おいおい、お前は風呂も入らずに寝るつもりか?」
 俺が言うと、アヴィーラはびくり、と身体を揺らす。
「……入るけど」
 この態度からすると、俺がゲームに集中してる最中にこっそり入ろうとしてたみたいだな。
「……入ったら、あんた絶対覗くでしょ?」
「そんなことするか」
 堂々と踏み込むだけだ。
「……絶対に覗かないでよ!」
 アヴィーラは俺の部屋の隅っこに作った、俺が踏み込めないアヴィーラ自治領から黒いパジャマを取り出す。
 さっきさわむらで買ったんだろう。
「絶対! 絶対だからね!」
 何度も何度もそう言いながら、アヴィーラは部屋を出ていった。
 その様子は、とてもダチョウ的だった。
 ということは、あれか、フリか。
 本当は魔力を増強したいけど素直になれないアヴィーラが、ダチョウ的フリで俺を誘ったって事か。
 それは応じないわけには行かないだろう。
 だが、まだ早い。
 風呂に入ってすぐは警戒もしてるし、だから、脱いですらいないかもしれない。
 まず、十分な時間を待って、油断が生じた時間に高速でアタックだ。
 まあ、丁度髪を洗い終わるくらいの時間を考えよう。
 そうすると──。
「ご主人さま?」
「ふむ。では、八分後だ。ゲームは集中できないから、八分間遊ぶか!」
「はいっ!」
 俺は八分間、ブランシェとじゃれ合って過ごした。
「よし! 行ってくる、ブランシェは待機!」
 俺はそう言うとダッシュで風呂場に向かった。
 まず、柚奈が部屋にいるのを確認する。
 こいつにばれると女の子にされるからな。
 階段を下り、そして脱衣所を通り、何の躊躇もなく、明かりの付いた風呂場に入り込む。
「アヴィーラ! 来たぞぉぉっ!」
 俺はそう叫んでアヴィーラに──。
「……あれ?」
 そこにアヴィーラはいなかった。だが、バスタブに蓋はしていないため、たった今まであいつが入っていたんだろう。
 シャンプーの匂いが辺りに漂ってるしな。
 どういうことだ?
 まるで、たった今、アヴィーラが姿を消したかのような──。
「えいっ!」
 呆然としていた俺は、後ろから思いっきり体当りされる。
「うわわっ!」
 俺はバランスを崩して、バスタブにダイブした。

 ばっしゃーん!

 俺は服を着たまま、バスタブに、しかも頭から突っ込んだ。
 バスタブの湯は、かなり熱めで、火傷しそうになった。
 が、後ろから尻を足でグイグイ押されるため、中々顔を上げることもできなかった。
「ヴォガァァァァッ!」
 熱さと息ができない苦しさで慌てた俺は、もがき苦しんで、何とかか顔を上げるが、すぐに熱湯の中に落ちる。
「ゴボボボボォォォッ!」
 そして、再び熱湯の中でもがく。
「やっぱり来たわね、この貴エロ!」
 新しいネーミングで俺をそう呼ぶのは、アヴィーラの声だった。
 まずい、俺、このまま殺されるかも知れない。
「ほら、これに懲りて二度と覗かないと思うまで熱湯の中で反省しなさいよっ!」
 俺の尻がぐいぐい押される。
「ゴボォォォォッ!」
 熱いし息が出来ない俺は必死にもがく。
 溺れる者は藁をもつかむ。
 俺は、必死に何かをつかんだ。
「え? ちょ、ちょっと!」
 それは布状の何かだった。
 吸収性のよさそうな布だ。
 俺はそれを思いっきり引っ張った。
「きゃぁぁぁぁっ!」
 アヴィーラの悲鳴。
 しかし今の俺にはそんなことどうでもいい。
 俺は布を引っ張って起き上がると、布が俺の手にあった。
 それは、バスタオルだった。
 俺は必死で熱湯に浸かっていた頭部にそれを包んだ。
 強烈に漂ってくる、この香りは、アヴィーラのそれだ。
 アヴィーラが近くにいるからか? いや、これは──。
「か、返しなさいよ、このっ!」
 頭部への衝撃。
 そうだ、これはさっきまでアヴィーラが身体に巻いていたバスタオルに違いない。
 となると、今のアヴィーラは言うまでもなく──。
 いかん! こんなことしていられない!
 俺は、包んでいたタオルを払いのける、
 そこに飛んでくるストレートパンチ。
 これは避けられない。
 衝撃。
 腕力がないとはいえ、このタイミングで顔面へのパンチは強烈だ。
 視界が揺らぐ。
 いや、耐えろ。
 俺はバランスを崩さず、視界が戻るのを待つ。
 もう一発拳が飛んでくるが、これは避けることに成功する。
 よし、もう少しで視界が戻る……!
 今度は足が飛んでくる。

 パシィッ!

 俺はこれを避けずに片手で受け止めた。
 そして、視界が戻り、俺が見たものは、全裸で片足を俺に掴まれたアヴィーラの姿だった。
「やっ、はなっ、ちょっ! きゃあっ!」
 アヴィーラは慌てて、乙女パーツを両手で必死に隠し、そのままバランスを崩して倒れる。
「うわぁぁぁっ!」
 そして、足を掴んでいた俺も引っ張り倒される。
「ったっ!」
 俺とアヴィーラは浴室の硬い床に投げ出されるが、俺はアヴィーラの身体がクッションになって、痛みもほとんどない。
 だが、何かに目を塞がれていて、何も見えない。
 何か温かいものに顔全体がつつまれているようだ。
「えっ? やっ! きゃぁぁぁっ! な、何してんのよ、ばかぁっ!」
 俺の顔の側面が何かに圧迫される。
「いたっいたたたっ! な、何だ?」
「あぁぁぁんっ! 喋んなっ!」
 頭を殴られ、圧迫が更に強くなる。
 状況が分からない。
 とりあえず整理しよう。
 俺はアヴィーラの足を掴んでいる状態で、アヴィーラが転んだ。
 それに引っ張られるようにして、俺も転んだ。
 俺がほとんど痛くなかったことから、俺はアヴィーラの上に転げ落ちたんだろう。
 そして、目の前が真っ暗で、側面にも圧力がある。
 あの体制から考えると、今、俺の顔面にあるのは、アヴィーラの乙女パーツ……!
 俺は急いで頭を上げようとする。
「させるかっ!」
 アヴィーラが俺の頭を押し返す。
 よく考えると、自分の乙女パーツに俺の顔を押し付けてるんだよな。
 今、俺の顔面にあるのは、アヴィーラの一番敏感な部分。
 …………。
「ふぁぁぁぁぁんっ!」
 思いっきり息を吸い込むと、頭部の周りがびくんびくんと揺れ動き、アヴィーラの体中の力が抜ける。
 今だ!
 俺は一気に頭を引っこ抜いて、今まで押しつけられていた部分を凝視し──。

 ぶすぅ

 俺の眼球に、アヴィーラの二本の指が襲い掛かる。
「ぎゃぁぁぁぁぁっ!」
 両目を突かれた俺は、激痛に身をよじる。
 こいつ、マジで俺の目を潰しやがった!?
 闇しか見えない!
 マジかよ! 裸見られたくないってだけでそこまでするのかよ!
「この悪魔ぁぁぁぁっ!」
 俺は浴室でのた打ち回りながら叫ぶ。
「そうよ、今さら何言ってんのよ」
 アヴィーラが俺が目を押さえている手をどけ、自分の手をそこに押し付ける。
 風呂上がりの手のひらは、とても暖かかった。
「あ……れ……?」
 光が見えた。
 目の前には乙女パーツどころか、パジャマをフル装備したアヴィーラの呆れ顔が、寝転んでいる俺を覗き込んでいた。
「まったく、反省はしなさいよ。一回だけだからね」
 完全に服を着た安全状態からの余裕なのか、俺を覗き込むアヴィーラの胸元は見えそうなほど無防備だった。
 だが、それだけだ。
 視線に気づいたアヴィーラは、胸元を押さえ、立ち上がる。
 もう、乙女パーツを見る事は出来ない。
 これからはアヴィーラも警戒するはずだ。
 あの体勢で、あの間近から見れるチャンスは、おそらくもう二度とないだろう。
「畜生ぉぉぉぉぉぉぉっ!」
「きゃぁぁぁぁぁぁっ!」
 俺は叫びながらアヴィーラのパジャマのズボンを思いっきりずり下げた。
 さわむらで買ったと思われる蛍光イエローのパンツと褐色の太ももが露わになる。
 くそっ、パンツまでは下がらなかったか。
 だがまだチャンスは──。
「ふぐぅっ!」
 アヴィーラはパンツを隠すことなく、俺の顔面に拳を入れた。
 その優先は正しい。
 なぜなら俺は、アヴィーラが恥ずかしがってパンツを隠してズボンを引き上げている隙を狙っていたからだ。
 つまり、俺の完全なる敗北だ。
「こ、ここは、俺の、負けだ……」
 だから、俺はそう言って膝をつき。
「ふん、分かればいいの──」
 そして、蛍光イエローをガン見した。
「な、な、何見てんのよっ!」
 アヴィーラは慌てて俺を突き飛ばし、ズボンを上げる。
「え? うわぁっ! ゴボゴボォォッ!」
 俺はそのまま再び湯船に落ち、熱湯を浴びた。
+注意+
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