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神と悪魔と犬と猫。 作者:真木あーと
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第四節

「どうしたんだよ?」
「……普通、貴大さんくらいの年齢の男性は、同じくらいの年の女性に服を着替えさせてもらうことなんてないと思うんですが……」
「はっはっはっ、何言ってるんだよ。妹だぞ? 妹が兄貴を着替えさせるなんて普通のことだろ。現にギャルゲでもそうだ」
「いえ、でも……」
 俺はシェリムがいきなり突拍子もないことを言い出すので、思わず笑ってしまった。
 よく考えたらこいつは神だし、人間界の世俗に詳しいわけないんだよな。
 神様っぽい神々しさもないから忘れてたけど、俗世間のことなんて知らない神なんだよな。
 そう言えば、何の神なんだ?
「なあ、シェリム、お前って何の神様なんだ?」
「はい?」
「どの神族か知らないが、神って何を司ってるかとかあるじゃん、お前は何なんだ?」
 そう、神ってのは全知全能の神は別として、美の神とか知の神とか、そういう何か司るものがあるはずだ。
 俺の死んだ爺ちゃん(関西出身)も言ってた。
「トイレには、それはそれは綺麗な、うっかり鍵締め忘れたドアを開けられていやーんの神がいるんやで」
 俺はそれを今でも信じてる。
「えっと……私はまだ何も司っていません。生まれてからの行動を見て、最高神ヴィシャルより司る神を決めてもらうのです」
「へえそうなんだ」
 神って生まれながらにして何の神か決まってるもんだと思ってた。
「それで、そろそろその時期が近づいています。私は戦神になりたいのですっ! ですから、多くの悪魔を倒してアピールをしたいのです!」
「そうか、それで、これまでに倒した悪魔は何人なんだ?」
「……まだいません。ゼロです」
 シェリムは恥ずかしそうに言う。
 それって絶対無理じゃん。
 戦神って言うくらいだから、何千とか何万の悪魔倒してなきゃ駄目なんじゃないか?
「まあ、絶対無理だと思うけど、諦めない姿勢は大事だぞ? 不可能は可能にはならないけどさ」
「……分かってますよ! どうせ向いてませんよっ!」
 シェリムが頬を膨らませて涙目になる。
 戦神を志望する神とは思えない可愛い仕草だ。
「おっと、そろそろ行かないと怪しまれるな。じゃ、俺行ってくるから、シェリムはノワールの世話よろしくな」
「ええっ!? この猫の世話ですか?」
「ああ、俺、学校いなきゃならないからな」
 いつもならノワールはブランシェから保護するためにも一階にある大きな檻に入れておくんだが、人間になった今はそういうわけにはいかないだろう。
「……あの、こう見えて私、最高神ヴィシャルの孫なのですが……」
「それがどうした?」
「…………分かりました」
 シェリムが諦めたようにそう言った。
「ノワール、シェリムの言うことを聞けよ?」
「にゃ? この犬の? 犬きらい!」
「こいつは犬じゃない犬の身体を勝手に使ってる奴だ」
 俺が言うとシェリムがなんとも言えない表情をしたが、何も言わなかった。
「ふうん、じゃ、犬じゃないの?」
「そうだな、今は犬じゃない。今は、な」
「だからどうして、私の身体を見ながら言うんですかっ!」
 シェリムは自分の身体を抱くようにして俺の視姦に抗議する。
「気にするな、じゃ、行ってくるから」
「……行ってらっしゃい」
「いってらっしゃーい!」
 俺はシェリムとノワールに見送られながら、部屋を出た。
 階段を下りて、台所に行くと、そこには既に洗濯を終えた柚奈が座っていた。
「遅かったね? どうかしたの?」
「ああ、パソコンがアップデートに入ってなかなか切れなくてな」
「そうなんだ。あ、スープ温め直す?」
「いや、いい。じゃいただきます」
「はーい」
 俺はトーストに口を付ける。
 今日のメニューはトーストにサラダ、ベーコンエッグにクラムチャウダーだ。
 今日こそ完全洋風だが、うちの朝がいつも洋風ってわけじゃない。
 昨日はご飯と味噌汁に漬物、あと味海苔にほっけという和風だったし、その前はご飯は変わらないが、唐揚げとサラダという和洋折衷だった。
 これが、不思議なことに、俺が和風を食べたいと思えば和風、納豆が食べたいと思っていれば納豆が出てくるので、朝飯で外したことはない。
 それどころか俺がいつもの味噌汁に飽きたなあ、と思ったら、白味噌に変わったりもする。
 柚奈に何でわかるんだ? と聞いたことがあるが、「お兄ちゃんを毎日見ていれば分かるよ」とにこにことした表情で言われた。
 で、俺はとりあえずクラムチャウダーをスプーンで啜るわけだが。
 俺が食べてる横で柚奈はにこにことしながら俺が食っているのをじっと見ている。
 こいつは既に食事を済ませてから俺を起こすので、一緒に食事はしない。
 見てなくても他にやることがあると思うんだが、この朝の貴重な時間、毎朝俺の食事風景をじっと見つめているんだが、そのおかげで俺好みの食事メニューが出来ていると思うと申し訳ない。
 更に洗濯や掃除なんかもやってるし、親からの仕送りも多くはこいつに渡してる。
 まあ、つまりは俺の母親がわりというか、妹というよりも姉みたいなものというか、母代りというかそんな存在なわけだ。
 まあ、こいつがいたから母さんもさっさと親父について行ったってのもあると思う。
 俺も高校生だから、周りからいろいろ情報入って来るので、シェリムに言われずとも、この状態がもしかして異常なんじゃないかと思わなくもない。
 だけど、食事と洗濯の世話は母さんがいなくなってからだが、俺を起こしたり、掃除したり着替えさせたりは昔からなので、これが異常だってのは知識としてしか知らない。
 こういうのって変らしいな? そうだね、って会話を柚奈とするくらいだ。
 ま、でもギャルゲでは普通のことだし、変わってはいるが珍しいって程度なんだろう。
「ふう、ごちそうさま」
 俺が朝食を食い終わる。
 柚奈の料理はうまいので満足なんだが、今日はそれだけじゃなく甘いものが食べたいな。
 学校行くときコンビニ寄って買っていくか。
「はい、デザート」
 そんなことを考えている俺の前に、イチゴジャムの乗ったヨーグルトが俺の前に出される。
「?」
 まるで俺の心を読んだような行動に、俺は驚く。
「今日は甘いものが欲しいんじゃないかなって思って」
 にこにことしたままの表情で柚奈が言う。
「柚奈は本当に、いいメイドになれるよ」
 俺が言うと、柚奈のにこにこが苦笑に変わる。
「……ここはいいお嫁さんになれるよって言うんじゃないのかな?」
「いや、嫁よりメイドだろ。メイドの方が人気高くないか?」
「……うん、お兄ちゃんのやってるゲームなんかではそうみたいだね?」
 柚奈が苦笑している前で俺はヨーグルトを口にする。
 ヨーグルトの中にはフルーツが入ってて、甘味が欲しかった俺にはちょうど良かった。
「ごちそうさま、じゃ、行くか」
「うん、あ、これ、今日は体育あるから体操服用意してあるから、あと、こっちがお弁当」
「ああ、悪いな」
 俺は柚奈の用意したサブカバンを受け取る。
「じゃ、行こうぜ?」
「うん、戸締りしてから追いつくよ」
 柚奈は家の鍵を玄関に差し込みながら言った。



「お兄ちゃん、帰ろ?」
 授業が終わった放課後、クラスも学年もの違う柚奈が俺を迎えに来た。
 カバンを両手で持って待っている柚奈をじっと見る。
 こいつが俺のところに来るのはそう珍しくないのだが、いつも周りの雰囲気がざわざわする。
 俺はクラスでも熱いオタク野郎で通ってるから、そこに女の子が会いに来るって事自体異様に思えるらしい。
 おそらく、柚奈って美少女なんだろうな。
 俺なんて子供のころから一緒だから、そう感じることはあまりないんだが、どうもこの妹は他人から見るとハイスペック妹らしい。
 もちろん俺はギャルゲ脳の持ち主だから、妹を女として見られないわけじゃない。
 ここまでハイスペックだと尚更だ。
 だけど、何だろう、俺のトラウマが、この妹相手に例えば今朝シェリムやアヴィーラにやったようなほんの軽いコミュニケーションを実行させないのだ。
 だけど、こうしてじっと見てると、確かにそこらの女子と比べると遥かに可愛いのは間違いないと思う。
 身体の方も、まあ、高一だし、胸はほどほどにしか出てないけど、ウエストが細く、その腰のラインは女の子を存分に主張していた。
 今朝俺の前に現れたシェリムやアヴィーラはさすがに神や悪魔だけあって美少女なんだが、それにも匹敵するような美少女だと思う。
「? どうしたのお兄ちゃん? じっと見つめて」
 柚奈が不思議そうに首を傾ける。
「いや、何でもないけどさ」
 繰り返すようだが、だからと言って俺が柚奈にアヴィーラやシェリムに感じるような感情を感じることってないんだよな。
 つまり、柚奈の事は女だと思ってるし、美少女だと思ってるんだが、性欲の対象になることは俺の中の何かに止められている、という感じだ。
 まあ、昔っから一緒にいるしな。
 風呂とかも一緒に入ってたし、着替えもしてもらってるし。
 さすがに今となっては一緒に風呂に入ることはない、狭いから。
「じゃ、一緒にお買い物して帰ろ?」
 にこにこと笑ったままの柚奈と、いつものように夕飯と明日の朝食の材料を買ってから帰る事にする。
 買い物では俺が欲しいなと思ったものが買い物かごに入れられ、俺が今日食べたいと思ったメニューの食材も次々と入れられていくから、俺は隣を歩いているだけでいい。
 帰ったらノワールが待ってるだろうなあ。
 そう言えば食事の準備もしてなかったから、腹すかせてるかな。
 スーパーでそれも買っとくか。
 あ、柚奈に作ってもらえ──。
「まずいっ!」
 俺は大声を上げた。
「どうしたのお兄ちゃん?」
 学生カバンとエコバッグを持った柚奈が不思議そうに聞く。
 そう言えば、あいつらのこと、柚奈に言ってなかった。
 ていうか、家にいきなり女の子が二人もいたら怒るだろうな、こいつ。
 なにせ、俺の保護者だからな。
 この妹は俺の親代わりなんだよ、実質の。
 その親代わりとして、女の子二人が俺の部屋に住み着いてるってのは捨て置けないだろう。
 まずいな、親戚の子がいきなり訪ねてきたとか言っても、兄妹では通用しないし。
 神と悪魔が訪ねてきたと言っても信じてもらえそうにないしなあ。
 どうする?
 とにかく今は隠し通すしかないか?
「あ、あのさ、俺ちょっと用事があるから、先に帰ってる、悪いけど残りの買い物は一人で行ってくれ」
「え? あっお兄ちゃん?」
 俺は柚奈の呼び止める声を背に家に走った。
「ただいま!」
「貴大っ!」
 ダッシュで帰った俺を待っていたのはノワールだった。
 ノワールは飛びかかるように俺に向かってダイビングをしてきたので、俺はそれを受け止めた。
「貴大だいすきっ!」
 ノワールに抱きしめられるのは嬉しいし、このまま時を忘れて抱き合っていたいけど、今は時間がない。
 一刻も早く、押入れにこいつらを隠さないと!
 だけど、ノワール一人じゃ隠してもすぐに出てくるから、シェリムを一緒に閉じ込めないと。
「ノワール、シェリムは?」
「あの犬ね、いいひとだったよ? ノワールをね、ずっと可愛がってくれたの」
「そうか、よかったな。で、今どこにいる?」
「お風呂に入ってる。『あの人が帰ってくる前に入っておかないと』とか言ってた」
 嬉しそうに俺に甘えながら、ノワールが言う。
 そうか、俺がいたんじゃおちおち風呂にも入っていられないからな、俺が入ってくるから。
 うん、きっと入る。
 間違いなく入る。
 いや、今それどころじゃなかった!
 俺はダッシュで風呂場に向かう。
「シェリム!」
「はいぃぃぃっ!? えぇっ! きゃぁぁぁっ!」
 風呂場で頭を洗っていたシェリムは俺に気づいて驚く。
 いつもなら吹き飛ばすところだが、動転していて、それも出来ず、ただ、見られてはならない乙女パーツを隠そうと必死だった。
「今はそんなこと言ってる暇はない! 柚奈が帰って来る! 隠れろ!」
 俺はそんなシェリムを抱え、部屋へと走る。
 途中で追いついてきたノワールも抱えていく。
「あ、あのっ、服を着せて──」
「そんな時間はないっ」
 俺はシェリムの要求を却下して、部屋の押入れに二人を押し込む。
「せ、せめてバスタオルを……きゃぁんっ!」
 俺は問答無用で押し込んだ。
 押し込む手がシェリムの乳の首に当たったので軽くつまんだが、おそらく出る頃には忘れているだろう。
「ふう、間に合った……」
 一息ついた瞬間、玄関のドアが開いた。
「お兄ちゃん、どうしたの~?」
 玄関からの柚奈の声。
「何でもなかった。録画予約してないと思って焦ったけど、やっぱりしてた」
 俺は階段を下りつつ、そう言った。
「あ、そうなんだ。じゃ、材料冷蔵庫に入れてから、もう一回出かけるけどいいかな? お兄ちゃんはまたゲーム? 確か、昨日買ったんだよね?」
「まあな、残りをやろうかと思ってる」
「ほどほどにね? じゃあ、また後で」
「ああ、またな」
 柚奈が玄関から出ていく。
「ふう……」
 何とかなった。
 俺は階段を上がって、部屋の押し入れを開ける。
「あ、貴大!」
 そこには、裸で全身濡れててがたがた震えているシェリムと、それを自分の身体で暖めているノワールがいた。
「ノワール、濡れると風邪ひくぞ?」
「……私にかける声はないのですか?」
 涙目で恨みがましく俺を睨むシェリムは、それでもまだ震えが止まっていなかった。
「なんでこの時間に風呂入ってたんだ?」
「そこですか!? ……まあいいでしょう、確かにあなたが帰って来ると思われる間にお風呂をいただいたのは私のミスです」
「そうか、そう言えば、聞いてなかったけど、これからどうするんだ? すっと柚奈からお前らを隠しておくわけにはいかないんだが」
「……その前に、タオルと服を持ってきていいですか? 寒さと恥ずかしさで百年ほど籠ってしまいそうです……」
 ノワールに暖められているのか甘えられているのか分からないが、それだけでは寒いようだ。
 足の付け根の方から銀色の何かがちらちら見えてるしな。
 神の常識はよく分からないが、シェリムが人間の女の子だとしたら恥ずかしくて死にそうになるのも仕方がない。
「ん? でも、神ってよく絵とか伝説なんかでは裸で出てこないか?」
 全世界に神を描いた絵は沢山あるが、全裸の女神はやたら多い。
 そもそも服ってのは人間の作ったものだし、神って基本裸なんじゃないのか?
「あれは露出狂の神です」
 あっさりと言われる。
「……そうなのか」
 あまり追求しないことにしよう。
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