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フォーンキャッスル冷徹の姫 作者:佐久野宗希
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31話 新たな道

「ここは……」

シュネリアが目を覚ますと、いつもの見慣れた場所である事がすぐに分かった。

「自分の、部屋?」

起き上がろうとするが、体が動かない。
どうやら体全体が麻痺しているらしかった。

「お目覚めのようですね、シュネリア姫」

聞き慣れた、それも安心すら与えてくれる声がした。

「無事、フィンブルを封印しました。そのあと、女王コルも目を覚まし、不可思議な力で全員の傷を治しました。ま、完治まではいかないようですが」

ベッドの横に置かれた丸机で、紅茶を飲むヘイアスから告げられた言葉。
それは喜ばしい事だった。

「じゃ、じゃあ……!コル女王は……!」
「あぁ。リアが目を覚ましたら、ここへ呼べと言われている」
「そ、そんな。私、玉座に行くよ……!」

そう言って体を起こそうとするが、動かなかった。

「氷の刃をまともに受けたんだ。それに、無理して歩けないようにするのが俺の役目かと思って……」

そこまでを聞いたシュネリアは、なぜ動けないのかを理解した。

「ヘ、ヘイアス……!まさか……!」

驚きと怒りと恥ずかしさのような感情が混ざり、顔の温度が上昇していくのをシュネリアは感じた。

「麻痺にでもさせないと、勝手に動くでしょう?」
「……ヘイアス~~~!!!」

今まで感情を殺してきたシュネリアにとって、自然と、しかも久しぶりに感情をおもむろに出せた瞬間だった。







フォーン軍の王、シュネリア姫が自室のベッドに寝たきりという状態で、会合が始まった。
そこに集まったのは、フォーン軍のヘイアス。
エルフ軍はグランとプランシア女王。
ダークエルフ軍は、ラクリマとオクルス、そしてコル女王。
シュネリアの部屋に椅子が用意され、皆それぞれ適当に座っていた。

「このような形で会合に参加する事を、お許しください」

シュネリアは寝たまま言った。

「気にすることはねーぞ?リアの嬢ちゃん」
「そうです。シュネリア姫の力で、集まれたようなものです」

グランとプランシアがそれぞれ言葉をかける。

「……ふん。一時はどうなる事かと思ったが、まぁ……愛しのコル女王様が目を覚まされたのでしたら、このラクリマは何も言う事などございません」
「ラクリマ、顔が近いぞ。私から離れろ、ゴミめ」
「……はぁ」

ラクリマ、コル、オクルスが続いて反応を示す。
すぐにコルが口を開いた。

「シュネリア姫、プランシア。そしてここに集まっている諸君。私の油断から起きてしまった戦乱……どう返していけば良いか、検討もつかん。ただ、あの日の事から説明したい」

コルの事を全員が見守る中、口を再び開き始めた。

「もう何年前の事かも忘れたが、いつものように自室へ戻った時だったな。私の部屋に神秘の印章があったんだ」

そこまでを言って、ヘイアスが口を開く。

「その印章は、フォーン軍が持っていた物ですね?」
「あぁ、間違いないだろうな。だが、私はこれを持って来いと言った覚えはない」

その言葉を聞いて、ラクリマとオクルスは目を丸くした。

「ま、待ってくださいコル女王様……!その印章の奪取の命は……!」
「だからさっきから言っているだろうが。私は、その時既に半分フィンブルに体を乗っ取られていたと」
「うぐ……!」
「そうか……。何か変だなーとは思ってたんだよ。まぁラクリマは疑いもしなかったみたいだが?」
「コ、コル女王が乗っ取られるなど、想像すら出来なかったんだ……!」
「ま。アタシらの罪は重いぞ?なんせ村を1つ潰してるんだ」
「村を潰したのか、お前達」

コルは2人を睨みつけて言った。

「……印章を奪取した後、フォーン軍を足止めするために」

ラクリマはコルの顔を見れないのか、俯いたままだ。

「ったく。……まぁ、やってしまったものは仕方ない。その村の復興は我々ダークエルフが全力を持って、一生をかけて行う。……話が飛んだな。そう、印章が手元に来た途端だ。もう私の記憶はそこからない。まぁ、こんな事を企むのは、アイツしかおらんと思っていたがな」

そう言ってコルはプランシアを見た。

「……アイツ、というのは、ネーヴェのお相手の事かしら?」
「よく分かっているじゃないか」

コルとプランシアが納得しただけでは、会合にならない。
そう思ったのか、コルは話を続ける。

「ネーヴェというのは、エルフと人間のハーフだ。そしてアイツ……フィンブルはダークエルフと人間のハーフだった。今は、あんな姿になってしまっているが」

それを聞いてコル以外の全員は、驚きを隠せないといった様子でコルを見る。

「エルフと人間……、そして、ダークエルフと人間が恋をする事は禁じられているのは皆も知っておろう。寿命の関係もそうだが、一族の秘密を守るためでもある。だが、ネーヴェとフィンブルは何処の馬鹿がくっついたかは知らんが、その子供で、ハーフとして生まれてきた。そして何処で知り合ったか知らんが、お互い惹かれ合ったようだ。それを知った我々ダークエルフはフィンブルを追った。エルフ達は私達よりもずっと早くネーヴェの存在を見つけ、監視していたようで、すぐに捕まえ……処刑したんだな?」
「……えぇ、そうです」
「だが、ダークエルフ軍……まぁ私達はフィンブルを見つけられなかった。それもそのはずだ。まさか氷の洞窟の神秘の泉を守る魔物になっているなど、知る由もなかったからな」

そこまで黙って聞いていたシュネリアは、その話は何年前の話なのか気になっていた。
ヘイアスも同じ事に疑問を持っていたようだ。

「そのお話は、何年前の話なのですか?」
「……ふむ。もうずっと昔だ。フォーン軍が出来る前、だった気もする」
「そんなに前の話、だったんですか。ではなぜ、氷の魔物がフィンブル……そのダークエルフだと分かったのです?」
「それは、あれだ。フォーン軍の……元王、スルドアが氷の洞窟に居る魔物、フィンブルの存在を明かした時だな。当時は名前が一緒だったってだけで、信用に値するかどうかは疑問だったのだが、フィンブルの隠れ家を見つけて……それが真実だと分かったんだ。なんてったって、魔物の体になる事が出来るという研究書物を見つけたんだ」
「魔物に……なる?」

これにも全員は驚かされたらしい。
もはや言葉が出てこないと言った様子だった。
しかしここでシュネリアは疑問に思った。
なぜ、フィンブルは氷の洞窟に居たままだったのか。

「……フィンブルはなぜ、氷の洞窟から出なかったのでしょう?」

シュネリアの疑問に、コルは即座に答えた。

「エルフやダークエルフへの仕返しだろうな。神秘の泉というものを作り、その絶対の力の噂を流す事で、大陸全土を混乱に陥れる。……それに、自分の存在がプランシアと私に見つけられてしまうと、厄介な事になると思ったのも1つであろうな。だから当時人間の町で一番栄えた場所の洞窟を選び、住み着いたのではないかと推測している」
「その噂はどう流したのでしょうか?」
「フィンブルやネーヴェの仲間だろうな……。何人か居た事は分かっているが、皆姿を消している。……多分だが、フィンブルに無理やり魔物の姿に変えられたのではないかと推測しているが」
「そう、ですか……」

魔物の姿に変えてしまう研究。
それは今すぐにでも廃止にしなければいけないとシュネリアは思った。

「その魔物に変えてしまう研究を知っている者は」
「おらん。皆死んだか魔物化している」

シュネリアの疑念を感づいたのか、コルは即座に答えた。

「だが、知識が残っている魔物……すなわちエルフかダークエルフ、人間から姿を変えられた魔物が、まだ研究出来るだけの知恵を持っているのならば、それは危険分子だな。まぁとにかく、私がフィンブルについて知っているのはこれぐらいだ」

コルは一度目を閉じ、開く。
そしてシュネリアが寝ているベッドへ向けて頭を下げた。

「同じ事を言うが、私の油断から多くの血が流れた。我々ダークエルフは、魔物に姿を変えられてしまった者をいち早く見つけ、対話が出来れば保護をする。出来なれけば、処刑をする。フィンブルを封印してくれた事で、もう奴に乗っ取られる事はないはずだ」

そう言って、頭を上げた。
そして自分の腰に下げた剣を外し、鞘に入ったまま掲げた。

「ダークエルフ軍は、フォーン軍、そしてエルフ軍との同盟を申請したい」

その言葉を聞いて、次にプランシアがベッドで寝ているシュネリアへ片膝を付いた。

「私達エルフ軍は、フォーン軍の意思のまま行動を共にいたします。そして、引き続き裏切り者のロマールが率いた残党の討伐を続けると共に」

そこまで言って、コルが居る方へ向く。

「ダークエルフ軍の同盟、エルフ軍は受け入れても良いと思っております」

コルは表情を一瞬緩め、微笑んだがすぐに引き締め、シュネリアを見る。
シュネリアは黙ったままだった。

「……シュネリア姫」

答えは決まっているはずだと思っていたヘイアスが、シュネリアに声をかけるが何も返ってこなかった。
その様子に、今まで冷静だったプランシアも焦りだす。

「シュネリア姫……?」

女王や姫より位の低いグランやラクリマ、オクルスは口を開けない。
ヘイアスも当然口を挟む事など許される事ではないが、状況が状況であった。

「シュネリア姫、どうかされましたか……?」

ヘイアスはシュネリアのベッドへ近づこうと一歩踏み出した時。

「……ぅ」

ベッドから嗚咽が聞こえた。
それは次第に大きくなっていった。

「うっ……!うぐっ……!」
「リア……泣いているのか……?」
「……だ、だって……!こうして、話して、戦いが終わるのかと思うと……!う、うれし、くて……!」

すでに麻痺は体から抜けていた。
溢れる涙を懸命に拭うが、またそれは溢れ出てきてしまう。
ベッドの中で、体を埋めて泣いているのは、フォーン軍の王……シュネリア姫ではなく。
シュネリア……リアという、1人の少女の姿だった。
嗚咽を聞いていたオクルスやグランも、自然と涙が頬を伝う。
ラクリマは最初こそうっとおしいという感じで見ていたが、1つため息をつくと、微笑ましいという様子でシュネリアを見守っていた。
プランシアとコルは、シュネリアの言葉を静かに聞き、2人は目を合わせた。
その目線の意味は、お互い同じ意味であったであろう事を理解したのか、同じタイミングで微笑んだ。
暫くシュネリアはベッドの中で泣いていたが、やがて収まり……ベッドから起きる。
泣きはらしたような顔だが、笑顔であった。

「私からも、喜んで……!皆と平和に向かって、歩いていきたい……!」

平和に向かって歩いていきたい。
それぞれがその言葉を聞き、頷く。
この時。
種族を超えて強固な同盟が結ばれた。
言葉が通じるからこそもたらされた平和。

フォーン軍の元王、スルドアは言っていた。

『言葉で全てを制する事が出来る』

シュネリアの言葉が、それぞれの心まで届いた結果。
こうして集まり、話し合い、手を取り合った。
未だに解明されていない、魔物との意思疎通も、シュネリアならば出来るかもしれない。
ヘイアスはただ1人、そう思っていた。
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