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第八話 思い出の中で 5

それからは和明と同じ高校に入るため、ひたすら勉強の毎日が続いた。県内でも有数の進学校が目標でかなり厳しい受験になってしまった。和明の志望校がわかってから、夏休みからずっとクリスマス、お正月とすべておあずけ状態でもう少しの辛抱だと頑張った。そして、見事ふたりとも旭ヶ丘高校への進学を果たしたのだ。合格発表の日、張り出された自分の受験番号を見つけた時の感動は忘れられない。正樹まで嬉し涙を流していた。


入学式の日、美咲は真新しいブレザーに腕を通し、乗り慣れない電車の改札を通って少し早めに高校の門をくぐった。ぐずぐずしていた正樹を待ちきれずに一人で講堂に向かおうとした。その途中に大きな桜の木があり強い風が吹いた途端、満開の桜の花びらが宙に舞う。美咲は空を仰ぎ、桜の木を見上げていた。その時、なぜか誰かの視線を感じその方に顔を向けると同じように真新しい学生服に身を包んだ和明が立ちすくんでいた。前に会った時よりも身長も伸びて、ますますたくましくなっているようだ。美咲は桜吹雪の中、自分を見つめている整った顔の薄茶色の瞳につかまった。


「・・美咲もこの高校に?」


「そう。なんとか受かった。和ちゃ・・、寺西君もさすがだね。かなりの上位で受かったって聞いたよ。」


「・・。また、一緒に通えるな。なんか、久しぶりだ。今度、・・」


「私、行かなくちゃ、正樹が待ってるから。」


美咲は和明の言葉も途中に駆け出した。久しぶりに和明の顔を見ただけで胸がどきどきしてその場から早く立ち去りたかった。あんなにそばにいたくて、同じ高校に進学したのに会えば話もできない状態で美咲は気持ちを持て余していた。



「あれ、和明だけか。美咲こなかったか?」


正樹が二人と待ち合わせをしていたところへ遅れて現れた。


「お前、なんで黙ってたんだ?俺が何回きいてもはぐらかしやがって。」


「ああ、お前をびっくりさせようと思って。よかったな、また三年は一緒にいられるな。」


和明は苦い顔をして正樹に言った。


「もういいよ。あれだけ嫌われてたら望みはないよ。きっと顔を合わすのも嫌かもしれない。お前にも気を使わせて悪かったな。」


「はぁ?それ本気でいってんのか。お前ら、ほんとにばかだなあ。美咲も不器用だし・・。俺がせっかくチャンスを作ってやったのに・・・。仕方ないな、まあ時間はあるんだし、ゆっくりやるか。さあ、行こうぜ。」


正樹は和明の腕をつかみ、入学式の行われる講堂へと向かった。


美咲は中学とは違う高校の規模の大きさに圧倒された。広い地域から集まってきたたくさんの生徒達の中で自分だけが場違いのような気がしてくる。部活の勧誘をみて自分はなにがしたいのかと考えたが、すぐに答えが出てこない。中学の時と同じ吹奏楽をしようかと思ったが、なぜか気が進まなかった。ふと、立てかけてあった弓道の看板をみて勢いだけで入部を決めてしまった。昔から運動神経の鈍い美咲が運動部の入部を決めてきたことに正樹をはじめ、両親もあっけにとられていた。


「美咲、俺も決めた。バスケに入ろうと思ってたけどやめる。せっかくだから新しいことに挑戦するぞ。」


正樹は美咲の選択になにを思ったかひどく賞賛し、次の日美術部の入部を決めてきたのだ。

こうして二人の新しい高校生活が始まっていった。

勉強に部活にとますます忙しくなった美咲は、和明と顔を合わす機会もますますなくなり、気がつくと高校二年の五月の誕生日を迎えていたのだ。





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