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フォーンキャッスル冷徹の姫 作者:佐久野宗希
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7話 裏切り

「……ヘイアス」
「どうしました?」

シュネリアは内心焦っていた。

「……氷の洞窟前に居たはずの、グラン騎士長なのですが」

どうにか冷静さを保とうとするが、一刻を争う事態が起きているのは確かだった。

「今は何処に?」
「……まさか」

ヘイアスはシュネリアがここまで言って大半を理解したようで、すぐに氷の洞窟の方へ走りだした。

「あ……!」

その後をシュネリアはすぐに追いかけた。








氷の洞窟の前には、警備兵の簡易テントがいくつか張ってある。
洞窟を警備している兵士数名が、入り口に集まっていた。

「グラン騎士長は!」

ヘイアスは兵士たちに向けて発する。

「それが……中へ」
「……!」

それを聞いた瞬間、迷う事なくヘイアスは洞窟の内部へ。
その後を追いかけるように、シュネリアも入っていく。

「シュ、シュネリア姫!!」

兵士の呼んだ声が洞窟に反響した。






氷の洞窟。
名前の由来通り、内部は氷で出来ているのではないかと言うほど凍っている。
最近はアイシクルゴーレムが異様なほど繁殖しており、討伐を定期的に行わなければならない程になっていた。
そのゴーレム達の姿が全く見えない。
本当にグランは中へ入っていったようだった。

「ヘイアス、グラン騎士長は……」
「……こんな行動をして、何の得が……!」

シュネリアも全く同じ事を思っていた。
同時に、一つの考えに辿り着く。

「……もしかして、脅されている?」
「なんですって?」

ヘイアスが急いでいた足を止める。

「グラン騎士長がこのような行動をする理由など、それしか思いつきません」

今フォーン軍との関係を悪化させる意味とは。
プランシア女王への反逆、氷の洞窟の占拠、ダークエルフ軍への刺激。
どれも得はしないだろう。

「もうここで生涯を閉じたいのであれば、この行動の意味が出てきますが」

死ぬ前にでかいことをしよう……など、あのグランが思うはずがない。
プランシア女王に忠実で、フォーン軍にも愛着があるはず。
そして何より、平和を愛している男だ。
シュネリアはグランに対してそういう印象を抱いていた。

「……脅されている、ですか」
「……ごめんなさい。急ぎましょう」








「止まりなさい!」

シュネリアの声が洞窟内に響いた。
エルフ達は驚き振り返る。
その中に、巨躯の姿があった。
騎士長グランが口を開く。

「……すまない!だが、俺にも守らねばならないものがあるんだ」
「それは私達フォーン軍の同盟よりも、守りたいものなんですね?」
「……」

シュネリアは自分の疑問を確信へと変えた。
その答え。
それは。

「家族が人質……でしょうか」
「……!?」

グランは驚愕の表情を見せた。

「……それ意外、私には思いつけませんでした。しかし、そのような事をして得をする軍……いや、人物は、裏切り者のエルフであるロマールの残党しかいません」

グランの肩が震える。
それと同時に、周りのエルフが剣を抜いた。
ヘイアスは槍を構え、エルフ達を睨む。

「……これはどういう事だ?」
「我々はロマール様の意志を継ぐ者。邪魔はさせん!」

シュネリアも腰に下げてある鞘から剣を抜いた。
氷の洞窟の光が反射し、青色に輝く剣を照らす。
神秘の剣。
名をウクソルインペラートーリア。
この剣に勝る武器は存在しないと言われている。

「……グラン騎士長。会合の時、貴方の側に居たエルフ達は……ロマールのエルフだったのですね」

ヘイアスがグランへ問う。

「ヘイアス、すまない」

グランは戦う気がないのか、頭を下げたままだ。
シュネリアはそれを確認し、周りのエルフ達に言う。

「剣を捨てなさい」
「その自信……何処からくるのか知らねえが……姫だろうと容赦はしない!」

エルフは剣をシュネリアへ突き出す。
鋭い突き攻撃。
横からヘイアスの槍がその剣を弾く。

「……!?」

何が起きたのか分からないという顔でエルフはシュネリアを見ていた。
瞬間、ヘイアスの2撃目がエルフの右腕を刺した。

「うあああ!!」

まるでモンスターのような悲鳴だと思いつつ、シュネリアは残りのエルフ――5人の元へ踏み込んだ。

「……全く」

その行動を見てもヘイアスは動じておらず、むしろ呆れていた。

「ふっ!」

シュネリアが剣を振り上げる。
右に居たエルフは単身で突っ込んできたシュネリアを見て動揺していたのか、持っていた剣を軽々と吹き飛ばされた。

「……なっ!」
「まず1人」

シュネリアの剣がエルフの左足を斬る。
悲鳴をあげ悶えるエルフを無視し、左側で剣を構える2人目のエルフへ。
半回転で勢いをつけ、左上からエルフの肩をめがけて剣を振り下ろす。

「うぐっ!!」

エルフはうつ伏せに倒れこんだ。
3人目はようやく今の状況……シュネリアが単身で切り込んできている事をようやく理解し、剣を突き出そうとするが、シュネリアの早さは尋常ではなく、踏み込みの突きを右肩に受け4人目に支えられる。

「わ、分かった!!け、剣は捨てる!!」

右肩に突きを受けたエルフを支えながら4人目のエルフは慌てて叫ぶと、同時に剣を投げ捨てた。
残りの1人もすかさず剣を捨て、シュネリアを見る。
その様子を静かに見ていたシュネリアは口を開く。

「……貴方達を拘束します」

エルフ達は大人しくシュネリアの言葉を聞いていた。
グランは立ち尽くしていた。
本来なら、一緒に拘束するのだが……シュネリアは内心迷っていた。
家族が人質になっている。
そんな彼を拘束すれば……家族は殺されるかもしれない。
その悲しみを痛いほど知っているシュネリアに、拘束は出来なかった。

「……騎士長グラン。貴方は……ここにはいませんでした」
「!?」

グランは驚く。

「……去りなさい」
「い、いいのか……リアの嬢ちゃん……」

シュネリアは行けと言っている。
そうは理解しても、やはり躊躇してしまうのだろう。
グランは動揺していた。

「いいのですか?シュネリア姫」

ヘイアスはシュネリアの様子を伺いつつ、聞いた。

「……分かりません」

聞かれても困る……そう内心でシュネリアは思っていた。

「……すまねぇ……すまねぇリアの嬢ちゃん……!」

一筋の雫を目から流しながら、騎士長グランは氷の洞窟を引き返していった。







シュネリアは玉座に座り、考えていた。

「神秘の印章はダークエルフ軍が1つを持ち、もう1つはエルフ達が持つ……」

ダークエルフが持つ神秘の印章は、元々フォーン軍が所持していた。
数年前、フォーン城にあった宝の1つが盗まれたのだが、それは神秘の印章だった。
思い出す度になぜそれが盗まれたのか疑問に思う。
当時の警備はどうなっていたのか。
姫としてこの玉座に座ってみて、初めて思う悔しさだった。
しかし、今は昔の事を考えている場合ではない。
シュネリアは今日の出来事について思考を戻す。

「グラン騎士長は神秘の祭壇へ向かっていた……」

氷の洞窟最下層に、神秘の祭壇がある。
そこで2つの神秘の印章を掲げると、神秘の泉というものが湧くらしい。
なんでもその泉の水は、あらゆる病、傷を直し、永遠の命を手に入れられるという伝承がある。
しかし伝承というものは1つではなく、世界を無に返す泉、生命を吸う泉、という伝承もあるので、何が本当なのか分からない。

「でも、印章はプランシア女王が保管している……。グラン騎士長が持っている訳……」

そこである仮説を思いつく。
プランシア女王が持つ神秘の印章をグランが持っていたとしたら。
神秘の泉の場所を確認し、ダークエルフへ伝えたら……間違いなくここへ攻めてくる。

「……考えすぎ、だよね」

そもそも神秘の印章はプランシア女王が最も信頼している者しか出入り出来ない場所へ保管していると聞いたことがある。
その信頼している人物の数はほんの一握り……。

「……待って」

瞬間、シュネリアは自分の頭の体温が一気に上昇するのを感じた。

「……その中に、グラン騎士長は入る……!」

シュネリアは勢いよく玉座から立ち上がり、扉に向かって駈け出した。
同時に、その扉が開かれる。

「姫。先ほどプランシア女王から……ひ、姫!?」

驚くヘイアスとその手に握られている物を見つつ、シュネリアは叫ぶ。

「それにはダークエルフ軍がこちらに進軍しているという事と、神秘の印章が盗まれた内容が綴られているはず!中を確認しつつ兵を集めて!」
「な……!」

シュネリアはそれだけ言うと、早足で玉座の間を後にした。









フォーン城下町は平和そのものと言ってもいいぐらい活気に溢れていた。
だが、シュネリアの内心はすでに戦場に居る気分だった。
瞬間、半鐘が町に響き渡る。
町の人々は何事かと鐘の鳴る方角を見つつ、それが警告だと理解した時には既にフォーン軍の兵士達は集まっていた。

「シュネリア姫!いつでも出陣出来ます!」

兵士が駆け寄り、シュネリアへ告げる。

「……敵は、ダークエルフ軍です。狙いは、氷の洞窟最下層にある神秘の祭壇。なんとしてでも阻止せねばなりません」

町は静寂に包まれていた。
誰もが固唾を呑んでシュネリア姫を見る。

「皆さん、今一度、力を貸してください……!もちろん、先陣へは私が行きます」

その言葉に、兵士達はどっと沸いた。

「シュネリア姫に抜かされた者は、兵士として恥ずべきと思え!」
「姫様を守るのだ!!」
「前へ!」

その言葉に、シュネリアは嬉しく思った。
しかし、シュネリア自信が兵士達の力になれる事は、今は剣を振るう事だけとしか思えなかった。

「では、行きましょう、姫」

ヘイアスがシュネリアに向けて微笑んだ。
シュネリアは頷き、剣を抜く。

「全軍、出撃!!」
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