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神と悪魔と犬と猫。 作者:真木あーと
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第十節

「さて、俺はゲームをする」
 アヴィーラの後、俺もそのまま風呂に入ってからそう宣言した。
 よく考えたら、こいつらが来てから大幅にゲーム時間を減らしていた。
 だが、今日はまだあのゲームの三人目以降が残っている。
 ここからは集中してプレイしたい。
 そう、誰にも邪魔されずに。
「まあ、今日はあたしも魔力ないからおとなしくして……る……あれ?」
 アヴィーラは不思議そうに自分の手を見つめている。
 なんだ?
「ゲームですか! ご主人さまゲーム大好きですからねっ!」
 元気よくじゃれついてくるブランシェ。
「おう、一緒になるか?」
「はいっ! 一緒にやりましょう!」
 俺の隣にぴったりとくっつくブランシェ。
「じゃ、ちょっと集中するからさ……アヴィーラ?」
 俺がアヴィーラを振り返ると、まださっきと同じようにじっと手を見つめていた。
「…………え? あ! な、なによ?」
 アヴィーラは慌てて俺を向き、聞き返した。
「いや、だからさ、俺たちこれからちょっと集中するから適当に寝るなら寝てくれって言ったんだよ」
「あ、うん……で、でも、その犬とやらしいことしないでよね!」
「それはどこまでOKなんだ? 基準を決めてもらわないと分からないんだよ!」
「全部駄目! あんたが考えてるようなことは全部駄目よっ!」
「ええっ!? でも、別に胸を揉む程度ならいいだろ?」
「なんでそれがOKの中に入ってるのよ! 駄目に決まってるじゃない。触るのも駄目っ!」
 アヴィーラは信じられないことを言い出した。
「横暴すぎるだろ! それじゃあ、裸にして鑑賞するとか匂いを嗅ぐくらいしか出来ないだろ!」
「それも駄目に決まってんでしょ! あんたの脳は一体どうなってんのよ!」
「そ、そんな……だ、だったら、お前にしてやるぅぅぅぅぅぅっ!」
「きゃぁぁぁぁぁぁっ!」
 俺はアヴィーラの薄い胸に顔を埋めた。
 柔らかい何かが、俺の頬に触れ、アヴィーラの鼓動が俺に伝わってきた。
「…………」
 あれ?
 いつもならここで魔力的反撃を受けるところだが、待っていてもそれが来ない。
 いや、別に待ち望んでるわけじゃないけど、来ないと寂しいっていうか、ボケたら突っ込んで欲しいっていうか。
 分かるだろ? この微妙な乙女(ツンデレ)心。
 ふと顔を上げると、アヴィーラが必死に俺の頬ずりに耐えていた。
 その表情は俺を受け入れたというよりもただ、我慢していた。
「……どうした?」
「え? あ……そのっ、わ、分かったわよ、胸を揉むとかは駄目だけど、手を握ったり頭を撫でたりくらいはいいわっ」
 アヴィーラは慌てて俺を引き離し、繕うようにそう言った。
「……おう」
「では、子作りはいいのですか?」
「駄目に決まってるでしょうがっ! それであの神に魔力が……ごほっ、とにかくあたしはあいつと協定を結んだから駄目よ!」
「まあいいや、一緒にゲームやるだけならいいんだろ?」
「それは構わないわ。あと、あたし、もう寝るから。何かやったら潰すから」
「何をだよ?」
「柚奈的に言うと、あんたを女の子にしてやるって事」
「サーイエスサー!」
 俺は絶対寝ているアヴィーラに手を出さないことを誓った。
「まあいい、ゲームするぞ、ブランシェ」
「はい……子作りもしたかったです……」
「それはまた、今度な?」
「はいっ」
 俺はブランシェの頭を撫でてやった。



「……まだ、やってたの?」
 アヴィーラが呆れ気味に言う。
 今日も徹夜してしまった。
 始めたのが遅い割に今日は三人クリアした。
 全員クリアだが、おそらくこの後トゥルーエンドが待ってるから、ここからが楽しみなんだが、そろそろ限界だ。
「……そろそろ、寝たいところだな。お前はもう起きたのか?」
「そろそろあの神が来るころだから起きておかないとね」
「なにっ!? ってことはブランシェがいなくなるのか!」
「……わふん?」
 俺の隣で熟睡していたブランシェの顔が上がる。
「ブランシェぇぇぇぇっ!」
 俺はそんなブランシェを抱きしめる。
 ブランシェは眠そうね目で、俺を見ていた。
「こじゅくりでしゅか、ごしゅじんしゃま?」
「ああ! ああっ! 子作りしてやるぞ!?」
「ちょっと!」
 アヴィーラが止めに入る前に右手で制する。
 ブランシェは寝ぼけたまま、四つん這いになる。
 ちなみにブランシェは昨日の夜、風呂に入っていない。
 アヴィーラがシェリムに入らせろと言って入らせてくれなかったのだ。
 股を開いているので、ミニスカメイドのスカートが少しまくれ上がっていて、パンツがちらりと見える。
「ごしゅじんさまぁ、どうぞー」
 めっちゃ誘ってる!
 これに乗らないなんて男じゃない!
 そんな奴は柚奈に女の子にしてもらえ!
「行くぞブランシェ!」
「させるかっ!」
 アヴィーラが俺を止めようと、俺とブランシェの間に割って入る。
「どけっ! もう時間がないんだよっ!」
「させないわよ! 絶対にさせないっ!」
 アヴィーラの身体は小さく、その力はない。
 魔力さえ使わなければ、ただのか弱い女の子だ。
 だが、それでも全力で必死になれば、その小さい身体でもそれなりの抵抗が出来る。
 向こうはあと少しだけ俺をはねのければいい、俺には時間がない。
 臨戦態勢のブランシェを目の前にして、このままにしておけるわけがない。
 俺は。
 俺は──っ!
「ふう、やっと戻って来れましたね……」
 その声は、ブランシェと同じだが、違う。
 おそらくシェリムの声。
 間に合わなかった……。
 俺は肩を落とし、アヴィーラがやっと力を抜く。
「畜生ぉぉぉぉぉっ!」
「あれ? どうしてこんな体勢してふんぐぅ!」
 俺は悔しさをぶつけるため、渾身の力でシェリムの尻にカンチョーした。
 どのくらいの強さかって、なんか俺の指が何かにめり込む感触があって、あと、シェリムが飛び上がるくらいの力だ。
「……っ! …………っ!」
 声にならない悲鳴を上げて、尻を押さえてのた打ち回るシェリム。
「くっそー、もう少し、もう少しだったのに……!」
 俺はその横で悔しそうにうつむいていた。
「~~っ! ~~~~っ!」
 涙目で俺をぽかぽかと叩くシェリムは可愛かったが、それどころじゃない。
 俺は敗北感に打ちのめされて、シェリムの泣き顔とか、自分はこう見えても神だとか主張している姿を、何の感情もなく、ただ、呆然と見ていた。
 俺はブランシェに何もしてやれなかった。
 あれだけ俺と子作りをしたがっていたのに、俺はそれに応えることが出来なかった。
「なんで私、メイド服着てるんですかっ! 私が買ってきた服はどこに行ったんですか!」
 シェリムが自分の服装を見て抗議する。
 ああもう、うるさい奴だな、感傷に浸ることも出来ない。
「ん? そういえばお前も服買いに行ってたよな。どこいったんだ?」
「それを聞いてるんですよ!」
 俺が部屋の中を探すと、ごみ箱のそばにさわむらの袋が落ちていた。
「これか?」
 俺は中を漁り、ワンピースを確認し、その奥にパンツが入っているのを見つけ、袋を開ける。
「どうしてあなたはそうナチュラルに人の下着を開けられるのですかっ!」
「え? でもこれってまだお前が一度も穿いてないから構わないんじゃないか?」
「駄目ですっ! あなたはそれを私が穿いているところを想像するからです!」
「……どうして分かった?」
「当たったのにこんなに嫌ぁっ!」
 シェリムは泣きそうな顔でパンツを袋にしまった。
「あんまり好き勝手やると、柚奈に女の子にしてもらうわよ?」
 アヴィーラが冷たい声で言う。
「……分かった。着替えてこい、覗かない」
 俺はその「女の子にする」という言葉だけで背筋が凍るのだ。
 これはまずい弱点を知られてしまったな。
「……はい」
 シェリムは不思議そうに俺を見上げる。
 シェリムにまで知られたら、ここまで築き上げた俺の政権も終わってしまう。
 こいつは押しが弱そうだから、俺の天下なのに。
「ちょっと来て。着替えを見張るついでに話があるわ」
 アヴィーラが部屋を出ていく。
 俺はそれ以上の追及がなくて胸を撫で下ろす。
 状況の分からないシェリムは何度かこちらを振り返りながらもそれについていく。
 よし、覗かないが立ち聞きくらいしてやれ。
 俺がそっとドアを開けると目の前にアヴィーラの顔があった。
「そんなに女の子になりたいの?」
「いいえっ!」
 俺は部屋に逃げ戻った。
 ここから外に聞き耳を立てるが、人の気配はない。
 俺はそっとドアを開け、外を確認した。
 よし、誰もいない。
 足音を消して、廊下に出る。俺の部屋の隣の隣の部屋から気配がする。
 その壁に耳を当て中の音を聞く。
 中からはシェリムが着替えている衣擦れの音と、二人の話し声が聞こえた。
「このガーターっていうのは脱ぎにくいですねえ、なんでわざわざこんな服着てるんでしょう」
「なんか、『メイドにガーターはつきもの』って言ってたわよ」
「……もう、何だかどうでもいいです。それで、話というのは?」
「あの、さ、協定の事なんだけど……」
「はい……まさか、守り切れなかったのですか!?」
「守ったわよ。どっちかっていうと、私がひどい目に……ううっ!」
「な、泣かないでください! 大体分かります。あの人は凄まじいSですから、嫌がる方を優先しそうです」
 なんだか神と悪魔が二人して慰めあっているようだ。
 可哀想に、俺ならいくらでも慰めてやるのに、性的な意味で。
「それで、何でしたか?」
「あ、うん、あのさ、あたしだけど、もう少しあいつに構わせてもいいわよ?」
「……はい?」
「だ、だから、あいつにちょっとくらいはエロっぽい事させてあげていいわよって事」
「ええっ!? ま、まさかあの人を好きになったのですか!? 考え直した方がいいですっ! 絶対にそうすべきです!」
 断定的に否定し、心から説得するシェリム。
 あいつ、後で泣くまでセクハラな。
「ち、違うわよっ! ただ、あいつを止めることはどうしても無理。だからちょっとでも性欲を発散させないと、いつか爆発するわ! それが怖いのよ!
「そんなことしなくても、男性はたまったら自分で処理すると聞きましたが」
「どうやって?」
「さあ、そこまでは知りませんが」
 あいつら知らないのかよ。
 あとで教えてやろう。
 泣いて嫌がっても教えてやろう。
「やり方が分からないなんて怖いわよ! 絶対ためちゃ駄目! でも、あたしがやられるのは嫌! だから、あたしのいない時にやらせるのよ!」
「え? そ、それは、私も犬の時やれという事ですか?」
「そんな必要はないわ。あんたをあの魔物から守ってあげるし、近づけさせない」
「…………?」
 不自然な無音。
 おそらくシェリムがアヴィーラを疑惑の目で見ているんだろう。
「何を企んでいるのですか?」
「何もないってば。ただあいつを爆発させないためにやるだけよ」
「悪魔が自ら犠牲になってそんなことをするはずがないです。何かを企んでいるとしか思えません」
「悪魔全員がそんな奴じゃないわよ。あたしだって嫌よ。だけどあんたに頼むなんてことしたら神に貸しを作ることになるから嫌ってだけよ」
「……いまいち納得しきれていませんが、まあいいでしょう。あなたの好きにさせてあげます」
「で、でも、セクハラ以上のこと始めたら止めてよね! あたしだってあんな奴に処女を奪われたくないから!」
 そうか、あいつ処女なのか。
「基準がいまいち曖昧ですね」
「だ、大事なところとか見るのは駄目! 触るのも駄目! その場合は魔力使ってでも助けて!」
「……まあいいでしょう。あなたも私に貸しを作っている以上私も魔力を犠牲にしてそれを助けます」
 シェリムとアヴィーラは新しい協定を結んだようだ。
「話は終わったかね?」
 紳士な俺は話が終わった後、登場した。
「きゃぁぁぁっ! まだ着替えてますけど!」
「ていうか、あんた、立ち聞きしてたのね! これはもう柚奈に女の子にし──」
「分からず屋なのは、この濡れた唇かい──ぶほっ!」
 アヴィーラの顎を指でつかんで囁くように言ったら、顔面にヘッドバットを食らった。
「あんたは三回くらい死ねっ!」
 なんだか物凄く怒ってる。
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