第五話 思い出の中で 2
季節はめまぐるしく変わっていった。桜の花が満開を迎える頃になり、美咲達は小学校最終学年の六年生になった。美咲は初めて和明と一緒のクラスになり、とても嬉しかった。相変わらず正樹と和明のそばで一緒に遊んだりしていたが、高学年になるにつれ、周りの目を気にするようになり三人の関係も次第に変わっていった。女子は女子で固まり、男子は男子で固まっている。その中で美咲と和明の関係も同じクラスといえども、気軽に話しはできにくくなっている。せっかく同じクラスになったのに美咲は少しさびしく感じていた。
「和ちゃん、これ正樹が返しといてくれって言ってたから。」
「ああ、サンキュー。」
美咲は授業が終わった後、正樹に頼まれていた本を和明に手渡した。その様子を見ていた男子生徒が冷やかしたのだ。
「和ちゃん、これ返すわー。明日も一緒に学校行こうねー。ハハハ。」
それを機にほかの生徒まではやしたて、美咲はいたたまれなくなり教室を飛び出していった。
和明は美咲の後を追おうとしたが、ほかの生徒につかまり、仕方なくその場に残った。
「お前ら、ほんとに仲いいよな。将来ケッコンしようとかいってんのか。」
「うるさい。そんなこと、どうでもいいだろ。」
「よくない。気になるもんなー。昔からずっと一緒にいるんだろ。そんなに沢中のことが好きなのか。」
「・・・。Oh,yes.It is the girl who is the most important for me.(ああ、すきだよ。僕にとって一番大切な女の子だ)」
「えっ、なんていったんだ?」
和明はみんなのわからない得意の英語で切返した。あっけにとられた男子生徒の間を走りぬけ、急いで美咲を追いかけたがどこにも姿は見当たらなかった。
次の日、和明はいつものように三人で学校に行こうと公園で待っていたが、現れたのは正樹一人だった。正樹は怖い顔をして和明をにらみつけ、話し出した。
「美咲が昨日泣いて帰ってきた。今日は和明に会いたくないから先に行くと言ってた。おまえ、美咲になにをした?」
和明はびっくりしてすぐになにも返事ができなかった。からかったのは他の男子生徒で自分はなにもしていない。なぜ美咲が自分に会いたくないといっているのか皆目検討もつかなかった。和明は昨日のことを正樹に話したが正樹は本当にそれだけかと疑ってきた。学校について、一足先に教室にいた美咲を見つけ教室から連れ出した。
「美咲、大丈夫か。昨日のことなんか気にするな。言いたいやつは言わせとけばいい。俺は全然気にしてないよ。」
「・・私と一緒にいると和ちゃんまで笑われる。これからあんまり一緒にいないほうがいいと思う。私、明日から美紀ちゃんと一緒に登校するから。」
美咲はうつむいたままで早口に和明にそう告げて、教室に戻った。
それからは和明が話しかけようとしても、美咲の方がからかわれるのを恐れて避け続け、次第に二人の仲も離れていった。
秋になり、小学校最後の運動会がやってきた。運動の苦手な美咲はとても憂鬱な時期である。
リレーの練習するのもみんなの足手まといになっていると感じ、毎日学校にいくのも嫌だった。
「どうして正樹は走るのが速いのかな。私は遅いのに。不公平だ。」
「美咲は母さんに似たんだろ。ドンくさいところそっくりだ。」
正樹の憎まれ口についつい応戦してしまう。
「正樹の口の悪いところは誰に似たの?」
「口は悪くないよ。本当のことを言っただけだ。それより、最近和明と話もしないんだろ?
和明が寂しがってたぞ。何言われたか知らないけど、いいかげん許してやれよ。」
「別にけんかしたわけじゃないよ。和ちゃんと話す機会がないだけで・・・。」
美咲も昔のように仲良くしたかったが周りのことばかり気になって、和明の気持ちにまで気づく余裕がなかった。
運動会はとてもいい天気で、プログラムも順調に進んでいった。沢中家の両親も二人のためにお弁当を用意し、応援に力が入っている。となりの席には和明の両親も並んで座っていた。
綱引き、玉いれ、組体操と次々に競技をこなし、最後にリレーがやってきた。正樹は得意な足で先頭を走り、そのままバトンをつないでいた。反対に美咲は走り出すと一人、二人と追い越されていく。対照的な二人に両親もため息をついていた。
「ごめんなさい。私のせいで一等になれなかった。」
美咲はクラスメイトに謝った。口の悪い子に散々けなされショックを受けた美咲は教室に一人戻っていた。その時、和明が教室に入ってきて、美咲のそばのいすに座った。
「気にするなよ。遅くても頑張ったんだから。大丈夫だ。」
和明は美咲の頭をくしゃっと触り、教室を出て行った。
美咲が落ち込んだとき、困った時、必ず和明が駆けつけて助けてくれた。昔からやさしい和明に美咲はどれだけ救われてきたかわからない。別に親しく話しができなくても、すぐそばに和明がいてくれることが美咲にはとても嬉しかった。