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神と悪魔と犬と猫。 作者:真木あーと
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第一節

「やばい、もう明るくなって来た!」
 俺は思わずつぶやいた。
 さっきまで窓の外は真っ暗だったが、今は徐々に明るさが差し込んできている。
 それに外を静粛性ある日本製の業務用バイクの音が聞こえる。
 おそらく新聞配達だろう。
 ここらに新聞が来るのはおそらく三時から四時。
 そろそろ夜が明けるころだ。
 また徹夜してしまったかな……。
 これもまあ、一つのイベントだから仕方がないっていえば仕方がないんだがな。
 そう、昨日は期待の大型のギャルゲーが発売されたのだ。
 それはもう徹夜してやるしかないだろう、例え平日でもさ!
 そう、後悔はしていない。
 いや、徹夜で高いテンションでギャルゲプレイして、この時間に賢者タイムになることは結構あるし、何で徹夜してしまったんだと後悔することもある。
 だが、今日は違った。
 このゲームはやりごたえがあったし、やって後悔は全くなかった。
 さすがに二年かけて制作したゲームだけはある。
 一キャラクリアにかなり時間がかかるが、その分感動も物凄かった。
 まさか最後の最後でヒロインが裏切るとはな。
 信じ切ってて、好感度も高かったと思ってたのであれはショックだった。
 だが、それでも最後には愛し合い、そして、ハッピーエンドを迎えた。
 それはもう、今年に入って一番よかったと言っていいシナリオだった。
 そうやって何とかこれまでに二キャラクリア出来た。
 ここでとりあえず小休止するのもいいだろう。
 二キャラってのがポイントだ。
 まず発売前から目を付けてた子をまずは攻略、そして、ゲームをプレイしてて、気に入った子を次に攻略、その二人をまずは攻略する。
 俺はいつもこの順番でクリアする。
 おいしいところ先に食べたら、後がつまらない?
 そんなわけないだろ!
 それはギャルゲシロートの意見だ。
 魅力的だと思うキャラを攻略した後からが本当に面白いところじゃないか。
 これからはつまりは消化試合になると思われる。
 で、クソつまらないシナリオでクソ可愛くないキャラの時もある、が、それはクソゲーの場合だ。
 自分が好きで魅力的だと思うキャラをいいと思うのは当たり前だろ?
 そのキャラを好意的に見てるって大前提から始まってるんだから、シナリオも好意的に解釈するし、いいシナリオだった、なんて思いやすい。
 だが、ここからだ、ここからなんだよ!
 この俺が魅力的でないと思ってたキャラが、そのルートを進めることによって魅力的だと思うようになり、どんどん好きになっていく。
 そのシナリオが終わる頃には好きになっている。
 これだよ! これがギャルゲの醍醐味だろ?
 これは俺とライターの一騎打ちだ。
 さあ、俺のタイプじゃないこの娘を好きにさせてみろよ!
 そんなワクワクがここから先には広がっている。
「ふぁぁぁぁぁ……」
 あくびが出る。
 眠さが半端じゃない。
 今日は学校もあるし、名残惜しいがここまでにするか。
 とりあえず仮眠を取ろう。
 時間になったら妹の柚奈が起こしに来るし、それまで熟睡していよう。
「ヴォフ……」
 俺の隣に寝ていた犬のブランシェが吠える。
 ブランシェってのは、俺が部屋で飼ってる白い小型犬だ。
 俺はそっとブランシェを確認すると目を閉じていた。
 ふう、寝言か。
 今起きられると面倒だしな、俺はこれから寝るのに騒がれたら困る。
 いや、ブランシェはいいんだ、聞き分けのいい子だから、俺が寝てたら静かにするくらいの躾は出来てる。
 だけど、ノワールも起きたら厄介なんだよな。
 ノワールってのは俺が飼ってる黒猫だ。
 ノワールが起きると、こいつは俺に甘えてくる。
 こいつは俺が寝ていようがお構いなしだ。
 自分が守ってるルールを守らないノワールをブランシェが気に入らずに吠える。
 ノワールは俺の陰に隠れる、嫉妬したブランシェが俺に怒ってもらおうと俺を起こすために本格的に吠える、という過程を経て、俺が眠れなくなるわけだ。
 ちなみにノワールは今、俺のすぐ隣で丸まってる。
 この距離はブランシェが嫉妬する密着度だ。
 ここはどっちも起こさないよう、そっとしておくのが一番か。
 こいつらのもふもふ感は好きなんだがなあ。
 さて、俺が何故ブランシェとノワールという、ほっとくと喧嘩する犬猫を飼ってるかと言えば、まあ、一つに寂しいってのがある。
 俺の家は、親父が北海道に単身赴任しているために、母さんと妹の柚奈の三人で住んでいる。
 ということになっている、世間体上は。
 だが、親父を溺愛している母さんは俺と柚奈を置いて北海道に行ってしまった。
 つまりは実質俺は妹と二人暮らしをしている。
 こんな状況だから協力し合って生きて行かなきゃならないので、妹との仲は悪くない。
 人が聞けばギャルゲシチュだと思われがちだが、まあ、リア妹なので仲はいいけどそんなことになるはずもなく、そして、お互いのプライベートとプライバシーを尊重しているので、必要以上に絡むことはない。
 ちなみに俺がずっと家でギャルゲしてるから、柚奈はいつも友達と遊んでくることが多いな。
 それでいて、食事洗濯も柚奈任せだから、俺としては頭が下がるばかりだ。
 いや、食事はともかく、洗濯くらいはしようと思ったんだが、どうも俺に下着を見られるのが嫌らしく、させてもらえなかった。
 ま、家に帰っても俺を待ってるのはギャルゲの中の女の子だけ、というわけで温もりが欲しくて二匹を飼っているってのがまず一つ。
 もう一つは、もちろん、人化のためだ。
 俺が可愛がって飼っていれば、こいつらはいつか美少女になって俺の前に現れる。
 俺はそう信じている。
 だってギャルゲではそうだし。
 だからわざわざ雌を飼って、とても可愛がって育てている。
 いつかこいつらが変身したとき、俺に恩を感じるように。
 夢かもしれない。
 だけど、夢ってのは、願った者だけが叶える資格がある。
 信じて、最後まで諦めなかった者だけに神様は微笑む。
 だから俺は、それを願い、信じることにした。
 俺はブランシェの背中を優しく撫で、ぐらり、と視界が傾くのが分かる。
 まずい、眠くて限界だ。
 よし、このまま眠ろう……。
 おやすみ……。
 俺は、付けていた明かりを消して、目を閉じた。
 しん、と静まり返る空間。
「……ん?」
 目を閉じた瞬間、闇に包まれた俺は、違和感を感じて目を開く。
 すると、目を開けたとは思えないほど、辺りが暗くなっていた。
「な、何だ!?」
 おかしい。
 さっきまで部屋は薄明るかったはずで、時間が経つ度に明るくなっていく早朝の今、この闇はありえない光景だ。
 そもそも、深夜ですら真っ暗になどなるわけがない世の中に、窓の灯すら見えないのはおかしい。
「ハァァァッ…………ハァァァァァァァァッ……!」
 何か聞こえる。
 しかもこの部屋の中、それもすぐそばからだ。
 何か、人か獣か分からない何かが、持てる力を思いっきり使っているような、そんな声、もしくは咆哮だ。
「何だ? 誰かいるのかよっ!」
 俺は武器になるようなものを探す。
 だが、俺の愛用する素晴らしき武器達はハードディスクの中にしかない。
 ちなみに大抵女体化する。
「ヴァァァッ! ヴァァァッ!」
 至近距離からの声。
 この獣臭い匂いは、ノワールか?
 いや、だけど、ノワールはわがままだけど、こんな子じゃない。
 ワンパクだけど、恐ろしい声は出さない。
 信じてる。
 俺は信じるよ!
「ノワール! どこにいるんだ!? ノワール!」
 俺はさっきまでそばで寝ていたはずのノワールを手探りで探す。
 だが、そこにはノワールはいない。
 ノワールはいないが、代わりにもっと大きな何かがいた。
 それは毛に包まれていて咆哮の音にに連動して蠢いていた。
 ほぼ確実にそれがこの声、そして闇の原因だろう。
「ヴァァァァァァァァッ!」
 咆哮を上げる獣のような何か。
 触れている俺の手に、咆哮の振動が伝わる。
「ヴァンッ! ヴゥゥゥゥッ」
 咆哮にブランシェが起きて、その獣を威嚇する。
 俺を守るように前に出ようとするが、俺は逆にブランシェを守るように背にする。
 ノワールがこうなった今、ブランシェは俺の最後の希望だ。
 殺させるわけにはいかない、お前こそいつか女になって、俺に恩返しを──
「ヴァァァァァァッッ! ヴァァァァァァァッ!」
 闇の中に響き渡る咆哮。
 獣臭い匂いは徐々に変化を帯びていく。
 触れている手の感触も、徐々に体毛が引いていくのを感じる。
 俺は、動けなかった。
 何をしていいか分からなかった。
 怖いとは思う。
 だが、逃げ出すこともできなかった。
 ただ状況を見守るしかなかった。
「ハァァァァァァァッ! アァァァァァァァッ!」
 咆哮の声は徐々に高くなっていき、獣臭い匂いも、少しずつ甘ったるい匂いに変わっていった。
「ハァァッ! ハァッ!」
 触れている手から、体毛の感触が一切なくなり、すべすべとした柔らかい感触に変わっていった。
「はぁっ……はぁっ!」
 やがてゆっくりと周囲が光を取り戻し、靄のように辺りを包んでいた闇が晴れていく。
「はぁ、はぁ……ふふふ……ついにやったわ……!」
 声が、聞こえる。
 高い、女の子の声だ。
 おそらく俺より何年か歳下の子だろう。
 だが、この家には俺と妹しかいないはずだ。
 そして、妹はこんな声じゃない。
 まさか、ノワールが……?
 俺の触っている感触は、まさに女の子の身体の一部のような感触だ。
 晴れていく闇の間に、俺が見たのは、黒い髪をツインテールにした、小柄な女の子だった。
 衣装は黒を基調としたゴスロリミニで、ところどころワインレッドのフリルが付いているあたり、ちょっと変わっている。
 ミニスカートの足からは褐色でつっるつるの太ももがちらちらと見える。
 女の子は自分の手足を確認している。
「ちょっと小さいわねえ。ま、しょうがないか、魔力は最大限に使ったからこれが限界ね」
 肌は日焼けしたように褐色で、だけどキメは細かく、少しつり目なところがいかにもわがままでやんちゃなノワールだ。
「ィィィィヤッホォォォォォォォィッ!」
 俺は天井にぶつかりそうなほど大きく跳ねた。
 俺に気づいた女の子が俺を振り返る。
「ふはははははっ! 我が名はアヴィ──」
「ノワールゥゥゥゥゥッ! よくやったぞォォォォォッ!」
 俺は、ノワールと思われる女の子を強く抱きしめた。
「えっ? やっ、きゃぁぁぁぁぁぁぁっっ!」
 女の子が叫びを上げて俺を拒絶する。
「え? なんで?」
「な、な、なにをするっ! この痴れ者がっ!」
 涙目の女の子にそう怒鳴られて、何か、物凄い力に突き飛ばされる。
 バランスを崩した俺は布団の上に倒れ、女の子はそんな俺はげしげしと踏み付ける。
「痛っ! 痛いって! やめろ、ノワール!」
「誰がノワールだっ! 我が名はノワールなどではないっ!」
「は? でも、ノワールだろ?」
 俺の隣にはノワールが寝ていた、ノワールがいなくなって、この女の子が現れた。
 普通に考えて、この子がノワールだと思うものじゃないのか?
「この猫の名前か? そのような些事は知らぬ。この猫は妾が現世で具現化するための素体とさせてもらった」
「こ、殺したのかっ! 返せっ! ノワールを返せぇぇぇぇぇっ!」
「きゃぁっ!」
 俺がそう叫んで起き上がると、俺の身体を踏んでいた女の子が今度は転ぶ。
 マウントポジションを取ってみたものの、ここからどうすればいいんだろう。
 まあいい、感情の赴くままに。
「返せぇぇぇぇぇぇっ!」
「きゃぁぁぁぁぁぁっ!」
 俺は女の子の脇の下に手を突っ込んでくすぐってやった。
「むっ!」
 そこは、意外な感覚だった。
 腕の付け根であるそこは、くすぐるたびに筋肉がびくんびくんとしている。
 更に、乳の付け根でもあるそこは、とても柔らかく、しかも適度な固さとびくんびくんと押し寄せる圧力に、魂が抜けるように気持ちがいい。
 そして、そこは体温を測る部分でもあり、この子の体温が一番伝わってくる。
 これは、男なら絶対癖にならないわけには行かない。
「うぉぉぉぉっ! 気もちぃぃぃぃぃぃぃっ!」
 ていうか癖になった。
「このっ! やめっ! あっんっ!」
 涙目の女の子が必死に暴れるが、力では俺に敵わないようだ。
「やめろって言ってんでしょうがぁぁぁぁぁっ!」
「うわぁっ!」
 女の子が目を見開いくと、目は赤く光り、俺は何かに吹き飛ばされる。
 部屋の反対にある柱に背中を思いっきりぶつける。
「いててて……」
「猫は死んでないわ……じゃなかった、死んでおらぬ。妾と同化して生きておるのじゃ」
 女の子は、痛みで動けない俺に、そう言った。
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