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フォーンキャッスル冷徹の姫 作者:佐久野宗希
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27話 地下世界

荒野が広がるこの大地の何処かに、地下世界があるという話はシュネリア自身、聞いたことがあった。
だが、それが何処に位置するのかまでは分からないままだった。
馬車に揺られながら、シュネリアは呟いた。

「一見、何もないように見えますね……」
「当たり前だ。地下にあるんだから、分からないようにするのが合理的ってもんだろ?」

前で馬の手綱を握るオクルスが自慢気に言った。
確かにそうだなと思うシュネリアであったが、出入りする事を考えるとかなり気が滅入るとも思った。

「自分の家に帰る度、慎重にならなければならないなんて……ダークエルフ達の苦労が垣間見えた気がします……」

その言葉を聞いたヘイアスは思わず苦笑いで答える。

「そうですね……」

そのまま目線を隣に座るオクルスへと向ける。
オクルスは隣に座るヘイアスと、御車台に乗るシュネリアの2人を交互に見て、ため息をついた。

「……それを言われると、なんだかなぁ……」

頭の後ろを掻きながら、オクルスは手綱を握り直した。

「もうすぐ城門前だ。……無事に開けてくれるかは分からんがな」
「その点は大丈夫かと思います」
「……ほう?対した自信だな、兵士長さん」
「今現在、貴女は私達フォーン軍の人質です。それに、フォーン城には何人ものダークエルフ達が囚われている……。それを、知らない、どうでもいいで貫き通せるほど、王の立場というものは軽くはありません」

そんな事をまるで当然かのように言ってのけるヘイアスを見て、オクルスは心底関心していた。

「なるほどな。それを口実にするのか」
「まぁこれだけでは足りないと思っていますし、どうやら相手は普通ではないみたいですから。もう1つ、別の手も考えてあります」
「……抜け目のない奴だ」

言葉とは裏腹に、オクルスの表情は明るかった。
そのやりとりを見ていたシュネリアも、自然と笑顔になる。
やっぱり頼りになると、心から思った。

「頼りにしてるよ、ヘイアス」

誰とも聞こえないように呟いたシュネリアは、ヘイアスを見つめながら微笑んだのだった。







何もないように見える荒野に、馬車を適当に止めたオクルスは、2人に告げる。

「着いたぞ」

そう言われて降りた2人は辺りを見回すが、入り口らしき所は何処にもないように見えた。
あまりに不思議な顔をする2人を見ながら馬車から降りたオクルスには面白く見えたのか、笑いながら言った。

「まぁそうなるよな……!」
「……ここまで分からないものだとは思いませんでした」

ヘイアスはお手上げと言わんばかりに肩を竦める。

「これでは攻めるにも攻められないでしょうね……」

シュネリアがそう言葉を発したと同時に、剣の柄に手を置いた。

「ど、どうしたんだ急に……」
「囲まれてる」
「なんだって……!?」

まさか自分の領地で囲まれる事などないと思っていたのか、オクルスが驚愕した。

「……やはり簡単には行きませんよね」

ヘイアスも予想していたようで、持っていた槍を構える。
だが敵の姿は見えない。
おそらく、ハーミットで隠れているのだろうと2人は予想する。
オクルスもようやく気づいたようで、両手を上げて場を収めようと声を出す。

「待ってくれ!アタシは裏切ったんじゃない!フォーン軍のシュネリア姫直々の申し出により参上した!これは女王コルの復活にも関係している!」

その言葉を聞いたダークエルフ達の殺意は一気に動揺へと変わったのを肌で感じ取ったシュネリアは、すかさずオクルスに続いた。

「女王コルの病を治す事が出来るかもしれません……!総大将と話をさせてください!」

シュネリアの言葉を聞いたダークエルフ達は、一斉に姿を現した。
その数は100を超えていた。

「……さすが本拠地だ」
「よくよく考えてみれば、何も無しに近づいたんだ。そりゃあ囲まれるよなぁ」
「今の状況で使者を送っても突き返されるか殺されるかですから、しょうがないです」
「そんな状況で自ら足を運ぶと言い出すシュネリア姫の度胸には参ったわ……」
「それだけ確信があると言う事ですよ。ね、シュネリア姫?」

ヘイアスがシュネリアへ微笑みかけた。
2人の会話を黙って聞いていたシュネリアは、ヘイアスとオクルスに頷く。
そんなやりとりを聞いていたのか、隊長とおぼしきダークエルフが一歩前へ出て、シュネリアへ向けて言う。

「……嘘ではないな?」
「誓って」
「……」

大勢が、言葉を発したダークエルフを見つめる。
暫く沈黙が続いた。
シュネリアは、ダークエルフがこの条件を飲まないはずがないと確信していた。
ラクリマの壊れ具合を見ているシュネリアだからこそ、それに仕える兵士の身を案じなければいけない立場だからこそだった。
昔の過ちを正していかなければ、成長するとは言えない。
いつまでも武器を振りかざしているだけでは、前へ進めない。
父が言っていた、"言葉"を信じて……シュネリアはここまで来たのだった。

「……分かった」

ようやく考えがまとまったのか、長い沈黙を破って、先ほどのダークエルフが肯定する。
その答えに一番安堵したのはオクルスであった事は、本人以外分からないだろう。

「では……!」

言葉が届いた。
そう思い、シュネリアは喜びを隠せなかった。
剣の柄から手をはなし、一歩前へ出た。
交渉が成立したという油断もあったのだろう。
シュネリアはその一歩と同時に膝から崩れ落ちた。
消えていたダークエルフが、シュネリアの首に軽い衝撃を与え、気絶させたのだ。
その光景を見ていたヘイアスもオクルスも予想外の事が起きたと、驚愕した。
オクルスがヘイアスを見たと同時に、そのヘイアスも倒れた。

「……これは、一体……!」

決してオクルスはフォーン軍に寝返った訳ではなかったが、あまりに突然の攻撃でダークエルフ達を見据えた。

「……オクルス様。ダークエルフ城の入り口は、同族以外に知られる事は極刑に値する……。その事をお忘れか……?」
「……そんなもの、ラクリマが勝手に作ったものだ。コル女王の配下であるアタシには関係ないね」
「……」

オクルスはコル女王親衛隊の1人である事から、兵士達は逆らう事が出来ない。
……反逆者と断定されていては話は別だが。

「……幸い、この者達は入り口自体を見ておりません……。なので極刑は免れるでしょう」
「ふん」

気絶した2人をダークエルフの兵士が運ぶのを見つめながら、オクルスは言う。

「2人をどうするつもりだ」
「ラクリマ様の命を待ちます」
「……まぁそうだよな」

オクルスはその答えに苛立ちを覚えながら、地下世界ダークエルフ城へと帰還したのだった。
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