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フォーンキャッスル冷徹の姫 作者:佐久野宗希
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エピローグ

「えー。俺達、結婚します」
「……は?」

 オーキスの突然の言葉に、ヘイアスは昔ながらの、まだ精神的にも若かった頃の返事をここ数年ぶりにしてしまった。

「いや、だから俺達、結婚をします」
「……は、恥ずかしいから、そんなに言わないで……オーキス、さん」

 オーキスの隣に立っているのは、あの最強の剣士ウルリアだった。
 ラクリマにこそ負けたものの、それは冷静さを失っていたからであって、実力では圧倒的に上だとシュネリアは言っていた。

「……そ、そうなんですか」
「はい!でー、シュネリア姫にも会いたいんですが」

 オーキスはニカっと歯を見せて笑っていた。
 隣ではウルリアが顔を真っ赤にして俯いている。

「……ご案内します」







 シュネリア姫の部屋で行われた3つの国の会合。
 そこで同盟が結ばれ、各自それぞれの目的にひたすら走っている。
 エルフ軍は、引き続きロマールの残党を探し、ダークエルフ軍は魔物化したエルフ、ダークエルフ、人間達を探しながら、魔物との意思疎通の研究をしている。
 聞けば、ベアーダークネスもヘルコンドルと同様で、孵化をさせたと同時にダークエルフを親と認識させていると言う。
 小さい頃から言葉に触れさせる事で、徐々に頭で理解していく……という事らしい。
 言葉を持つまで成長をさせられるかどうかはまだ分からないらしく、研究がずっと進められていたようだ。
 コル女王によれば、『魔力を上手く使いこなせれば、言葉を理解し使う事が出来るかもしれない』と言い、同時に魔力の扱い……すなわち魔法の研究も同時進行で進めている。

 そして。
 フォーン軍には多種多様の種族が出入りをしている。
 エルフ軍のグランはもう住んでいる勢いで復興の手伝いをしていた。
 そして予想外に、ダークエルフ軍のオクルスも、シュネリアの事が気に入ったようで身近な世話をするようになっていた。

「……まさかここまで心を変える事が出来るなんてな」

 ヘイアスはそうつぶやきながら、先ほどの新婚……いや、まだ結婚はしていないが。
 その2人をシュネリアの元へ案内するべく、玉座の間に向かっていた。







「あ!ヘイアス!……もう、何処へ行っていたの?」

 玉座の間の扉を開けると、そこにはオクルスとシュネリアが2人で掃除をしている所だった。

「リア……。掃除はメイドへ仕事として振れとあれだけ言っていたのに……」
「いいじゃないか。アタシ達が好きでやってんだからさ」
「そうそう。メイド達も忙しいんだよ?」

 その言葉に頭を抱え、ため息を1つ。

「リア。オーキスさんとウルリアが会いたいって」

 ヘイアスは"シュネリア姫"と呼ばなくなっていた。
 本人からの、昔からのお願いでもあって、愛称で呼ぶようにしたのだ。
 リアは、オーキスやウルリアにも"リア"と呼べと言っていたようだが、2人は決して首を縦に振ろうとしなかった。
 ただ、オクルスは平気で呼んでいるようだったが。

「あ……!オーキスさん、ウルリア!結婚するんだって!?」
「なんだ、知ってたんですかい!」
「もちろん!だって、皆噂してたもん」
「はぅぅ……」
「恥ずかしがってるウルリアは可愛いね。ね、オーキスさん!」
「もう俺は幸せもんだぁ」
「ったく……。うざってぇほど幸せな夫婦だなーおい」

 (はた)きを肩に乗せながら嘆息するオクルスを見て、ヘイアスも同じ気持ちになっていた。

「結婚式、ここでやろうよ!」

 突然シュネリアは言い出した。

「へ!?」
「こ、ここって……!ここですかい!?」

 これにはオーキスとウルリアも予想外だったようで、驚いていた。

「うん。いいよね?ヘイアス」

 その目は何処か憧れでもあるような様子だった。
 むしろ楽しんでいるようにも見えなくもなかった。

「……リアが良いと言えば、それは決定に……」
「またそういういじわる言うんだ~……」

 そう言ったシュネリアはオクルスに目で合図をする。

「お、リア直々にお仕置きの命を受けてしまったなぁ……!名軍師ヘイアス殿よ」

 ニシシと笑いながらオクルスはジリジリとヘイアスに迫っていく。

「……わ、分かった!!うん、やろう!」
「やったぁ!」

 両手をあげてジャンプをしたシュネリアを見て、オクルスは言った。

「おーい。ミニスカだから見えてんぞー」

 それを聞いたヘイアスとオーキスはすぐに目線を逸らし、ウルリアは参考にでもしようとしたのか、シュネリアの下着をひと目でも見ようと目を凝らしたのだった。







 結婚式は盛大に行われた。
 プランシアやコルもなぜか参加し、オーキスは盛大に手を振っていたがウルリアは終始顔を沈めていた。
 コルは謝罪の意味も込めて、ラクリマに土下座をさせていた。
 死体が残っているのであれば、生命の雫を使ってウルリアの兄を蘇生させると誓ったラクリマだったが、ウルリアは首を横に振っていた。
 ウルリアが何を思って横に振ったのかは分からないが、それでもシュネリアは1つだけ思う事があった。
 "自分だけ過去の幸せを手に入れるのは、卑怯だ"
 ウルリアの目はそう言っているように感じていた。
 そんな自分は、ヘイアスを蘇生させている。
 そのやりとりを見た時、なぜか少し、心が痛かった。

「リア。また何か変な事を考えているな?」
「……へ!?あ、いや……」

 突然ヘイアスに声をかけられ、とっさに俯く。

「……ウルリアを見て、俺を蘇生させなきゃ良かったとか思ってるんだろ?」
「……う」

 相変わらずの観察力と頭の回転の速さには、敵うはずもなかった。

「……ヘイアスには、なんでもバレちゃうね」
「まぁ……ずっと見てきたし」
「……え?」

 その言葉を聞いて、シュネリアは顔を上げた。
 頬が赤く染まる。

「リア。俺を生き返らせてくれて、ありがとう」
「な、なに……?突然」
「ウルリアがどういう思いで首を横に振ったのかは分からない。でも、ウルリアは幸せを手に入れた。それは、ウルリアのお兄さんも望んでいる事なんだと思う。……自分の妹の幸せが最優先だって思うはずだ。だけど、自分……ウルリアのお兄さんがもし生き返ってしまったら、どんな顔でウルリアを見ればいいのか、オーキスさんを見ればいいのか……」

 そこまで聞いて、シュネリアはある大事な事を理解していなかった。
 月日がかなり立っているであろうお兄さんを蘇生させたところで、自分と同じ年齢になっているという事。
 それは、とても悲しい事なのだろうと。

「もし生き返ったとしても。お兄さんは想像も出来ないほどの疎外感を感じるだろうね……。だから、生命の雫はない方がいいのかもしれない。それに、肉体的な問題もあるから、死んでからすぐに使わないと蘇生出来ないのかもしれないし」
「……それを、ダークエルフは知らない?」
「生命の雫という存在がある……という事だけしか、俺達は知らないからね。実際に使った事例は今のところ俺しかないみたいだし。それに、生命の雫を作り出すなんて……途方も無い年月がかかるんじゃないかと」
「……神秘の祭壇に行けば、何処かしらにはありそうだけど」
「まぁ、もしウルリアが首を縦に振ったのなら、間違いなく氷の洞窟への許可証をラクリマは申請しに来ただろうね」

 そこまで話して、ヘイアスはシュネリアに微笑みかける。

「リアは自分を責める必要はない。これは、俺が望んだ事でもあったし、俺が生き返らなければ、会合だって上手く行かなかった……かもしれないだろ?」

 冗談めかして話すヘイアスを見て、シュネリアは安堵していた。
 やっぱり、私はヘイアスがいないとダメだ……そう思っていた。

「……ヘイアス。もう少し落ち着いたら」

 シュネリアはそこまで言って、息を吸う。
 そして、次の言葉を言おうとヘイアスの顔を見た。

「リア。いずれ結婚しよう」
「……!?」

 同じ事を言おうとしていたシュネリアは、目を丸くした。

「一緒に、これからも歩いて行こう」

 ヘイアスは手を差し出す。
 シュネリアは暫くじっと手を見つめ……そっと握った。

「……喜んで」

 これからまだまだやらなければいけない事は沢山ある。
 でも、もう1人だけではない。
 いや。
 フォーン軍だけではない。
 エルフ軍もダークエルフ軍も、手を取り合い前へ進もうとしている。
 軍に所属していない冒険者達も次第に増えているこの時代。
 何処から溢れ出ているかまだ分からない魔物の討伐は、これからどんどん良い方向へ進んでいくだろう。
 この大陸の全ての場所を、皆が皆、把握している訳ではない。
 3つの国が同盟になった今、行った事のない土地へ足を踏み入れる事も可能になるだろう。
 それを協力して解明していけば、自ずと平和になっていく。
 シュネリアは、ヘイアスの求婚を心の底から喜びながら、希望ある未来への一歩を考え始めていた。


~fin~

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